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第18話(虐殺の街)・2


 はっきり言って、ヒマなのよね……。


 同じ船に乗っている人って、ほんの何人しか居ないんだもの。


 しかも居る人に限って、絶対に話が合わなさそうな人達ばかりだ。


 白いヒゲの年の いった おじいさんとか。

 (がん)とした おばさんとか。


 年の近い人って居ない……。


 よくよく考えてみると。


 セナは17歳。

 マフィアやカイトは もう少し上くらいかな。

 で、蛍やメノウちゃんは10歳くらいでしょ。

 紫は……セナより少し若いくらい。


 同じ10代だけどさ。


 ……何か皆、年齢が かたまってないー?


 唯一年が近いかなっていう紫とは。

 絶対に気が合いそうにない……。


 ううう、寂しいなあ。


 寂しい?


 ううん、全然。


 気が合う合わないって、年なんかじゃ決まんないよねっ。


 と、自分に言い聞かせて。

 私は皆が くつろいでいる、船室へと戻った。



 船の通路奥から2番目にある船室。


 ……中へ入ると、セナとマフィアとカイトが居た。


 セナは部屋の奥に あぐらをかいて地べたに座り。

 マフィアは角隅の丸イスに座り。

 カイトは円形の窓から外の海の景色を見ていた。


 静かで、ちょっと重い空気。


 私が来ると、3人とも こっちを見た。


 戸惑ったけれど、とにかくドアは閉めて。

 マフィアの横にある もう一つのイスに座った。


「皆、何してんの?」


と、私が聞くとセナが まず答えた。


「俺は魔法考案中。たまにイメトレ」


と、素っ気なく。


 イメトレとはイメージトレーニングの事だ、もちろん。


「俺も海 見て考えてる」


「私も、頭の中で想像トレーニングしてるの」


と、後から残りの2人も答えてくれた。


 なるほど……だから、こんなに黙りこくって静かなのね。


 でも、何か嫌よね。

 こんな空気……息が詰まるっていうか。


 私はマフィアの横顔を見て。

 ピンと何かが閃いた。


「そういえばさ。マフィア、前にチラッと言ってたなあ」


「何? 何の事?」


 私の突然の言葉にマフィアが不思議がる。


「ホラ。セナを追っかけて、『時の門番』に行く途中。“草鞋”で海の上を渡れないか……って私が言ってさ。マフィア、『他の七神の力と併用させれば出来るかも』って……言ってたじゃない? あれ、今、考えらんないかな?」


 するとマフィアは「うーん……」と考え込んだ。


「例えば、どんな?」


と、聞いてきたのはカイト。


「え!? えっと……うん、ホラ。さっき言ったようにさ。マフィアの“草鞋”って森の精霊が居る所でしか使えないんでしょう? この技バージョンアップさせてさ……そうだな。マフィアが作り出した“草鞋”をカイトの水神の力で水面海面をスイスイとか! ……あとそうだなあ、セナの“鎌鼬(かまいたち)”にマフィアの木神の力を加えて……そう、名づけて! “木の葉の舞い”!」


と、握りしめた両手をブルブルと振りかざし興奮気味に力んだ私だった。


 はっ!


 ……っと我に返ると、皆キョトーンと……私を見ていた。


 うげっ。

 私は そのポーズのまま、硬直した。


 汗もタラタラ。


 やっぱりマズッタ……か……な……?


 そうよねそうよね技の併用なんてそう簡単に出来るような代物じゃないしわああどうしようどうしよう言うんじゃなかった言うんじゃなかったワオーン、っと。


 そんな風に一気に思いながら。


 私の顔が お猿のおケツ並みに真っ赤になるのを見てから。


 セナがプッと噴き出した。


 あら?

 ららら?


 すると今度は他の2人も。


 クスクスと笑い出した。


 頭を掻きながら汗を手で拭く。

 ずっと私は しばらく笑われていた。


 ひとしきり笑い終えたセナが言う。


「……変な奴」


 があん!


「……でも、なかなか素晴らしい発想だ」


とパンパンパン……と拍手するカイト。


「“木の葉の舞い”……ね。なかなか いいじゃない」


 ウンウン、と頷くマフィア。


 おや?


 何だかいい雰囲気。


 やったね!


「んじゃ、やってみるか。お前の言う、“水面海面スイスイ”と“木の葉の舞い”ってやつ。……って言っても、両方ココじゃ出来ねえか」


 セナが言うと、マフィアが立ち上がった。


「アラ大丈夫よ。難しいのは両神の力のバランスでしょ。何も いきなり実践じゃなくても できるわよ。ちょっと待ってて。考えたから」


とマフィアは部屋から出て行った。


 残された私達。


 するとセナが話し出した。


「なあカイト。俺の風で お前の水を凍らせてさ、攻撃できないか?」


「凍らす!? へえっ……いいね、それ。面白いよ。やってみようか」


という2人の会話に入り込む私。


「ねえっ、名づけてナニ!? その技っ!」


 内心ワクワクしながら聞くが、2人とも考え込んだまま黙ってしまった。


 どうやら一番の難問は『名前』みたいね……。


 ようし、私も考えようっと。



 マフィアがトタトタと通路を軽く駆けて部屋に戻って来た。


 手には水の入ったガラスコップと。

 小さな紙の束を持っていた。


「どうしたの? コレ……」


「ちょっと借りてきたのよ。さ、やってみましょうか。カイト」


と、マフィアは部屋の中央の床に そのコップを置いた。


「何するつもりなんだ?」


 カイトが首を傾げてマフィアとコップを交互に見る。


「さっきも言ったように、難しいのは両神のバランス。力の加減よ」


 マフィアは紙の束から一枚を取り。

 コップの水面に対して平行に持った。


「私が手を離した時、この紙を水面スレスレで浮かべるのよ。私とカイト両方の力で」


「なるほど……確かにバランスよくしないと紙は水に落ちてしまう。あるいは、見当違いの方向に飛んでいくか。簡単そうに見えて意外と力 使いそうだな」


と、2人は熱心に この『紙を浮かばせよう』訓練を開始した。


 やはり、最初は全然 上手く出来なかった。


 紙がペラペラと震えたり、水に落ちたり。


 よほどの神経を使うのだろう。


 2人とも、何回も何回も やり直した。


 私とセナは、黙って それを見ていた。


「あの紙が木の葉の代わりなのかな?」


「ああ。紙は一応木から出来てるしな。あれぐらいが できないと、実践なんて とんでもないと思うぜ。まだ基本っつー事だ」


という私達の会話なんて、全然耳に入っていない。


 すごい集中力だった。


 しばらく2人を見ていると。


 何やら表の方が騒がしくなった。


 人がバタバタと。


 ……足音をけたたましく立てて部屋の前を通って行く様子が何回も。


「? 何か あったのかな?」


「行ってみるか」


と、私とセナは真剣にコップを見つめている2人を置いて。


 甲板へと出てみる事にした。



 船尾へ出る。


 見ると。


 大ダルの中に子供が一人 入っていて。


 それを取り囲むように船員が何やらワアワアと話し合っていた。


「何か……あったんですか?」


と……私が その場に近寄ってみると。


 いっせいに船員 皆の視線が私に集まった。


 注目を浴びて私は一歩 引きかけたけれど。

 船員の一人が声をかけてくれたおかげで私は気に しなくなった。


「こいつ、無断で船に乗り込んだんですよ」


 はあヤレヤレという顔をして。


 その船員は親指だけを立ててタルに入っている子供を指さした。


 無断で!?


 この子が!?


と……子供の顔を見る。


 髪は肩で切り揃えられ、真っ黒。


 眉もキリッとしていて太め。


 男の子みたいな格好しているけれど。


 男の子かな?

 年は10か、ちょっと下ぐらい。


「全く……ふてえガキだ。荷物の中に紛れ込みやがって。港の奴らもお前らも、しっかりチェックしねえか!」


と、船員の中で一番しっかり していそうで太っている男が。


 他の船員達に声を張り上げ叱りつけた。


 ……シュンとなる一同……。


「罰として、お前ら この後ずっと甲板の掃除! 休憩も無しだ! 働け!」


と言うと、船員達は「げー……」という顔をする。


(かしら)。こいつ、どうすんでスカ?」


 出っ歯で細身の船員が聞いた。


「う、うむ。子供といえど、無断で船に乗り込んだんだ。そうだな……よし、おいガキ。名は?」


と、太くたくましい両腕を組み、鼻息 荒く子供に聞いた。


「リカル」


とだけ子供は答えた。


 ムスッとしている。


「よし、リカル。お前は港に着くまでの間、船でタダ働きしてもらう。まずは こいつらと一緒に甲板の掃除。それから厨房へ行って皿洗いだ! しっかりやれよ!」


と、タルから頭だけを出していたリカルという子の頭の髪をガシガシと かき混ぜた。


 頭と呼ばれた男が手をどけると。


 リカルは髪を乱したままフン、と そっぽを向いた。


 船員の一人が(かん)に障ったのか、食ってかかる。


「お前っ、自分が どういう立場か わかってんのかよ!? 本当なら こんなタルごと海に放りこむ所なんだぜ!? なのに頭が寛大に許してやってんだ! 礼ぐらい言えよ!」


 勢いよく唾を飛ばしながら今にも飛びかかりそうな男を、別の船員が取り押さえた。


 リカルは なおも不服そうなまま、プイとしていた。


「……やればいいんだろ。わかったよ。やるよ。それでいいんだろ?」


と言うと、船員達の表情は ますます曇った。


「何だよ その態度はアアアッ!」


 さっきの男が取り押さえられたままでも。

 さらに興奮して暴れ出していた。


 場は騒然だ。


 何だか とんでもない事になっちゃってるみたいねー。


 一瞬、リカルと私の目が合ったけれど。


 すぐに無視されてしまった。



 リカルは忙しくバタバタと落ち着きの ない船員達に交じって。


 ポツンと隅っこで。


 甲板の床を本人の身長よりも長めの柄のモップで拭いていた。


 時々船員が声をかけると。


 ただただ頷いて返事をしているようだ。


 しばらく その様子を見ていた私だけれど。


 セナは とっとと船室へと戻ってマフィア達と魔法の修業だ。


 ヒマだった私は、そばに立てかけてあった一つのモップを手に取り。


 リカルに近づいた。


「手伝わせて。どうせヒマだから」


と話しかけるが。


 リカルは私の方をチラッと見ただけで。

 また無言で床を拭き始めた。


 構わず、リカルの隣で床をモップで拭き始めてみた。


 そんな様子を見たリカルが、しかめっ面で言った。


「俺、あんたみたいな偽善者 大っ嫌いだ。鬱陶(うっとう)しいから、やめろよ」


 私の方を邪険に。


 最初、キョトンとして「偽善者ですって?」と繰り返した。


「俺はこの船に無断潜入した。その罰を受けた。俺が今やっている事は、当たり前の事だ。何もあんたが手伝わなくったっていい。これは俺の罰だ。邪魔だから、あっち行ってろ」


 目を伏せて私から顔を背けた。


 私に背を向けて、掃除を黙々とするリカル。

 私はモップ片手に まだ突っ立ったままだった。


 そっかー……。


 言われてみれば、そうよね。

 何も私が手伝う事は ない……。


 無断で船に乗った罰を受けているんだもの。

 私が よかれと思ってした事は。

 ただの同情とかになっちゃうんだ。


「……ごめん」


 謝ると、リカルは「もういい」とだけ、言い返してくれた。


「でもさ。何で無断潜入したの?」


と私が聞くと、


「金が無かったからに決まってんだろ」


と返ってきた。


「そっか。なるほど。じゃあさ この船で、何処へ行くつもりだったの?」


「この船はマイ大陸アカナ港行きだろ」


「そうじゃなくて。そこの何処へ行って何をするつもりだったのって事よ」


 するとリカルは手を止めて。

 しばらく黙った後。


「……妹に会いに行くんだ」


と呟いた。


 急に素直に なったもんだから。

 少しだけ驚いてしまう。


「妹!?」と聞き返すと、リカルは続けた。


「俺の双子の妹で、ミクって名前。半年前、両親が別居しちまって俺らは離れ離れに なった。キースの街にミクと母さんが住んでる。まあ、隣の家に知り合いの兄ちゃんが住んでいるから大丈夫だろうけど……ミクの奴、俺が居なきゃ何にも できやしないんだ。だから心配で、様子を見てくるんだ」


と……一気に話し終えると、また手を動かし始める。


 ……およ?


 少し、顔が赤くなっているのは、気のせいか……?


 もしかして……この子。

 実は すっごい照れ屋なんじゃあないの?


 妹思い……なんだろうけれど。


『俺が居なきゃ何にも できやしないんだ』って……実は、自分の事だったりしない? だから船に黙って乗り込んだんじゃないのかな?


 と……そこまで考えると。


 何だかリカルが すっごく可愛らしく見えてきた。


「俺はリカル。あんたは?」


「え? あ、勇気よ」


「フン、変な名前」


 がんっ。


 ……口悪いんだから……。


「勇気。言っとくけど」


「…………何?」



「俺、女だから。こんな格好で こんな言葉遣いだから、よく間違われるんだけど」




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