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第18話(虐殺の街)・4


「ぐっ……」


 吐きそうになって、口を押さえて必死に我慢をした。


 転がっている死体の幾つかに。


 これが そうなのかルビーカラス。


 ……全身を黒に包まれた鳥が、それぞれ楽しそうに群がっている。


 まるで獲物を見つけたと、喜んでいるかのように。


 死体の肉を(つい)ばみ。

 貪り。

 私達をチラッと睨んで飛び去っていく。


 空高く羽を伸ばし転回したかと思うと。

 近くの木の枝に とまり体を休ませているようだ。


 誰が こんな事を。


 ……知っている。

 私は知っている。


 見たくもない死体の傷は皆。

 鋭利なもので斬られた痕だ。


 一人しか、思い浮かばない……。


「レイ……!」


 嗚咽のように漏れた。


 ライホーン村の次だ。


 ココだ。

 ココを襲ったんだ。


 あの、邪尾刀とかいう刀で。


 私に激しく後悔という念が押し寄せる。


 何でレイの説得を後回しにしたのか。


 遅れれば遅れるほど、死体の山は増えるだけじゃないのか?


 私は……。


「勇気……大丈夫?」


 私の体をマフィアが揺すった。


 私は呆然としたままで。


「俺、だめ。ちょっとゴメンよ」


 カイトが そう言って、光景から背を向け私の横を通り抜けて行った。


 彼は こんな場面 自体が初めてだろうから、仕方は ない。


 私は……


 2度目だ。


「私は大丈夫よ。それより、早く何とかしなきゃ!」


 私は やっと声をハッキリ出して。

 セナやマフィアを安心させた。


 すでに街では、立てる人が救助活動を行っているさまが見られる。


 船員なんかも駆けつけて。

 大声で指示したり人が集まってガレキをどけようとして格闘していた。


 セナやマフィアが、そんな人達に手を貸しに走って行く。


 私も、一番近くに倒れている人を見つけて駆け出して行った。


 家屋が壊され石や木板などでメチャメチャに なっているのを下敷きに。

 仰向けで寝ているような格好で胸元をスッパリ斬られて。


 ドクドクと血が流れ倒れていた男の人。

 頭に白いハチマキを。

 体格よさげだったが斬られた傷からの血の量からしても重傷だと わかる。


「大丈夫ですか!」


 私が寄って聞いた。

 すると彼は そんな私より、私の背後を指さす。

 持ち上げるのも やっとという腕で。


「そこに倒れている女の子……生きている……か?」


 そう聞こえた。


 私は指をさされた方へ行って。

 大の字 片足だけを折り曲げて倒れていた女の子に近づき呼吸を確かめたが。


 ……息は なく、心臓も……というより、胸をえぐったような痕がある。


 私は首を振った。


 男の人の所へ戻って伝えると「そうか……」と言った。


「手当てします……立てますか?」


と言った時だった。


 背後で、大きな声が響いた。


「 ミ ク ! 」


 え……?


 私は振り返った。


 リカル。


 船で知り合った、男の子のような、女の子。

 双子の妹に会いに……。


 双子の……


 ミク?


「そんな。そんな まさか あの子が」


 私は見入った。


 さっき私が死亡を確認した女の子を抱え、懸命に呼びかけている。


 私は全然 気が つけなかった。

 あの子がミクちゃんだなんて……。


 何故リカルがココに。

 船で待機してたんじゃ。


 待ちきれなくて来たっていうの。


 そして……。


「冷たい……嘘だろ、何で」


 大きく見開いた目。

 リカルの様相が段々と変わっていく。


 声に力が加わっていった。


「何で!」


 涙が。


 声が、震えて耳に つく。


「ミクっ……ミクうっ……!


 何でだよおおおおおおッ!」


 うずくまって……泣き、叫ぶ。


 私は頭の中が ぼうっと、モヤのようなものが視界に覆い被さってきた感覚が してきた。


 涙は乾いて出ていない。

 それより……


 これは……何?


 私は自分の存在さえ信じられなくなっていきそうだった。


「男だ……レイ、とか、言ってた。そいつ。もう一人の……巫女みてえな格好をした女と、一緒に……消えた」


「サイガ兄ちゃん!」


 リカルが こちらを見て呼びかける。


 私は わかった。

 リカルが言っていた事が蘇る。


 ああこの人が知り合いと言っていたお兄さん。

 ミクちゃんの家のお隣に住んでいるって。


「レイって奴に皆……? ミクも、やられたの!?」


 擦れも気にせず、吠えるようにリカルは聞いた。


「ああ……街の奴らも俺も皆……妙な刀で斬られて。でも、ミクは……ミクだけは……」


「?」


 変な沈黙が おりた。


 サイガと呼ばれた男の人は続ける。


「ミクは……一回、斬られて重傷を負ったはずだったんだ。なのに……まるで、生 き 返 っ た みたいに……」


 変な事を言った。


 リカルは、ミクの服を前だけベロリと めくった。


 穴のような痕以外は、傷一つ ついていないと言う。


「斬られた傷なんて ないよ? サイガ兄ちゃん」


「確かに斬られたんだ……俺より先に、俺の目の前で……でも、そのレイとかいう奴は。また戻ってきてミクの胸ぐらを掴んだかと思ったら。何か、白い物を取り出したように見えた。ミクの体内から。アレは何だったんだ。巫女の女と……『シジンキョウの一枚が見つかった』とかどうとか……」


 私は立ち上がって下を見る。

 愕然と、地面を見下ろした。


「四神鏡が見つかった……」


 嫌な汗が背中を滑った。

 やがて全身を熱い血液が駆け巡る。


「あんた……救世主、か? 噂の……」


 私はハッとしてサイガを見た。ドキリと、心臓が鳴る……!


 サイガは私の動揺を見逃さなかった。


 確信したのか怒りを誰でもいいから ぶつけたかったのか。


 ……怒号を私に浴びせた。


「あんた……何で もっと早く来てくれなかった? レイとかいう奴らが言っていた……名ばかりの救世主だと。奴らの言う通りなのか……名ばかりの小ねずみ……いいや そんな事より。何で俺らが……何で あんな いい子を……俺が代わりたかった……なのに……」


 胸板の傷からは まだ血が止まりきらずに流れている。

 涙のように。


「なのになのになのに!」


 私は後ずさりした。

 しかし背後からは別の、苦しい叫び声が私を刺すように突き抜けた。


「お前の……お前のせいか! お前のせいでっ、ミクがっ!」


 リカルの声。


 …………!


 もう、何処へも行けない。

 逃げる場所は無い。



「勇気!」


 何処か遠くで、私の名前を呼ぶ声が する。


 私は勇気よ、救世主なんかじゃない。


 一体誰が。

 誰が救世主……?



 ……


 私は倒れた。


 闇の底へと。


 もう立ち上がれないと……知りながら。




《第19話へ続く》





【あとがき(PC版より)】

 タルを見た時の勇気のセリフでカットした一文。

「勇気は、『勇気』を出して話しかけ……」

 意味わからん。


 ご感想など評価なしでもアリでもお待ちしています(ネタバレはできませんが;)。お気軽にどうぞ。

※本作はブログでも一部だけですが公開しております(挿絵入り)。パソコンじゃないと読みにくいかもしれませんが、よければそちらもチラリと……。

 http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-55.html

 そして出来ましたらパソコンの方は以下のランキング「投票」をポチッとして頂けると大変感激です。


 ありがとうございました。


 次話は短めに……。



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