第12話(水神の秘宝)・2
「いきなり乱暴な方ですねえ。しかし見事なムチさばきだ。容姿も お美しい事で……」
片手で受けた向こうで。
ニコニコとその老人は笑っている。
やせ我慢してるんじゃないでしょうね?
「そんな殺気むき出しで よく言うわね。あんた何者、正体を現せ」
マフィアは睨みつけた。
ジジジジジ……と、ムチが腕に絡めとられたまま、両者引かない。
しかしパッと、老人の方からムチを外してマフィアに返した。
ムチを回収したマフィアより先に、私が聞いた。
「あんたがメノウちゃんをさらったの!?」
老人は私に視線を移した。
「そうですよ。ちょっと魂をガラクタ人形に移したのがシノルです。ほら、そこの。もがいてる……惜しいですねぇ、せっかく手間暇かけてセッティングしてみせましたのに。余興にもなりませんでしたか。残念、それはそれは」
何言ってんだろう、この人。
ニヤニヤして。
まるで……。
「こっちの目的が果たせれば、どうでもいいんですけどね」
私はゾクッと寒気が走った。
この人を見てると変な気分になる。
「目的って何よ」
私も睨みつけた。
「魔道経です、もちろん。シノルには愛称だなんて言っときましたけどね。こっちの愛称の方が大事なんですよ。どうです、カイトさん? 水神の秘宝と妹さんと、交換しませんか? 妹さんの魂は こっちで握っているもんで」
……。
……だなんて事を言い出したよ、このジジイ……。
私の怒りは頂点に達した。
でも抑える。
「メノウちゃんを人質にして、秘宝を奪う事が目的だったのね。でも、それを手に入れて、あんたに何の得があるの? 他の人達と一緒に、青龍を封印しに行くとか?」
私も気が変になって一緒に笑いそうだった。
「ククククク……」
「!?」
「アハハハハハ! もー、ダメ!」
老人が前屈みになって。
堪えきれないといった風に笑い出した。
空にまで響きそう。
何だ何だ!?
「ヒー、おかし。そっかそっか、教えてあげなきゃ不親切だよね。うんうん。わかった わかった。じゃあ教える。ってか、訂正? 魔道経、は青龍の復活を止めるモンじゃなくて、むしろ青龍を呼び出すために必要なモンだよ」
……!
何ですって。
「呼び出……す?」
体が凍りついた。
一瞬だったけれど。
「早く気がついて欲しかったな、救世主」
老人は そのまま。
見もせずに後ろの塀の上にピョンと飛び乗った。
その軽い身のこなし。
「あんたまさか……」
私の額に汗が。
雰囲気に覚えがあった。
「鶲か!」
セナが呼んだ。
と同時に、老人は変装を解いて正体をあらわにした。
そして姿を現したのはセナの言った通り。
レイの部下・業師の鶲だった。
「水神の秘宝と呼ばれる魔神具の一つ、魔道経。それは青龍の復活に必要な四神鏡……古に よって錆ついたその力を蘇らせるための呪文なのさ。実際どんなものかは知らないけど」
と、鶲は塀の上で屈み込み、私を見下した。
「一週間かけて用意したんだけどなぁ、この舞台。どう? 楽しかった? 救世主」
不適に笑う……憎らしい奴。
しかも、ナイフを取り出し持っていて。
ホイホイ投げて手に遊んでいた。
見覚えのあるナイフ……あ!
私が買ってスリに盗られたアーミーナイフじゃないの!
「老人に化けてメノウの魂をさらい、シノルにして部下に加え、シノルを操って仲間を作って、水神の秘宝の在りかを探させた……ってわけだ。最も、水神の秘宝の在りかは すでに知っていたのかもしれないけど……直接奪いに来なかったのは、さっき言った余興のためか?」
カイトは、ボーッとして動かなくなっていたシノルの体を抱いて、そう聞いた。
「救世主が絡まないと、面白くないじゃない。結局どうなるかは見てのお楽しみだったけどねー。それに僕は あんまり自分が表立って動きたくないし。何たって、考える担当ですんで」
ナイフをスッたのもアンタねえ!
どこまでも ふざけた奴だ。
あー憎らしい!
「それより、そいつ死んじゃうよ? 魂と体が拒否反応起こしてる。放っておいたら死ぬね」
と、付け加えて さも楽しげに言った。
(ど、どうするの……? 魔道経は渡せない。でも、メノウちゃんが)
私が悩んでいるというのに。
「いいだろう。……その代わり、メノウの魂を元の体に返すんだ」
と……カイトはアッサリと決断した。
「でも! そんな事をしたら……」
と私はカイトに詰め寄ろうとした。
だが、脇で動かないシノルを見るとグッと思い留まった。
……そうよ、悩む事なんかない。
結論は一つしかないじゃないの。
「……いいわ」
私は要求の決断を飲み込んだ。
「勇気! いいのか!? レイが それを手に入れてしまったら、復活までの時間が……」
とセナが言い出したが、私の顔を見て引っ込んだ。
「……そうね、人の命には代えられない」
とマフィアも諦めたよう。セナも頷いた。
「その代わり、約束は守ってよね!」
私は鶲を上目づかいに睨んだ。
鶲は、ニッコリ笑った。
本当に憎たらしい。
カイトは自分の胸の前に手を出す。
ブツブツと何かを唱え始めた。
すると、水色の光のモヤが浮かび上がり しゃぼん玉が一つ。
大きいのが現れた。
「“開玉”!」
と唱えると、しゃぼん玉がパン! と割れた。
小さな巻き物が現れた。
きっとあれが……魔道経。
青龍復活のための……。
小さな巻き物だったのが、徐々に大きくなった。
両の手の平にのるくらいになった。
「親父から預かったもんだ。代々伝わってきた。受け取れ!」
と、カイトは放り投げた。
それをキャッチし、確かめる鶲。
薄笑いが、段々と大きくなっていった。
「ふ……はははは! これで魔神具が2つか! 邪尾刀と魔道経! レイも大喜びだよ! 後は……」
と、鶲の目が突然光った。
不気味だ。
「邪魔者を消すだけだね!」
突然 鶲は立ち上がり、手をこっちへかざした。
ボン! ボン!
ボボン!
3発の爆発。
私はセナのおかげで すんでで避けた。
マフィアも、カイトもシノルを抱えて。
「約束が違うわ! メノウちゃんを元に戻して!」
私は無我夢中で叫んだ。
「危ないぞ、勇気!」
とセナが私の手を引っ張った。
私は、あの夢を思い出した。
メノウちゃんが流した涙の理由を。
あれは私への忠告とSOS。
本当は伝えたかったんだ。
色んな事を。
でも伝えられなかった。
私ったら、気がつきもしないで。
メノウちゃんが せっかく会いに来てくれたってのに!
「逃げるなよ。一緒に遊んで!」
鶲はピョンピョン塀の上を飛び跳ねる。
とても楽しげだ。
何なのよ こいつーっ!
主に作戦担当だーって言ってなかったっけ、前に。
こいつに とって、メノウちゃんなんて利用価値の一端でしか無いんだ。
人が苦しもうが泣こうが怒ろうが。
何をしても面白いんだ!
……約束なんて、守る気も ない!
「メノウちゃんを戻してよ!」
私はセナの手を振り払って、前へ駆け出した。
セナが慌てて私を後ろから羽交い絞めにする。
「何やってんだバカ、死にてーのか!」
セナが叱っても、私の腹の虫は おさまらない。
だって、だって……!
こっちは要求通りにしたじゃないの!
「救世主サン、それからそっちの風神くん。覚えておきなよね、レイが本気を出したら、君らは もうすでにこの世に居ないんだから。僕が こうやって遊んでるだけなのは、レイの命令が無いからだしね」
「何よ それ! まるで私達がレイや あんたらに生かされてるみたいじゃない!」
と吠える私。
くやしい!
ただ、くやしいわ!
……その時。
鶲の背後やや上空で、何とも神々しい光が現れた。
「!」
全員が固唾を呑んだ。
鶲も驚いて後ろを振り返る。
「あ、あれは、何……?」
と私が声を出して指をさしても、誰も何も言わない。
ただ一心に、前に輝く光を見つめるだけ……。
この突然の光は。
……何?
《第13話へ続く》
【あとがき(PC版より)】
関西弁になると、妙にウキウキしてくるのは何故だろう……。
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