第27話(決裂会議)・1
※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。
同意した上で お読みください。
※じっくり小説らしく味わいたいパソコン派な方はコチラ↓
http://ncode.syosetu.com/n9922c/27.html
(『七神創話』第27話 PC版へ)
険悪なムードは尚も続いている。
「青龍復活を望んでる彼は敵よ! 救世主や私達 七神に とってはね!」
マフィアは強い口調で怒り続けている。
蛍も同じように言葉を返す。
「確かに私はレイ様から逃げてきたわ! でも こっち側に居るのはレイ様を倒すためじゃない。レイ様の説得をするっていう勇気に ついて来ただけよ!」
「一体、あなたは どっちの味方なの!?」
「それは……」
そのまま、蛍は黙ってしまった。
「レイ様レイ様って! 結局あなたも所詮は敵ね! 私は今でも あなたを恨んでる! もう少しで、マザーが死ぬ所だったんだから! 本来なら、あなたが居るべきトコはココじゃないのよ!」
……!
今のマフィアの言葉に。
私はカッと熱くなった。
「言い過ぎよ! マフィア! 今の言葉は!」
するとマフィアはプイと そっぽを向いて。
「頭冷やしてくるわ!」と広間から外の方へ出て行った。
後に残された私達は黙っていた。
とっても後味が悪い。
「こりゃ、明日は無理だね」
カイトは そう言って背中を向けてどっかに行ってしまった。
夕方、宿屋で それが あった次の日。
朝が来た。
マフィアは何処かへ消えていて。
蛍は気分が悪いと言って宿屋に残った。
紫も蛍が心配なのでと宿屋に残る。
私、セナ、カイト、メノウちゃんの4人は。
時間に したら昼食に近い食事をしに近くの料亭へ。
行く途中だった。
「やれやれ。仲間割れしてる場合じゃないのになあ」
と、ため息 混じりにセナが言った。
「昨日の、彼女らしくなかったな。何か……変だった」
「カイトも そう思う……? 私もなんだ」
ほんと、マフィア一体どうしたんだろう?
いつもは冷静で しっかりとした人なのに。
昨日は やけに短気だった。
しかも、蛍に対して あんな事を言い出すなんて。
考えられない。
「マフィア、どっか行っちゃったし……せっかくレイのトコに行くって決めたのに この先、どうなっちゃうんだろ。これから、協力し合わなきゃいけないって時に。ひょっとして、七神やめるなんて言わないかなぁ……元々、マフィアはマザーや孤児の子達を置いて来てくれたんだもの。無理に旅に参加する事、ないよね」
と、ひとり言のように呟くと。
セナが いつものように私のオデコにデコピンした。
アタ!
「ばーか。世界の一大事の方が大事だろ。それに それ、今さら何だ! マフィアの何処が無理してるって? 散々世話になってるだろ、お前! お前がシャンとしろ! シャンと!」
さらにピコピコつつく。
私が「ううう……」と唸る。
私とセナが そうやって話していると。
いつの間にか横にいたはずのカイトが消えた。
「あ、あれ!? カイトは!? メノウちゃん!」
「何か、急用が できたって戻ってったよ。先に行っててくれって」
メノウちゃんは目をクリクリさせて そう言った。
「あ、そうか……ふーん、わかった」と私は言って。
とりあえず先に3人で料亭へ向かった。
……一方、勇気達と別れたカイト。
実は勇気とセナが話している間。
人ごみに紛れて歩くマフィアの姿を見つけたのだった。
(あれ……? 何処 行くんだ? あっちは港の方向……まさか)
とにかく、一刻も早くマフィアを追いかけようと。
カイトは道中 駆け出した。
人ごみをかき分け、走る。
(何処 行った?)
キョロキョロと辺りを見回しながら。
ついには港へ出てしまった。
人が少ないので、マフィアの姿は すぐに見つかった。
砂浜の方で一人、座って海を眺めていた。
とても……悲しそうな顔をして。
カイトが近づき肩を叩くと。
ビクリとしてマフィアは振り返る。
「何だカイトか……」
少し顔を見てホッとして。
また前の海の方を見つめた。
カイトはマフィアの隣に立ったまま、様子を窺っていた。
「こんな所で青春か? ……いいねえ、若いモンは」
と、水平線が見える海に目をやりながら。
日光に照らされ光輝く水面を眩しそうに見ながら。
時折 吹く冷やりとする風を受けて気持ちいいと感じながら。
カイトにマフィアは、そっと言う。
「私、あんたより年上じゃなかったっけ……」
ザザー……ン。
沈黙の上に波の音が かぶった。
カイトは、なびく髪をかき上げた。
「ふっ……よくぞ見破った。確かに俺は18。あんた、一つ年上だったっけ。で、セナが17でレイが18……げ、レイと同じかよ。今 明かされる真実。ジャジャーン」
と、指揮者のようにタクトを持って振る素振りをした。
ザザザーン……。
再び沈黙の上に、波の音が かぶる。
「あんたって……実は賢い? いつもいいタイミングで、そうやって……いつかの時も そうよね。私と蛍が口論に なりそうだった時も、さりげなく違う話題 ふっかけて。あれ、わざとでしょ」
マフィアがチラリと横目で見る。
「何の事でしょー?」
と、ピュウと口笛の高い音が軽やかに響いた。
マフィアはクスリと笑う。
「おっかしい奴。メノウちゃんも苦労してるらしいじゃない。本当、あなた達いいコンビ」
そこまで言ったマフィアは突然 顔を曇らせた。
「……今の私、どう思う……?」
不安気とも とれるようにマフィアがカイトに聞いてみた。
「言っていいわけ?」
マフィアの問いに対し。
……あっけらかんとした口調で。
カイトはマフィアの横に「どっこらしょ」と言いながら腰を下ろした。
あぐらをかいて、片ヒジをヒザの上につく。
アゴを手にのせて、顔は正面の海に向けていた。
軽く返されて ちょっとびっくりしたマフィアは……頷いた。
「いいわよ。言ってみて」
「そんじゃ」
コホン、と咳払いの後でカイトはスラスラと。
思うがままに言葉を言い並べていった。
「んーと。セナへの やきもち。七神としての責任感とプレッシャー。実家の心配。長旅の疲れ。孤独感。力の酷使……“私、このままココに居ても いいのかしら?”……そんなトコかな」
「……」
「勇気をとられたくないとか、護らなきゃ、とか……色んなものを抱えすぎて……要するに、お疲れ気味。心身ともに、そろそろ限界?」
と、ヒジをついたまま、顔と視線をマフィアに向けた。
「……あなた、天才ね。その通りよ……」
マフィアが段々と消え入りそうな声で返事をすると。
カイトは“イエイ!”とポーズを決めた。
ちょっと微妙な表情を浮かべ、ハー……と深く息をつく。
「人の心が読めるのかと思っちゃった。すごいわね」
「ついでに言うと。勇気の次の行動」
聞いてか聞かずか。
合間を置かず、カイトは勢いで話し出した。
「マフィアを置いて、俺らだけでレイんトコに のりこむね。メノウは宿の主人にでも頼んで。あんた、どうする? 言われる前に言ってやれば? ココで待ってるってさ」
「……」
言われて、思考をこらす。
言い返す事は今のマフィアの状態からでは難しく思えた。
「……そうね……勇気は きっと そうする。仕方ないわよね……勇気にはセナが ついているし。私は別に必要ないわよね……」
ヒザを抱え、下を向く。
黙り込んでしまう。
隠れて そこから落ちたもの。
……それは涙だった。
「よく頑張ってるな。俺、救世主よりも あんたが一番しんどいと思うよ」
マフィアは ずっと黙ったままだった。
「3人、て数。結構シビアなんだぜ。友達でも恋愛関係でも。人は普通、一人しか相手できないだろう。一人の質問にしか答えられない。口は一つしかないからな。って事は……一人が一人の相手をすると、一人余る。その余った一人は間には入れない……それが今の あんたの状況だな。セナと勇気の間に、割り込んで いけないもんな、直には。だから ついつい、強く出て言っちゃったりして自分の存在アピールしたりするんだ。今回の場合も、ちょっと それだな。力 使って海渡ろうなんて言い出したから。多少 無理してでも」
静かにマフィアの顔を覗き込むカイト。
まだ続けた。
「……というのは まあ、置いといて。あんた、実家に一回 帰ったらどう? うん。それが一番いい。しばらく何もかも忘れて、休んでこいよ」
両ヒザを固く抱え込んだまま。
顔を その中に埋めたままのマフィアは、首を振った。
それはできない……と意味していた。
「七神として……ってか? でもなぁ、俺そんな自覚サラサラ無いぜ? 旅の目的も、ただ人形を売るってだけだし。ついでに力貸しましょか〜って程度。で、あの鶲とかいう奴。あいつをギャフンと言わせてぇ! って感じ?」
と、マフィアに聞いても答えは返って来なかった。
「責任感 強すぎ。そうやって自滅すんの。疲れてるって自覚あるうち、何とかした方がいいんでない? あ、何だったら俺も一緒についてっちゃろか」
やっと顔を上げたマフィアは「……結構」と小さく言って。
晴れ晴れした顔で立ち上がった。
「……わかったわ。そうする。ありがと、カイト……やっぱり あなた変人で、天才ね!」
と、ニコッと笑って、砂浜を走り去って行った。
残されたカイトは座ったままで。
バタリと後ろに汚れも構わずに倒れてみた。
「うーみーはー広いーなー……♪」
そして すぐ、お腹が鳴る。
「あう」
カイトも、お腹をさすりながら立ち上がり。
砂浜を走り出して勇気達の居る料亭へ向かった。
青春である。
ほぼ同時刻。
カーテンを閉めきり。
真っ暗にした宿屋の部屋の一室で一人。
ベッドで だるそうに横に なっていた蛍。
“一体、あなたは どっちの味方なの!?”
エンドレスに響き渡るマフィアの怒り声。
一晩 越えて今の今でも頭の中に残っている。
うっとうしかった。
薄いシーツを激しく握りしめ、眉間にシワを寄せる。
胸が痛むのだった。
(私は……レイ様に造られた4番目の影……にして、失敗作。成長しない子供の姿のまま、未熟な力のまま……。
レイ様は優しかった。私はレイ様のために技を覚え、紫苑の協力のもと、紫を造り、技を磨いた。あんなに あんなに優しかったレイ様……たまに ふっと暗い顔をなさるけれど。
でも、変わってしまった――冷たい瞳、氷つくような視線。邪尾刀や四神鏡に心奪われて、すっかり様子も態度も変わってしまった。
私は……逃げた。
レイ様を裏切っ……て。
裏切る?
……いいえ、レイ様を慕う気持ちに変わりは ない。裏切ってなんか、ない。
じゃあ、どうしてココに居るの?
レイ様の敵である、救世主と共に。
訳が わからない。何故、自分は勇気の所へ来たのか。
わからない……わからないのよっ……!)
その時、トントンとドアのノックの音がした。
ゆっくりとドアが開く。
開けたのは紫だった。
「紫……帰って来たの」
紫は勇気達と料亭に向かっているはずだった。
「蛍様が心配でしたので。気分は大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。全っ然。余計な心配よ」
と、プイと そっぽを向いた。
蛍に近寄りつつ、紫は いつになく話し出した。
「レイ様を倒しに行くのでも、説得しに行くわけでも ありません。帰るためです。元のレイ様の所へ。私達は、待つためにココに居るのです」
「待つ……?」
「時機が来たら帰りましょう。それまで、ココに居るんでしょう? 救世主の そばに」
「帰る……レイ様の所へ……」
(レイ様……私……)
“役立たずは……去れ”
……それがレイと交わした最後の言葉。
そして、あの恐ろしい顔つき。
下僕か奴隷を見下しているかのような、非情に満ちた表情。
冷めた目つき。
……一寸でも笑う事の ない口元。
緊迫の場面……。
(私の頬を傷つけて、そう言ったのよ――あの『男』は……)
蛍の感情が高まる。
鼓動が全世界中に聞こえそうなほどだった。
「嫌……何なの この気持ち」
ガタガタと体が震える。
寒気が走る。
そんな蛍を、そっと後ろから手をまわし受け止めるのは、紫だった。
何も言わず、ただギュッと。
蛍の震える体を抱いていた。
「怖い……怖いの紫。レイ様も……勇気も」