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第25話(再会)・2


 私達が借りている家の主人である診療所の医者……名はハウス。


 彼に薬と本を提供した。


 泊めてくれた お礼がわりにしちゃ安いかしら。

 ……とも思っていたんだけれどね。


 ハウス先生は薬を見て驚き。

 本をペラペラとめくって見ては また驚いていた。


「こりゃ……凄いじゃないか。専門的な事が びっしりと……ううーん、でも。残念なのは、字が見た事も ない字で解読しないと いけない。薬も……」


 机に向かって座りながら渡された物をジックリ見て。

 考え込んだ顔になった。


 そうだった、私ったら忘れかけていた。

 私だってココの世界の字は読めない。


「でも貴重だよ、とても。解読は しなくちゃいけないけど、大丈夫。こんなのは よくある事だ。外国の本や専門書をよく読むし、色付きで絵や図が多いみたいだから わかると思う。でもコレ、どうしたんだい? 君の持ち物?」


 ハウス先生は少し微笑みながら嬉しそうに聞いてきた。


「私の世界の……医学です。役に立てばと……」


 言うと、ハウス先生は首を傾げた。


「世界?」


「私、異世界から来たんです」


「ええ!?」


 イスごとハウス先生が私から飛びのいた。


 しかし すぐに戻って来る。


「そうなのか……信じられないが。でも この本を見ていたら、どうやら本当っぽいなぁ」


と、持っていた本を閉じ、深く礼をした。


「すまない。礼を言うよ……きっと すごく役に立つと思う。これでケガ人のケガが早く治るかもしれない。ありがとう」


 急に そう言われたもんで、私は少し慌てた。


「いえ、そんな。本当に役に立てるかどうか。家をお借りしているんだもの。私達、お金も ないし……迷惑だろうなあって ずっと思ってて」


「迷惑? そんな事 思ってないよ。君らの仲間さん達には色々と手伝って もらったからね。むしろ、こっちが迷惑かけてると思っているよ」


 そんな風に言って優しそうにニコニコと笑う。


 ハウス先生……笑うと凄く可愛らしい顔になる。

 でもカッコいい。


 まだ若いのに、テキパキと仕事をこなす。


 大人だなぁ。


 女の子にモテるだろうねって思う。

 私だって結構、ドキドキするもの。


 そんな事を考えている時。

 ガチャリとドアが開いて白衣を着た女の人がハウス先生を呼んだ。


「先生。診察の時間です」


「ああ。今行く」


 女の人はミゼーといって。

 これまた男にモテるでしょうねっていうほどの美人だ。


 スラリとして、歩き方が美しい。


 白衣が よく似合っていて決まっているし。


 長い紅色の髪を後ろで束ねている。


 少し化粧もしている。


 大人のお姉さんといった感じで、しっかりしていた。


 彼女も医者だった。


「ふう……まだまだ大変だよ。薬も到着が まだ だしね。僕の力で一体 何処まで できるだろう」


 ミゼー先生が去った後。


 イスに どっかりと体を預けたような格好になってハウス先生は うなだれた。


 少し お疲れなんだろうか。

 だからか、よく口が動く。


「……医者が無傷で よかったかな。街は あんな皆殺し状態だったっていうのに、たまたま僕とミゼー先生は他の村へ出張していてね。助かったわけだけれど……でも、あんまり気持ちはよくない。助かっといて、こういう事を言うの、変かな」


 口元は微かに微笑んでいるけれど。


 目を見ると寂しそうだった。


 私は……。


「……うん。変」


 正直に言った。


 ハウス先生は、ハハ、と苦笑いしてみせた。


「やっぱりそうだよな。助かっといてラッキーって思う方が」


「先生は優しすぎるんだよ。たまたま他の所へ行っていたのは、仕事でしょ? 遊んでいたわけじゃ、ないじゃない。気負いする事なんて これっぽちも ないと思うよ。誰もが先生には むしろ感謝していると思うな」


と、少し偉そうだったかな? と思いつつ、言ってしまった。


 ハウス先生は深く頷いて、またお礼を言った。


「ありがとう。少し気が楽になったよ」


 そう言って また微笑んで、部屋を出て行った。



 昼過ぎに皆の元へ戻った私は、地図を広げて作戦を打ち明けた。


 作戦って、つまりは ただの。

 これから何処へ行こうかって話だけれど。


 地図で現在地を指さして確認。


 現在地は、世界地図の東南に位置するマイ大陸の。

 ちょうど真ん中辺りにある、キースの街。


 そこから つーっと南下すると、マイラ村がある。


 そこを通り、右の道の方を通ると。


 今度はマイ大陸南端、マーク国がある。


「明日の朝 出発。とりあえず この進路で、南のマーク国へと行こう。国単位なら、七神についての情報とかも入るかもしれない。そこから こう、大陸を左回りに……コミ山道を通って北上して、サワ港へ。それから東のベルト大陸へ行こう」


と、私は思うがままに説明してみた。


 私の言った進路に今の所、皆も引っかかりは なく頷いてくれていた。


 すると、違う事を言い出したのは蛍だ。


「レイ様達は、放っておくわけ?」


と、聞いた。


 私も皆も一瞬 表情が固まった。


 でも私はキッパリと言った。



「レイの事を考えるの、止めにする」



 意外さに驚き言い返したのはセナだった。


「どういう事だ? まだまだ これから死人は増える……鏡も集まる。それでも、放っておくという事か?」


「レイの事になると、私達 何も できなくなるわ」


 私は悲しげに そう言い切った。


「放っておくわけじゃない。手がかりが欲しいの。レイが一体 何を考えているのか……」


 考え込んでいると、カイトも それに付け加えた。


「確かにね。彼の行動には少し疑問。まず、何で俺らの先回りをして襲うのか」


 カイトの何気なしに言った一言が、私達をハッとさせた。


 そうだ。


 レイは以前。

 ライホーン村で わざわざ鶲を使って。

 私とセナを村から離れさせ襲っている。


 どうして?


 今回も そう。


 私達の先回りをしている。


「それから、何で襲う期間がこんなに開いているのか。まだ、2回目なんだろ?」


「そうね……ライホーン村を襲ってから この街を襲うまで、だいぶ日が空いてる」


 カイトとマフィアが地図を見ながら また考え込む。



「心理作戦よ」



と口を挟んだのは蛍だった。


「どういう事?」


 私の方を黒い瞳の横目で見ながら続けて言った。


「レイ様は青龍復活と、天神への復讐も目的なんでしょ? きっと天神を苦しめるため、わざと間を置いているんだわ。ジワジワと……ゆっくりとね」


 ゾワッ、と背筋に冷たいものが通った。


「確かに……心理作戦はレイの奴の得意とする所だ。充分あり得る」


 セナが そう言い終わると、長い長い沈黙が やって来た。


 天神様は私達の(がわ)に居る。

 天神様を苦しめるという事は、私達を苦しめるという事……か。


「そうなのかな。本当に」


と、長い沈黙を破るのはカイト。


「あの人なら、もっと別のやり方で やると思うけど。何か納得いかないんだよね」


 また沈黙。


 ええい、うっとうしいよ!


「ほらぁ! レイの事を考えると話が進まなくなる! やめ、やめ! とりあえず明朝出発! 全員ココに集合! 以上、解散!」


と私はバアン! とテーブルに手をついて叫んだ。


 ちょっと手が痛かった。



 明朝出発。


 ハウス先生とミゼー先生が港まで見送りに来てくれた。


 まだ朝日が顔を出してからは そんなに時間が経っておらず。


 空気と自分の体温との差を感じた。


 ひんやりとして、まだ外は起きたばかりとでも言っているよう。


 海の遠く彼方。

 灯台のような白い人工の細長い円柱が見える。


 地平線に突き刺さっているようにも見える。


 海の表面は光り輝き。


 静かに波打つさまにも光が一つ一つ反射し。


 その反射の集合が地平線へと向かっている。


 昇りかけた太陽へと、ゴソゴソ集まって行っているみたいだ。


「じゃ……お元気で」


 私が2人に向かってお辞儀する。


 ハウス先生は それを見て、いつものように微笑んだ。


「君達もね。絶対 生き延びてくれ。それと……救世主くん。本と薬、ありがとう。何のお礼も できなくて、申しわけないな」


 そう言って弱った顔をされて、私は慌てて手を振った。


「いえ、そんな。お礼を期待してたわけじゃありませんし……それに、役立ってくれて、嬉しいです」


「でも驚いたよ。あの伝説の救世主とやらが君みたいな少女だったなんて」


「あはは……自分でも、あんま信じらんないんですけど。何かドジばっかだし……」


 少しハウス先生の声のトーンが下がる。


 そして私の目を意味ありげに見つめた。


「いや、でもね。君は見かけよりも大人びた所が ある。何て言うか……しっかり しているんだな。とても13歳には見えないよ。この前だって、弱音を吐いてた僕にガツンと言ってくれたしね」


「ガツンだなんて……すみません。時々、偉そうな事を言っちゃうんですよね」


「偉そう? そうかな。別に いいんじゃないかな。とにかく、僕は君の あの一言で だいぶ気が楽になったよ。感謝してる。ありがとう」


 そう言ってニッコリ。

 笑顔は いつも満点だ。


 しかし……少し、ドキドキする。


 なーんてね。


 恋のドキドキじゃなくて、女の子としてのドキドキ。


 だって、笑うとカッコいいんだもん、この人。


 私だって お年頃。

 男の人ぐらい、意識しちゃうわよー。


「先生、そろそろ……」


と、ハウス先生の肩を軽く叩いたのはミゼー先生。


 少し離れた位置で、ジッと私との会話を聞いていたのだ。


「ああ、そうだね」


 ハウス先生は私の方へ向き直り。

 また笑って手を振りながら、


「それじゃ……これだけは もう一度言っておくよ。絶対 生き延びてくれ。そして、またココへ来てくれ。遊びにね」


と言った。


 私は笑って「はい」と返事をした。


 セナや皆は もう船に乗っている。


 私は急いで船中へ向かった。


 途中 振り返ると。


 ハウス先生とミゼー先生は まだ こっちを見ていた。


 私 思う。


 あの2人、美形同士だし。

 似合うんじゃないかなーと。


 何ていうか、理想のカップルって感じ?

 うらやましいぞぉー。


 またココに来る事があった時。


 ひょっとしたら2人、結婚とか してたりして。


 しかも、子供とか居たりして。


 あっははー! 気が早えやぁ。


「何、ニヤニヤしてんだよ。気味 悪いぞ、かなり」


 ハタ、と見るとセナが船中。

 手すりに掴まっていて こっちを見ていた。


 嘘、顔に出てた?

 ……あちゃあ、こっぱずかすぃー。


 思い出し笑いする人ってエッチなんだって?

 じゃ、顔に出ないように訓練しなきゃ。


 え、っていうか私って そうなの?

 自分で認めてた?


 はははー……情けない。



「今度は何 沈んでんだ。ほんっと、見てて飽きねえ奴。早く上がって来い」




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