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第17話(摩利支天の塔・弐)・2


 体が、触れる箇所箇所 全て壊され傷だらけになっていく。


 まるでココで会ったゾンビに なっていくみたいじゃないの!


「やめて……こっち来ないで! あなたもうボロボロじゃない!」


 私は何度でも叫んだ。


 例え言う事を聞いてくれなくても。

 構わないと言わんばかりに絶叫し続けた。


 とにかく叫んだ。


 コントロールが きかない風の刃は止まらない。


「蛍様の命令、だ……」


 紫の声のトーンは。

 さっきと同じ。


「指輪を奪う……そして壊す……」


 奪う。


 壊す。


 以上。


 ただ、それのみ。


 せっかくの整った顔も。


 皮がめくれ木に材質の似たようなものが下地に見え出している。


 いやだ……もう……もう……。


 セナ、たすけて……。



 すると。

 ずっと風を受けていた紫の体が、やがてガクンと姿勢を崩した。


 私も、紫本人もびっくりして下を見る。


 何と、紫の足首後ろに。

 別の風の物質化した刃が刺さっていたのだった。


 別の……。


 飛んできた方向の数メートル先には。


 セナが やっと立ち上がってハアハアと。

 肩で息をついている。


「セナ!」


 私は喜びとも悲しみとも言えない顔をした。


 セナが風で小さな刃を作って、紫の足元に攻撃したんだ!


 そのせいで体勢を崩した紫は。

 ……ガクリと倒れてしばらく動けなくなった。


「へっ……」


 軽く、セナは笑った。

 ざまあみろ、と。


 そして今度は私に向かって目を閉じ言った。


「やっぱ お前すげー変な奴。……魔法、使えねーくせに……」


 変、て。


 私は そんな事 言ってる場合かと言おうかと思ったが止めた。


 途端、私のバリアーはシュルシュルと小さく。

 風は おさまって消えてしまった。


 私はホッ……と安堵の ため息をつく。


「セナ!」


と今度は私、セナの元へと駆け出した。


 セナの そばまで行くと。

「待て」と私を払いのけた。


「トドメをさす」


 私の方を見ず紫を見ていた。

 まだ体の何処かが痛むのか。

 猫背になって片手を自分の前に出す。


 そして倒れて あまり動けない紫に魔法で。

 攻撃を開始しようとした時だった。



「やめてッ! それ以上、傷つけないで!」


と声がしたと同時に。


 ズタボロの紫が倒れている前に両手を広げて立ちはだかった。


 急にその場にフッと現れ姿を見せたのは。

 何とも悲しげな表情をした蛍……。


 しかも意外や意外。

 黒い目からは涙を流していた。


「……蛍……」


 私もセナも息を呑んだ。

 世界で最も珍しいものを見ている気分だった。


「確かに、紫は人形よ。ご覧の通り。でも……でも……」


 蛍は自分のスカートをクシャッと握りしめ俯いた。

 そしてカクッ、と。

 ヒザを落とし床についた。両手で顔を覆う。


「紫が壊れる所なんて見たくないッ……!」


 …………。


 辺りがシンと静まり返る。

 蛍の声は部屋中に響いた。……


「蛍様……」


 紫の、微かな声が聞こえた。


 私の胸に熱いものが こみ上げてきていた。


 蛍は。

 ……この蛍に嘘偽りは、ない。


 蛍は……レイの事も……本当に、本当は……。


 私達の願いはレイとの和解。


 蛍は……。


 私達と……ひょっとしたら……。


 ……。



 ……私の考えなんて。

 おしるこみたいに甘ったるいかもしれない。


 でも。

 でもでも。


 言ってみようと思った。



 救世主として。



「一緒に……行こう、旅に……蛍」



 少し笑顔が こぼれた。


「!?」


「勇気……」


 当たり前だけれど、蛍もセナも驚いた。


 私は紫と蛍と交互に見て。

 声が(かす)れないよう気を配って言葉を続けた。


「あの話……蛍が一人で川を歩いてきた時に言ってた話……レイとの、これまでの思い出の事……それは、本当なんでしょ?」


「……」


 蛍は「どういうつもり?」という顔をずっと し続けたまま。

 私の方をジッと睨んでいた。


 無理もないけれど。


 私は続ける。


「本当はレイの事、大好きなんだよね?」


「なんっ……」


 カアッ! と。

 蛍は顔を赤らめた。

 眉をひそめて。


「私には、蛍の言っていた事が まるまる全部嘘だったとは信じられなかった。何となく、だったけどさ……でも、蛍が元のレイに戻ってって願うなら」


「……」


 徐々に紐をといたように顔を緩ませていく蛍。


 私の一言一言を落ちこぼす事なく拾ってくれているのか。


 私は それが少し嬉しかった。


「私達と一緒に、行動を共にする事が できると思うんだ。レイの説得。本当のレイを、取り戻すため」


「レイ様を裏切れって言うの?」


 蛍が食ってかかる。

 私は気にしない。


「違うって。裏切る、っていうのはさ。気持ち180度変えちゃうって事で……気持ちは変わらなくたっていいじゃない。レイを好きなまんまでさ。ね? そうじゃない?」


 私は蛍に近づいた。


 そして、片手を出して蛍を誘う。


 手をとって、と言いたげに。


「一緒に行こう。ね?」


 私はニコッと笑った。


「……」


 蛍は無言だ。


 迷っているのかもしれない。


 少し視線を落とし背後の負傷した紫をチラリと見て。


 無言のまま力なく黙っていた。


 私は さらに『お願いビーム』でもかけちゃおか、と思った時。


 遠くからバタバタ……と足音めいた音が近くなって聞こえてきた。


 見ると階段の見えた、先行く道の部屋の入り口から。


 まずはマフィア、メノウちゃん、カイト……と、階段を下ってやって来た!


「マフィア達! 無事だったのね!?」


と、私が びっくりして声を上げると。


 3人とも急いで こっちに駆けつけて来た。


「しばらく密室で私達3人とも閉じ込められていたの。で、気がついたらドアの鍵が開いてて……それより、どうしたの?」


 マフィアが蛍達を見て言った。


 言われた蛍はぺタリと床に座り込んで。

 そばの紫の めくれ上がった皮膚に優しく触れていた。


 紫と蛍は見つめ合い。


 やがてキュッと下口唇を噛み、触っていた指を引っ込めた。


 蛍は紫から関心を離して。

 何処でもない下方の宙を見ていた。


 怯えているの……?


 どうしたらいいのか わからなくて……。


 すると。

 天井から ある『声』が降り注ぐ。



『蛍。行きなさい』



 ……え?


 誰?


 私達は首を傾げた。


 聞いた事のない声の主だったからだ。


 少し年のいった、貫禄が あって重みのある声だった。


「紫苑……」


 蛍が『紫苑』と呼んだ。


 仲間?


 天井を見上げ、蛍は弱った顔をする。


『レイ殿には上手く言っておこう。お前は まだ子供だ。救世主の言う通り、気持ち そのままで成長し いずれまた帰ってくるがいい。お前には まだ、行動の是非が判断できない』


「……」


 蛍は素直に聞いている。


 それも そうだけれど。

 この紫苑と呼ばれた男の言う事に私は驚いていた。


 え、いいんですか、紫苑さん。


 敵を、味方に しちゃっても。


 本当に?

 罠じゃない?


 何か自分で誘っといてアレなんですけれどね。


『紫。蛍を頼んだぞ』


 それを最後にプッツリと……天からの声は途絶えた。


「……」


 しばらく皆 静かにしていたんだけれど。


 やがて、紫が沈黙を破って言った。


「わかりました、紫苑様……命を懸けて」


 倒れたまま、天井を見て そう誓う紫の言葉。


「紫……」


 蛍は涙目に なりながら、少し口元が ほころんでいた。


 そして蛍はパタ……と。

 紫の胸元に頭を乗せるようにして、座ったまま倒れた。


「……」


 無残な体に なった紫の上で眠る蛍。

 ……の左右束ねた片方の髪の毛を、絹を扱うように滑らせながら撫でた紫。


「……」


 錯覚かもしれないけれど、口元が微笑んでいた気がした。


「……よっぽど、緊張の糸が張り詰めてたんだろうなあ……」


 セナが光景を見て自分の髪をかき上げる。



 こんな ちっぽけな体で私達に挑戦してきた蛍。


 思えば、塔に来る前は一人で来たんだった。


 それは さすがに不安で仕方なかっただろうな。


 私も子供だけれど……。

 だからかな、蛍の頑張ろうという姿勢には、とっても共感しちゃうんだ。


 私も やらなきゃ、っていう気に させられる。


 何を?


 ……救世主って名前の、お仕事。


 レイの説得だ。


 ……全然アテも自信も ないけれど。


 改めて、やろうという気になったよ。



 寄り添い眠る2人の姿を見つめて。


 蛍はスヤスヤと安心しきった顔で本物の子供らしく。


 ……眠っていた。




《第18話へ続く》





【あとがき(PC版より)】

「おしるこみたいに甘ったるい」発言の後に申し訳ないんですが、次回の話は しょっぱなからメッタ斬りです(ワー;)。

 まだ書いてませんが……斬ります(覚悟)。


 ご感想など評価なしでもアリでもお待ちしています。お気軽にどうぞ。


※本作はブログでも一部だけですが公開しております(挿絵入り)。パソコンじゃないと読みにくいかもしれませんが、よければそちらもチラリと……。

 http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-53.html

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 URLはお手数ですが各コピペなどしてお進みください。


 ありがとうございました。



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