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第19話(「ハルカ」という名の少女)・2


(レイを倒す……それしか、ないんだよな? 勇気……悪いな。お前はお前なりに、考えてくれてたんだろ? レイを倒す事以外方法が ない事をとうに知ってて……でも、俺の前では言い出せなくて……目の前で人が死んでも……良い方法は見つからなくて……。きっと、途方に暮れちまったんだよな。救世主なんて使命、本当だ、何も お前じゃなくたって よかったんだ。カイトの言う通り、こっちの人間に……俺にしてくれりゃよかったんだよ)


 勇気の寝顔を見ながら あれこれと考えているうちに、眠くなってきた。

 朝も早かったし、色んな事が あったからだった。


 目を閉じても、思考は加速するばかりで止まらない。


「レイの説得……できたらいいな。できる人間が居るとしたら……」


と言っておいて。


 すぐに またパチッと、目を開けた。


「ハルカ……か?」




 ……勇気の中で。


 会話は続いている。


 音だけが存在する世界の中で。


(あーあ。早く元の世界に帰りたいなあー)


 帰る?

 帰りたいの?

 私。


(そうよ。だって、こんなキッツイ所より、元の世界の方が平和でしょ)


 平和……そうかな。

 だって私、家じゃ一人で。

 学校 行っても いじめられて……さ。


(でも人が死んだり、世界の破滅なんて話とか ないでしょ? ココと比べたら平和よー?)


 ……そう、ね。

 元の世界の方が、まだ……。


(帰ろ帰ろ。私、方法知ってるから)


 は?


 ……何で知ってるの??


(うふふ。私、何でも知ってるわよ? 教えてあげる)


 あっ……そう。


 へえ?

 何でも知ってるの?

 本当に?


(何でも聞いて)


 そうね……じゃあ……うーんと……。


(ハルカって知ってる? レイやセナとの関係、教えてあげよっか?)


 ハルカ……?


(教えてあ・げ・る! それっ!)


 え、『それ』って……。


 う、わあああ!


 凄まじい閃光のもと。

 暗闇だったのが急に とある場面へと変わった。


 私の視点から周囲が見渡せるようになった。

 声だけの世界から、抜け出せて。


 今さらながら。

 ……これは夢なんだと やっと理解できたように思う。



 私の目に飛び込んで来たもの。

 景色は。


 あそこ……知ってる。

『時の門番』で見た、監獄だわ。


 有刺鉄線の張られた高いフェンス。

 監獄の建物の窓から中の様子がチラチラ見える。


 少年少女の数。

 姿。

 皆、色が ついているのかいないのか。


 はっきりとせず、無声 映画のフィルムの中のエキストラのような感覚世界の中で。

 自分達の好き勝手に手を伸ばしたり走ったりして行動し。


 何の音を発しているのかが識別困難なんだけれど。

 彼らは場面の中で『生活』を行っているんだわ。


 あ……あれ。


 部屋の窓から垂れ落としたロープを伝って下りてきた少年達が居た。

 一人、また一人と。


 ……2人だ。


 レイとセナだ……。


 知っている。


 私は。

 まだ幼い2人を。


 確かめるように左右前を探り、隠れながらか慎重に。


 この私の すぐ前にあるフェンスへと近づいて来た。


 私の目というカメラアングルは、動かせるのだろうかなんてちょっと思ったりしたけれど。


 すると、私の視界一面に突如『影』が覆い。

 一瞬 全てが真っ暗になった。


(?)


 それは本当に一瞬の事で。

 すぐに視界は開けた。


 どうやら、私という存在を通り抜けて。

 誰かが彼らに近寄って来たようだ。


 誰かって……誰。


 それは、少女。

 流れる金色を肩の手前で切り揃えられた、ストレート髪。


 後ろ姿しか見えないんだけれど。

 ……格好は、王女様みたいだ。


 金髪……この子、『ハルカ』?


 以前、夢でセナが「ハルカ」って呼んでいた気がする。

 きっと この子の事だ。


 この子が……『ハルカ』!

 私はドキドキしてきた。


「ハルカ! おはよう!」


 ハッとして幼いセナを見た。


 屈託なく自然に笑いかけるセナの顔。


 そして その後ろからは「はよ」と、今度はレイが声をかける。


 フェンスを挟んで、3人は集まった。


「大丈夫か? また部屋を抜け出したりして」


 恐らくハルカの澄んだ気品 溢れる声。

 ただし口調が男の子っぽい。


「平気。レイが調べたんだ。この時間は看守達の朝メシの時間だって」


 肩をすくませ首を傾げながら、セナは愛嬌を振りまく。

 レイは目を伏せ静かに頷く。


「そうか……なら、よかった。これ、やる」


 ハルカがホッとして手に握っていた物を広げて見せた。


 お菓子だ。

 黒っぽい小さな塊の方は……。


「チョコレートといって、何処かの国のお菓子だ。昨日の おやつを残して持ってきた」


 フェンスの穴から、小さな お菓子が手渡される。


「ふうん……」


 受け取った2人は、興味津々で早速 包みを広げて口の中へ。


「名前だけは聞いた事あったけどな。サンキュ、ハルカ」


 お礼を言われたハルカは、恥ずかしがっているのか黙っていた。

 顔は私からでは わからないけれど。


 ……


 ……そこまでを見ていて。


 この『場面』とは別の。


 さっき私と声だけで対談していた声が再びやってきた。


(説明したげよっか? 『ハルカ』。ハルカ・ティーン・ヴァリア。当時9歳、現15歳ってトコ。ある国の国王の15番目の子供。つまり、王女ね)


 勝手に話し始める……え?


 王女?


 ……やっぱり。

 そんな感じだもん。


(王女だけど、育った環境は恵まれているとは言い難いわね〜。部屋に閉じ込められているからなぁ。異常に)


 異常に?

 何で?


(金髪で、赤い目をしているの)


 赤い目……そういえば そうだった……っけ。


(赤目で金髪……そんな容姿の おかげで、王宮内では忌み嫌われていたってわけ。母親は早くに病死し、国王は そんなハルカを大事にしてくれたんでしょうけどね)


 そうなの……異常、って。

 可哀想……。


(で、ハルカは秘密の抜け穴から抜け出して、ココに来たの。レイとセナとの関係は……友達って奴よ)


 友達……セナやレイは知ってたの?

 ハルカさんの身の上。


(まあねえ。国王の娘だし、監内で知ってた奴とか居たんじゃない。本人も言ってそうだしね。セナやレイは知った上で、ハルカと こうして会って。んで、遊んだり……とは言ってもフェンス越しに。監獄からは出られないしね。入る事も。わかった?)


 うん……そっかあ……。


 ハルカさんは、セナやレイの……友達、か。


 何だろ……すごく、安心しちゃった。

 変ね。


(安心、ね。だといいんだけどね)


 え?


(自分の目で確かめてみたら。見なさいな、3人とも誰をそれぞれ見ているのか)


 そう言われ、じっくりと観察してみる。

 それぞれが……。


 ……そういえば。


 ハルカさん、レイの方ばかり見ているような。

 気のせいかな?


 セナはレイもハルカさんも両方見ているし……うーん。


 とにかく3人とも、とっても楽しそうなんだけれどな。


 私に語りかける謎の声の言いたい事が よくわからない。

 一体 何が言いたいんだろうか。


(しゃーないなあ。んじゃ、とっておき)


 は!?


(ほいなっと)


 へっ……。


 再び暗闇。


「きゃああ! またっ!?」


 私は悲鳴を上げる。


 遊ばれてや しないだろうか。


 誰に?

 神様?

 天神様?


 そして同じく閃光。

 気がつくと、今度は何処かの野っ原だった。


(見てごらんなさいな。わかるでしょ?)


 そう言われて。


 いきなり場面が変わったもんだから戸惑ったけれど。


 すぐに状況を頭に入れた。


 平野で、辺りには建物など何もなく。


 遠くに あるのは森の入り口。


 入り口へと続く一本の道が こちらにまで長く続いている。


 そして道の真ん中に2人。

 人が立ち止まっている。


 立ち話でもしているのかと思ったら。


 2人とは……セナとレイだった。

 まだ今よりちょっと幼げな。


 ココは いつの、何処なんだろう。


 相変わらず色彩の はっきりしない世界だ。

 映画かと思ってしまう。


(ま、過去だしね。昔の映画を観ている感じじゃない)


 昔……えっと、じゃあココは どの場面?


 監獄で ないって事は、たぶん……?



(お察しかしら。そ、監獄から出所した日。セナとレイが お互いバイバイするトコよ)




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