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第11話(人形の館)・2


「ナイフが無い!」


「ええっ!? ……まさか、さっきぶつかった奴が!?」


とマフィアが言った瞬間、セナが瞬時に走り出した。


 何て素早い。


「セナ!」


「あっちだ!」


 マフィアも追いかけた。


 私はといえばボーゼンとして、座りっぱなし。

 やがて、ハッと気がついた。


 しかしその時すでに2人の姿は無い。


 私は一人、そこに取り残されてしまっていた。


「いっけない。私もスリを追っかけなくちゃ」


と、立ち上がった時だった。


 誰かが後ろから、私の腕の片方を掴み。


 そしてサッと私の体を軽々と何処かの馬車か何かの荷台へと放り込んだ。


 そして上体を起こす前に、扉は閉められる。


 ガシャンッ。


 突然の衝撃と暗闇。


 私は またボーゼンとしてしまった。


 その間、馬車は動き出した。


 我に気がついてどうにか出ようとするが、出口はビクともしない。



 ……どうなっちゃうんだろう? ……


「まさか、レイの手下? あのスリは わざと?」


 スリに目を行かせておいて、その隙に私を誘拐して……目的は何だ。何のために。


 考えたってわからない。


 セナとマフィアは今頃 私を捜しているんだろうなぁ……。


 いよいよ馬車は、ワイワイガヤガヤと。

 さっきまで騒がしかった道を抜け、商店街から遠ざかったらしい。



 少しずつ周囲の音が小さくなっていった。





 ……どうやら私って、筋金入りの脳天気らしい。


 誘拐されたなんていう緊迫した時でさえ、寝こけちゃうんだから……。

 しかも、しっかり夢付きでね。


 さっきの特大人形が同じように椅子に座っている夢。


 その人形は、ゆっくりと上を向いて、真っ黒の瞳をこちらに向ける。


 そしてニッコリと笑って見せた。


 まさに人間そのものだった。


(あなたは人間? それとも人形?)


と、私が手を伸ばす。


 だが、その少女には届かない。


 少女から笑みが消えた。


 私が たじろぐ。

 すると少女は何やら悲しげな顔をしたのだ。


(私、メノウ。アナタ、救世主?)


と……カタコトの口ぶりで、私に尋ねた。


 というか、口は動かせては いない。

 テレパシーのように、言葉だけが聞こえるのだ。


(そうよ。私は勇気っていうの。あなたはメノウっていうのね。どうしてそこに居るの?)


 私が聞き返すと、ふいに沈黙が私達を包んだ。


 無言でいると、やがて少女の目から涙が。

 ……こぼれ落ちた。


 ポロポロと、清らかな宝石のような涙。

 真っ黒な瞳と、固く閉ざされた口。


 この少女が、私に何か訴えかけているように思えた。

 それは何か?


 わからない。


 ただ……夢は、段々と薄れていってしまった。



 目を開けると、部屋が横向きだった。

 つまり、私が横に倒れていたという事。


「ココは……何処?」


と起き上がって、ぼんやり考える。


 どうやら私は無傷で、両手両足は縛られていない。


 牢屋のような殺風景な部屋に。

 閉じ込められているのは確かなようだ。


 たった一つの鉄製のドアはノブをいくらまわしてもガチャガチャいうだけで。

 ビクともしない。

 きっと外から鍵をかけてあるんだろう。


 ゆっくり後ろを見渡すと。


 部屋の奥、ドアの向かいにある小さな窓にはしっかりと鉄格子。

 四方にはヒンヤリとしたコンクリートの壁。


 時々隅にクモの巣。

 冷たいベッドが一つ。

 丸い粗末なイスが一つ……。


 ……そこで初めて気がついた。


 誰かが座っていた。


「あ、あなたは」


 おっかなびっくりに声を上げた。

 私とその人は目が合う。


 ちっとも気配を感じなかった。

 こんなに近くに居たのに。


 女の人だったのだけれど。


 見た目 白人ぽくて、髪はウェーブがかった金髪。

 肩まである。


 キリリとつり上がった端整な眉と、強固そうな瞳。

 ナイスバディで軽装。

 ジーパンを履いているけれど。


 骨だけなんじゃないかと思われるスラリと伸びた足を組み。

 先には赤いハイヒール。

 つい観察してしまう。


 気配を感じなかったので怖い。

 綺麗なんだけど、何処か……見ていて寒くなる。


 まつ毛はクルっとカールがかかっていて。

 目はガラス玉のようで中の瞳はスカイブルー。


 さっき人形の館で会った、人形なんだけれど人間みたいなのに比べ。


 こっちは人間なんだけれど。

 まるで人形を前にしているかのように感じるよ。

 何でだろう?


 すると、その人は立ち上がった。

 音も無く。

 そしてこっちに近づいて来る。


 私はゴクリと空気を飲む。

 私と相手のその人とは距離が縮まった。


 ドキドキする。


 真っ直ぐに、そのスカイブルーの目に見つめられて。

 私は身動きできない。


 ドクンドクンドクン。


 私の真正面に来た。


 ドクンドクンドクン。


 立ち止まる。


 ドクン。


 ついに、口を開いた。



「あんた、救世主なんやってなぁ?」



 …………。



 え?


「手荒なマネしてスマンかったなぁ。実は、極秘プロジェクトやってん、これ。あ、わてはシノル、いいますねん。よろしゅうに」



 ……。


 ……言葉が……。


 私は、その場でズッコけた。


 何で関西弁なんだぁーっ!?


「……な、何で言葉が、じゃなくてえーと、何で私が救世主だって事を」


 私が体勢を立て直しながら聞くと。

 シノルとかいう その人は手を振って笑った。


「言うたやん、極秘プロジェクトやて」


「だから何なの!? その極秘何やらって!」


「極秘プロジェクト。わてら仲間うちでは、『トッシー』言うて愛称で呼んでんねんか」


 トッシー……?


 な、何か わからないけれど。


 ……そ、そうね。

 極秘極秘なんて人前では そうは言えない。

 別名をつけてそれで呼んだ方がいい。


 ……でも何でトッシー?



「で、そのトッシーの中身なんやけど。……ズバリ、“青龍復活阻止計画”や!」




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