第11話(人形の館)・3
目を丸くした。
「“青龍復活阻止”っ!?」
と、声を大にして言ってしまった。
シノルがポカリと私の頭を叩く。
「極秘言うとるやろーが!? 叫ぶなっちゅうてんねん!」
さっきの私の声より大きい声で怒鳴るシノル。
コレがツッコミですね師匠。
……なんてボケは あとあと。
で、そのトッシーの中身って!?
「わてら5人組……あ、あと4人居るんやけどな。わてらは、ずっと救世主を捜しとったんや。そしたら、赤い服着た変わった格好の女がおる、女顔の兄ちゃんと長い三つ編みの女を引き連れてこっちに向かっとる情報があったんや。ウチらの一人に、そういう情報屋みたいなんおるねんけど、街を捜しとったら、ちょうど見つけたっちゅうわけや」
「何で私だけを連れて来たん!?」
と、言葉が うつってしまった私。
「知らんわ。あとの2人、勝手にどっか行ってもうたんやんか。でもなぁ、わてらに必要なんは あんただけやしな。それにあんな所でトッシーの事なんて説明できひん。何たって極秘やしな。何処で誰が聞いとるかしらん。しょーがないでぇ、仲間ウチで相談して、とりあえずさらってまおかっちゅう事で。ココに連れて来たんや」
「そこまで隠す必要があるわけ?」
シノルは顔を近づけ。
「ドアホッ」と私のオデコをペシッと叩いた。
「親にも周りにも迷惑かけたぁないねん。あくまでも極秘や。わてら5人だけの」
好奇心で関わってきているんだろうか?
だとしたら勝手だなぁ。
こっちは青龍の封印なんていう大仕事。
好きでやろうとしているわけでもなく。
あんまり他人は好奇心なんかで関わってほしくないような気がするんだけれど。
「青龍が復活しそうやって情報が入ったんや。でも、封印には ある道具が要るんやって?」
「道具?」
え、何それ。初耳。
私は首を傾げた。
道具って、あの邪尾刀とか?
いやでもあれは封印のためにあるものじゃないし。
じゃあ一体何の事だろう?
「“魔道経”や。どんなんか知らんけど、封印の呪文が書かれた巻き物や。あんたが持ってるんやろ? わてらに渡してくれへんか」
と、手を出した。
……と、言われましても。
私には何の事だか。
とりあえず、その手に握手。
すると、バシッ! と頬を叩かれた。
すっごく痛かった。
私は いきなりで、倒れてしまう。
シノルは私の襟首を掴んで睨みながら。
笑いながら言った。
「あんたがココに来た理由はな、その“魔道経”とやらを頂くためなんや。サッサと渡せば、あの2人んトコに返したるで。カワイイ顔をボコボコにされたいん?」
さっきまでのムードは何処へ。
いっきに凍りついてしまった。
これは脅し?
……やっぱり誘拐じゃないの!
「し、知らないわ。本当よ!」
と私が言うと、シノルは私を突き飛ばした。
「嘘ついたって無駄やで。あんたの連れの2人のどっちか、『水神』なんやろ!?」
2人ってセナとマフィアの事よね?
セナは風神でマフィアは木神。
……え? 水神?
「“魔道経”はトッシーみたいな愛称や。本当の名は、“水神の秘宝”言うんやで。代々、水神が それを守ってるんやって。あんた、持ってんねんろ? “魔道経”!」
水神の秘宝!?
代々、水神が守ってきているもの!?
しかも、封印のための道具だあ!?
「持ってません!」
私はキッと睨み返した。
「セナは風神、マフィアは木神! 私は救世主だけど、ただの人間! 七神っていって、全部で7人いるんです! 水神にはまだ会っていません! そんな道具なんて、今初めて聞いたんだから!」
私は精一杯訴えた。
しかしシノルには全然信じてもらえない。
私を思いきり今度は蹴飛ばした。
「きゃあ!」
ゴロゴロと転がり、壁に ぶつかった。
蹴られた所が ひどく痛む。
さらにもう一蹴り、という所で。
誰かがドアを開けて入って来た。
「これ。シノル。やめなされ」
老人の声がした。
カツカツ、と杖をつく音がする。
「総裁。でもこいつ、なかなか しぶといねんか」
総裁……?
5人いると言った、そのボス?
「こういうのはな、信頼じゃよ」
痛みを堪えて目を開けて人物を見ると普通の、ハゲた頭で細身の おじいさんに見える。
「最初は優しーしてやってんで。でもこいつ、段々腹立ってきてん」
私を指さした。
私が倒れたまま顔を上げて老人を見ると、ニコニコ顔の老人は話しかけた。
「救世主さんな、わしらはトッシーを進めてきたんじゃ。世界には青龍復活の兆しが見えて、すでに苦しんでいる所がある。わしの故郷もその一つ。トッシーを企てている若者達が あと3人おってな……わしもそこに混ざって色々と調べてきたんじゃ。その中で“魔道経”……それがあれば復活は止められる。代々水神が守っとるそうなんじゃが、あんた七神を従えておるんじゃろ? その水神とやらを、ココに呼んでくれんかね」
……だから水神も何も知らないっての!
どうして私が こんな目に遭わなきゃいけないの?
腹が立ってくるじゃない、いい加減!
「知りません!」
と、私は その老人を真っ向から否定した。
老人はヤレヤレといった感じで、
「シノル、仕方ない。また かわいがっておあげなさい」
と言って去ろうとした。
シノルが私をもう一蹴りした。
今度はお腹に。
うずくまる……。
「知らないとは言わせませんよ。情報は確かなんですからね」
じゃあ、その情報が間違っているわよ!
と言いたい所だが蹴られたお腹が痛くて声が出ない。
老人は出て行った。
そして行き違いに違う男が入って来たようだ。
「シノル。そのへんにしておけよ。そいつ死んじまう。マイナも帰って来たし、トウヤも もうすぐ帰るだろ。ココいったん引き上げて、来い。作戦会議だ。新しい情報が入った」
「何か わかったんか?」
「ああ。どうやら、この近くに水を使う不思議な力を持った奴が居るってさ。そいつが水神である可能性が高いぜ」
それを聞くと、シノルは私の足を踏んづけて、
「お仲間が迎えに来たんやろうよ。ええ仲間 持ったやんか、救世主はん」
と言って唾を吐いた。私の頬に かかる。
そして2人とも。
ボロボロになった私を置いて何処かへ行ってしまった。
もちろん、厳重な鍵をかけるのを忘れずに。
電気も灯りも無い真っ黒な中で。
横たわったまま体中に伝わる痛みを必死に堪えた。
頬もジンジンするし。
お腹も両足も動かない。
私は一生懸命、シノル達が言っていた事を思い出した。
確か この近くに水神が居るって言ってたなぁ……。
七神の一人が……。
ウトウトと、そのうち眠りにつけた。
……鉄格子の窓から、木の上で。
さっきの部屋での一部始終を見ていた者には。
全然 気がつかずに。
《第12話へ続く》
【あとがき(PC版より)】
服と食品の売り場が同じかという疑問。
まあいいんじゃないですか(遠い目)。
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