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第19話(「ハルカ」という名の少女)・1


※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。

 同意した上で お読みください。


※じっくり小説らしく味わいたいパソコン派な方はコチラ↓

http://ncode.syosetu.com/n9922c/19.html

(『七神創話』第19話 PC版へ)




(私、頑張るよ。お兄ちゃんのためにも。私一人で)


 ……これは誰の感情?

 私の過去の想い?


(大丈夫だよ。お兄ちゃんが居てくれる。お兄ちゃんが頑張るから、私も頑張るの。私は不幸せなんかじゃないんだよ)


 ああ……ずっと昔、考えていた事だよね。


 そうか、私あの頃……。


 いつか一人で生きて行こうって。

 決めたんだよね。


 何でだろう?

 たった6・7年前の事じゃない?

 どうして今こんなに不安で いっぱいなの?

 どうして『決めた』って過去形に なっているの?


 私は どっちに行くの?


(だって仕方ないじゃん? 親は両親とも死んじゃって、お兄ちゃんしか居ないんだもの。頼りにするのもいいけどさあ。やっぱり自立するべきでしょ?)


 自立?

 自分で立って歩くの?


(当たり前でしょ? 誰の手も借りちゃダメでしょ? 自分の事はホレ、自分で やんないと!)


 わかってても……淋しいな。


(淋しい? どうして? あんたには周りに人が居てくれるじゃない?)


 そうだけど……でも。


(まだ13歳で、自立は早いかもしんないけどさ。自立って言葉は前向きじゃん?)


 前向き……いい言葉よね。


 わからない。

 何も考えられない。


 こんなのって……初めて。


 誰か。


 …………私を た す け て 。




「クソッ……レイの奴……」


と、下を向いて唸っているのはセナである。


 ココは、キースの街 診療所の裏にある家の小部屋。

 大被害を受けたキースの街人達は。

 街のあちこちの病院や診療所、やがてそれも足りなくなり。

 民家にも運ばれた。


 勇気が倒れ。


 セナ達一行は勇気を担いでココの診療所を尋ねた。


 しかし やはり満員で、所内には入れず。

 そこの所長が親切にも診療所 裏にある自分の家のベッドを貸してくれたのだった。


 少し呼吸が乱れ、高い熱を出す勇気。


「疲労……かな」


と、勇気を横目で見下ろし様子を(うかが)ったのはカイト。


 すぐ後に続いてマフィアやセナが言った。


「セナ……落ち着いて。冷静になるのよ。今は、勇気の事だけを考えて……」


「わかってる!」


と、セナは勇気から背を向けた。


「勇気、衰弱しきってるみたいね。そりゃそうよね……慣れない環境の中に居るんだもの……。それに まだ13歳だったっけな。あんな死体の山 見せつけられて。きっと前の時は、『助けなきゃ』って気を張っていたんでしょうね。まだまだ勇気は子供よ。辛かったでしょう……」


 マフィアは そう言って涙ぐんだ。


 カイトは自分の水の力で。

 勇気のオデコに水を含ませ絞ったタオルをたたんで そっと置いた。


 精霊の力は、こんな所で役に立つ。


 セナ、マフィア、カイトの他に。

 後ろで蛍達も黙って そこに居た。


「勇気が この状態でいる以上、この街から離れられない。とにかく、宿を探しましょうか」


というマフィアの発言のもと、それぞれは思い思いに行動し出した。


 勇気が こうなったおかげで皆、少なからず動揺していた。



 ……


 勇気は自問自答ともいうべき会話を誰かとする。

 まだ続いている。


(なあんだ。疲れてんの? なっさけな!)


 ……そう言われたって、仕方ないでしょ。


 こっちの世界に来て色々あって。

 元々私、体力が ないのよ。

 部活だって文化部でしょ。


(あんたって よく頑張るよねえ。訳の わかんない救世主なんて使命 背負わされてさあ……。本っ当、人がいいというかノンキというか……)


 何が言いたいわけ?


(あんたの短・所! やってって言われたら断れない)


 …………いいじゃない。

 別に。


(よくないでしょ。その短所のせいで あんた疲れすぎて倒れたじゃん?)


 反省してる。


(嘘でしょ。あんたは起きたらまた、助けるんだとか言っちゃって走り出すでしょ。自分、こんなにボロボロのくせに)


 ボロボロ?

 そんなに?


(ひどいもんよ。自覚ないんだ? はっきし言って重傷)


 そ……う?


(精神的に あんた、相当まいってる)



 私の心の中に2人の心が住んでいる。

 2人とも私で あって、お互いを挑発し合っているみたい。


 一体いつまで、これが続くのだろう。



「ばっかみたい。倒れちゃうなんて」


と、部屋の隅で文句を言う蛍。


 それを聞いて怒ったのはメノウだった。


「ばかじゃないもん! 勇気お姉ちゃんは ばかじゃない!」


「だあーって! 疲れてるのは こっちも同じよ。私だけじゃない、紫も あんたらも! なのに勝手に倒れちゃって! あんな光景、見慣れてるんでしょ!? これからだって ずっと見る事に なるわ!」


 あんな光景とは、もちろん街での惨劇の事。

 蛍側にしてみれば、何度も似た光景は見た事があった。


「第一、勇気の奴 甘すぎんのよ。救世主のくせに、何にも できないんだから」


「言い過ぎよ! 蛍! 勇気は勇気なりに頑張っているのよ」


と、抑えたのはマフィア。


 セナは相変わらず勇気には背を向けたまま。

 皆の方を向いてはいるが下一点を見て無言だった。


「それにしても、何で救世主は異世界から来た者なんだろうねえ?」


 どういうつもりなのか。

 カイトが急に言い出した。


「だってそうだろ? 別に違う世界の人間じゃなくてもさ。こっちの世界の人間でも いいじゃん。何で わざわざ? これ、素朴な疑問」


と、ハーイ、と手を上げる。


「変な奴……」


 ツッコんだのは蛍。


「お兄ちゃんは そういう人なんだよ」


と、微笑むメノウ。


「でも その通りね。何で天神様は……勇気を選んだんだろう……」


 そして救世主は何故 異世界から来るのか?


 ……考えた所で わからなかった。


「ま、天神が どーとか勇気が どーとか言うよりもさ。勇気が こうなっている以上、俺らどうすりゃいいんだろ。街は ご覧の通りだし、明日まで船も出ないらしいよ。船員達が救助してるけど、やっぱ俺らも手を貸すべきだよな。うん。じゃ、そゆ事で」


「は? カイト……ちょっと?」


と、目が点になる一同。


 しかしカイトはサッサとドアから出て行ってしまった。


 後に残された者は、呆然とするばかり。


「勝手な奴ねー。勇気、放ったらかしぃ?」


とグチる蛍。


「さあ……。でも、私らがココで あーだこーだと言ってても始まらないのは確かね。とりあえず当番制で勇気の そばに居てあげて。残りは街で働きましょっか。じゃ、まず……」


 言いながら、辺りを見渡しセナの所で目をとめた。


「セナ。あんた、お願いね」


 ポン、と肩を叩く。


 肩を叩かれたセナはマフィアの顔を見て「ああ」と返事をした。


「昼過ぎに全員 集合ね。それまで よろしく。あ、メノウちゃんはココに居てね」


「ううん。メノウ、手伝いするよ! ケガの手当てなら任せて! よくお兄ちゃんのケガの手当てしてたの!」


「カイトの……?」


と、少し顔をしかめるマフィアだったが。


「まあいいや。じゃ、お願いしようかな。私に ついてきて。蛍と紫くんも よろしくね」


「はいはい。行こ、紫」


「はい」


 部屋に勇気とセナを置き、4人とも出て行った。


 残されたセナは黙ったまま。

 勇気の寝ているベッドの横へ椅子を引き置き、座った。


 少し ため息をつき考え込んだ。


(レイを止める方法……ダメだ、何も思いつかない。第一、レイの説得は無理だ。レイの過去を知ってしまったなら なおさらだ。レイは……もう、昔のような奴じゃない。昔は……今とは逆で、天神を尊敬して……力だ! 闇神の力! あの力の せいだ……あの力を失えば! ……そんな事は できるわけがない。ちっきしょー、やっぱり どうしても、レイを倒す以外の方法は ないのか!)


 このままだと。


 レイは四神鏡を集めて青龍を呼び出し、世界を破滅へと導く。


 この悪状況を失くすためには。

 諸悪の根源ともなるべきレイを倒す他ない。


(待てよ……天神を倒すっていうのは どうだ? 天神が居なくなればレイの復讐の意味が失われる……いや、ダメか。天神は全知全能の神。居なくなれば、結局は破滅か……)


 そうやって頭を抱え込む。


(俺って怖い奴か? 神よりも旧友が大事なんて……な)


「ふっ……」


と、少し笑みを浮かべるが、それも悲しいだけだった。




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