表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/161

第28話(侵入)・2


「ひえっ……んんっ!?」


 慌てふためきながら地面を触ると。


 今度も何だか柔らかいものに触れた。


 ネズミ!?


「ぎゃああああ〜!」


 悲鳴が響いた。


 空に気をとられてしまっていたけれど。


 地面ではネズミの大群が森から押し寄せてきていたのだ。


 ドドドドド。


 小叩く地面の音。


 私は一気に気分が悪くなった。


「一体、何が起こるの……?」


 嫌な予感か、前兆。


 私の幸運が尽きない事をただ祈るだけだった。



「救世主は まもなく こっちへ来ますわ。あと……小1〜2時間と いった所ですわね」


「ふ……やっと来たか。待ちくたびれた」


 怪しげな陣の描かれた床。

 陣の中央に座る さくら。


 正座し、目を閉じ、勇気達を頭の中で視察していた。


 その さくらの術の光景を部屋の隅で立って見ているレイ。

 表情は2人とも無表情だった。


「レイ様。救世主を追ってセナ様や蛍達も こっちへ向かっていますわ」


 その さくらの報告を鼻で笑うレイ。

 少し口元をニヤつかせる。


「来るが いい。セナ……お前に、八つ裂きにされた救世主を見せてやろう」


と、クックックッ……と笑い出す。


 すると。


 フ……とその場に鶲が現れた。


「救世主には手を出しちゃいけないわけ? つまんないなあ」


と伸びと あくびをしながらレイを見る。


「鶲! 口を慎みなさい!」と さくらがピシャリと言った。


「お前達には他の連中の相手をしてもらう」


 そう言うとレイは、その部屋を静かにドアから出て行った。


「了解」


 そう言う鶲もすぐ姿を。

 空気に溶け込むように消えた。


 そしてレイの向かった部屋はハルカの居る部屋。


 真っ暗に近い部屋。


 灯りも なく、暗闇の中でヒッソリと。


 キラキラと輝く全身大の大きさの氷塊の中にハルカは閉じ込められていた。


 見せかけの氷。


 闇の魔法で作られた、嘘の氷。


 触れても温度は ない。


 ただの見せかけの、氷に見えるだけの――。


「……」


 部屋に照明の光が なくとも。


 この作られた闇の氷から光は放たれている。


 決して強い光では なかった。


 ハルカは目を閉じ、眠っている。


 血色は よい。


 生きていると見てとれる。


 スラリと成長よく伸びた手足。


 昔から色あせなく変わらない金色の髪の少女――。


「ハルカ……」


 レイが そう呟いても。


 答えが帰ってくる事は ない。


 彼女は、“動けない”のだから……。


(レイ……)


 そして例え、ハルカがレイに心の中で話しかけたとしても。


 お互いの声は届かなかった。




 奇跡かもしれない。


 私は無事に魔物一匹出会わずに。


 レイの根城と思わしき場所へと着いた。


 森の中を進んでいるうちに色々な事を考えていた。


 自分を取り巻く幸運を。


 普通、こんなにも全てが うまくいくのだろうかと。


 事故もケガも なく、迷う事も なく、魔物も……。


 迷わなかったのは。


 進んで行くうちに建物の頭が見え出してきたからだった。


 こんな、島が森だけで成しているかのような所の奥深くに。


 似合うんだか似合わないんだか。


 わかりかねる謎めいた城の建物が。


 西洋風の古城っぽかった。


 ドラキュラでも住んでいそうな……。


 レイの城か どうかは わかんない。


 でも、そこにレイが居るような気がしてならなかった。


 ただの直感にしかすぎないというのは。

 わかっては いるんだけれど……。


 自分の直感を信じよう。

 いいや、もうそれで。


 そんな結論を出してしまった後。


 ちょうど城の門前へと着いたのだった。


 門は私の身長の3倍くらいの高さ。


 城の壁は茶色いレンガ造りだったのだけれど。

 門は全体的に黒っぽかった。


 鉄の上に塗られた黒は、鈍い光沢と冷たさを放っている。


 ガッシリと格子が組まれた門。


 大きさも大きさなので。


 とても私には容易に開けられそうじゃないなあと思って。


 門の向こうの城を恨めしそうに見ていたら。


 ゴゴゴゴゴ。


 勝手に門が中へ押しやられていき。

 開き始めたじゃないかぁ!


(うわっ……)


 砂煙をたて、やがて重々しい門は完全に開ききる。


 私の前に、城へと続く道が切り開けた。


 第2関門、突破?


 私、何の努力もしてない。


 いいのか こんなんで……。


 まあ、いいか。


 私は、導かれるままに門を通って城の玄関の前へ。


 着いた途端に。


 これまた同じように勝手に両開きの。


 花か何かを形に彫ったような扉が開いていった。


 開いた扉の向こうは奥まで続く真っ直ぐな廊下。


 暗いなあと思っていたら。

 いきなり廊下が明るくなり出した。


 廊下 両壁に点々と奥の方まで飾り備えつけられた燭台のロウソクが。


 手前から順に次々と火が点されていった。


 ポツ、ポツ、ポツ。


 奥の奥まで、ある程度。


 それを見てついつい「おお〜」と声を上げてしまう私。


 しかし こんなにも用意されているという事は。


(レイ……相手には こっちの事、筒抜けって事なのね)


 面白いじゃあないの、と勇み足で私は歩き出した。


 私が迷う事なく今まで進めてきたのは。


 こんな風に導きがあるからだと確信していた。


 きっと先にはレイが居るんだと。


 私は腰に。


 スカートに小さく折りたたんだナイフを差し込んで持っていた。


 今、それが ちゃんとあるかどうかを触って確かめる。


 一応、丸腰というのわねと思って。


 家の台所から頂戴してきた果物ナイフだった。


 かつて買って持っていたナイフは鶲にスラれて。

 どっかいっちゃったんだし。


 そのうちまた何処かで買い直そうとは思っていたけれどね。


 私は案内されるがまま。


 ロウソクの火を頼りに廊下を歩いていった。


 しばらく進む。


 トタ、トタと私の足音が響いている。


 ツルツルした廊下は。

 冷えた空気をさらに いっそう冷たくしているんじゃないだろうか。


 白い息が出るとまでは いかないけれど。


 いつでも腰のナイフを取り出せるよう心構えはしていた。


 油断しちゃダメよと、言い聞かせながら歩く。


 息にも気を使う。


 すると。


 やがて廊下の道先は なくなり。


 壁になった……わけではない。


 突き当たりになって、ドアが一つ。

 廊下の片壁に あった。


 そこだけだ。

 他に部屋へと通じそうなドアが ない。


 ココしか、先には行けないんだと思って。

 ゆっくりとドアを開けていった。


 ものすごく大きな部屋だった。


 そう感じたのは。


 家具と いったような物らしい物が いっさい置いていなくて。


 天井が高かったからだった。


 床は大理石かな。


 廊下と同じくツルツルしていて冷たく硬そう。

 私の影が映っている。


 白っぽい壁に囲まれ。


 白い柱が両端に規則正しく並んでいた。


 何だろう、この部屋。


 人が住む所や雰囲気じゃない。


 何も置いていないし。


「はー……何、ココ……」


 私が ほんのりとした明るさを頼りに。


 部屋の隅の見える所まで目を泳がせていると。


 突然後ろで開きっぱなしにしておいたドアが。


 うるさい音を立てて閉まってしまった。


 バターン!


 私は その音に すごく びっくりして振り返る。

 でも もう遅かった。


 また静かになった辺りの中で。


 私は慌てる事は なく。

 冷静に、黙って立っていた。


(ドア、開くんだろうか……)


 確認しに行くのも面倒な気さえした。


 開こうが開くまいが。

 この部屋からは まだ出るつもりも なく。


 私は ただ、突っ立っている。



 このドアを閉めたのは鶲だったなんて。

 部屋に居た私は気が つかなかった。


「ごゆっくりと」


と、笑いながら。


 ドアを閉めた後は、すぐ姿を消した。


 鶲達には別の なすべき仕事がある。


 これから私を追いかけてくるであろう。

 セナ達を迎えるという、仕事が。



 それを全く知らない私は、ふと顔を上げた。


 足音がする。


 私の正面、向かい奥から。


 その音は段々と大きくなってくる。


 誰かが近づいてくるのは明らかだった。


 でも一体誰?


「……」


 さっきドアを閉められたせいで。


 部屋は暗く全然 何も見えなくなってしまっていた。


 目は暗さに慣れてきていたけれど。

 それでも視界が悪すぎる。



 救いは、全くの暗闇では ない事だった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ