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第21話(精神不安定)・1


※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。

 同意した上で お読みください。


※じっくり小説らしく味わいたいパソコン派な方はコチラ↓

http://ncode.syosetu.com/n9922c/21.html

(『七神創話』第21話 PC版へ)




 昔々、ある所に。


 マイ大陸の やや北北東には。

 リカイ海が広がっているのだが。


 そこの海には魔の三角地帯(トライアングル)と呼ばれるものが あるらしい。


 だから その海はリカイ海とかではなく。

 悪魔の海……“魔窟の海”と言われ、恐れられている。


 過去、何隻もの船や飛行艇が そこへ知らずに入り込み。

 行方不明に なったか しれない。


「へえ〜。怖い所ですね」


「まあな。しかし今となっちゃ、昔の話じゃ」


「というと?」


「昔、勇敢な冒険者がな。そこを探索したんじゃよ。すると どうじゃ。悪魔の海に、島が一つ あったというじゃないか」


「それがラグダッド……バサラ村が ある島なんですね!」


 私は興奮して。

 目の前に居る白いヒゲを長々と垂れ生やした おじいさんの方へ身を乗り出す。


 ココは まだ船の中で、目的地には着いていない。


 船室で一緒になった おじいさんと、仲良く。

 こうやって おしゃべりをしているんだ。


 さっきまで落ち込んでいて部屋の隅っこでヒザを抱えていたんだけれど。


 ……私の具合を心配して、声をかけてくれた。


「そういう事じゃな。しかし、皮肉な事に」


「え?」


「平穏だったらしいバサラ村を観光客やら冒険者やらが聞きつけて集まって見に来よった」


 おじいさんは、白いヒゲをいじる。


「そうですよね……珍しいもの」


 私はウンウン、と頷いてみせる。


「そこでだ。バサラ村のオババとやらが、“光の護円陣”というものを作った。おかげで島へと近づく大船は、めっきり少なくなってしまったそうじゃよ」


 船よけの光の護円陣って事かな?

 少なく、って事は行けないわけでは ないみたいよね。


 ……それを作ったバサラ村のオババさん。

 きっと、すごい魔力を持っているに違いない。


 そして その人こそ、カギを握っているんだわ。


 私が元の世界に帰るその方法の。


 夢の中の『私』は言った。


『バサラ村の魔女が知っている。そこへ行けば わかる』


 と……。


 半信半疑では あるけれど。

 とにかく行ってみるつもりだった。


 でもたぶん……。


 私は ただ、セナ達の所には もう……。


 居たくなかっただけなのかもしれない。


 逃げたかった。

 それだけ。


 それだけ……。


「元々、バサラ村には昔からずっと魔力が かかっておったのじゃよ。だから事故が起きたりした。しかしかけた魔女が死に、次代の魔女……それが今のオババじゃな。の、頃には。魔力はだいぶ時間を経て弱まっていた。その隙に冒険者に見つかってしまったという運びじゃな」


「どうして隠すのかしら……その村」


 私は腕を組んで考え込む。


「うーむ。それが よく わからんがな。きっと何か秘密が あるんじゃろうて」


「そうかあ……」


 秘密。


 何てワクワクする響きだろうか。


 普通は聞いたらそうかもしれないけれど。

 ……今の私にはちょっとノリが悪い。


「とっても参考になりました。ありがとう、おじいさん」


 私はペコリとお辞儀する。


 すると おじいさんはニコニコと。


 手を振りながら笑ってくれた。


「はっはっは。なあに。それより、本当に行くのかの? ワシも噂を聞いただけで今は村や海が安全か どうかは わからぬ。そんな危険かもしれぬ所へわざわざ娘っ子さんが一人で……」


「大丈夫だと……思い、ます……」


「心配じゃのう」


「……」


 私は胸を張ってみる。


「大丈夫です! エヘン」


 鼻息荒く。

 それを見て おじいさんが笑ってくれたのが ありがたかった。


 本調子じゃない。

 今の私は。


 こりゃだいぶヘコたれてるなあと時々ため息をつく。

 おじいさんと別れた後。

 通路を歩きながら私は ため息をまた一つ。

 はぁ。


「後で、船長さん達に お礼言わなくちゃね。バサラ村まで遠回りしてくれたんだし」


 そう。


 この船は本当はコンサイド大陸・トルベイ港へスンナリ行くはずだった。


 だけど私の必死の『お願いコール』で。


 苦笑いだったけれど船長さんは行くついでだし、まぁ、という事で。


 遠回りになるバサラ村まで寄り道してくれる事に なったのだった。


 ヤッタ、船長さんナイス恰幅。


 私は大喜びで手を叩いたんだった。

 パチパチパチ。


「本当に行きだけでいいのか? 帰りは どうするんだ? そこに船があるという保障は ないぞ?」


と、船長さんとの話の後すぐに心配そうに船員の一人が聞いてきてくれたけれど。


「いいんです、たぶん……もう」


と、私は表情のない顔のまま下を見つつ目を伏せるだけだった。


「俺は知らねえからな。どうなっても」


 そう言い捨ておいて去って行く。

 残された私は呟く。


「帰らないかもしれない……から」


 私の呟きは、誰も聞いてはいないけれど。



 私は帰る。

 自分の居た世界に。


 それが普通でしょ?



「お姉ちゃん。すごく悲しそうな顔しているね」


 そう声がして振り向く。

 今から船長さんの所へ行って もう一度お礼を言ってこようと通路を歩いていた時に。


 声をかけたのは私の目線よりも下方だった。

 なので、見下ろす。


 小さな少年。

 オーバーオールを着て髪がクルンと。

 巻き毛の明るそうな男の子だった。


 深くキャップを被っていて。

 でも奥から覗き見えるクリクリした目がとても可愛い。


「コレあげる」


「えっ……?」


 少年に言われ片手グーを突き出された私は。

 つい手を出してソレを受け取ってしまう。


 ソレは、鈴。

 ベルだった。


 手の平の上にチョコンと のっている。


 そしてチリンチリンと音が、触ると鳴る。


 コレは? と私が目で聞くと。

 少年はニッコリ笑って後ろに数歩下がった。


「僕、ベル売りなの。それはサービス。きっと何かの役に立つよ」


「は、はあ。ありがとう」


「いいって事さー。へへっ」


 軽快にクルッと回るようにして、走り去っていった。


 去り行く少年と手の平に のせられたベルとを交互に見ながら。


 私の中に何か温かいものが。


 とっても久しぶりに吹いたような気がした。


 不思議少年よ……ありがとう。



 かくして私は ついに。


 ラグダッドと呼ばれる地域――魔の三角地帯――にある、“バサラ村”に降り立った。


 とは言っても。


 こんな大きな船が直接行ったわけでは なく。


 おじいさんが教えてくれた通り島周辺を包み込む……“光の護円陣”とやらがあるために。


 ある程度は島に近寄ってから私は小船で村へと向かった。


 小船は親切にも船長さんが貸してくれて。

 船員の一人が私をのせて漕いで行ってくれた。


 そんな経路を辿り。

 私をのせた小船は難なく岸に着く。


 危険だというニオイをさせていた割には簡単に着いたので。

 拍子抜けした思いだった。


「ふう……」


 私が船から降りると、船員が声をかける。

 まだ若いが私より年は ずっと上だ。


「何か顔色 悪くねえか。見てる こっちがハラハラしそうだぜ」


 よく考えたら私は病み上がりだった。


 熱が下がって すぐこっちへ向かって動いていたんだもの。


 船に乗り込んで掃除などの雑用を任された時からずっと。


 私はあまり休んでいなかった。


 心配ご無用。


 私は少し微笑んで「大丈夫です」と言い張った。


 本当は頭の中に何かが巣を作っているみたいに。

 モヤモヤしていたりするのだけれどもね。


「そうかよ……ま、無茶すんなよな。言ったって聞きゃしねえガンコめ」


 あ〜あ、とでも言いたげに肩を動かした。


「じゃ、行くけど」


 船員は私の目を真剣に見る。


「本当に、帰りは いいんだな?」


 真に迫って聞いたもので私の中に緊張が走ったけれど。


「船長に言って、用が済むまで待っていて やってもいいんだぜ。帰りの船がココにあるとは限らない。どんな村かは俺も知らないが……ちきしょう、やっぱり俺も行こうか」


 なんと少し目を潤ませているその船員。

 何で……。


「ありがとう」


 私は苦笑いするしかない。

 いい人だなあ、もー。


「いいですって。本当に。船長さん達にも言っておいて下さい。こんな私のために色々とありがとうございましたって。あなたも……ありがとう」


 私が そう言った途端。


「ちきしょー! 俺は どうなっても知らないぞおおおお!」


 ……。


 叫びながら小船で、船員は去って行った。


 だいぶ岸から遠ざかっても。


「達者でなあああー!」と、私に向かって叫んでいた。


 本当に いい人だ。

 こんな私なんかのために。




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