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第2話(救世主、降臨)・1


※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。

 同意した上で お読みください。


※じっくり小説らしく味わいたいパソコン派な方はコチラ↓

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(『七神創話』第2話 PC版へ)



 お前は何者だ――。


 私に言わせてみちゃ、あんたこそ何者だというくらいだ。


 さっきまでゴツゴツとした岩が たくさんの、なんたらいう遺跡の中だった。

 鏡張りの部屋へ落ちて、鏡の一つに触った途端。

 なんと通り抜けて、気がつけば こんな森の中に来てしまった。


 で、今。

 私の目の前に居るイイ男。


 サラサラの 薄紫色の長い毛をサラリと動かしながら、私に近づいて来た。

 私はというと、ただキョトンとして彼……たぶん、を見つめるばかり。

 まるで子供のように……いや、子供なんだけどね、まだ私は。


 しばらくの沈黙を破って。

 彼は右手の人指し指で自分の右頬を指しながら、

「ここ。血が ついてる」

と私に言った。


 は……と、ポカンと口を開く。

 そしてハッと気づき、私は自分の右ほっぺたを、こする。

 さっき触れた生温かいものは、血。


 彼……の後ろには、巨大な動物が横たわっている。

 血だらけで、状況から察するに。

 彼――が、この動物を倒したのだろう。

 よく見ると、彼の服にも少し血が付いている。


「あなたこそ、血が ついてるわよ」


 言うと、彼は「ああコレか」と言って服を払った。


「俺の血じゃない」


 やっぱり男だ。

 自分の事を俺……って言ったから。

 本当に綺麗な顔なんだもの。

 女でも通用しますぜ、旦那。


「あ、あの……ここ、何処ですか?」


 どぎまぎしながら聞いた。

 すると その男は不思議そうに、


「何処って……サークの森だが……。ひょっとして、お前、迷子か?」

と、彼は綺麗な瞳で私を品定めするかのように見た。


 私はといえば、すっかりウロたえてしまう。


「迷子……のようなもんなのかな」


 夢マボロシかと半疑で言いかけた時。


 彼の後ろで転がっていた暗闇の中の巨大な動物。

 見た目ゾウのようでコウモリの翼らしきものが生えている、動物。


 目は赤く血走って、こっちを睨んでいた。


 長い鼻を挟むように2つの巨大な角が生え、そして……巨大な口が。

 口からウオォ……と、これまた大きな叫び声で。

 そして彼に今また襲いかかろうとしていた。


 私はといえば、ただ目を見開き震えるばかり。


 だが彼は一歩も引く事もなく。

 両手を前に構えた。


 何か紫色の淡い光の塊を作り出し、ブツブツと何かを唱えていた。


 巨大な動物の前足が彼を踏みつぶそうと、迫って来た。


「危ない!」と叫んだ。

 しかし彼は動じる事もせず、両手を その動物の前に突き出した。



「“鎌鼬(かまいたち)”!」



 叫ぶと、淡い光の塊は動物へ向かって大きくなっていって放たれた。


 光の塊が動物の全体を包み込むようにして覆う。

 曲刀のような刃が次々と現れ、次々と動物の体を切り刻んでいった。


 血が飛び出し、その場に倒れた。

 しばらくピクピクとしていたが、やがて それも なくなった。

 完全に息絶えてしまったようだ。


「ひ、ひどい……」


 私が言うと、彼は髪を風に なびかせ吐き捨てるように言った。

 

「でも やらなきゃ、こっちが やられる」


 私は腰が抜けて立てない。

 しかし彼は、そんな私を置いてサッサと行こうとしたではないか。


「ま、待って。置いていかないで」

 私は這うようにして彼を引き止めた。

 良いように利用されたあげく、捨てられてしまったカミさんのような心境だ。


「何だ。何か用か。……早く そいつから離れた方がいいぜ。野鳥の……そうだな、ここいらならルビーカラスでも血の匂いを嗅ぎつけて、群がってくるぜ」


と……そいつとは、さっき倒した巨大生物だ……を、視線で指した。


「そんな事言われたって……腰が抜けて、立てないの」


 精一杯の同情を誘う目で見つめた。

 彼は、やれやれといった表情で私を おんぶして その場から離れた。



 ひゃーー……。

 何かドキドキしたね。

 男の人の背中に おんぶしてもらうなんて。

 しかも、こんな綺麗な お方。

 たぶん一生で一度きりかも。


 香水のような香りがした。

 それで心臓の高鳴りは激しくなって、気がつきゃしないかとビクビクしていた。


 さっきの場所から数百メートル行った所で、彼は私を下ろした。


「あ、ありがとう」

と私は とりあえず お礼を言った。


「あんた軽いな。体重いくつ?」

と真顔で聞くから。


 こっちは超しかめ面で、

「女の子に それはタブーでしょ」と言ってやった。


 彼は「それもそうだな」と言いながら、また 何処かへ行こうとした。

 私は慌てて「何処に行くの」と聞く。


「焚き木集めてくる。今日中に森を抜けるのは無理だしな。あんた、そこで待ってろ」


 彼は自分の白い上着を脱いで、私に放り投げた。

 そしてサッサとどこかへ行ってしまった。


 ぽつんと取り残された私。

 何か異様に寒いな、と思ったら。


 私の服は びっしょりと濡れていた。


 さっき こっちに来る前、雨の中を走ったからだ。

 しかも服はパジャマ。

 薄着。寒いはずじゃないか……。


 一回寒いと思うと、何だか どんどん寒くなってきた。

 彼……焚き木集めてくるって言ってたな。

 焚き火するって、事なのね。

 もしかしたら私、濡れてたし。

 暖めてやろうって思ってくれたのかも。


 あの人……いい人だな。

 さっき彼が投げた上着を着て、少し顔を赤らめた。




 ……遅い。


 遅い気がする……。


 私は ヤあ〜な事ばっかり考え出した。

 もし、このまま帰って来なかったら?


 ……私一人この森に取り残されて。

 こんな訳が わからない世界で怯えて。

 そして……さっきみたいな変な動物に喰い殺されたりして。


 さーー……っと、血の気が引いた。


 嘘でしょ嘘でしょと、パニくってしまう。


 そしてついに私は、さっきの彼の後を追いかけようと立ち上がって動いた。


 その時。

 ちょうど戻って来た彼と ぶつかった。


「何だ。何処へ行く。待ってろって言っただろう」


 両手いっぱいの焚き木を下へ全部置きながら顔を見た。


「だって……怖かったんだもん」


 私はシュンとして小さくなった。

 彼はフーっと少し ため息をついて、私を「座れ」と言って促した。


 彼が鮮やかに火をつけた後。


「俺の服、貸してやる。早く着替えろ」


と言って、彼は左の上ひじにつけた腕輪から服を取り出した。


 何かこう……ドラ○もんの四次元ポケットからみたいに。

 私が物珍しそうに見るもんで、彼は ちょっと首を傾げた。


「縮小自在ポケット……知らないのか? 変わった奴だな」


 服を私に渡す。


 私は それを持って、木陰へ移動した。

 着替えるために。

 ちらりと横目で彼を見て、「覗かないでね」と言うと「子供にゃ興味ないよ」と言って、さも面白そうに私を見た。


「ああそうですか。すみませんねえ、まなイタで!」と、私は怒り顔。


 ちょっとブカブカの赤いトレーナーと、黒いスパッツ。

 結構 暖かい。

 トレーナーの裏の毛は、手触りが違う。

 何の毛なんだろう?


 私が着替えて戻ると、彼は夕飯の用意をしていた。


 焚き火の横に、どこから捕ってきたのか鳥を丸裸にしたものを2羽程、こんがり焼いていた。


 隣には鍋だ。

 鍋でスープを炊いている。

 たった あれだけの時間で、なんて素早いんだろうと感心した。


 しかも鍋なんて……例の“縮小自在ポケット”ってやつから取り出したの?


「服貸せ。乾かすから」


 手を さしのべたので、私はパジャマを渡した。

 彼は また素早く、立てた木の棒に広げてかけた。


 彼が用意した夕飯を ご馳走になって、2人とも ぼおっとしていた時。

 ふいに彼が自己紹介をした。


「俺はセナ。理由あって旅をしている。あんたは?」


「私は松波勇気。勇気って呼んで。私は……」


 行き詰まった。

 こっちの世界に来た、違う世界の人間だと言って信じてもらえるだろうか?


 いや、たぶん信じてくれない。

 だって、私だって半信半疑なんだもの。


 でも明らかに、私の知っている世界とは違う。

 さっきの巨大な動物なんて見た事も無いし。

 縮小自在ポケットなんてドラ○もんの世界でないか。


 これは、あの遺跡の中の鏡を通り抜けたせいで、こっちのワンダーワールドへ来てしまったと解釈するのが普通だろう。


 としたら一体、どうやって帰るんだっ!?


「勇気。お前……何で あそこに 居たんだ? というか、何で現れたんだ?」


と、セナは よくわからない事を言い出した。


「俺が戦っている最中、ものすごい光が現れたんだ。まぶしくて目を閉じて、開けたら お前が ちょこんと倒れてた。一体あの光は何だ? どうやって あの場所へ現れた?」


 そう言われても……と、私は困ってしまった。


 ううん。話すべきだ。

 だって彼以外、私には誰も いないんだもん。

 事情を全部説明して、味方についてくれた方がいい。


 私は そう納得して、彼に洗いざらい全部を説明した。




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