第27話(決裂会議)・2
「おいしー! このスープ!」
と、大げさに わめいてみせるのは私。
何処かに消えていたカイトも戻って来て、セナとメノウちゃんと。
4人で料亭に入り、テーブルに ついて料理を注文した。
そして目の前に注文した おかずが どんどこやって来ると。
テーブルの上は お皿で埋められていく。
そして食べる!
今は昼食の時間帯でも あるので、周囲は賑やかだ。
店内の何処からか、時々笑い声が上がって盛り上がりを見せている。
真っ昼間からお酒を飲んで できあがっている おじさんが居たり。
厨房からはフライパンか鍋で炒め物でも しているのか。
野菜でも焦げついたような美味しそうな匂いが。
ますます食欲が湧き、箸が進む。
食べているスープの美味しさの感動を伝えようと素直な大声を。
ただ、大きな声で話さないと、近くでも聞こえにくい。
しかし私が妙にハイテンションで声を張り上げているのには。
別の理由も あった。
私の隣の席に座っているセナ。
店に入って席に ついてから、ずっと だんまりだ。
何も話してくれない。
呼びかけても、気のない返事をするばかりで……。
料理をホソボソと摘むように食べているだけだった。
変だよね……様子が。
どうしたんだろう?
「コレ、鳥? 骨は それっぽいけど……」
「ヤンポンタンのスープだって」
……なんて。
向こうではカイトとメノウちゃんで話が進んでいた。
「へー。ヤンポンタンって何だろ」
と、私が絶賛したスープをまた一口すくって飲むと。
「アホウ鳥の一種だってさ」と。
メノウちゃんが そばに あったメニューを読んだ。
思わずゴホッ! っとムセ出す私。
スープも少しだけテーブルの上に こぼして広げてしまった。
「っご、ごめ……」
と、ゴホゴホと。
何とか息を落ち着かせようと するけれど、苦しくって。
ああ何だか情けなくなってきた。
「大丈夫か? ホラ」
セナがテーブルの上に置いてあった布巾を渡してくれて。
私の背中を さすってくれた。
その布巾でテーブルの上を拭きながら、「ありがと……」とお礼を言う。
「何も そんな驚く事ねーじゃん。大丈夫! アホは これ以上アホには なんないぞ!」
いきなり そんな事を言って私にニコニコーッと笑うセナ。
……なので思わず私は。
いつもの調子でセナの足を思いっきり踏んづけてやった。
「いってえ!」と苦しむセナ。
何よ、元気じゃない。
心配して損した。
そう思い直した。
「あ、そういえばカイト。さっき、何処 行ってたの? 何か、服に砂が いっぱい ついてるけど。もしかして海に? 砂浜まで?」
改めまして食事を続けながら、カイトに話しかけた。
カイトは皿に残ったパセリみたいなのをモシャモシャ食べながら、
「え? ああ。実は、すんげー美人な お姉さんを見かけてさ。砂浜まで追っかけてナン……」
と、言い終わらないうちに「アテッ!」と悲鳴を上げる。
今度は、メノウちゃんがカイトの足を踏んづけたようだった。
平和だ。うん。
料亭を出て。
せっかくだから海でも見に行こーかあーという事で。
カイトとメノウちゃんは並んで歩く私達の前を大はしゃぎで走り回っている。
「ねえ……セナ、どうしたの?」
ついに私は聞いた。
はしゃぎ回っている2人は置いといて。
やっぱり、黙ったままのセナに聞いてみる事にしたのだ。
「ああ……ちょっと考え事」
相変わらずボーッとしたまま。
セナは私ではなく、空の方を見ている。
空には雲がポツンポツンと浮かび、陽気そうな青空が広がっていた。
そして運んでくる風が。
海の気配を私達に感じさせている。
「考え事って? 船の事? それともマフィアの事とか? 蛍? レイ……とか? ……それとも」
私がアレコレと考えていると。
「お前の事だよ」
と。
……。
……一瞬、私の動きが止まった。
セナの意外な言葉に。
電源でも切られてしまったかのようだった。
「へ……私?」
ちょっとヌケた声で自分を指さした。
「気に なってたんだ。この前の話の事。船の上の……」
セナが言った事を思い出していく。
この前……?
船の上……?
ちょっとずつ思い出してきていた。
「あ……ああ。マーク国へ向かう途中に乗った船ね。うん、思い出した。で、気になってるって?」
ようやく電源が入り直った私。
全く何を期待してたんでしょう。
やだなぁ、顔、赤くない?
でも それでもセナは私の方を見ては くれなかった。
「勇気……青龍の事が全部 片づいたら……元の世界へ帰るんだろう?」
「え……う、うん」
ドギマギしながら私は心落ち着かせようと頑張る。
次に何を言われるんだろうかとハラハラしながら。
「なら何で……向こうの世界で記憶を皆 消したんだ? 元の世界に帰った時、お前の帰る場所が ない。お前、一人じゃないか」
「それは……」
真に迫ってくるようで、少しの緊張が やって来た。
「ほ、ほら。また、アジャラとパパラに頼んで……」
私が少し慌てたように言うと、セナが言い返す。
「最後、どうなるか わかんないんだぞ? 天神の気まぐれで突然 帰されたら? 記憶が戻らなかったら? そもそも……皆、生きているのかどうか」
生き……。
私は興奮して叫んだ。
「生きてるよ! きっと!」
「わからない。先の事なんて」
……!
やっぱりセナ、変だ。
何で突然そんな事を言うの!?
「例え青龍が蘇って、この世界が滅びる事に なっても。それでも お前は帰るんだ。自分の世界へ。俺達が何としても そうする」
セナは真剣だった。
その横顔が言っている。
「嫌よ! 一人だけ逃げるなんて! 私も皆と一緒に――」
「ダメだ!」
「どうして!?」
そしてセナは私の顔を見る。
私達2人とも歩くのを止めて立ち止まった。
「お前は、こっち側の人間じゃないんだ。本当なら、今だってココに居るのは おかしいんだよ!」
そう叫ぶセナの顔は。
「でも七神創話伝には!」
「あんなモノに踊らされている事も おかしいんだよ!」
海の音が近く、優しく沈黙に重なる。
セナの瞳に私が映る。
びっくりしたような、泣きそうな、私の顔が。
「……とにかく、勇気は元の世界に帰るのは絶対なんだ。アジャラとか いったか。今度 会ったら、もう一度 元の世界へ行って、記憶を――」
セナが言いかけたのを遮って。
私は震える声も構わず訴えた。
「私は命捨てる覚悟をつくっただけよ!」 ……
手を握り締めて詰め寄った。
驚くのは、セナの番だった。
大きく目を見開く。
私は今。
自分が言った事を一瞬だけ忘れてしまったような奇妙な感覚を、覚えた。
命捨てる……?
そんな事を……?
何で。
「何よ……帰る帰るって。どうして そんな話するのよ! 前、私が元の世界に帰ろうとした時は、あんなに優しかったのに……ひどいよ!」
あの時セナは、また こっちの世界へ戻って来てくれなんて言ってた。
なのに どうして今は私を。
まるで邪魔扱いしてるみたいな――
「……」
また、電源が切れた。
思考と動作が停止する。
「? 勇気?」
セナの顔が何だか よく見えなくなった。
(私……邪魔なの……?)
嫌な感覚と否応ナシに流れ込んでくる考えが止まらない。
セナの顔が近くとも暗くて よく見えなくなっていた。
セナは、私をこの世界から追い出そうとしてるの?
だから、そんな風に言うの?
何故?
何のために そんな事を言うの?
私なんか いらなくなったって事?
ふいに、ハルカさんの顔が浮かんだ。
そして、夢の中の もう一人の私が言った事も。
「よく見てごらん。3人とも、お互い誰を見てるのか――」
レイはハルカさん。
ハルカさんはレイを……見ていた。
この2人は、お互いに好きあっているんだと思ってた。
というか、それしか思わなかった。
他の事なんて――……。
じゃあ、セナは誰を見ていたの?
レイとハルカさんを見ていた。
もし……もしも。
セナがハルカさんの事を好きだとしたら?
セナはハルカさんがレイを好きという事を知っていて。
レイの気持ちも、知っていて。
私なんて元々。
セナの眼中に なかったとしたら……?
「勇気……?」
心配そうなセナの顔。
でも本当は。
私の事が うっとうしくて うっとうしくて仕方なくなって……。
……そう。
お兄ちゃんの彼女の小谷とかいう人。
あの人と同じ。
親切そうに ふるまって私を追い出そうとして――。
「おい、勇気?」
セナが私の両肩を揺さぶった。
あさっての方向を見ていた私だけれど。
「嘘つき……」と呟いてセナの手を振り払った。
「さよなら!」
言った私は どんな顔をしたんだろう。
作り笑いかな?
泣き笑いかな?
私はセナの元から走り去った。
セナが追って来る事は なく。
私は ひたすら走った。
苦しくても走った。
(死ぬ覚悟で こっちの世界に来たんだ、って思ってた)
ズタボロの みっともない顔をしていたんじゃないかと思う。
通りすがりの人々は皆 変な目で私を見ていた。
それには何も感じず。
自分の事ばかりが身を支配していた。
(私が こっちに戻ってる間、お兄ちゃん達に心配かけたくなくて。いっその事、私の事を忘れてもらおうって思ったのよ)
街の中を駆け抜ける。
(あんなに必死な お兄ちゃんのために)
何処をどう走ったか。
わからないけれど走っていた。
(でも本当は……)
その足で宿へ帰って。
自分のカバンを持ち出した。
(本当は、別の理由も あったかもしれない)
思いつくモノ全部入れて。
リュックを背負う。
そして大急ぎでバタバタと また来た道を戻る。
(私、気が ついたから)
港へ向かう。
(セナの事、好きだって気が ついたから。だから――)
港をひた走っていると。
ちょっとボロだけれど丈夫そうな小船を見つけた。
一人くらいしか乗れそうにないやつ。
(私は、自分の世界を捨てたのよ)
ヒョイと乗り込んで。
オールで舟を こぎ出す。
静かな波にのって。
……南へ向かって。
《第28話へ続く》
【あとがき(PC版より)】
主人公、よく突っ走りますね。
作者、最近1メートルすら走っていません。
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