第19話(「ハルカ」という名の少女)・3
……。
時々思うんだけれど、この謎の声のノリ。
何だかなぁ……。
(何よ。せっかく親切にしてあげてるのにィ。ホラホラ、ちゃんと よく聞いて。セナ達の会話)
ええと ああ、うん。
私が気を取り直して関心をセナ達に向ける。
すると ちょうど、セナがレイに呼びかけた声がハッキリと聞こえてきた。
「じゃあ……ココでお別れだな。元気で、レイ」
「ああ。元気で……」
と、2人とも軽く笑い、簡単に済ませようとした。
しかし余計に それが名残惜しそうにも見える。
やがて、2人は それぞれ逆の道先をめざし歩き出した。
振り返る事なく、真っ直ぐ道なりに。
足は止めなかった。
このまま2人は別れ……と思ったが。
レイが突然 何かを思い出したかのように振り向く。
セナの方を。そして呼ぶ。
「セナ! それから」
セナはレイの方を。
沈黙が少し2人を包んだ。
レイが間を置いて言葉を続ける。
「ハルカの事……よろしくな」
同時に、またレイは自分が進む方へと歩き出す。
言葉はセナに届いても届かなくても。
どちらでもよかったのかもしれない。
セナは しばらく そんなレイを見つめていたが、表情も変えず向き直り。
自分も決めた方角へと。
顔を上げて歩き出した。
2人が出所した日――。
私は、レイを見ていて。
一つの答えに辿り着いた予感がした。
レイは……ハルカさんの事が……。
確かでは ない。
だから『予感』止まりだ。
でも本当かも。
だって さっきの場面で。
そういえばレイもハルカさんを見ていた気が。
2人って、ラブラブ?
やっぱり もしかして。
あっらァ〜……。
(だと いいんだけどね)
へっ……またソレ?
何よ、違うのぉ!?
(まだ続きが ある)
言われて、黙って前を見る私。
レイの方へ、勝手に私というカメラマンは追いかける。
あ。
気が ついた。
レイの進む先で。
森の入り口に さしかかる所に、誰かが居る!
それは成長したハルカさんだった。
「ココに来ると思ってて。待っちゃった。……見て? 家、出てきたの」
ハルカさんが言う通り。
ハルカさんの足元には大きな荷物が。
ひとまとめにされて置いてあった。
「今日2人出所するって、セナが教えてくれて……それで」
楽しそうな、でも ためらっているようなハルカさんの顔。
私は あれ変だなと思った。
まるでレイの前だと小さな子供みたい。
無邪気さというか あどけなさというか……。
ついていた男の子っぽい王女イメージとは違ったので。
そう感じてしまった。
こっちが本当のハルカさんなんだろうか。
貴重なものでも見た気分。
「私……」
小さく呟いて下を見ていたかと思ったら。
急に顔を上げてレイを一心に見つめた。
「レイ……! 私、あなたに ついて行きたい! 連れてって!」
そんな事を叫んだ。
……!
私は驚く。
こんな展開が あったなんて。
しかしレイの答えは素っ気なかった。
「ダメだ。家に戻れ」
ハルカさんから顔を逸らす。
レイの冷たさは そのまんまだ。
今の彼と……。
しかしハルカさんは粘る。
「嫌よ! あんな家……私に ずっと あんな所に居ろって? 王も王宮の下女も臣下も皆。私を忌み嫌って……私は……ずっと部屋で一人。話し相手も ろくに居ない。ずっと、ずっと一人。あなた達だけ。あなた達だけよ。普通に人間扱いしてくれたのは。私には、セナとレイが。あなた達が必要なの」
ポロポロと、涙まで こぼれながらハルカさんはレイに訴えかけたが。
レイは聞く耳持たないと。
逸らした視線を戻そうとはしない。
「だったらセナと行けばいい」
ハルカさんの想いなんて斬って捨てるように。
「セナには悪いけど……私はレイと行きたいの!」
なおも粘る。
レイはハッ……と肩を大げさに動かし。
疲れた吐息を出してハルカさんを邪魔にドンと横へと どかした。
「いいから、どいてくれ」
そんなレイの腕を引っ張ったハルカさんは想いすがる。
「お願い、連れてって! 一生ついて行きたいの!」
腕を掴んだ手は邪険にされ振りほどかれた。
「役立たずは いらない」
「!」
ハルカさんの動きが止まった。
ただ呆然と……去り行くレイの背中を。
涙を流しながら。
でも、ハルカさんは追いかけた。
「絶対、役立たずなんかには ならない。だから……」
グイと、レイの腕をまた。
レイは怖い顔になり威圧的に声を発した。
「ダメだったらダメだ! 邪魔なんだ!」
……
ゴクリ。
息を呑む私。
レイが あんな顔でハルカさんを。
私は両手に力が入った。
どっちを応援するかというほどでもなく。
成り行きを見守るだけだった。
どうなってしまうの2人。
……どうしてレイは あんなにもハルカさんを拒否するの?
好きなんじゃないの?
私には複雑過ぎるのか、理解が できない。
ただ、見ているばかり。
私が ゆっくりと考えられるほどの間が空き。
沈黙を破ってハルカさんは……。
相当、レイの言葉にショックを受けたみたいだ。
声が震えている。
「いつも そうよ……私は邪魔だ いらないって。昔にも言ったよね? それ。邪魔だって……冗談だと思ってたけど……本気だったのね。どうして?」
核心を突く事を言う。
続けて一気にハルカさんは想いのたけをぶつけ浴びせた。
「私は今まで あなたのために頑張ってきたわ。あなたに追いつくために、知力も体力も容姿も完璧に備えてきた。なのに、どうして!? 私じゃダメだというの!? レイ!」
レイは答えなかった。
「答えて! レイ!」
やはりレイは答えない。
表情も ない。
「レイ……聞かせて……」
と、絞るようにハルカさんは声を漏らした後。
両手で顔を覆い隠し泣く。
泣く。
……ハルカさん……。
私の目にも、涙が流れてきそうだった。
残念ながら それは ないのだけれど。
今の私には。
もし今の私に体が存在していたら。
2人の前に飛び出して行っていたかもしれない。
「いらない」
レイは やはり道を再び歩き出した。
ハルカさんを無視して。
「レイ……!」
いつまででも泣き叫び、追いかけるハルカさん。
見ていられない切迫感。
「行かないで! レイ!」
もう、諦めて。
……私に そんな気持ちが芽生えた所だった。
ハルカさんがレイに近寄った瞬間。
今まで全く見向きも しなかったレイに変化があった。
「“萼”!」
レイはハルカさんに向けて そう言って手をかざした。
ハルカさんは驚く。
……体が ねじれた空間と一緒に ぐにゃりと歪み。
ハルカさんを中心に周りに円を描いて『何か』が走りだしたかと思えば。
『何か』は氷だったのか、大きな槍の先のように尖った氷が発生した。
メキメキ、メキ……
氷は生長しているみたいに長くなり。
ハルカさんを閉じ込めていった。
「……!」
ハルカさんは身をかばおうとして一瞬 身構えた風だったが。
ハルカさんの両腕は。
……呪縛から解かれていったような素振りで……いや。
氷を形成していく、壁は受け入れるのが自然なように。
ハルカさんは氷づけになった。
(……!)
私は目が釘付けになる。
《第20話へ続く》
【あとがき(PC版より)】
“萼”って何だよレイーッ!(無いよー!)
……もう少し字変換しやすい漢字でお願いします(泣)。
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