第14話(幻遊の間)・1
※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。
同意した上で お読みください。
※じっくり小説らしく味わいたいパソコン派な方はコチラ↓
http://ncode.syosetu.com/n9922c/14.html
(『七神創話』第14話 PC版へ)
暗闇の部屋には。
背もたれの出来る大きめの椅子と。
……氷づけの少女。
美しい金髪と整った気品あふれる顔立ち。
例えるなら、フランス人形だった。
名を、ハルカという。
たまにレイは この部屋を訪れ、どっかりと椅子に腰かける。
そして目の前のガラス細工の如き人間。
……氷づけのハルカを見つめるのだ。
それから、ゆっくりと仮眠をとる。
今日も いつもと同じ、少しだけ仮眠をとった後。
部屋を静かに出て行った。
(レイ……)
と、ハルカは心の中から語りかけた。
氷づけのため、目も口も手も足も動かせないでいる。
しかし心の目で見ているのだ。
(そばに居て……あなたが そばに居てくれるなら、私、このままでも構わないから……)
心の中に ある景色が映る。
レイとハルカと……楽しげに。
おしゃべりをしている姿が。
レイが監獄に居た頃の2人の姿だった。
「これで青龍復活に一歩また近づいたわけね。ふふっ、救世主……サークの森では とんだ恥さらしちゃったけど。一体あれから どうしたのかしら?」
と、王座の前の台に飾られた魔神具の一つ。
……水神の秘宝と呼ばれ、メノウの魂を使い奪った……『魔道経』を見ながら。
蛍は横に居る紫に話しかけた。
ボロボロの巻き物。
……中身は固く封印され。
結ばれた藍色の紐の上に札が貼られている。
コレには。
四神鏡の力を復活させるための呪文が書かれているのだという。
しかし、青龍復活に必要な四神鏡は、まだ一つも見つからないでいた。
それもそのはず。
四神鏡は一枚ずつ世界中に散らばっている。
しかも鏡があるのは人間の体の中なのだ。
即ち、世界中の人間の中から鏡を持つ人間を見つけねばならない。
非常に見つけるのが難しい。
そこでレイは。
四神鏡を持っているか持っていないのかを判別するための道具を何処からか持ってきた。
……これがあのライホーン村人を斬り刻みまくった もう一つの魔神具。
『邪尾刀』で ある。
コレのおかげで。
わざわざ死体を心臓から内臓からバラバラにして調べる必要が なくなったのだった。
だが一つ欠点がある。
あまりに長時間使い続けると、すぐ錆びてしまう。
そのため村一つ、街一つずつが限界だった。
使い終わった後は四師衆の一人――
レイの側近、さくらの術を使い錆びないようにする。
コレを繰り返し行うのだから、相当な時間を用するのだ。
レイはイラついていた。
そのイラつきを抑えるため、ハルカの居る部屋へ行き落ち着かせるのだ。
不思議と、騒ぐ心はハルカの前では おさまるからと……。
「救世主は、ノジタ国に居たと さっき鶲様が漏らしていました。どうやら七神を集める旅に出ているようです」
と、紫は蛍に返した。
「だーかーらっ! 紫ってば。あんな奴、鶲様なんて呼ばなくてもいいわよ。呼び捨てで充分でしょ。ああムシズが走る……」
蛍は そういって腕をさする。
鳥肌を撫でた。
「救世主はノジタ国か……」
と呟くと、背後からコツコツと足音が聞こえてきた。
振り返って見るとレイだった。
「救世主……さァどう動く? たっぷりと楽しませてもらうぜ」
と言ったかと思うとクックッと笑い出した。
やがて その声は段々と大きくなり。
しまいには高らかに笑い出した。
「ハハハハハ!」
と、笑い続けるレイに蛍は尋ねた。
「レイ様、あいつらを放っておくんですか? 今のうちに殺してしまった方が……」
するとレイは、ピタリと笑うのを止めた。
そして『魔道経』に そっと触れる。
「いや。四神復活は確実に近づいている。もがく ねずみを見ているというのも面白い」
「しかし! ねずみでも猫を噛むという事は あります!」
蛍が なおも意見し続けると。
レイはチラリと蛍を見た。
メガネのズレをカチャリと直して、
「……安心しろ。噛まれたら……百倍にして返す」
と……不気味に目を光らせた。
言った後。
蛍は口唇を噛んでギュッとスカートを握り締めた。
(レイ様は狂っておられるわ……)
俯いた。
床に自分の歪んだ顔が浮かんだ。
レイの表情は明らかに前とは違っていた。
前は あんなに気味の悪い……蛍さえも脅かすような顔は しなかった。
青龍復活が近づいてくる事で。
どんどんと天神への復讐心が蘇ってきたのか。
それとも、青龍復活の欲望に心奪われているのか……。
(やはり出る芽は摘んでおくべきなのよ。砂利や雑草といえど少しでも危険な存在なら……)
と蛍は考え込み、
「紫!」
と紫を呼んだ。
「はい」
と紫は呼ばれて返事をした。
天神の神子騒動から2日後。
神子様の言った通り。
魂の戻ったメノウちゃんは目を覚ました。
鶲の策略で罠にハマッたメノウちゃん。
何と七神の一人・水神であるカイトの たった一人の妹。
代々家に伝わってきた『水神の秘宝』。
実はコレ青龍復活に必要なアイテムだったのだ!
それを狙って、鶲が やって来たというわけ。
「ン……」
と、ベッドに寝かされたメノウちゃんが目を覚ました時。
カイトは笑顔で それを迎えいれた。
「おはよう、メノウ!」
メノウちゃんはパチクリとカイトを見た。
「……メノウ、何か長い夢を見ていたの。悪い奴が居てね……」
とメノウちゃんは目をこすって大あくびをした。
カイトは頭をポンポンと叩く。
「そうか。でも それは全部夢だよ。さ、朝食出来てるぞ」
カイトの言葉に、「うん!」と反応。
ベッドから飛び出して走り出したメノウちゃん。
すると ちょうど部屋に入ってきた私と ぶつかった。
「……? お姉ちゃん、だあれ?」
とメノウちゃんは私を見上げた。
目が輝き、元気で生命力 溢れる普通の子供の顔だった。
「お兄ちゃんの友達。遊びに来てるんだよ」
と、後ろでカイトは説明した。
メノウちゃんは「フウン……」と首を傾げて、
「お姉ちゃんの お名前は?」
と聞いてきた。
もちろん私はニッコリとして「勇気。勇気って呼んでね」と言う。
「勇気お姉ちゃん! ご飯食べた? お兄ちゃんの料理、おいしーんだよ。いい奥さんに なれるよね」
「……」
「……」
私もカイトも、後で大爆笑してしまった。
「君らには すごーく感謝しているよ! どーぞ この家に泊まってってくれ。メノウもあんなに喜んでたし!」
というカイトの強い希望もあり。
私達は お言葉に甘えココで何泊かする事に。
あ、ココは『人形の館』の奥の部屋。
ココはカイトの店なんだって。
人形作りが好きで、店にある人形は全部 彼が作ったそうだ。
富豪の家に生まれ、生活は とっても裕福なんだって。
だから自分の好きな仕事に就いて。
こうやって人形を飾って売ってるんだとか。
あまり売れないけれど、生活に支障は ない。
自分の好きな事をやっているんだって。
要するに、金持ちの道楽?
「そうだなぁ……確かに、何不自由なく暮らしていたから他人から見たら すごく嫌な感じかもしれない。でもさぁ、俺 人形作りに手は抜かない。一応苦労も してるつもりだ」
カイトは毎日一体ずつ人形を作っているらしい。
でも一日一体のペースに なるまで。
様々な苦労や修業が あったという。
人形を作る。
……そんなに簡単に出来るもので ないんだね。
店に飾られている人形達を見た。
フランス人形、ほか西洋人形、民族衣装を着た人形、日本人形、ネジ巻き人形。
目が動いたり、口が開いたり。
からくり人形なんてのも ある。
ぬいぐるみも ある。
ふわふわ、だぶだぶ、ふにゃふにゃ。
コレを全部 一人で作ったんだね。
まだ18歳だっていうし。
……まだ若いのに すごいや(私の方が年下だけどさ)。
『人形の館』の そばにあるプレハブ小屋のような建物の中で。
カイトは今日もカーンカーンと音をさせながら人形を作っている。
横で ちょこんと座って様子を見ていた私。
「私が居て気が散ったりしない?」
「別にぃ。俺、集中したら周りの事 見えないし。あんたの事は石像だとでも思ってるから。あ、石像というよりタヌキの置き物って感じかな」
「たっ……」
……悪かったわね、と小さな声で呟いた。
「あんた、救世主なんだよなぁ」
「え? うん、そうだけど」
「やっぱし、俺も旅に参加するんだろうね。あの伝説どーりに」