表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/161

第12話(水神の秘宝)・1


※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。

 同意した上で お読みください。


※じっくり小説らしく味わいたいパソコン派な方はコチラ↓

http://ncode.syosetu.com/n9922c/12.html

(『七神創話』第12話 PC版へ)




 セナ、マフィア、今頃どうしているだろうなぁ……。


 目を開けるのは5回目。

 外は もう朝になっていた。

 チュン、チュチュンと鳥が さえずる。


 昨夜のシノルとかいう女にボッコボコに されて。

 痛みと怒りで苦しかったけれど。


 どうにか冷たいベッドの上で眠っていた。

 何度も目を開けては自分の現在状況を確認していた。


 実は夢だったんじゃないか……?

 なんて期待もあったけれど。

 全ては現実だった。


 ついに助けも来ないまま。

 こんな所で夜を明かしてしまった。


 セナ、マフィア、誰でもいい。

 助けて。

 ……私は、祈り続ける。


「お兄ちゃん……」


と声に出した時。


 表が急に騒がしくなった。

 そして変な臭いも。


 私が重い足取りで鉄格子の窓から外を見た時。

 驚く。

 この建物の前に立っていた木があるんだけれど。


 ゴウゴウと火が見えた。


 木が、燃えている!


「大変! ……ゴホホッ」


 煙が立ち昇って、部屋にまで入ってくる。

 私は口を押さえ、後ずさりした。


 外では事態に気がついた誰かが声を上げていた。

「何やってんだ、早く消せ!」


 聞き覚えのある男の声。


 昨日、部屋に入って来ていた男の声じゃないかなぁ?


 他にも、数人の声が聞こえた。

 皆、パニックに なっている。


 私がドアの方まで下がると。

 突然ガチャリとドアが開いた。


 外から誰かが開けたのだ。


 びっくりして振り返ると。

 何と そこに居たのは。


「あなたは……ピエロさん!」


 昨日『人形の館』の前で風船を配っていた、客引きのピエロだった。


 何で!?


 もしや、これも罠!


 私が一歩 後退すると、ピエロは手をさしのべた。


 まるで、「逃げよう」と誘っているかのように……。


 私は一瞬迷った。

 もしかしてまた罠じゃという考えが何度でも頭の中にチラつく。


 でも。


 私は首を振って、ピエロの手をとった。


 だって、ココに居たって煙に巻き込まれてしまうだけ。


 なら、とにかく脱出した方がいい。


 それに もしかしたら。

 火はピエロが つけたのかもしれない……!


 私はピエロに手を引かれたまま通路を走って行くと。


 途中シノルにバッタリ出くわした。

 シノルは すごい怒りをあらわにして金切り声を上げた。


「あんた何モンや!? 混乱に応じて逃げよう思たかて、そうは行かへんで!」


 どうする!?

 逃げられない!


 すると どうだろう。


 ピエロは私を軽々と抱え上げ。

 そばの大窓ガラスを足で派手に蹴り割り。


 割れたガラスの穴をスルリと抜け外へ


 ……そんなバカな。

 でも出来た。


 咄嗟の判断で素早かった。

 シノルも びっくりしていたのが小さく視界に入った。


(もしかして このピエロ……セナ??)


と抱えられたままピエロの顔を見ても。


 仮面が邪魔で よくわからない。


 ピエロは見事に2階から飛びおり、体勢 崩す事なく。

 地面へ着地した後 私を下ろした。


「あ、ありがとう……」


と、ただ言うだけの私……。


 華麗だった。


 この一言のみ。


 ピエロは人差し指を口元に立て、「話は あとあと」とでも言っている風に見せた後。

 クルッと一回転した。


 何そのアクション。


 私はクスクス笑う。

 変なピエロ!


 しかし直後。


 シノルが同じように上から降って来た!

 私とピエロは急いで走り出す。


「そこまでや! 止まれ!」


 着地したシノルは銃を持っていた。

 銃口をこちらに向ける。


 カチャリ!


 私とピエロは立ち止まる。


 すると今度は横から、


「“鎌鼬(かまいたち)”!」


と声が。


 そして同時にクルクルと渦巻く風が起こる。

 やがて風が曲刀のようになってシノルに ぶつかっていった。


 シノルは衝撃で2・3メートルは吹っ飛ぶ。


「セナ!」


 毎度おなじみのセナの風の攻撃だ。

 私は声のした方を探して駆け寄った。


 セナが居た。


 嬉しいやら泣きたいやら。


「心配した。捜しても全然 見当つかなくて。どうしようかと思った」


 心底ホッとした顔をする。


 だが すぐにピエロに向かって「こいつが」と。

 視線を私から変えた。


「宿をとってマフィアと相談していた時……手紙付きの風船をよこしたんだ。手紙にはココの場所が……あんた、誰だ? 敵なのか味方なのか……勇気を助けてくれたから、敵じゃないと信じてるけど」


 セナはピエロに詰め寄った。

 私はポン! と手を叩きセナに思い出した事を言った。


「それよりセナ! 近くに、水神が居るかもしれないの!」


「何だって!?」


「とにかく、ココを突破して、それから……」


と言いかけたら。


 いきなりセナが「危ない!」と私の手を掴もうとした。


 ……より素早く。


 ピエロが先に私の手を引っ張って体を寄せた。

 そして、


「“小波(さざなみ)”!」


と、叫んだ。


 え?

 さざなみ?


「きゃあああ!」


 ピエロの手の平からシノルに向かって。

 水鉄砲のように水が発射された。


 シノルは私やセナが よそ見している間に、銃で私を狙っていたらしい。


 しかし勢いよく発射された水の攻撃が銃を弾いた。

 またシノルは勢いに負けて倒れてしまう。


 今度は倒れたシノルの向こうから。

 マフィアが息せきかけてやって来た。


「ハアハア……上手くいった!? 言われた通り、表の木に火を……どうしたの?」


 突っ立ったままの私達と倒れているシノルを見て、不思議そうな顔をした。


 火をつけたのはマフィア

 ……それは そうと。


 ピエロは、仮面を取り外した。

 そして私達に素顔を初公開。



 ……男。


 隠していた髪も あらわにした。


 銀髪。

 オールバックに なっている。


 年はセナと同じくらい?


 目はパッチリと子供みたいにクリクリし、口が大きめだ。

 ……10段くらいのバーガーも軽く かぶりつけそうだと思った。


 その大きな口で自己紹介を始めた。


「俺は七神の一人。水の精霊を司る者……水神、らしい、よっと」


 明るかった。


「名はカイト。カイト・オーガ・ルウ。呼び捨てで もちろん結構。ちゃん付けは勘弁な」


 両手を上げて広げる。


 やっぱり……。

 さっきの技といい、そうじゃないかと思ったんだ。


 チラチラと、噂だって すでに あった。

 セナがピエロじゃない時点で。

 その可能性は強くなっていたわよ。


 でも いつから……。

 いつから、私に気がついていたんだろう。


「私を助けてくれて、どうもありがとう!」


 聞きたい事は山ほどあるけれど。

 まずはお礼を言わないとね。


 そんな私の笑顔をよそに。

 カイト(さっそく呼び捨て)は顔を曇らせた。


 私が「へっ?」と戸惑うと「懲りないなあ」と呟き私をどかせた。


 後ろを見ると。

 また銃を構えて立ち上がろうと必死なシノルが……。


「そう……お前が そうやったんか。なら、渡せ! 渡すんや! “水神の秘宝”!」


と、胸を片手で苦しそうに押さえ もう片方の手で銃を構えていた。


 手が、震えている。

 シノル、最後の悪あがきといった所か。

 この人数で適うはずが無い。


「さあ早く! 水神の秘宝を渡せ!」


 もはや強がりにしか聞こえない。

 あの怖かった瞳は、今は力が無くなっている。


 銃口をカイトに向けているみたいだが、ガタガタと大きく震え的が絞れていない。


 私は こいつにボコボコにされた恨みはあるけれど。

 見ているうちに哀れになってきた。


 2人の自分が騒いでいる。

 弱っている今がチャンスやで!

 やっつけたらんかい!

 と罵っている自分と。


 何言うてまんがな。

 こんなんになってもうて。

 かわいそうですやん……。

 と嘆いている自分。


 タコとイカ。

 ボケとツッコミ。

 たこ焼きとお好み焼き……


 ……ちょっと自分だけ脱線しているような……。



「……もうやめよう…………メノウ」


 カイトは、悲しく声を出した。

 空気が止まる。


「え?」


 ……カイトは、歩み出た。


 そしてヒザをつくシノルの前まで進み出て。

 (うれ)いを帯びた瞳で見下ろしていた。


 銃口の先はピッタリとカイトの左胸に押し当てつく形になっていたけれど。

 カイトは動揺する気配なんて無いし。

 シノルも撃つ気は無さそうだった。


 ポカンと、シノルはカイトを見上げるばかり。


 カイトは優しく手を肩に置いた。


「銃は下ろせ。どうせ湿ってんだろ、使えない」


 そして……。


 ……温めるかの如く。

 カイトはシノルを抱きしめた。


「帰ろう、メノウ」


 メノウ、とは。


「館に あった、人形の名前!」


 私は大声で指さして叫んだ。

 セナとマフィアが びっくりする。


「何で そんな事 勇気が知ってんだ!?」


とセナが奇妙そうな顔をした。


 私は「あ」と小さく声を出した。


 そう言えば、あれは夢の中の話だったっけ。

 メノウっていう名前。

 どっかで聞いたなーと頑張って思い出してみたら。


「夢の中で、あの子が……人形が そう言ってたんだよ!」


と私が説明した。


「でも何で どうしてシノルがメノウなのよ。何で わかるの、あの男」


 マフィアがカイトを見つめる。

 私達3人はカイト達を見守るしかないけど……。


 カイトはメノウ? を抱いたまま。

 ポツポツと語り出した。


「お前が さらわれて……一週間、ずっと捜してたぞ。姿が変わっていても、俺には わかった。だってお前は俺の妹だもんな」


 カイトの妹?

 一週間前に さらわれた?


 えっ? でもトッシーは……。

 私は訳が わからなくなった。


「お、お兄ちゃんなの……? お兄ちゃん……」


 明らかにシノルの様子が違った。

 だって関西弁じゃない。


 シノル=メノウ? は、すがりつくようにカイトを見つめた。


 こ、これは感動の再会?

 そうなのね!?


 もう そういう事にしておこう、と認めた時。

 またシノルの人格が現れた。


「ち、違う……、違うんや! わてはメノウなんかと ちゃう……!」


 カイトを退け、頭を抱えた。

 とても苦しそうに前髪を掻きむしった。

 カイトは見るも堪えきれずにシノルの体を押さえようとする。

 シノルと押し問答している。


「離せ、離すんや!」


「こっちへ戻って来い、メノウ!」


 どうやら『メノウ』という名前に敏感に反応しているようだけど。

 なかなかシノルが粘る。


「離せ、離して、助けて! お兄ちゃん、……やめえ!」


 私はコブシに力を入れて2人を背後から応援していた。

 エイ、エイ、頑張れメノウちゃん!

 そしてカイトォ! ……と。


 だって、私達には他に できそうな事が思いつかない。



「誰!?」


 いきなり、横でマフィアが叫んでムチを取り出した。

 そして何かを標的に振り回して攻撃する。


 バシッ!


 鋭いムチを腕一本でブロックしてみせた、人影……は。



 シノルに総裁と言われていた老人だった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ