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第16話(摩利支天の塔・壱)・2


「“刺青(いれずみ)”!」


 セナが そう言った瞬間。


 ……突如 私の真ん前で風がクルクルと巻き起こった。


「え?」と薄目で開けると。


 何と風が物質化して鎖みたいに なった。


 で、向かって来たゾンビにグルグルと巻きついていく! ……


 セナの人差し指が、字を描いた。


「“(ざん)”!」


と唱えると、その鎖は みるみる細くなって糸のように変化しゾンビの体を締めつけた。


 やがて肉も骨も。


 ……糸で締め切り刻まれた。


「ゴガァッ!」


と、悲鳴を上げてバラバラになった体。


 うえっ……。


 気持ち悪い……。


 私は慌てて手で目を隠そうとすると。


「今だ! 早く!」とセナに急に腕を引っ張られた。


 そして その場からササササと走り去る。

 ゾンビから遠ざかっていった。


 私は「え? 何で?」と頭の中がグ〜ルグル。


「ゴーストタイプの敵は、やっつけられない。元が死んでいるからな。聖魔法や火魔法が使えりゃいいんだけど。あいにく、風神なもんで」


と、ぺロっと舌を出した。


「はあ、なるほど……」


と、私は走りながら感心していたんだけれど。


 何だろう……?

 セナの機嫌が良くなったような気が。



 ある程度 走った後。

 やっと立ち止まった。


 はーはーと息をつかせていると。

 セナがこっちをチラッと見た。


「な、何よ?」


と見ると、突然セナはニカッ! と笑ったではないか。


 そして今度は、くっくっくっとお腹を抱えて笑い出す。


 なっ、何!?


「お前、本っ当に変な奴」


「はああ!?」


 セナの言いたい事が わからない。


 でも何か、すっごいヤな感じ!


「何よっ、私、何かした!? あ……もしかして私、絶叫しまくったから? そうよねー、今まで色んな魔物とか死体とか見てきているのに今さらキャーキャー言ってガタガタ震えちゃって情けなかったよねー。でも、本当に怖かったんだからっ! ゾンビなんて見たの初めてで、しかも あの手で足 掴まれたんだよ!? あ〜、気持ち悪いッ! 思い出したくないッ!」


と、一人でペチャクチャしゃべりまくり。


 その場で飛んだり跳ねたり。


 しかしセナは まだ堪えきれずに笑っている。

 時々、私の方を見てはブッ、と吹き出す。


 何か訳わかんない。

 私の言った事、違うの?

 じゃあ何よー!?


「ちょっと……いい加減に不愉快よ! 教えなさいよ!」


と、私はキレてセナの胸ぐらを掴んだ。


 まだ ちょっと笑っているセナは、やがてこう言い放った。


「まだ、クマさんとかゾウさんとかなら わかるけど……ブタさんは ねーだろ、ブタさんはっ!」


 ……そう言うと、またお腹を抱えて笑い出した。


「ブタさん……?」


 何の事か わからなかったけれど。

 ハッと気がついて、スカートを隠した。


「ばっ……! ぱ、ぱんつ! 見たでしょおーっ!?」


と、超赤面で叫ぶと。


 セナは今度は壁を叩いて笑い続けた。




 信じらんないっ。


 こんの くそばかっ!


「なあ。悪かったって。機嫌直せよ」


「知らないっ!」


と、前を先に歩きながら そっぽを向く私。


 セナはヤレヤレと頭を掻いた。


「言っとくけど。あれは事故だぜ? 事・故! たまたま風が起きた時に、お前のスカートがめくれちゃったv だけ」


「めくれちゃったv じゃ、ないっての! そーいうのって、見て見ぬふりするもんでしょー!」


「だって、まさかブタの絵が描いてあるとは思わねえじゃねーか。第一、そんな短いスカート履いてっから悪い」


「この服 買ったのアンタでしょ!?」


「それもそうだな」


「まったく! 信じらんない! 何であんな技、使ったのよー!」


「おいおい。“刺青”は初めて使った技だけど、あのくらいの規模じゃねーと大変だぞ」


「他に“鎌鼬”とか“疾風”とか……“風車”なんてのもあったじゃない!」


「こんな狭い所で そんな強力な風 起こせねーの! “鎌鼬”なんかバンバン使ってみいっ。ゾンビの肉片が あっちこっちに飛んで来るぜ? しかもピクピク動いて、再生 始めやがんの」


 そう言われて、またさっきの恐怖が蘇ってきた。

 掴まれた足首の感触……。


「気持ち悪い……」


「だろ? “刺青”は小規模で、また実用価値のある技なんだ。いや、実はコレ森で一晩 考えてたやつで。思ったよりも上手くいってよかった」


 ああ、座禅組んで考えていたやつか。


 そっか。

 そうだったんだ。


 ちょっと悲しかったけれど(ダメージ5万くらい)。

 上手くいってよかったね……。


「………………ちょっと待って。さっき、初めて使った、って言わなかった?」


 私が聞く。

 セナは「言った」と素直に答えた。


「って事は、つまり? ……成功するかも わからない、賭け攻撃だったってわけ!?」


「ま、そういう事だな」


「……! 信じらんない……! もし失敗したら、どうするつもり!?」


「何とかなるって」


「……」


 死ぬと思う。


 ゾンビに抱きつかれて血を吸われるさまを思い描いた。


 あ、そりゃ吸血鬼かあ。



 あれ、そういえば。


 ゾンビぱんつ事件が きっかけで。

 セナの機嫌が すこぶる よくなったような。


 それまでは あんなにピリピリしていたのにさ。


 ま、いっか。

 ショックだったけれど。

 不幸中の幸いっていうの?


 セナが元気になってくれてよかった。


 そう思っておけば、私の心の傷も癒されるわ……はは。


「ねえ。ちゃんと道あってるよね?」


と、元気を取り戻してバッと振り向いた。


 すると。


 セナではなく。

 別の顔が あった。


「きっ……」


 魚人。


 魚を正面から見たような顔。


 体は古代人みたいな格好の服を着た人間だ。


 裂けた口とギョロ目。

 ニヤ、っと笑ったから たまらない。


「きゃああああああ!」


「勇気!」


と、セナが魚人の背後から、組んだ両手を振り下ろし思いきりブン殴った。


 不意を突かれて私の方へと倒れてきた魚人。

 慌てて私は避ける。

 壁際で魚人は うつ伏せになって動かなくなった。


「びっ、びっ、びっ、びっくりしたああ!」


 高鳴る胸の鼓動を抑える。


「いやぁ、危なかったな。こっちの横道から来たみたいだったぜ。なんせ、お前 怒ってズカズカ行っちまうんだもん。わかってる? ココが どれだけ危険なダンジョンか」


「わかってるわよっ。セナは風で護ってくれたらいいでしょっ」


 何て言い草だろうかと思いながら。


「んな事言ったって。誰かさんは怒るじゃないか」


「うっ……。と、時と場合によるじゃない」


 言い合いが続く。


 すると、倒れていたはずのさっきの魚人がムクリと起きた。


 しかし、私もセナも横の魚人には気がついていない。


 構わず、言い合いは続いている。


「あのなあ。事故だって言ったろ。忘れろよもう」


「うるさあい! こんの、女顔!」


と、私は言ってはいけない禁句を。


 爆弾のスイッチを押してしまったようだ。


 セナは怒った。


「うるせー! ブタのぱんつ!」


「な、なんですってぇ!? 放っといてよ、女男!」


「ブタのぱんつ! ブタのぱんつ! ブタのぱんつ! ブタのぱんつ顔! ブタぱん!」


 私の血管がブチブチと音を立てた。


「な、な、な、何よォーーーーーーッ!」


と、私は鋭いパンチを壁に向かって叩きつけたつもりだった。


 しかし、ブニッと柔らかい感触が伝わった。


 ドゴッ。


「へっ!?」


と、目をパチクリさせて見ると。


 壁に叩きつけられていたのは。


 倒れていたはずの、魚人。


 私の たまたま突き出したパンチが彼の顔に見事ヒットし。

 そのまま のびちゃった。


「ヒュー♪ やるぅ」


と……セナがパチパチと拍手していた。


 ……セナに教えられた大砲パンチが、こんな所で役に立つとは。




 そんな2人のやりとりを、水晶玉で見ていた蛍達。


「……ふん。やるじゃない。これなら、ココまで来るわね」


と、面白くなさそうに呟き少し元気を失くす蛍。


 すると黙っていた紫苑が口を開いた。


「蛍。あの救世主が している指輪……あれを壊しなさい」


 驚いて、紫苑の顔を見る。


「指輪ですって!?」


 蛍は考えた。


(そう言えば、あの丘での一戦……。あのエネルギーは、手の方へ集まっていた気がするわ。だとしたら……あの指輪のせいってわけ!? 救世主の力だと思ってたけど……)


 少し身震いした。


 本当に恐ろしかった。

 思い出すたびに こうだった。


「一体 何なわけ、あの指輪」


「恐らくあれは……七神鏡の一部。憶測だが……きっと あれは風神のものだ。風神が救世主に与えたんだろう。彼の指のものと救世主のしている指輪が同じに見えるからな」


と、水晶玉を見て言った。


「七神鏡? そんな。あれは そう簡単に姿を変えられる代物じゃないってレイ様が。何でも、傷一つつけるだけで すごい痛みが走るって」


 だがセナの指を見て。

 紫苑の言った事が確信に変わる蛍。


「まあいいわ。あれが七神鏡だとすると……そっか。救世主が している指輪……あれを壊せば、風神も痛みで のたうちまわるわ。指輪を失くした救世主も、ただの人間になる」


 勝利の道が切り開かれた気分だった。


「聞いた? 紫。救世主の指輪を狙うのよ。そして壊しなさい! 苦しんでる風神にトドメをさして、救世主を殺すのよ!」


 蛍は水晶玉を通して紫に呼びかけた。



 一方……死んだと言われていた紫は。


 違う部屋に一人で立ちはだかっていた。

 最上階へ続く階段のある部屋の、一つ手前の部屋で。


「……」


 彼は黙って、足音の大きくなる向こう側を見ていた。


 やがてその通りに、2人の影が姿を現す……。



「やっぱ生きてやがった。……こいつを倒せってか。面白れー。2度目だな」



 フンと笑った……セナが登場。


 待ち構えていた紫を見て、鼻を鳴らす。

「セナ……」と背後から心配する勇気を見て、


「隅に行ってろ」


と促した。


「格闘戦と いこうぜ。なあ? 幻遊師の人形め!」


 思えば、紫とは2度目のバトル。

 前は圧倒的に紫の方が強かった。

 


 セナも、それはよく わかっている。




《第17話へ続く》






【あとがき】

 こんな話を暴露してもいいものかわかりませんが、以前勇気達が買い物をした時にカットした文があります。

「勇気は、下着を買った」……だって困るじゃないか実際。

 ……そんな裏話……。


 失礼いたしました(汗)。 


 ご感想など評価なしでもアリでもお待ちしています。お気軽にどうぞ。


※本作はブログでも一部だけですが公開しております(挿絵入り)。パソコンじゃないと読みにくいかもしれませんが、よければそちらもチラリと……。

 http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-52.html

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 URLはお手数ですがコピペなどしてお進みください。


 ありがとうございました。



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