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第2話(救世主、降臨)・2


 家を寝巻き姿のまま飛び出して、遺跡へ着いて、変な鏡の部屋を通り抜けて こっちの世界へ来ちゃった事。


 この事を できるだけ詳しく、真剣に話した。

 彼は黙って、最後まで私の話を聞いていた。

 そして話し終えた後、ちょっと考えた風に口を開いた。


「そんな事が、現実にあるんだな……」


「信じてくれるの!?」


「え……あ、ああ。光の中から現れたし。しかも あんな格好で。この世界の事、何も知らねえみたいだし。信じるだろ、これ」


 セナは頭をかく。


「ありがとう! 私……信じてくれなかったら、どうしようかと思っちゃった!」


 胸を撫で下ろす。

 その顔を見て、セナは何かピンと来たようだ。


「そうか……お前、『救世主(メシア)』だろ!?」


「は……?」


 セナが変な事を言い出したので、私は目が点になった。


「なによぉ。普通の女の子よ! まだ13歳なんだから! しかも家はラーメン屋! 『めしや』なんかじゃないわよ!」


「違う違う。『めしや』じゃなくて『救世主(メシア)』! ……そうか……何か この条件、どこかで聞いた事があると思った」


 ブツブツと一人言を言い始める。


「何の事? それ……」


「この世界の伝説だよ。えっと確か『この世に四神獣 蘇るとき 千年に一度 救世主ここに来たれリ』って冒頭から始まる、確か……あの書は、そう。“七神創話伝”っていったっけ。うん。そうだ」


と、一人で納得しちゃっている。

 私は ついていけない。


「とにかく、こっちの世界にある神話の話に、状況がソックリなんだよ。話には、続きが あって、確か……んと、よく覚えてないけど。その救世主って奴は、ある時 突然 光の中から現れて、この世界の あちこちに存在する七人の精霊使いを集めて復活した……朱雀、白虎、玄武、青龍の いずれかを封印したって話だ」


「その封印する救世主ってのが、私だとでも?」


 自分を指さす。

 んな あほなぁ、という顔をした。


「だって私。普通の中学生なんだよ? そんな事、できる力なんて持ってないもん」


「でも、光の中から現れたじゃないか。世界の次元の壁を超えてさ」


 セナは じっと こちらを見た。

 私は ますます自信を失くす。


「とにかく……勇気が それかは置いといて。帰りたいんだろ、元の世界にさ」


 帰る?

 あの世界へ……?

 私の居場所なんてもう無いのに。

 学校では汚名を着せられ、家では お兄ちゃんに会わせる顔が無し。


 中学生という半端な私には、家と学校しか居場所は無かった。

 趣味とか特技なんて特に無いし。


 私は ただの生きがいの無い一般中学生。


 ……それを思ったら、悲しくなってきた。

 雨の中で走った時の心の痛みが、今にも復活しそう。


 私、一人なんだ。


「……もういいよ。もう寝よう。俺が火の番してるからさ。ゆっくり休め。明日は早起きして この森出るぞ」


 セナが そう言い出した。


 この人、本当に いい人だ。

 きっと私の顔が曇ったのを見て、察してくれたのだろう。


 私が嬉しかったのは、私の顔が曇った理由を聞かなかった事。

 きっと、わざと聞かなかったんだ。


 ……いや、ただ単に、関わりたくないからなのかも。


 ううん、きっと正解は前者だよ。

 彼、すっごく根は優しいんだ。

 だって今までの行動から見ても、そうとしか考えられない。


 という事を考えて、私は言葉に甘えて先に横に なった。


「ありがとう。じゃ、おやすみ」


「ああ。おやすみ」


 1・2・3……グウと私は深い眠りに ついた。




 夢うつつ、私は目を覚ました。


 というか、起こされた。

 どこかで子供の泣き声がしたからだ。


 私は起きて、立ち上がった。

 そして耳を澄ます。

 横で寝ているセナの寝息と、木が風に さらされている音と。

 そしてシクシクという子供の声だ。


 その声の方へ行ってみる。

 セナは火の番をしていて私より遅くに寝たはずだ。

 疲れているかもしれない。

 起こさない事にした。


 行ってみると。


 奥の方で子供が一人、うずくまって泣いていた。

 まだ7・8歳位の少女。

 髪を横2つに束ねている。

 近づくと、顔を上げて こちらを見た。


「どうしたの。何でこんな所に?」


 聞くと、私に しがみついた。そして、


「マザーの熱……下げる薬草が尽きてしまったの。もう夜遅くで薬屋さんは開いてないし。仕方がないから森に薬草を採りに来て、そのまま道が……」


 マザーって、ママの事かな?

 私は、その子を抱きしめて頭をポンポンと叩いた。


「大丈夫。お姉ちゃんと、もう一人お兄ちゃんが居るから。一緒に森を出よう。薬草は、見つかったの?」


 すると、少女の手に固く握られた一本の草を見せられた。


「これを すり潰して飲むの。本当はね、お医者の お薬の方がよく効くんだけど。でも、ウチ、そんな お金無いし。第一、お医者の所へは ここから何キロも離れているから」


 お医者さんが近くに無いと不便だろうな……。

 そんな事を考えながら。

 私は その少女を連れて、セナの所へ戻ろうとした。


 すると。


 一匹の虎が、こちらを見ていた。

 一体、いつの間に近づかれていたのか!


「キライオンだよ! お姉ちゃん!」


「キライオン!?」


「気配を殺して忍び寄って、肉を食べちゃうの!!」


 に、に、にくっ!?

 肉食っ!?

 いや、言われずとも たぶんそーだろーと思ったけど!


 やばい……私たち、食べられるっ!?


(ど、ど、どうしよう……セナがいるのは あの虎の向こう側。でも反対側の こっちへ逃げたら、完璧に森に迷ってしまう可能性大!?)


 森に迷って餓死するか、こいつに食べられて死ぬか。


 しかし、そんな事を考えている間に、足は すくんでしまっている。

 もはや絶望的かっ!? と ぎゅっと目をつぶった。


「セ、セナぁっ! お兄ちゃん……!」


 少女を固く抱きしめて祈った。

 キライオンが、こちらに飛びかかろうとした時。


「“疾風(はやて)”!」


という声のもと、強風が竜巻のように螺旋(らせん)状になり、キライオンを包み込んだ。


 その風は強靭の刃にでも化したように、キライオンの体を鋭く切り刻む。


「ギャウ!!」

と、キライオンの呻きが聞こえた時。


 その体は何ヶ所にも切り刻まれ、内臓やらも飛び出した。

 そして辺りの木が、血に染まった。


 最後に、キライオンの首が なんと降ってきた!


「……!」


 声が無い。

 あまりの恐怖に、失われてしまったようだ。


 その後、キライオンを そんな風に切り刻んだ男、セナが駆け寄った。


「大丈夫そうだな。ああ びっくりした。気がついたら 居ねえし。すぐ見つかって良かっ……ん? その子は?」


 平気な顔で少女の顔を見下ろした。

 が、少女は すでに気を失っていたようだった。


「ちょ、ちょっと! 大丈夫!?」


 体を揺らすと、パチッと目を開けた その子。

 そしてセナを見た途端、私に抱きついた。


「怖かったよぉぉ!」


 私に すがりついて わんわん泣いた。

 するとつい私も もらい泣きして、わんわん泣き出してしまった。


「私も怖かったぁ〜!」

と、まるで子供のように(だから、子供なんだって!)泣きじゃくった。


 2人で そんな風に泣くもんだから、セナは うんざりした表情で呟いた。


「何か、俺が泣かしてるみてーじゃねえか!」


 朝日が、見え隠れしていた。




 一方……その頃。

 ある闇の部屋に。

 ある男が一人、何かを一心に見つめていた。


 その何かとは青白い光に包まれた、水槽の中の一本の刀。


 水槽は大型の機械の上に備えつけられていて、何十本もの赤や白や青のパイプやコードが取り付けられていた。


 刀が水中で、つながれていたコードに何十本も絡まれて。

 何百個もの水泡が発生していた。


 ブクブクと……まるで、刀を再生しているかのように。


 刀は約一メートル程で、スラリとした曲線美。

 柄は白い封印の布で巻かれていて、どこか威厳さを感じさせる。


 一体この刀は何なのか。


 この威厳と神秘に満ちた刀を一心に見つめる、一人の男が居た。


 ただ突っ立って、刀を見守るように。

 刀に魅入られるかのように。

 フッと、笑みを こぼした。


 邪悪な歓びを。


「もう少しだ……」


 刀を見つめる邪悪な者は、そう言って今もなお刀から目を離さない。

 刀に魅入られている。邪悪に満ちた部屋。


 誰も、この空間に立ち入る事は できない。




《第3話へ続く》






【あとがき(PC版より)】

 セナの腕輪ですが、着ける箇所は適当です(ははは!)。

 気分によっちゃあ3つだったり、4つだったり……日替わり〜〜。

 ええ、そんなもんです。そんな感じです。

 でも いつも同じ服……?


※ブログでも少し公開しております(挿絵入り)。

 パソコンじゃないと読みにくいかもしれませんが、

 よければこちらも……。

 http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-31.html

 お手数ですが、コピペして お進み下さい。

※パソコンの方、よろしければ以下の「投票」をポチッとお願いします。


 ありがとうございました。



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