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第15話(蛍の逃亡)・2


 セナはガックリ! と肩を落とした。

 ついでに地図も落とした。


 マフィアが それを拾って見る。


「アラ? ほんとだ。ノジタ国の南口から出て南へ歩いてたのに……いつの間に東へ それてたんだろ? コンサイド大陸に森は一つだけよね。って事は どう見ても、この『ルッダの森』ね」


と、見ながら現在位置の確認。


 キョロキョロと辺りを見回し始め。

 何処かを指さした。


「あ……あれが塔ね。『摩利支天(まりしてん)の塔』か。あれを目印にして、方向と距離を推測すると……」


「推測すると?」


と、身を乗り出した私に後ろからポカッとセナのゲンコツが きた。


「迷ったって事だ!」


と怒っている。


 ひーん。


「大丈夫よ。あの塔を目印にしてココから真っ直ぐ右へ行けばタミダナの街に着くと思うわ」


と、正しいルートを指示するマフィア。


「ったくもー」


 なおもブチブチ言うセナ。


「イヤな予感はあったんだよな」


 ううう……カイトも私を責める。


「お姉ちゃんのドジ〜」


とメノウちゃんまで。


 皆から責められ、小さくなる私。

 もちろん地図は取り上げられ先頭はマフィアが進む事に。


 マフィア、私、セナ、それからメノウちゃんとカイト。

 再び森の中を歩き出した。


 何て情けないんだろう。

 ……ちゃんと地図を見てたっていうのに。


 先頭に立って歩くんじゃなかった……。


 後悔あとをにごさず。

 ……あれ?

 違う。

 まあいいや。


 森の茂みをかき分け歩いているもんだから。

 あちこち擦り傷だらけ。


「あ。川だ」


と、先頭のマフィアが言った。


 後に続いて そこへ行くと。


 確かに小さな川があった。

 幅は5メートルくらいかな。


 キラキラと日の光に輝きながら流れている。


「ちょうどいいわね。この辺りで ひと休みしましょ」


というマフィアの提案により、ランチする事にした。


 マフィアはセナの持っていた鍋(例の『縮小自在ポケット』から取り出した)で、山菜鍋を作り始めた。


 セナやカイト達は他に食べられそうなものを探しに。

 ついでに焚き木も。


 私は水くみ係になって、入れ物を持って川へ行った。


 川の水の冷たさが疲れた手足をヒンヤリとさせて、癒してくれる。


 アクシデントあり、だったけれど。

 何とか先へ進めそうでホッとした。


 マフィアみたいにもっとしっかりしなきゃね……トホホホホ。


「よし、っと」


 バケツ位の大きさの器に。

 いっぱいの水をくんで、来た道を戻ろうとした。


 その時。


「あれは……」


と、水の流れてくる川上の方を見た。


 バシャ、バシャと音がする。

 誰かが近づいて来る?


 よくハッキリと見えないんだけれど。

 誰かが川沿いに歩いて来るようだ。


 しばらく様子を見ていると。


 ……段々と姿が わかってきた。


 誰かと思えば!


「げ、幻遊師、蛍!?」


 私は びっくりして大口を開けた。


 よくよく見たら、体の至る所にカスリ傷。

 血は出ていないけれど。


 一体何が あったんだ!?


 しかも、一人だけ。

 連れの紫は居ない。


 私の元まで辿り着き。

 そのままヨロヨロと倒れそうに。


 思わず私は蛍の体を受け止めてしまった。


 ただ事じゃない。


 誰かに襲われでもしたのだろうか。


「私……レイ様の元から逃げてきたの。この前の失敗で、殺されそうになって……」


 そう言った後。

 パッタリと気絶してしまった。



 セナ達を呼びに行って。

 とにかくマフィアが昼ご飯を用意している場まで蛍を運んだ。


 見るからに蛍は衣服ごとボロボロだったけれど。


 一つ一つは軽傷だ。

 たいしたケガでは なかった。


 私達はこの展開をどうすべきなのか、話し合っていた。


 するとやがて、蛍は目を覚ます。


「あ、起きたみたいね」


と、マフィアは起き上がった蛍に山菜の入った鍋から具をよそい。


 お椀に入れてハイどうぞと渡してあげた。


 お腹は すいていたみたいね。


 蛍は黙って。

 お椀を受け取って ゆっくりと温かそうに食べ始めた。


 もちろん私達も一緒に食べている。


 そしてキレイに鍋の中はカラッポ。

 さすがマフィアの料理だと、いつも感心する。


「あんた達ってノンキね。敵が そばに居るっていうのに」


と、蛍は食べ終わった後。


 いつもの意地悪っぽい調子で笑う。


「こいつが伝染(うつ)ったんだろ」


とセナは箸で私をさした。


 私は何も言えません。


「そういえば紫は? いつも一緒に居るじゃん」


というセナの質問に、グッと詰まる蛍。


 そしてポツポツと語り出した。


「紫は……レイ様に殺されたわ」


「……!」


「レイ様は……狂ってしまわれたわ。私達 四師衆をお作りになった時は、あんなにお優しかったのに……」


 私達は静かに聞いていた。


 皆、どうやって答えたらいいのか迷っていると思う。


 私は。始め紫の事を聞いて衝撃も受けたが。


 そういえばレイはどうやって蛍を含む四師衆を作ったんだろうかと。

 ちょっと横道に それて考えていた。


 まあレイは闇神だし魔力も強いらしいから。

 何とか どうやってかして作ったんだろうけれど。


 まさか ただの趣味じゃあるまい。


 ……ダメだ、そんな風に考えちゃ。


 いかんいかん。


「私は最後に作られたんだけど……最初は、まだ何も。何の力も満足に無かった。失敗作なんだって思ってたわ……でも。レイ様は。そんな私に色々な術を教えて下さったの。私が こうして術を使えるようになってきて……レイ様は とても喜んで下さっていたわ。なのに……なのになのに!」


 顔を伏せて うずくまった。


 信じられないものを見ているような顔をしていた私達だけれど。

 徐々に じんわりと胸が熱くなってきていた。


(そうか……まだ この子は子供だったんだっけ。まだ小さいのに……レイのために、頑張ってたんだろうなぁ)


 蛍の親はレイなんだ、いわば。


 そのレイの元から逃げてきたんだ。


 大事な紫を亡くして……。


 私には蛍が身寄りのない孤独な少女に見えた。


 うん……敵とか味方とか。

 この際 関係 無いよね!


「私達と一緒に行こうよ! そしていつかレイの所へ説得しに行こ!」


という私の意見に、皆は驚いたが。


 すぐに賛成してくれた。


「レイは悪い奴じゃない。本当は悪い奴じゃ無いんだ……きっと気がつくさ。自分のしている事に」


と、セナ。


「……話せば わかる奴かもしれないしね」


と、マフィア。


「よく わかんないけど。とりあえず そうしたら?」


と、カイト。


「むにゃむにゃ……ローストチキン……」


と、そばで昼寝をしていたメノウちゃん。


 あんまりタイミングがいいもんだから。

 どっと笑いが起こる。


 蛍も いつもの意地悪っぽさは無く。

 普通の子供みたいに笑っていた。



 日が暮れた頃。


 まだ私達は森の中に居た。


 地図で確認しながら。


 なおかつ あの目立つ塔を目印にしながら進んでいるのに。


 いっこうに森の終わる気配が なかった。


「変ね……何だか、同じ所をグルグルと回っているみたい。塔と逆方向に ちゃんと進んでいるっていうのに。これは、もしかしたら……」


「魔物の仕業か?」


「……かもね。あるいは この森全体に魔力が かかっているのかも」


と、マフィアは考える。


 マフィアとセナの会話を黙って聞いていた私は、ちょっぴりホッとした。


 だって私が方向音痴じゃなかったって事になるもんねー。


 そうよ、魔物よ。

 この森で迷ったのは、魔の力なのよー!


「とにかく今日中に抜け出すのは無理そうね。ココいらで野宿だわ」


 さっそく、夕飯の準備を始める私達だった。



 夕飯を終え、皆は寝入った。

 グッスリ朝まで眠れるだろうと思っていたが。


 少し眠った後に私は何故だかパッチリ目が覚めてしまう。


 変な時間に目が覚めちゃったなーと。

 横をチラリと見ると。


 一番向こう端で寝ていたはずのセナの姿が無かった。


(あれ……? セナ?)


 起き上がって、少し辺りを捜してみた。


 すると向こうで人影が見えたので行ってみると。



 やっぱりセナだった。




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