表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/161

第26話(苛立ちと不満)・3


「あ……あそこよ! あの洞穴!」


 木が教えてくれた通りに行くと。


 そこは見つかった。

 茂みや木に隠れて、ひっそりとあった。


 ぽっかりと空いた横穴の奥は深そうで。


 真っ暗だし何も見えない。


「とにかく行くか。木の精霊の言う事を信じて。俺が先に入る。勇気、紫と続いてくれ」


 セナに そう言われ、頷く私と紫。


 穴は とても大きく。

 人が横に5〜6人は並べられるんじゃないだろうか。


 壁伝いにセナは奥へ進んで行った。

 後を追う形で私と紫が続く。


「あ……」


 数分くらい息を潜めて進んで行ったが。


 急にセナが立ち止まったので。


 私はドン! と。

 セナに ぶつかってしまった。


「な、何!? 急に……」


とセナを見上げると。


 セナが呆然として自分の目の前を指さした。

 ヒョイとセナの横から前を覗く。


 ……すると。


「………………はあ?」


 拍子抜けしたというか、何というか。

 緊張が一気に抜けて肩を落とした。


 だ、だってだって。


 確かに薄暗い中。

 ツキワノヒゲゴジラは居る……わよ?


 でも、でも……。


 横に なって高いびきかいて。

 寝ちゃってんだもん!


 しかも、その腕に行方不明の子供を抱いて!


「これがその魔物……」


 仰天した。


 さらに さらに何と。

 寝ている彼らの周りには。


 酒ダルだ。


 バレーボールくらいに小さめなのが10〜20はある。


 全部 空っぽらしく、フタは されていない。


 そこらじゅうに転がっていた。


 こんなもの、一体 何処から調達したというのだろうか。


「酒くさ……もしかして。酒飲んで寝てる……?」


と私が言うと、セナはショックを受けたのか。


 明らかにガックリと肩を落とし土の壁に頭を押しつけた。


 セナも よっぽど緊張していたんだろうなぁ。


「どうやら彼は、酒乱のようですね」


 冷静に目の前の状況を推測したのは紫だ。


「まさか……山道で村人達を襲ったりしたのも、お酒に酔った勢いでってやつ? 嘘でしょお!?」


 つい大声で言うと。


 ツキワノヒゲマンジュウは目を覚ました!


 げげ!


 隣に同じく横になって寝ていた子供も目を覚ましたようだった。


 しかーしだ。


 彼らは目が すわっていて。

 子供の方は顔が赤かった。


 真っ黒な熊のような風貌をし。

 額に三日月ハゲを作っていて鋭い目で こっちを睨む、魔物の そいつ。


「クマッた(困った)……」


 ボソリとセナが言った。


「……」


「……」


 とても笑える状況では ない。





 宿屋にて。


 食事する広間のテーブルに つき。

 マフィアと談笑していた。


「……で? どうなったの? 奴を倒したわけ?」


 テーブルの上に組んだ両手の指を回しながら、マフィアが聞いてきた。


「うん。セナが容赦なく攻撃して、何とか。子供も奴もベロンベロンだったけど、奴は あっさり やっつけてさ。セナが おんぶして子供を連れ帰ってきた。子供は子供で。小さな変わった虫を探しに外に出たとか言ってた。真っ赤な顔して、またベロベロでさ」


「お笑いねえ。それって」


「んもー、大変だったよ」


 全くだ。


 せっかくの張りつめていた緊張感も台なしで、コミカルだった。


 強そうに見えても。


 セナの たったの一撃でスッパリやられてしまったし。

 白旗まで振ってたんだから、そいつ。


 呆れてトドメは させなかったよ……。


「始めから わかっていれば、近道できたのにねえ」


「全くだよ。はぁ〜あ」


 私がテーブルに体を突っ伏すと。


 ちょうど向かいのテーブルで声が上がった。


 イスから立ち上がった一人の男が興奮 気味に大きな声を張り上げる。


「何だと!? 東のベルト大陸の、3分の1がほぼ壊滅!?」


 ガシャンッ。


 立ち上がった拍子に。


 テーブルの隅に置かれていたガラスのコップが床に落ちて割れた。


 水とガラスの破片が飛び散り。

 一瞬だけ辺りがシーンと静まり返る。


 しかし すぐ別のテーブルから男の声が上がった。


「また例の、メガネ野郎か! 青髪の!」


 そして また別の。


「マジかよ!? ……商売できなくなるぜ!」


 商売人らしき その男は座ったまま頭を抱えた。


 どよどよと……場に居た人の騒ぐ声が徐々に広がっていった。


(メガネ……青髪)

 

「レイね」


 マフィアが言葉を発した時。

 私はドキンと胸が高鳴った。


「拡大していってる……レイ、焦っているのかもしれないわね」


 焦り?


「マフィア……」


 私が何とも言えないような顔になる。


「時機は今かもね。レイの所に のりこむのは」



 ココはマーク国。


 マフィア一行と合流したが。


 お互い七神についてのヒントは得られなかった。


 それは それで。

 次にマフィアはレイの所へ行こうか、と言い出したのだ。


「そういえばレイの奴、何処に居るんだ? 蛍、知らないか」


 マーク国内の商店が たち並ぶストリートをテクテクと歩いていた。


 セナに聞かれ、蛍は答えた。


「レイ様は よく移動されるの。だから きっと今は別の場所に居ると思う」


「レイの奴、一つの所にジッとしているタイプじゃねーからな」


と、そんな2人の会話がなされていたのを気に しながらも。


 私は2人から少し離れて行き。

 商店で品物の方に気をとられていった。


 木彫りの動物や、ガラス細工の花。

 鳥や爬虫類みたいな形をしている小物など。


 私は店頭に並べられた色とりどり種類たくさんの民芸品に目を奪われていた。


 そしてセナと蛍は。

 私が立ち止まって商品に気をとられているのにも気が つかず。

 先へと行ってしまっていた。


「きれーい。この首飾り。先に鈴が付いてる」


 私は ちょこっと、飾りの鈴に触れてみる。

 チリン、と小さな音がした。


 そんなノンキに商品を見ながらだ。


(レイの場所かぁ……ココから遠いのかな……)


 なんて、考えていたりするんだ。


 あんまり本当はレイの事は考えたくは なかった。


 考えると どうしても気分が暗くなってしまう。


 レイを倒す……やっつける……ころ……。


(はぁ……)


 それしか、ないのだろうか……。


 ホラ、落ち込んでくる。

 それが わかっているから嫌なんだ。

 もう。


「ん?」


 私がクルッと、後ろに振り向く。

 トントンと誰かに つつかれたような気が したからだ。


 しかし誰も居なかった。


 気のせいか?

 と思った矢先。


「下だよ。お姉ちゃん」


と下方から声がした。


 言われた通りに下を見ると……。


「あなたは」


 キャップを深く被り。

 オーバーオールのポッケに手を突っ込んでいる、見覚えのある少年。


 確かこの子は……。


「チ、チリンくん!?」


「や。また会ったね。お姉ちゃん」


 そう。


 私が元の世界に帰る時に お世話になった変な少年。

 チリンとかいう少年だった。


 変、っていうのは、彼には謎が多いから。

 私の事をよく わかっているような口ぶりをする。


 今だって そう。

 ニッコリ笑っては いるけれど。


「ぐ、偶然ね。また……ベルを売っているのね」


「まあね。今は休憩中ってトコ。それより、さ。お姉ちゃん、また何か悩んでるでしょ」


 ニコニコした顔で陽気そうに聞かれ。

「ええ……そうよ」と正直に答えると。


 いきなり笑顔が消えチリン少年は真顔になった。



「デタライト島だよ。闇神が居るのは。ココの大陸のちょうど真南。行っておいで」



「えっ……?」


 するとチリン少年は またまたニカッと笑って。


「じゃあね! また会おう!」と言って走り去った。


「デタライト……島……?」


 立ち尽くす私。

 ポカンとして しばらく固まったままだったと思う。


(どうして……? どうして知っている……の?)



 ストリートの上を一吹きの風が吹き抜けていった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ