第20話(白い月の夜)・1
※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。
同意した上で お読みください。
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(『七神創話』第20話 PC版へ)
「ハルカ……」
そう囁いて、氷に そっと手を触れる。
優しく、撫でるように、そっと。
これは ただの氷では ない。
闇の魔法で作られた、決して溶ける事の ない氷。
しかし氷の中には。
ちゃんと時間が流れているため、一年経てば一歳年をとる。
成長も している。
呪縛、監禁、幽閉……とも言える。
ハルカは ただ黙って目を閉じているだけ。
声を発せられなければ。
表情を変えたり動く事も一切できない。
レイが何故ハルカをこんな氷に閉じ込めたのか。
ハルカへの情が そうさせたのか……わからない。
レイも ただ。
とても優しい目でハルカを見ているだけだった。
「ハルカさんは……レイの所に……?」
わからない。
わかるようで、わからない。
何故……。
ハルカさんを連れて行く事を拒否したレイが。
ハルカさんを氷づけにして連れて行ったのか。
「ハルカさんを……愛しているから?」
だから……だから連れて行った?
わざわざ術を使って?
(ハルカに会ってみる? 何か わかるかもよ)
「!」
私と謎の声との会話は まだ続いている。
姿は ない。
声と声だけの……これは本当に『夢』なの?
あなたは……。
「そんな事、できるの!?」
私が謎の声に反応して叫ぶと、やはり声で返ってきた。
(できるよぉ……私は誰? なんちゃってね)
……気がつくと。
また変な空間に投げ出された。
それは奇妙な空間だった。
景色というものが……ない。
ただの真っ暗闇。
そして不思議だけれど。
……周囲に光は何処にも ないというのに。
自分の体は見えている。
両手も、足の つま先まで しっかりと見えている。
さっきまでの無声映画に近いような所に居た時は。
私という体は そこの場には なかった。
……要するに、『意識』しか なかったんだ。
でも今は。
自分の顔を叩けば、パチパチと音がする。
……気が する。
痛みも感じると思う。
私の『体』は存在しているんだ。
「ひゃ!」
下を見て声を上げてしまった。
何と、足元は水びたし。
真っ平らな地面の一面。
流れる事も なく水が まかれて……。
「……」
違う。
これは水じゃない。
手で地面を触れてみても、水を『感じ』ないのだ。
よって濡れない。
ただ……。
ただ、触れた所を中心に波紋が広がるだけで。
つまりは見せかけ?
「ココは……何処に連れて来られたんだろ……?」
いい加減、嫌になってくる。
本当に神様に遊ばれているんじゃないだろうか。
「あ……」
振り返る。
私だけしか居ないのかと思っていたら。
少し離れて5・6メートル先に人が。
……現れた。
それは突然に出現したのかと思われた。
「あなたは……」
少女……金髪。
赤い瞳。
可愛らしい青のワンピースから、スラリと伸びた足が出ている。
肉は あまりついていない、非常に細身だ。
立ち方が優雅で、モデルのよう。
目を引くのがチョーカーから垂れ下がっている首元のシルバー飾り。
変わった造形をしている。
ハルカさん。
彼女だ。
私の方を真っ直ぐ見ている。
表情は ない。
レイの前で頑張っていた彼女のままだ。
服装も同じ。
あんな場面を見た後では。
すごく声をかけづらいんだけれど……。
私が黙っていると。
やがてハルカさんの方から歩み寄ってきて声をかけた。
歩くたびに やはり水紋が広がっている。
音は ないけれど。
「ハルカ・ティーン・ヴァリア、15歳だ。よろしく」
私の前まで来て、そして いきなり自己紹介?
「ええと……あ、松波勇気です。13歳です……よろしく」
私はポリポリと頭を掻きながら。
ひとまずハルカさんに習って自己紹介で返す。
何だ、緊張して ぎこちない。
「救世主とはお前の事らしいな。レイが言っていた。異世界から来た、何の力も ない小娘だと」
ぐさっ。
……そ、そうなんですけどね。
皆、はっきり言ってくれるなあホント。
ちょっとは加減か遠慮して ほしかったりして。
「何故 神は、お前を選んだのだろう……まあいい。私やレイには関係の ない事だしな」
「あっ、あのっ」
私は一番 聞いてみたかった事を聞こうとした。
「何だ」
「ハルカ……さん。レイの所に居るんですよね? 氷づけみたいに なって。あなたは それでいいんですか? 満足なの?」
普通、抵抗すると思うんだけれど。
私はそう思って。
でもハルカさんは。
「ああ」
と……尋常では ない答えが返ってきた。
そんな素っ気ない……。
「レイの そばに居られる……それだけで満足だ。触れる事も会話する事も できないが……いい。だから、邪魔するな」
う、ううーん?
「邪魔するなって……あなた、それで本当に満足なの!? 本当に!? ……レイの事、全部知っているのよね。レイが、何を企んでいるのか!」
「知っているが」
「なら! あなたは止めるべきだわ! 青龍復活を! 世界滅亡を! このままじゃ、何もかも終わってしまう!」
ハルカさんは しれっと。
「知った事か」と言い放った。
……!
冷たい……。
「私は、レイさえ そばに居てくれればいい。レイのやる事に邪魔は しない。レイが望むなら。世界が どうなろうと どうでも。レイさえ……居てくれれば」
何て頑固なんだ。
私は そう思った。
あんまりだ。
世界が どうでもいいなんて。
そんな事が平気で。
「お前は」
顔を上げてハルカさんを見ると。
私から目を離さずに今度は そっちから迫ってきた。
「何故ココに居る? 何故 救世主に なったのだ? お前なしでも、世界は動く。お前が世界を動かすわけじゃないだろう。元あるべき世界の方へ帰ったらどうなんだ。とっとと」
「私なしでも……」
世界は……変わらない……?
「レイも私も意志は変わらない。変えるつもりなどない。どっちみち、世界は滅びる傾向なのだ。滅びる前に、死ぬ前に、帰ったらどうなんだ。足手まといになる前に」
滅びる……レイが、滅ぼす。
どう あがいても。
レイの意志は、変わらない……。
私は気持ちが段々と しぼんでいった。
全て、悪い方へと導かれて。
私は どうして救世主になったの?
何でだっけ? ……
……
……何の ために……。
……気がつくと、ハルカさんは居なかった。
そして、やっと夢は消えた。
「お兄ちゃん……」
寝言で、そう呟く勇気。
「勇気……」
そばで寝言を聞いたセナは。
優しく勇気の頭を撫でてあげた。
勇気は汗もソコソコ、落ち着いては いるが まだ苦しそうに呼吸をしている。
熱は まだあまり下がらない。
少し隙間の開いたドアから、メノウと蛍は勇気を見守っていたが。
「(あの2人って……恋人同士とか、そんな感じなのかな?)」
と、コソコソとメノウは好奇心旺盛に隣の蛍に聞いた。
「(そお? 兄と妹ってカンジだと思ってたけどー?)」
馬鹿らしい、と蛍は手を振った。
すると背後からカイトが やって来て声をかける。
「こら。何やってんだ2人とも」
「わっ!」
「ひやあ!」
驚いた蛍とメノウは慌てて その場から立ち去った。
2人が去った後。
……開いたままのドアの隙間から、今度はカイトが覗き見る。
チラリと数秒見入った後、そっと離れた。
はあ〜……と、廊下を歩きながら ため息をつく。
そしてピタリと立ち止まったかと思うと。
バンッ! と手の平を。
自分の横の壁へと突くように叩きつけた。
「……どうすりゃいいんだよ」
下口唇を噛みながら。
カイトは悔しそうに怒りを目の前の空間に ぶつけた。