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第3話(森の訪問者)・1


※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。

 同意した上で お読みください。


※じっくり小説らしく味わいたいパソコン派な方はコチラ↓

http://ncode.syosetu.com/n9922c/3.html

(『七神創話』第3話 PC版へ)




 森で、迷子に なっていた少女の名は、ミキータ。

 この子のママが病気らしく、薬草を採りに森へ入り迷い込んでしまったようで。

 泣いていた所を私が見つけ、保護した。


 いきなりキライオンとかいう化け物と遭遇し、絶体絶命! と思ったんだけど。

 なんと彼……今の私の頼り所、セナが助けてくれた。


 セナを見て、わんわんと。

 ミキータと一緒に泣きまくったけど。

 その後キャンプしていた場所へ戻り、疲れ寝をしてしまった。

 おかげで目が覚めると、お日様は あんなに高くなっていた。


「……ったく。何で俺が子供2人の お守りなんか」


 ブツブツ文句を言いながら、私とミキータの後ろを歩いているセナ。


 後ろで私たちの歩調に合わせながら、まるで保護者のように歩いているわけなんだ。

 私にはわかっている。


 セナって、思いやりがあるのよね。

 私たちがグースカ寝てても、無理矢理 起こそうとか しなかったし。

 ……まぁ、ただ単に面倒くさかっただけ、かもしんないけど。


「お、村が見えたぜ」


 セナが手をかざして見た方角に。

 ぽつんという感じで、村が1つあった。


 本当に小さな村で、家がチラホラ。人もチラホラ。

 中へ入って進んで行くと、村の中央に大きな家があった。


 ミキータは、そこへ入っていった。

 私たちも後に続く。


 中へ入ると、もやあっとした温かい空気がした。

 外からは想像しなかったが、中には ごまんと人が大勢いるではないか。


 ……と言うより、ここは。

 どうやら飲食店のようだった。


 ワイワイガヤガヤ。


 賑やかな音の中で、一人の女の人が こっちに向かって突進して来た。

 そして「いらっしゃい。何にする?」と私たちに聞いてきた。


 中華服(チャイナ・ドレス)に身を包み、後ろに1つに縛った細く長い三つ編みが腰まである。

 顔は美人系で、目はパッチリとして、まつ毛が長く。

 口唇も何だか色っぽい。

 意志の強そうな眉。

 きゅっ、きゅっと くびれたウエストと足首がスラリ。


 うっひゃー、この人すごい美人だ……。


「いや、飯を食いに来たわけじゃ……」。


「いいじゃない。まだ夕飯食べてないし。ついでだし、済ませちゃおうよ」


「いいけどさ。どうせ金払うのは俺なんだろ? お前、金持ってないじゃん」


「あ……そっか」


 そうだった。

 どこの世界にも、お金というものは大体 存在するわよね。

 私、ここに来た時パジャマだったし。

 第一、あっちの硬貨や お札が こっちで使えるのかどうか。


 黙ってしまうと、美人の彼女、略して美女は言った。

 そういえば、ミキータは何処へ行ってしまったんだろう?


「ごめんね。ミキータが世話に なっちゃったみたいで……ミキータが居なくなった事に気がついたの、今朝だったんだ。村中、大騒ぎでさ。森の中へは入れないし。探索隊の派遣を頼んでいるけど、そんなに待っていられないし……。いっそ私が行こうかどうしようかって迷ってた所だったんだ」


「え? 何で森の中に入れないの?」


「まっ、とにかくさっ。あんたら、ウチに泊まりなよ。ミキータを助けてもらった お礼をしなきゃ。また後で色々話すからさ。とにかく、座って座って。そこ、空いたから」


 私とセナを、右隅の空席へと押し込んだ。




 見事なまでの中華料理を、残さず2人で平らげた。


 ラーメン、チャーハン、天津飯、ギョーザ、肉まん、フカヒレスープ……何でもござれだ。


 どうして こっちの世界に そんな中華なんて料理が? って思う事は無しにして。

 とにかく、どれも味は斬新だった。


 食べ終わった後。美女が やって来て、奥の部屋へ招き入れた。

 そして「お風呂が沸いているから、入ってね」と言って、サッサと店へと戻った。


 彼女は ここではキャリアが上なのか。

 他のウェイトレスや従業員が一目置いているって感じなんだもの。


 でも、ま、後で色々と話すだろうから。

 先に ゆっくりでもしておこうかという事で。


 お風呂に入る事にした。


 びっくりしたね。

 お風呂っていうから、もっと普通の家の お風呂〜って思っていたのに。

 男子には男子、女子には女子と、ちゃんと専用に別れているわけ。

 つまり、大浴場なんだよ。

 銭湯だと思ってくれればいい。


 道理で、ちょっとアレ? って思った。

 だって、さっきの美女は「入ってね」と言っただけだ。

「どっちか先に……」とは、言っていない。

 細かい事だけど。


 普通の お風呂を想像していた私は、セナと一緒に入れっての? なんて一瞬思ってしまった。

 ……そんなわけ ないじゃんねー(たはは……)。



 客間に通された私達。

 熱い お茶を頂いていた。

 すると、美女は やって来た。


「だーっ! 今日は混んでいたわねぇ。……お待たせして、ごめんね」


 テーブルを挟んで私の前に座った。


 すると、向こうの部屋から障子を開けて、ある中年くらいの女性……おばちゃんが来た。

 白髪で、優しそうな雰囲気を持つ。

 この美女と同じ髪型で、長い白髪を三つ編みにし、前に垂らしていた。

 今まで寝ていたような格好をしていた。


「マザー。もう、だいぶいいの?」


「ああ。ミキータが飲ましてくれた薬草が効いたみたい。だいぶラクになったよ」


 マザー?

 マザーと呼ばれた、この おばちゃん……。

 もしかしてミキータが言ってた“マザー”って……?


「紹介するわ。っと、その前に。私はマフィア。マフィア・レイク・オクトーヴァ。マフィアでいいわ。この店の店主です。そしてこちらが私たちのお母さん。みんな“マザー”って呼んでいるの」


 マザーは、ペコリと お辞儀した。


「あ、あの。私は、松波勇気っていいます」


 私は正座に座り直して言った。


「あ、俺はセナ。セナ・ジュライです。よろしく」


 セナも座り直して自己紹介をした。


 そして沈黙。

 美女=マフィアは……私たちの顔色を読んで言った。


「……ここはね、表向きは飲食店なんだけど……実は、孤児院なの」


 マフィアは フ……と顔を曇らせ、声のトーンを若干下げて、説明する。


「親が戦争や何かで亡くなってしまったり、親に捨てられたり……そんな子たちを引き取って、マザーは皆の世話をしているの。私もその一人で……ミキータも、そう。孤児なの」


 私とセナは しんみりとしてマフィアを見ていた。


 そうか……ここ、孤児院なんだ。

 だから あんなに お風呂は広いし(私、こだわってる?)、皆、この人の事を“マザー”って呼ぶのね。


 私も現実、両親を いっぺんに失っている。

 幸い、働ける兄がいて私は だいぶ救われたのだ。


 でも、もし兄が いなかったら……?

 私も、孤児院か遠い親戚か。

 何処かへ行っていたかもしれない。


「ごめん、暗くしちゃって。もう疲れたでしょ? 泊まってって。お布団、敷くわ」


 マフィアが立ち上がった時。

 私は忘れかけていた疑問を問いた。


「ああ、森の中に入れない理由? それはね、あの森の精霊が迷い込んだ人達を誘って、色んなイタズラをするのよね。特に最近は、度を越えているわ。頭を燃やされたり、落とし穴に はまらせたり……危険だから、絶対立ち入り禁止になっているの」


「へ……森の精霊? そんなもの いたっけ? セナ」


 セナに聞くが、セナも訳わからんって顔をしている。


「気まぐれな精霊だし……それとも あなたたち、何か“力”を身につけているんじゃない?」


 マフィアは私とセナを、交互に見た。


「まあいいや。ゆっっっくり休んでね。私、後仕事があるから」


と言い残してマフィアは何処かへ行ってしまった。


 すると行き違いにミキータが やって来た。


「マザー! 起きて大丈夫?」


と、マザーの顔色を窺う。


 マザーは「大丈夫よ」と言いながらニッコリ笑った。


 すると、ミキータはホッと一息ついた。

 その後、一杯の お茶をミキータは運んできて、マザーに勧めた。

 熱い お茶を、ゆっくりと飲むマザー。


(ミキータって……ううん、きっとここに住んでいる、皆。マザーの事、本当に大事なんだな……)


 私は そんな事を思った。

 私に もし お母さんがいたなら……そして病気だったりしたら……きっと私もミキータと同じ。

 危ない森だろうが何だろうが、平気で行っちゃうだろうな……。


「勇気、どうした?」


 ふいに、セナが うつむく私の顔を下から覗き込んだ。

 私は慌てて笑う。


「え? ……ううん。何でもないよ?」


 そうそう。

 しんみりしている場合でない。


 マザーなら きっと、前にセナが言っていた神話について何か知っているかもしれない。


 マザーに聞いてみた。


「七神創話伝? ……ああ、救世主伝説ね。ええ、少しだけなら……」


「その話、詳しく知りませんか?」


「そうねえ……あまり存じませんが……。聞いた事があるのは、第一章ぐらいなものですけど……」


 第一章! ……二、三と続くの?


「『この世に四神獣 蘇るとき 千年に一度 救世主ここに来たれリ 光の中より出で来て 七人の精霊の力 使ひて これを封印す 』 ……これが、第一章。私も昔、母に聞いただけでして……あまり詳しくは……」


 私はゴクリと唾を飲み込んだ。



「私、救世主かも しれないんです」



と、私が言うと、マザーは目を大きく開けて私を見た。

 だが、すぐに冷静に私を見つめ直した。


「それは、どういう経緯(いきさつ)です?」


「ええと……私もその、話と同じように光の中から現れて……いや、あの……私……、こっちの世界の住人じゃないんです!」


 私は言い放った。

 マザーは微動だにせず、優しく首を傾けた。


「そう……本当のようね」


 とても温かい眼差しだった。


「わからないけど……それなら、“()の泉”へ、お行きなさい」


 私は へ? とセナの方を振り返った。

 セナは何かピンときたようで、マザーの方に身を乗り出した。


「あそこは……! そうか! うん」


 一人で納得しちゃっている。

 私を置いて行かないでよー。


「目の泉はさ、昔、白虎を封印したとされる所なんだ」


「白虎……?」


「四神獣の一つ。前にも言っただろ? 言い伝えだけど、確かに、そこに行けば何かが わかるかも。目の泉の場所は……」


 セナが考え込むと、マザーが教えてくれた。


「ここ、ノイゼ村から東南に行った所に“無人の砂漠”が あるの。


 砂漠の中央に あるのよ。


 周りは砂漠だけど、何処からか水が沸いているのかしらね。


 とにかく、そこに行ってみたらいかがかしら。


 そこに何もなくても、近辺の人なら何か知っているのかもしれない。


 その砂漠に行く途中にライホーン村が あるし、


 砂漠の北にはタカマノ村が、


 北東にはマイラ港町が あるわ。


 きっと、何か手がかりが つかめるはず」


 私は急に どきどきしてきた。

 前にTVゲームでプレイした、RPGのようだ。

 まるで勇者か王子にでもなった気分。


「よしっ、明日、早速行ってみるか」


 セナの声に、これまた どきりと反応する。


 だって、セナとは会ったばかりで。

 なのに、私なんかに付き合ってくれるというのだ?


「ね、ねえ、セナ……自分の、その……。旅は、いいの?」


 私が聞いても。

 彼は軽く首を振るだけで。


「いいよ。急ぎじゃないから。それに今は、お前を 放ったらかしにしとけねえもん」

 

 続けて、セナは何かを言いかける。

「実は、俺……」


 言いかけた所で。


 ガチャンッ!


 テーブルの上の湯のみが倒れ、残っていた中の お茶が こぼれた。


 コロコロと湯のみが転がっていく。

 そして床に落ちた。


 マザーが苦しそうに、胸のあたりを押さえ、うずくまった。


「ど、どうしたんですかっ!? マ、マフィアーッ!」


 声を上げてマフィアを呼んだ。


 するとマフィアは すぐに駆けつけて、事態を飲み込んだ。


 マフィアの後で、何人かの子供も やって来た。

 きっと、この子たちも孤児なんだろうけど。

 ……今は そんな事を考えていられない。


「これは……ミキータ、あなた、マザーに何を飲ませたの?」


 マフィアが聞くと、ミキータはビクッとなって、震えだした。


「ね、熱下げの薬草……」


 すぐに台所から薬草の一部を取って来て見せた。

 マフィアは、目の色を変える。


「何、これ……魔力が、かかっている……! 一体、誰が こんな事を……」


「そ、そんな……さっきはマザー、元気になったと思って……」


「後から効くように魔法が かけられていたのかも。とにかく……」


 突然立ち上がった。


「きっと、森の精霊の仕業だわ。私、ちょっと行って来る! ミキータ、マザーを床へ! それからカルー! 隣のミルダおじさんに頼んで、医者を連れてきて!」


「でもマフィアお姉ちゃん、お医者のお金は……っ!?」


「後で私が何とかするから! 早くっ!」

と促され、ミキータとカルーらしき少年は慌てて走り出す。


 マフィアは奥へ行くと、コートを羽織って とっとと駆け出した。


 私とセナは互いに顔を見合わせる。

 頷いてマフィアの後を追っていった。




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