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第21話(精神不安定)・3


 かつて神の居た神殿……今は廃墟と化し、もの寂しい。


「そういえば摩利支天の塔も、こんな感じだったな……」


 様相は似ていた。建物の一部分が崩れたガレキの山。


 白い壁、柱と、床は大理石で できていそうだった。


 誰も居ない、もの寂しさが空間を作っているかのようで。


 生物の存在すら感じない一つの世界がココに でき上がっている。


 私が一歩足を踏み入れると、沈黙の空気が私を出迎えている。


(セナと2人で塔に踏み込んだっけな……蛍は敵で……でも、そこで仲間になったんだよね)


 つい最近の事なのに もうずっと前の事のように感じた。


「何だろな……コレ」


 呟きの音は大きく響く。

 自分の胸元を、服と一緒に掴んで俯いた。


 私の胸を締めつけるもの……コレって何なのだろうか。

 切なくて、悲しくて……息苦しい。


「オババさんも変な事を言っていたし……私も何か変。……ったくもー」


と、勇み足でブンブン腕を振り上げていたわけだけれど。


 急にハタと歩みを止めた。


「まさか魔物が出るんじゃ」……


 自分で言って、背筋が凍る。


 思い出されるは摩利支天の塔のゾンビ達だった。


 ……ゾンビ!


「ひいいいっ」


 私は声を上げて肩がすくむ。手に汗がベットリだ。


 まさか……。

 オババさんが言ってた「見つける事も できない」って。

 そういう意味だったり?


 すっごい凶悪最強な魔物が居たり……し、て?


「嘘うそ! 嘘ったら嘘よ! ねえ!?」


と、誰に向かって言っているのか……後で自分にツッコんでいた。


 しかし考えられない可能性じゃない。

 ……非常〜に、まずいんでは。


「だ、だめ。早く“聖なる架け橋(セイント・ブリッジ)”を見つけるのよ! だだ大丈夫! 私にはコレが……」


と、右手に はめられた指輪を見た。


 はあ……と、ため息は指輪に当たる。


 そして小さな安心感で私は包まれた。


 また、指輪の存在に お世話に なってしまったな。


(私……本当は帰りたくない……の、か、な?)


 よく わからない。


 私は引き続き神殿内を歩き進めてみる。


 上から見ると。


 丸い回廊が中心を取り囲んでいるような建物の造りで。


 でも壁や柱なんかは何処も かしこも剥げ、崩れ、かなり傷んでいる。


 大きな亀裂を含んでいる所も。

 いつ崩れても おかしくは ない。


 幸いな事は。


 危惧していたような魔物の姿は ない事だ。


 油断は できないけれどね。


「奥に あるのかなぁ」


 私は“聖なる架け橋(セイント・ブリッジ)”を探し続けた。


 しかし見つからない。


 思い切り『橋』を想像していたんだけれど。


『橋』だろうが『箸』だろうがユキオだろうが見当たらない。


 それらしき気配も何も なかった。

 ただ静寂なガレキの佇まいが あるのみで。


 やがて私は、そのガレキの石の上に腰を下ろして休んだ。


「ふう」


 ため息ばかりだ。


「疲れる事ばっかし。やんなっちゃうなあ……もう」


 でも元の世界に帰ったら、こんな風に疲れる事も なくなる。


 あったかいお湯にでも()かって後はグッスリふかふかベッドで眠るだけ。


 朝起きたら、見慣れた天井。

 着慣れた制服。

 お兄ちゃんの顔。

 できたてラーメン……。


 ぐう……。


 ありゃ。


 ラーメン、って思ったら お腹が鳴った。


 さっきオババさんの所で ごちそうに なったのに。


 まあ、想像するに妖しげな食卓だったけれど。

 本当に美味しかった。


 マフィアの料理も美味しかったなあ。

 中華料理と あんまり変わりなくて。


 ラーメンの味もピカイチだった。


 いつも お兄ちゃんの味で慣らされている私としては、見方は厳しいけれど。


 評価は高い。

 行列が あったら私も並ぶだろうな。


 お兄ちゃんと並んで、一緒にマフィアが働いてくれたらって思う。


 マフィアは優しい(たまにキツイけど)。


 孤児の子供達の面倒をよく看ていた。


 私の家で本当に働いてくれたら、きっと上手く やっていけると思うよ。


 面倒見が いいのはカイトもだ。

 妹思いのカイト。


 ちょっと変な人だけれど。


 人形作りにかける情熱には びっくりよね。


 そうそ、ちょこっとメノウちゃんに聞いたけれど。


 メノウちゃんとカイトが2人でキャンプに行った時。


 カイトは自分の背中が燃えている事に気がつかずに人形作りに没頭し過ぎてたんだって。


 ほんとーに、変な人!

 メノウちゃんも大変だ(火を消したのはメノウちゃんらしいよ)。


 大変と言えば、紫も大変だ。


 わがままな蛍ちゃんに ずっと付きっぱなしで。


 本人、何考えてるのかが わからないけれど。


 何考えているのかが わからない……レイやハルカさんも そうよ。


 いくら復讐のためだからって、関係の ない人達まで巻き込んで。


 ……私やセナが どれだけ辛い思いをした事か!


「あ……」


 つい声を漏らしてしまった後、ドキリと胸が鳴った。


 セナ……。


 ……とってもキレイで女の人みたいで、そう言うと怒るんだけれど。


 とっても強くて、とっても優しくて。


 私の そばにいつも居てくれた。

 時々、バカやっていたけれど……。


 あんな人、見た事ない。

 一緒に居て あんなに安心できる人って居ない。


 今、元気で いるだろうか。


 きっと怒っているだろうなあ。

 勝手に私、出て行っちゃったから。


 そう言えば私が この世界に来た時に初めて会ったんだっけ。


 初対面からセナは私に とびきり優しかった。


 私の話す信じられない話も すぐに信じてくれた。


 襲いかかる魔物から、いつも助けてくれた。


 勝てそうにない紫とかが相手でも、立ち向かって行った。


 私が さらわれた時も。

 マフィアと一緒に心配して すぐに助け出してくれていた……。


 強くて、カッコよくて、いつでも私のヒーローだった。


 だった……今は もう、過去の事。


 もう会えない。

 二度と会えない。


「そんなの……」


 思った途端、言葉が出た。


「いやだ……」


 視界が歪む。

 たまらなく胸が苦しくなる。


 私は おかしな事を言っているのだろうか。


 無理な事を言っているのだろうか……?


 究極の わがままなのかもしれない。


 元の世界に帰りたい。

 でもセナとは離れたくないなんて。


(私……)


 気が ついた。


(まだ、迷っているんだ。帰るかどうかを。オババさんは それを見抜いたのよ……だから、だから私には橋は見つけられないって……)


「セナに会いたい……」


 それが素直な……。


 私の本音だった。


 その時。


 ジリリリリリ!


「!?」


 凄まじい音が何処か近くで鳴り響く。


「え!? コレ!?」


 そう、その けたたましい音の正体は。


 ポケットに入れておいた、船で会った不思議少年に もらった鈴。


 よく中を覗き込んでも、スイッチなんて何処にも ない。


 勝手に鳴っているんだ。


 どういう構造なんだろう。


 慌てふためいてオロオロしていると。



「 勇 気 …… ? 」



 背後から声がした。

 振り返ると、そこには。


「セナ……?」



 ……こっちも驚かずには いられなかった。



《第22話へ続く》





【あとがき(PC版より)】

 主人公の元気が無いと作者の元気も無いですね(シュン……)。次話でテンションは上がるかも(サテ?)。

 ご感想など評価なしでもアリでもお待ちしています。お気軽にどうぞです。

※本作はブログでも一部だけですが公開しております(挿絵入り)。パソコンじゃないと読みにくいかもしれませんが、よければそちらもチラリと……。

 http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-63.html

 そして出来ましたらパソコンの方は以下のランキング「投票」をポチッとして頂けると大変感激です。


 ありがとうございました。



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