表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/161

第13話(魔の根源)・3


 俺が あの“七神創話伝”の中の七神のうちの一つ。

 闇神の力を受け継いだ者ですか。


 そして俺はそれに気がつかずに。

 自らの魔力を磨いていたというのですか。


 それが人間を殺す結果になったというのですか。


 俺は……。


「レイ。落ち着きなさい」


 神子は自分自身を滅茶苦茶にしているレイに。

 いつも通りの冷静な口ぶりで なだめた。


「はい……すみません、俺とした事が……」


 レイは深呼吸をした。


 レイが こんなに動揺するのを見るのは、恐らく神子が初めてだっただろう。

 いつもなら感情など表に出さず、クールに過ごしているのに。


 初めて知った自分に隠された、奥底の力。

 今、彼の心を侵している。

 だが信じているものが あった。


 天神様。


 こんな俺でも、構わない。

 俺にはココ以外、行く所など無い。

 全てを置いてきた。

 俺はココに全てを賭けた。


 天神様なら。

 こんな俺でもココに置いて下さるはずだ。



 そう、信じていた。



 ……



「あんたは、弱りきったレイに、さらに追い討ちをかけたんだよ」


と鶲は神子の顔を睨んだ。


 そしてフンと鼻を鳴らす。


 しかし神子の顔は崩れなかった。



 ……



「レイ」


 神子はレイを呼ぶ。

 呼ばれて顔を上げたレイが見たものは。


「今すぐココを出て行きなさい。天神殿の神殿には、殺人者は要りません」


 冷たく凍った顔。

 ……レイを見下す嘲笑に見えた顔だった。


 いや、凍りついたのはレイの方だったのかもしれない。

 嘲笑に見えたのも。

 ……錯覚かもしれなかった。


「神子様……?」


と、信じられないような顔をしたレイ。


「私達が何故あなたをココに置いたと思う。その力を外界へ出さぬよう、閉じ込めておくためだ」


 神子は言うと、レイの前に手をかざし、呪文を唱えた。


 すると少し眩しい光が現れ、その中から手の平サイズの鏡が出てきた。


 黒い鏡。

 ……不気味な光沢を放つ縁。

 これがセナ達も それぞれが持っていた……七神鏡。


 闇を司る者が持つ、七神鏡のうちの一枚。

『闇神の鏡』で ある。


「さっきも言ったように、天神殿が七神鏡をそれぞれ転生なさった時――七神のうちの最も邪悪で危険に満ちたこの鏡を転生なさる時……力に気がつかないように、充分に出ないようにと、体内に埋め込ませたのだ。この鏡は お前の命と繋がってもいる。従って壊す事は出来ないが……こうなった以上、私が預かっておく。普通の人間として残った人生を過ごすがいい。とっとと立ち去れ」


 レイの中で、パチンと音がした。


 レイの頭の中では様々な思いが駆け巡り。

 その理性と感情の情報が。

 全てコンピュータ処理されていっているかのようであった。


 その間 神子は鏡を持ち、レイに背を向けて神殿へ戻る所。


 整理されていく思い。



 天神様も神子様も俺の事なんか どうでもよかった。

 人を殺したから見捨てた。

 俺をココへ置いたのは『危険』だったからだけ。


『闇神の力』を持った鏡は とられた。

 俺の命は天神様の手中に?

 それに これで俺は魔力を失い普通の人間とほぼ同じに。

 普通の人間が。

 ココから無事に外界に行けるかどうかは わからないじゃないか。

 神子様は俺に のたれ死ねと言っている? ……


 これが天神か? 世界を治める神なのか?

 ならば俺は――。



 ――レイは、神子を追いかけた。


 そして、


「天神の神子!」


と、叫んだ。


 髪が激しい怒りで全部 逆立っていた。


「お前らを神とは認めない!」


 そして、ものすごいスピードで。

 神子の手から鏡を奪い取ってやった。


「何をするのだ!」


「うるさい!」


 レイから冷静さが消え失せた。


 業火の如く怒り狂うレイ。

 激しく憎み神子を射抜くほど睨んだ。


「俺が邪魔だというのなら、お望み通りお前らの悪になってやる。せっかくの この力をフルに使ってな!」


 狂い遊ぶ笑いをしながら立ち去った。



 その後、彼を見た者は居ない。





「レイは僕ら四師衆を作り、着々と青龍の復活の準備を進めてきたのさ。天神と神子の あんた2人に、精一杯の復讐の贈物(プレゼント)をしようと思ってね」


「……やはりレイの仕業だったのか。白虎が封印されてからまだ約500年。次の四神獣が復活するまでは まだあと500年ほどあったはず。しかも、四神獣は玄武・朱雀・青龍・白虎と順番通りに1000年に一度目覚めるはずだというのに、とんで青龍が先に復活するという おかしな事態。これは裏で、誰かが企てているとしか考えられなかった。その誰かとは、十中八九レイだろうと思っていましたよ」


 鶲の挑発にも動じず。

 ため息交じりで嘆く神子。


 私達は黙って2人を見ていただけだった。


「レイが どんな気持ちだったか わかる? 想像できる? まあ とにかく、あんたがレイを止める資格なんか無いね。せいぜい苦しんでよ。僕らも楽しみにしているんだからさ」


 すると。

 ずっと私達の存在を無視していた鶲が、最後に私の方を向いた。


「救世主。わかったろう? さっきの話通り、レイは立派な闇神なのさ。だから結局、あんたらは青龍復活を止める事なんて出来ないんだよね。七神のうち一人が欠けているんだからさ」


 少し自分を取り戻した調子で話しかけた。


「おっと。2人かな」


と、何やらブツブツ言っている。


「じゃあね。また遊びに来るからさ」


 そう言うと、鶲はサッと空気に混じって消えた。


 いつものように、皮肉っぽく愉快に笑いながら。



「レイが……七神の一人……」


「闇神……」


「天神への復讐……」


と、オウムのようにさっきの話の内容を繰り返す私達。


(そうだったんだ……レイは天神様への復讐のために青龍を呼び出そうとしてるんだ。この世界を治めているのは神である天神。きっと青龍を呼び出して、この世界を滅茶苦茶にしようとしてるのね。さっきの鶲の話が本当なら、私がココへ来る事になったのも、全部この人達が蒔いた種だったんだ)


 私が出来事を整理して まとめていると。

 セナが一歩前へ出た。


「レイを変えたのは あなたですか」


 しかし尋ねられた天神の神子は、無言。

 セナを無表情に見下ろすだけ。


「しかし、何故です? 何故レイを見捨てましたか。何故レイを突き放したんですか。確かにレイは人を殺した……でも、それは いわば事故、だったのでしょう?」


 セナの問いに。

 神子の表情が急変した。


「事故だと!? あれが事故だとでもいうのか!?」


と、手で空をかく。


「……どういう事です?」


「私は見た。あの日あの時、神殿の透視玉で。私が見たのは ただの偶然だった……レイの“飛礫”が、男達を貫く瞬間……笑っていたんだよ。さも楽しげにな」


 神子は、その時の光景を思い出したくないばかりに、手で顔を隠した。


「笑っていた? レイが、殺しを楽しんでいたとでも?」


「ああそうだ。あいつは あの時だけ、我を忘れて魔力に心奪われ……あれは悪の前兆だ。私はあの時、そう思った。あの日まで私は、あそこに あいつを閉じ込めて力を使えなくすればいいと思って……いた。でも違った! 危険に代わりなど、無かったのだ!」


 セナが興奮して言い返す。


「あなたが あそこでレイを見守っていてやれば、こんな事には ならなかった! 青龍復活は、あなたが蒔いた種じゃないか! そのために伝説の筋も秩序も乱され、本来なら来るはずのない救世主まで来てしまった! 俺らの生活まで狂わされて……どう責任とるつもりなんだ!」


「セナ、落ち着いて!」


 マフィアがセナを止めた。


 言われっ放しの神子は、悲しげな顔をする。


「……すまない。私は天神の使い……天神殿を守るのが宿命なのだ。あのままレイを神殿に置くと、いつかあの暴君じみた連中のように天神殿を襲い、世界を手に入れようとするやもしれない。それが、怖かったのだ……レイの秘めた力は、恐らく私以上。私の力では天神殿をとても守りきれない」


「だったら、そう言えば よかったじゃないか!」


「お前に私の気持ちが わかるか! いや、わかるはずがない。あの時のレイの顔を見た事が無い奴らにはな」


 天神の神子は そう言うと。

 サッと垂れ下がった布の裾を払いのけた。


「勇気……救世主よ」


「は、はい!」


 急に呼ばれたので。

 私は気をつけ! の姿勢に なった。


「連絡が遅くなって済まなかった。本当なら もっと早く来て こちらの世界の詳しい事情を教えるべきだったのに。いや……少しお前を試していたのだ。ノーヒントで、何処まで やれるのか、力量を見たかったのだが」


 は、はあ……そうだったんですかあ。



 私がポリポリと頭を掻くと。

 神子は また無表情に戻り、説明し始めた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ