第24話(救世主覚醒)・2
風の壁。
私を護るように。
高速で風が螺旋状に渦を巻き空へと駆け巡る。
触れると斬り刻まれてしまうような鋭さの刃で回り続けているのに。
私の心の中は何故だか温かだった。
不思議 現象だ……。
この『風の護りの壁』。
「熱っ……」
急に、右手の中指に はめ込んだ指輪が熱くなった。
「風……」
指輪が光を放ち始める。
そして その光は どんどんと膨らんでいった。
「天神……? 救世主……? 七神……風神……」
光が強く加速していくと、合わせて私の頭の中がスッキリとしてきて。
徐々に思い出してきた。
思い出してきた……。
私は……あの日 遺跡へ行って、異世界へワープした。
そこには とってもカッコいい男の人……そう、『彼』が居たのだ。
私に とっても優しくて、いつも『風』の力で護ってくれた彼……。
セナ。
「セナ!」
顔が思い出されてくる。
怒ったり沈んだり笑ったりする顔の表情。
どうして忘れてしまっていたの?
決して忘れてはいけないのに。
ごめんなさい……ごめんなさい、セナ。
私は うずくまった。
風のバリアーが静まるまで……私は泣いた。
「忘れるなんて ひどいよ……私。何でセナの事……」
小っちゃな子供みたいにグシュグシュと泣き崩れていた。
風が おさまって そんな私に歩み寄った2人。
アジャラとパパラ。
「どうやら思い出したようですね」
「良かったわー。こっちも焦ったでー」
と、2人は私に笑いかけた。
さっきと違って とても優しく見える。
そうか、この2人……天神様に言われて私を迎えに来ただけなんだ。
なのに私、ただ逃げてばっかりで。
話を聞こうと しなかった。
「……ごめんなさい。逃げたりして……」
私が立ち上がって涙を拭き、頭を下げると。
2人とも首を振った。
「ええねん。忘れとったんやし、しゃーない。それより……」
「日が出るまでに向こうの世界へ行かないと、向こうへ続く扉が閉まってしまいます」
そんな事を言った。
ああ それで無理矢理にでも私を連れて行こうとしたのか。
私は……。
……。
顔を上げる。
そして言った。
「わかったわ。でも……もう少し時間をくれる? あと できるか わかんないけど、頼みがあるんだ」
迷いなんて なかった。
家へ帰って、荷物を詰める。
着替え、食料、筆記用具とかの実用品、薬……。
などなど。
必要かと思うものは全部 詰め込んだ。
おかげでリュック、手提げのカバンは合わせて3つにも なってしまった。
リュックは背負い。
両手に2つのカバンを持つ。
どれも非常に大きく重い。
「なんの!」
気合いで立つ。
そして その格好のまま……。
自分の部屋から階段をゆっくりと下りて一階へ。
すると ちょうど、仕事の片付けを終えた兄とバッタリ廊下で出くわした。
もちろん、すごく驚く。
「何だ何だ!? その格好は……何処かに行くのか!?」
「……」
返答に詰まる。
でも頑張って本当の事を告げた。
「私、行かなきゃいけない所があるの。そして そこは……とても遠い所なの」
はあ!?
と兄は息を出した。
俯き加減な私の頭上から、さらに声は大きくなっていく。
「何言ってるんだ!?」
「ごめんなさい、お兄ちゃん」
さっぱり訳の わからない兄は自分の頭を掻きむしって。
あくまでも冷静に詰め寄った。
「落ち着け。とにかく……お前、何処行くつもりなんだ? 何をしに? 何の ために?」
「ココとは違う世界の人々を救うために、家を出るの。もう時間が ない……門が閉まってしまうの。急いで行かなくちゃ」
「頭が おかしいのか!? 勇気……」
とても悲しい顔をしたのが私の判断を鈍らせる。
でもギュッと身を固めて押しとどめた。
信じてもらえない事なんて、わかっていたもの最初から。
「そこを通して。私が行かなくちゃ……世界は護れない。時間が ないの」
しかし兄は激しく首を振った。
「バカな! 何言ってんだ……いいから明日、病院へ もう一度行こう。お前は どうかしてる。一ヶ月も何を……気が変になったんだろう。俺には さっぱりお前の言う事が わからない!」
厳しい顔をしている。
私の言う事が兄を苦しめている。
ダメね……やっぱり、わかってもらえない。
わかってもらおうとしても……諦めの方が勝つ。
兄から目を背けた。
「アジャラ、パパラ……お願い」
私は言った。
聞き届いた2つの影が、兄の背後に現れる。
アジャラとパパラだ。
「本当に いいのね?」
「君らは誰だ!?」
いきなり後ろに出現したもんだから。
兄は動揺を隠せずパニックになる。
私は頷いた。
兄が私を再び見た時。
アジャラの杖から出た煙が、兄を取り囲んでいった。
「うっ……」
苦しそうに胸と頭を押さえていたけれど、段々と……。
安らかな表情になって兄は……。
廊下にバタリと倒れ込んだ。
そして気持ちよさそうな顔で眠ってしまった。
「これで……救世主に関する記憶だけを消去しました。言われた通り、この世界の人達の記憶も……これで、この世界には あなたは存在しない事になる」
「ちゃんと思いつくものは全部 消してきたでえ。ぬかりはあらへん」
そう。
私は2人に頼んで。
私の存在に関わる全てのものを消してきてもらった。
そうする事で私が もうココへ戻りたいと思わないように。
決して、思わないように。
自分から帰る場所を失ったのだ。
「これで……いいの。さ、行きましょう。連れてって」
私は そばにあった兄の上着を手に取ると兄の上にそれを被せ……。
一歩を踏み出した。
港遺跡。
ココが全ての始まりの場所だった。
あの時と同じように。
七枚の鏡張りの部屋へ入った。
「それじゃ……行きましょう。好きな色の所を触れて下さい」
アジャラとパパラは、そう言うと。
サッサと鏡を通り抜けて お先に消えてしまった。
ポツンと。
鏡張りの部屋に一人取り残される。
「ふう……」
深呼吸一つ。
目の前に彩る七色の鏡。
好きな色の鏡を……かぁ。
(もう決まってる……)
そして そこに触れる。
ザッ……
……
前と違って、通り抜ける感触があった。
これは……風?
優しく、私を撫でるような神秘の風。
薄紫色の視界。
あの人と同じ、髪の色の薄紫色。
綺麗だ……確かに そう感じた。
(セナ……)
私は静かに歩き出した。
《第25話へ続く》
【あとがき(PC版より)】
アジャラとパパラのイメージ元は、パ○ィーだったそうだ。
○フィー……。若い子、知ってる……よ、ね……?
今はどうしているんだろうか。あの人は今。
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