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第23話(記憶の断片)・2


 こうして私は無事イジメから解放され。


 普通の学校生活を送れるようになった。


 まだ取材で追っかけてくる人の姿もチラホラだったけれど。


 次第に彼らは居なくなり、消えていった。


 ああ、私、幸せなんだなー……。


 そう思うように なっていた。

 すべてが、上手くいっているように感じられた。


 でも……。


「勇気。いつも その指輪はめてるね。何処で買ったの?」


「え……ええと」


 教室の中休みの時間で友達に ふいに聞かれて。

 返答に詰まってしまった。


「さあ……何処で買ったんだっけな……」


と、手を広げてみせ、右手の中指に はめられていた指輪を見た。


 キレイな、神秘の色。

 薄い紫のも見えるし、光の具合による。


「キレイよねー。ちょっと貸してもらって つけていい?」


 友達が言い出して私の その指輪に触ろうとした。


 しかし私は何故か その時カッと感情的に なって。

 友達の手を勢いよくバシリと振り払ってしまった!


「!」


 驚く友達。

 私も すぐにハッとなって我に返った。


「ご、ごごごゴメン! 痛かった!?」


 慌てて謝った。

 友達は少しホッとして微かに笑って「いいよ、いいよ」と言ってくれた。


「こっちこそゴメン。指輪、大事なもんなのね」


(え……?)


 そう言われて。


 私は改めて指輪を見ながら考えてしまった。


「大事なもの……?」


 頭に引っかかる。


 指輪が。

 ……どうして私、こんなものをはめているんだろうか。


 すべてが日常で。

 別に何も ないというのに。


 何も……私を困らせる事も ないはずなのに。


 コレだけじゃない。

 もっと他にも。

 アレ? と思うような事が度々起こった。


 お兄ちゃんのラーメンを食べながら。

「アレ? こんな味だっけ?」と一瞬 戸惑う事がある。


 お兄ちゃんのラーメンの味には すっかり慣れきっているはずなのに。

 何で そんな事を思うんだろうか?


 街を歩いていると商店がヒッソリと たち並ぶ中で。


 出先で飾られたショウケースの中の日本刀だのを見て。


 ……気分が悪くなる。


 課外授業中に行った山の森で。

 デジャビュとも言える感覚と懐かしさが あった。


 帰り道では。


 子供が人形を持って走り回っているのを見ると。

 自然に目が そこへ行ってしまう。


 子供が黒い服を着ているのも同じく。

 関心が何故か そっちに行ってしまうのだ。


 何かを思い出そうと するんだけれど……。


 よく、わからない。


 もっと よくわからない事は。


 ……風が吹く度に、胸を締めつけるような痛さが あるっていう事。


 私、ひょっとして病気なのかもしれないと思うようになってきた。


 今日も学校の渡り廊下を歩いている時。


 風がふいに流れ込んだ。


 勢い余って持っていたプリントを2・3枚 飛ばしてしまう。


 それを拾うために屈み込むと また その痛みが やってくる。


(何だろ……コレ)


 拾い終え、立ち上がって また歩き出す。


(私……何かを忘れている?)




 その勇気をジッと観察していた少女が2人居た。

 向かい側の校舎の屋上の手すりに座り、少し口元をニヤつかせながら。




 夜。


 店を閉めてしまっても。


 お兄ちゃんは まだ後片付けをしていた。


 私は お風呂から上がったばかりで、濡れた頭をタオルでゴシゴシと拭いていた。


 ……その時。


 電話が鳴った。


 ちょうど そばに居た私が電話に出る。


「はい。松波です」


『もしもし? 小谷ですけど……お兄さん、おられますでしょうか?』


 電話の相手はキレイな声の女の人だった。

 小谷なんて人、知らないけれど。


 だが私は声に聞き覚えがあった。


 そして、つい聞いてしまった。


「います……けど。あの、お兄ちゃんの……彼女さんですか?」


 後から考えたら、馬鹿な事を聞いたもんだと思う。

 きっと相手も そう思ったに違いない。


 だから、私が そう聞いた時に一瞬 黙ってしまったんだろうな。


 間は空いたけれど。

 少し経ってから返事をくれた。


『……そうよ。知っていたのね。そちらでバイトしている小谷です。変な言い方だけど……改めまして、よろしくね』


「あ……こちらこそ。妹の勇気です」


 緊張が走る。


 ああ、汗かいてきた。

 背中にも額にも受話器を握る手にも。


 また妙な間隔の間が空いたので、私は慌てて言いかけた。


「あ、あのっ。えと。お兄ちゃんに代わりますね!」


 用が あるのは私にでは ない。


 その事を思い出す事が出来て、声が ひっくり返りそうになった。

 だけれど。


『あ……ちょっと待ってくれる?』


「え?」


 呼び止められた受話器の向こうで、ガサガサと紙の擦れる音が した。


 そして紙の束をまさぐっているような気配と。


 何かを探しているのだろうか。


 やがて『あったあった』と声が返ってきた。


『あのね』


 小谷とかいう人の説明が始まる。


 私に合わせて わかりやすいように。

 ゆっくり落ち着いた声色で坦々と話し始めた。


 それは どうやら、学校の話。

 私の今後についての内容だった。


「学校……ですか? 港学園って……」


 名前くらいは聞いた事が ある所だ。

 今まで あまり興味は なかった。


『ええ。中等部と高等部が あって、寮があるの。市内だし、そんなに遠くは ないのだけど』


「……」


『どうかしら?』


 ……最初、何を言っているのかと思った。


 でも、段々と この人の魂胆が見えてきた。


 つまりは こういう事だろう。


 私に兄と別れて寮に入れ、と。


 そうしたら、この人は兄と一緒になって暮らせる。

 要するに私を追い出そうというわけだ。


(勝手な人……)


 悲しく思う。


「わかりました」


 わかってたまるもんですか。


「兄と相談してみますね」


 本当は そんな事したくない。


「それじゃどうも。さようなら」


 消えちゃえ。


 ガチャン。


 ……


 ……受話器を戻したまま、身は固まってしまった。


 髪の毛先から、ポタリポタリと しずくが落ちる。


 しばらく そうやって俯いていると。


 スッと そばに あって目に入ったスリッパの片方だけを手に取った。


 そして床に激しく叩きつける。



 バシッィィィ……!



 廊下中に響き渡った。

 静まる廊下……だけれど。


 私の心の中は穏やかでは なかった。


 まるで激しい波のようだ。


「何だ? 何の音だ? それと さっきの電話、誰から だったんだ?」


 店の方から 丈の長い のれんをくぐって、お兄ちゃんが やって来た。

 顔を見た途端、スッと波風は収まってくれた。


「ん、間違い電話ー。ねえ それよりさ。ちょっと散歩 行ってきていい?」


と言うが、兄は「もう遅いだろ、明日にしろ」と言って また店へ戻ってしまった。


「ちぇ……」


と頭を掻きながら。


 私は裏の勝手口から。

 気がつかれないようにコッソリと外へ出て行った。



 散歩……家の近くならいいよね。


 私は歩いた。


 とりあえず、あてもなく。

 気の向くままに。


 住宅が並ぶ道を抜け。

 遠くで犬に吠えられながらも道路に出て、歩道を歩く。


 はあ……気が滅入る。

 凹んでいる気分……さっきの電話のせいなんだけどさ。


 どうして人間って勝手なんだろ。


 あの お嬢だって、ちょっと自分が気に入らないからってだけで。

 私や新島さんを(おとしい)れて。


 まあ、誤解も解けて晴れて堂々と学校へ行けるんだけれどさ。


 結果 良ければ全て良しって?

 ……本当に そうかなぁ。


「あ……」


 サッと、夜空を横一直線、一つの星が流れて行った。

 流れ星……本当に一瞬の事だった。


「願い事……」


 私の願い……望みって何なんだろ?


“幸せになりたい”……かなぁ?


 うーん、単純かつ漠然ね。


 そうやって色々と考えているうちに、近所の公園へ来てしまった。


 もう遅い時間帯だ。

 もちろん こんな時間には誰も おらずで。


 ヒッソリと公園内の空気ごと静かに眠っているようだった。


 無意識にブランコに手を伸ばしてみる。

 そういえば公園に来るなんて自体が久しぶりだった。


 両親が亡くなって以来、来る事は ほとんど なくなった。

 行きたいと自分から思う事も少なくなった。


 いや、なくなった、というべきかも しれないな。


「ふふ……ひっさしぶランコ♪」


 ブランコに座る。


 誰も聞いては いない。

 読者以外は。


 キーコ……キーコ……。


 昔に よく聞いたブランコの鎖の、きしむ音。


 勢いよく こげば こぐほど風が気持ちよかった。


 風……。


 風、か……。


 肌で感じるたび、胸が苦しくなる。


 最初、気のせいだと思っていた。


 でも、日が経つにつれて それは違う事に気がついていった。


 私は何か……そう、 何 か を忘れているの。


 きっと それは重大な事……。


 一体、何だろう。

 うーん……。



 突然だった。



「どうやら全部、忘れてしまっているみたいね」



 ……!?


 空を見上げた。

 すると私の上に。


 空では なく黒い影が いつの間にか あった。


 滑り台の上に誰かが居る。


 私の上に……要するに、滑り台の上に居る何者かの影が月明かりのせいで細く長く伸び、私の頭上へと届いているのだ。


 さっきまでは なかった影が。


 しかも、人物は2人だ。


 月明かりの逆光で顔も姿も暗くハッキリと見えない、2人が。


 一体、こんな時間に誰?



「あ、あなた達は……」



 ブランコを止めて、私は立ち上がる。


 びっくりした顔で、この異様な状況の中に居た。




《第24話へ続く》





【あとがき(PC版より)】

 勇気の兄の名前は考えていない。どうしようか。“勇”が付くのは間違いないんだけれど。意表を突いた名前の方がいいだろうか。そもそも、地球人だろうかゴンザレスだろうか。“勇”は何処行った。


 ご感想やご意見など いつでも お待ちしています。


※本作はブログでも一部だけですが公開しております(挿絵入り)。パソコンじゃないと読みにくいかもしれませんが、よければそちらもチラリと……。

 http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-70.html

 そして出来ましたらパソコンの方は以下のランキング「投票」をポチッとして頂けると大変嬉しいです。


 ありがとうございました。

 勇気がグレませんように。



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