第20話(白い月の夜)・2
夜も更けて。
私は目をやっと覚ます。
ムクリとベッドで上半身を起こして。
腕を上げてみて思い切り伸びをしてみた。
周囲には誰も……誰も居なかった。
ちょっと内心ホッとする。
「皆、何処 行っちゃったんだろ?」
と言った後で すぐ「あ……そっか」と全てを思い出した。
そうだった。
皆、街の救助活動と修復作業に行っているんだわ。
私ったら……何、忘れてんだ。
全く……自分のノンキさに呆れる!
私はポカリと自分の頭をこづいた後で。
「私も行かなきゃ」とベッドから出ようとした。
フッと、言葉が思い出される。
『何故ココに居る?』
ハルカさんの言葉。
「あ……」
体が すくんだ。
再び動き出す事が できない。
ハルカさんの槍で刺すような言葉の数々が。
私の動きにブレーキをかけている。
行ったって……仕方ないのだから――。
と……。
「……」
私の表情は暗かった。
誰にも見せられないほど。
何だかもう、どうでも良かった。
「私……元の世界に帰らなくちゃ……ココに居ても、役に立たないもんね……。セナやマフィアみたいに強くないしカイトみたいに技術を持っているわけでもない。魔力もない。ミクちゃん……人一人、街一つも助けられないんだもんね」
言いながら、声が震えてきた。
ああ本当に今、誰も居なくてよかった。
「ごめんね……」
誰に謝っているのかは わからないけれど謝った。
ミクちゃん?
リカル?
セナ?
それとも??
「ごめん……」
視界が段々と滲んで何も見えなくなってきていた。
帰る用意を、とはいっても特に何も ない。
食料と水だけを持ち、部屋を後にした。
セナ達 皆に黙って、居ない隙に船乗り場へ行く……が。
途中で、重要な事を思い出した。
ああ……私って何てバカなの。
今さらかもしれないけれど。
とりあえず。
夜で あっても船着き場で忙しそうに。
積荷を運んだり船員に指示したりしている船長さんに、相談しに行った。
「あのぅ……」
と、背中を突っつくと。
船長さんのゴツイ体がクルリとこちらを向いて小さな私を見下ろした。
「オヤ何だ。今日は一人か、救世主さんとやらよ」
どんな時でも明るく陽気な船長さん。
気軽に私に笑いかける。
「じ、実はそのぅ……船に乗せて頂きたいんですけれども」
「おうよ。いいぜ。本当は明日の朝に出すつもりだったんだが、薬とか食料がとても足りない上に時間も無駄にしたくないしよ。今すぐ出港しようとしてたんだ。あんたラッキーだねえ」
「はあ……それが……その。実は問題が……」
「問題?」
片方の眉を船長さんは吊り上げた。
両手を腰に つける。
私の顔色を窺った。
私は親指と人差し指でワッカを作り、見せた。
そして口元を引きつらせて、ニッカリと笑う。
すぐに察しが ついてくれたようだ。
「なんでえ……金か」
あ〜あと。
船長さんは鼻息 荒く大きな鼻穴から息を吸い込んだ。
船長さんのボリュームあるお腹が激しく伸縮する。
私は申し訳なさ気に、コクリと頷いた。
だって無いものは無い。
ダメ元で……と思ったんだ。
すると船長さんは自分の頭をブォリブォリと掻きながら、少し考えた後。
「……しゃーないなぁ」と声を漏らしてくれた。
「!」
私、両手をグーにし。
キラキラとした目で船長さんを見つめた。
「わかった わかった。じゃ、甲板の掃除と諸々雑用付きだ。いいな? 厳しいぞ、覚悟しとけ」
太い腕の手で、私の頭をこづいた。
私ってば嬉しくて大興奮だ。
「はい!」
私はニッコリ笑って大きな返事をした。
お優しい船長さんのおかげで、船に乗る手はずが整えられた。
すごく感謝しつつ。
私は船にさあ乗るぞと船着き場まで近づいて行ったさなか。
呼び止められる。
「勇気!」
そして振り返る。
その声の主を知っていた。
私は激しくドキリとして、恐る恐る見る。
蛍だ。そして隣には紫が。
ついに見つかってしまった……。
怖い顔をした蛍と。
さっぱり表情わからない紫の顔。
居るのは2人だけで、少しホッとしたものの。
とても和やかとは ほど遠い雰囲気が私達を襲った。
私の そばまで近づいて、蛍が吠えるように叫ぶ。
「何処 行く気!? ……まさか、逃げるんじゃないでしょうね?」
睨みをきかせて私に詰め寄る。
「……」
私は返事が できなかった。
どう言い繕っても。
私の今やろうとしている事は蛍達から見れば……“逃げ”の行為だ。
言い訳するだけ空しいって事が よくわかっていた。
「そうだと思う……けど……」
何とか返事をするものの。
はっきりしない。
「はあ? ……あんた、どーゆうつもり!? 逃げて何処 行くってえの!?」
うう、大きな声だから余計に胸に突き刺さる。
仕方ないけれど。
「……元の世界へ。私、帰ろうって思ったの」
「元の……? 帰る、って。方法、わかったわけ?」
私は黙って頷いた。
「……」
蛍も黙ってしまった。
そう。
私は夢の中で。
もう一人の私なんだかどうだかわからない謎の『声』のおかげで。
元の世界への帰り方が わかった。
わかってしまったのだった。
まだ、半信半疑なんだけれど(なんせ『夢』だしねー)。
教えてもらった場所、というのがあって。
そして そこはココから さほど遠くもない場所だったんだ。
偶然な事に。
とにかく行ってみる価値は ありそうだった。
それで。
帰りたい、っていう気持ちが あったし。
……私は行く事にした。
もう、決めた。
「何で……? 風神は? 木神は? 水神は、私達は? 置いて、サッサと帰っちゃうなんて。あんた言ったじゃない。レイ様を説得しに行くって。それは どうなるの? 救世主なしで、青龍復活を阻止しろって? ううん、そんな事は どうでもいい。あんた、どうして黙って一人で決めて行っちゃうのよ!?」
蛍の言葉の一つ一つが私に とって とげとげしく聞こえる。
聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない、けれど……。
私の顔色を見てか、紫が蛍を抑えた。
蛍の両肩を軽く掴んだ。
「紫……」
蛍が紫の顔を見上げる。
紫は ただ首を振った。
「……」
何も言わずに。
「でも、こいつ勝手で……」
言いかけたが。
遠く高い船上の所から船長さんの声が響き遮った。
「おーい! 出発するぞ! 別れの挨拶は もういいか!」
それを聞いて私は慌てて蛍達に背を向け。
『逃げる』ように船の中へと。
蛍は すぐ私を追いかけようとしたみたいだが、紫が それも止めてくれたようだ。
そして、
「ご無事で……」
と……ポツリと言った。
逃げた私に声は届かなかったけれど。
紫は私の気持ちを察してくれていた。
船はボオ〜……ッと音を立て、港から遠ざかる。
「バカアアァァッ……!」
蛍の怒り狂った叫びが聞こえてくる。
(すぐ……帰って来るから……)
私は船室の壁に もたれて座り込んで、ヒザを抱え込んだ。
何の保障もない。
帰って来るのか どうかなんて。
もしかしたら もう2度と。
こちらには戻って来ないかもしれないっていうのに――。
(でも……それでも。私は あそこに居たくなかったの――)
顔を上げられない。
そんな資格も根性も無い。
私は帰るために。
教えられた地へと。
帰るために。
《第21話へ続く》
【あとがき(PC版より)】
『白い月の…』? 一体何処に月が、と作者、過去の自分に悩む@。恐らく抽象的なイメージで決めたんだと……変えようかとも考えましたが他に思いつかなかった今回。
次回、『勇気、グレる』とかだったら新展開ですか(有り得ない笑)。
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※本作はブログでも一部だけですが公開しております(挿絵入り)。パソコンじゃないと読みにくいかもしれませんが、よければそちらもチラリと……。
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※そして宣伝をここでも。すみません。
短期集中連載を一つ始めました。作者、今あるだけの渾身の全力気合を入れてコメディー要素一切ナシのシリアス恋愛を(ひー)。猟奇殺人を背景にした切ない純愛?シリアスラブストーリーになれば……いいなぁと思いつつ(フ……)。控えてますが残虐シーンも あります。その上で よろしければそちらも……↓。
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(↑【道化師消失−黒いピエロ−】)
URLはお手数ですが、各コピぺなどしてお進み下さい。
長々でしたが、ありがとうございました。