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第21話(精神不安定)・2


「さってと……」


 私は歩き出した。


 砂浜を歩いて しばらく経つと。

 人がチラホラと見え始めてくる。


 忙しく海仕事をする人、走り回っている子供の姿。

 休憩している おじさん……色んな人が見え始めた。


 うわー……見た目、私の居た世界の人と変わらない。


 島での生活って こんなんなんだろうなあ。


 少し冷たい潮風や、けたたましく鳴く海鳥。


 何て のどか。

 気持ちが いいんだろう。


「っと……こんな事してる場合じゃなかったわ」


 もっと辺りを観察したい所だったけれど、そんなに時間も ない。


 これから私が どうなるかも わかんないし。


 宿とか、食べ物とか。

 帰る方法だって まだ わかって ないんだから。


 キョロキョロと高台の方まで周囲に目を配り、さてどうしようかと考えを張り巡らせていると。


 高台の奥まった付近にある、頭だけしかココからでは見えない白い建物が目に入った。


 古ぼけている感じが、ココからでも感じられる。


 私は すぐ、そちらに向かって歩き出した。


 何でか自分でも わからないけれど。


 ……神秘的な雰囲気に魅かれて、といったらいいかも しれないな。


 ただ私が そうやって歩いて行くと。


 後ろから年のいった おばあさんの声で叫ばれた。


「あすこは立ち入り禁止だ! 近寄っちゃなんね」


 びっくりして振り返った私は、すぐに聞いた。


「アレ、何ですか?」


 声をかけたのは。

 海女さんの格好をしたおばあさんだった。


「おめさ、ヨソ者だんな? よくこんなトコ来ただけんど、すぐ出て行けえ。この島の(モン)は、ヨソ者さ嫌う」


 そんな事を言って私を睨んだ。


 一瞬、慣れない なまり言葉にも たじろいだけれど。


 私は頑張って負けずに聞き直す。


「…………ココの島について詳しい人知りませんか? 昔の事とか……」


 おばあさんは(いぶか)しい目で私を一睨みした後。


 私が行こうとしていたのとは違う所の方向を指さして言った。


「んだら、オババ様に聞いたらええ。オババ様なら何でも知ってなさる」


 言って捨てると、プイと立ち行ってしまった。



「あたしがオババだよ。もう今年で125歳になるねえ。早いもんだよ」


 暖かそうな毛皮の服と、真っ赤で派手なスカーフ。


 腰を曲げて歩く姿が頼りないけれど……まあ、125歳だっていうし、当たり前かあ。


「で、何の用だい?」


 私が あんまりジロジロと見ているものだから。


 オババさんは ちょっと機嫌を悪くしたようだ。


 慌てて私は謝る。


「あ……すみません。何かココに来て……何ていうかこう、新鮮な感じがして気持ちよくて……ああ何言ってんだろ、私」


と、頭を自分でグシャグシャと掻きむしった。


 私は海女の おばあさんが教えてくれた、オババさんの家を訪ねた。


 いきなりの訪問だったはずなのに。


 オババさんは何処か落ち着いていて私をスンナリと出迎えてくれた。


 私は、木造りのテーブルとイスのある明るい部屋に通され、腰を落ちつける。


 窓からはポカポカと太陽が見えて陽気さを演出していた。


 出された紅茶(たぶん)を、私は美味しそうに飲んでいた。


「なんだい。緊張しているのかえ? ホホホ……救世主らしくない娘だこと」


「!」


 ブハッと、少し飲みかけていた紅茶を吹き出しそうになる。


 私が……バレバレ!?


「私の事、ご存知だったんですか?」


「ホホホ」


 上品そうに私に笑いかける オババさん。


「その格好……そんな変わった服を着て。少女で。この島へ来て、私を訪ねて来る……」


 ギョロッと、眼球の飛び出しそうな目で私を面白そうに見た。


「元の世界へ帰りたいんだろう? 娘」


 まるで何もかも お見通しみたいだ。

 何だか怖いっ、怖っ。


「あたしの前の代の魔女……その前の魔女……彼女らは、色んな書物を書き残してくれたもんでね。もちろん全部 読んだ。彼女らは語っていた……この島の“聖なる架け橋(セイント・ブリッジ)”を頼ってくる少女が現れると。決まって彼女らは重い使命を背負った……“救世主”で あると。まさか本当にその通りに なるとはね。しかし早いこと……青龍が復活すると噂は あったが、そんなはずが ないと思っていた。あと500年は先の事だと思っていたのにねえ」


 一気に話し終えたオババさんは手元の紅茶を飲んだ。


 そして飲んだ後、フー……と、窓の外の景色を眺めた。


 そうと わかれば話は早い。


 私は そんな風に思い、気兼ねする事なく気持ちを素直に ぶつけた。


「青龍復活の理由は……いいんです、今は。私は、元の世界へ帰りたい。さっき言った“聖なる架け橋(セイント・ブリッジ)”……ってやつ。それが どんなのなのか知らないけど。とにかく、それで帰れるんですよね? 元の世界に」


 私の顔も声の調子も固かった。


 失礼だったかもしれない。

 でも気は楽だった。


 オババさんは黙ってずっと窓の外を見ている。


「お願いします。教えて下さい。私、元の世界へ帰りたいんです。完全に使命から逃げ出そうとしているけれど……それでも いい。私はココに、居たくないんです」


 言ってしまった後。

 胸が苦しくなってしまった。


 まさか私……嘘を言っている?


 いや、そんなはずは ないわよね。


 これが私の本心なんだから。


「……まあよい。教えてやろう」


 パッと、私は明るい顔をしてオババさんを見た。


 オババさんは今まで座っていたイスから立ち上がり、窓の外を指さした。


「あそこじゃ。あの、奥の白い建物。由緒正しき神殿だった(・・・)所だ」


 そこは……私が最初に行こうと気になっていた場所だった。


 頭だけしか見えなかった、海に面して高台に なった所の もっと奥の奥の所。


 白い建物。


 あそこ、神殿だったんだ。


 神秘的だと感じたのも頷ける。


「その昔、神が住んでいたという言い伝えがある。一般民は立ち入り禁止になっているから、コッソリ夜にでも行くがいい」


 神が住んでいた?


 ……天神の事だろうか。

 だとしたら天神は この世界の何処かへ移動したという事になる。


 何故か? ……


 きっと この島に冒険者とかが昔、出入りするようになったからかな。


 そういえば前、(ひたき)が言っていた。


 レイが天神に仕えていた所。


 ……人間が普通に行ける所じゃなかったって。


 その時すでにココを捨てて、そこへ移動したってわけね。


聖なる架け橋(セイント・ブリッジ)”かぁ……。


 またそんな珍妙なものを。


 私は先が見えたからか少しづつ元気が出てきていた。


「よしっ!」


 両の手を握り締める。


「ありがとうございます! さっそく今夜に行ってみます。お世話に なりました!」


 勢い余って立ち上がった私は、お辞儀を。


 するとヒジをついていて無表情なオババさんは変な事を言う。

 ……言った。


「そんな心構えでは“聖なる架け橋(セイント・ブリッジ)”なんぞ、見つける事も できんわ。まあ、じっくり考える事じゃな。それまで この家に居てもよいぞ。あたしは もう寝る……勝手にせい」


 そうして、本当にサッサと奥の部屋に引っ込んでしまった。


 後に残された私は、妙にその言葉に引っかかってしまう。


(じっくり……何を考えるの?)


 わからなかった。



 テーブルでウトウトと居眠りしていると。

 あっという間に夜になってしまった。


「じゃ……お世話になりました!」


と、私がニコニコと。


 手を挙げて笑っていると、


「あたしゃ何もお世話しとらん」


 言い返されてしまった。


 うう、冷たい。


 私はオババさんと別れ、夜道を歩いて行った。


 辺りでは虫の音や、遠くの空では微かに鳥の声が聞こえた。


 立ち入り禁止と聞いてコソコソ気味に。

 見える白い建物をめざし。


 そこまで繋がっていると思われる長そうで緩やかな傾斜の坂を上り始めた。


 しかし長そうな坂だなー……。


 傾斜 何度くらいなんだろう。


 どうでもいい事を考えながら、懸命に ひたすら歩いた。


「なんの、根性!」


 時々、意味不明でも言葉を叫んだり。


 そうでもしないと、疲れてしまうんじゃないかと思って。


 夜だしね、今。


「ふいぃー……」


 てっぺんに着く頃には、足がヘトヘトになっていた。


 しばらく黙って うずくまり、ガクガクする足を押さえた。


 ゼーゼーと息を整え、後ろを見ると坂の下が見渡せて。


 村の家明かりがポツポツと蛍が飛んでいるかのようでキレイだった。


 ふう、と息をつき薄っすら かいた汗を手で拭うと。


「んしょっと!」


 と立ち上がる。


 再び前方を見ると。



 古い白い建物は もうすぐ そこに現れていた。




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