第9話(時の門番・壱)・2
「私は1623代目の時の門番、トキ・メイラル・エド。どうぞ、トキとお呼び下さい」……
綺麗な声だった。
あれ?
さっきの おばあさんみたいな声じゃない……けれど、まあいいか。
見た目は普通のお姉さんだ。
後ろで一つに髪を縛りハネさせ、手には魔法の杖みたいなものを持っていた。
先端に付いた金具のようなものが時々、鈴のようでシャン、シャンと鳴る。
首から紐で ぶら下げている飾り。
星を型どったような造りのもので、真ん中に『目』が こしらえてある。
そして……どうやら、彼女は『盲目』らしい、という事。
目が、会ってからずっと閉じられたまま……。
「ようこそ、“時の門番”へ。あなたが、青龍の年の救世主ですね?」
「えっ……どうして知っているんですか?」
「さっきの男の方が見ていらした中に あなたの姿が あったものですから」
さっきの男の方。きっとセナに違いない。
「ご覧の通り、私は盲目ですが……この首飾りの『目』が、私の目の代わりなのです。この飾りの『目』で見たものが、私の脳の中に送られるんですわ」
「あ、あの……」
と、私は ためらいがちに聞いた。
「はい?」
トキさんは首を傾げた。
「ココに来た男の人……何処に行きました?」
「用を済ませ帰られましたが」
と あっさり答えた。
私は……かなりガックリきてしまった。
せっかくココまで来たのに……すれ違ってしまったんだ。
……せっかくココまで来たのよ? このまま帰るだけだなんて。
セナがココで見たもの。何を見たのか知りたい。
「あ、あの〜……」
と私は また尋ねた。
トキさんは同じように「はい?」と また首を傾げる。
「その用って……一体、彼は何を見たんですか? 見せてもらえますか?」
と言うと、トキさんは落ち着いた声で、だが、厳しさをも込めた声で言った。
「それは申し上げられません。ですが、100万G頂けるなら少しだけ お見せしましょう」
ひゃ……100万G!?
……って、どれぐらいなわけ?
こっちの世界の1Gは、日本円で いくらぐらいなのかしら……。
……っていうか。
1円も1Gも持って無いじゃない。
払えるわけ、ない。
「お金が いるんですか? どうしても」
「ええ。お金の無い方は、お帰り下さい」
何で?
何で人の過去を見るのに お金がいるの?
それって おかしいじゃない。
「どうして過去を売り物にするんですか、あなたは」
と、私は詰め寄った。私の口は止まらない。
「なら、大金があれば何処の誰でも簡単に過去が覗けちゃうって事ですよね? それって、ある意味 犯罪のような気が しませんか? 自分の知らない所で自分の知らない人が自分の過去を何もかも知っているだなんて……不気味です。プライバシーの侵害なんじゃないですか?」
もし、ストーカーだったら最悪だ。
筒抜けって事になる。
「……」
トキさんは黙ったままだった。
私は なおも続ける。
「確かに、私が彼の見たものを見たいって言うのは、ワガママかもしれないけど……」
途中、自分の意見の矛盾さに気がついた。
過去の覗き見がダメだなんて言いながら、自分はセナの過去を見ようとしている。
私って……馬鹿だなぁ。
「もういいです。ごめんなさい。私、ちょっと言ってる事が おかしかった」
「いいえ。あなたは正しいですわ。人の過去を売り物にする事は、確かに いけない事です」
と、トキさんは言った。
「じゃ、どうして お金をとるんですか?」
「人の過去というものは、お金なんかで買えませんよ。元々ココは迷い人のための。自分の過去を清算したりするキッカケを与える場なのですよ。本当なら、お金なんて頂きません。ですが……ココ数年。見栄や好奇心や、くだらない事に この場を訪れる方が増えつつあるのです。ですから、法外な お金などを請求して、帰って頂いているんですわ」
なるほど……それでか。
だから私にも、お金を請求したのね。
「いつかの国王には、100兆Gを請求しましたわ。もちろん、引き下がりましたけどね」
国王ともあろう人が、100兆Gにビビって帰る。
……うーん、なら、100万Gって比較的安いのかな?
……そんな事は無いか。でも この人結構怖い人だ。
「え、じゃあ、セナには過去を見せたんですか?」
うっかり名前を言ってしまったけれど、意味は通じたようだ。
「ええ。さっきも申しました通り、迷い人の方にはタダですわ」
そうか……セナは ちゃんと見られたのね。でも、もう帰っちゃったけれど。
「そうですか……それじゃ、私も帰ります。私には、お金も迷いも無いですから」
と、言って そそくさと立ち去ろうとした。
すると、
「あなたにも、かすかな迷いが感じられますわ。少しだけなら、お見せしますけど?」
と……トキさんは言った。私は びっくり。
「え……い、いいんですか? 1Gも無いですけど」
「その代わり。代償として、あなたの過去を見せて頂きます。よろしいですね?」
取り引きは成立した。
私の過去を見せる代わりに、セナが見たものを見せてくれるという。
私は鏡の部屋の中央に立った。
トキさんは何処かへ姿を消し、声だけが暗い中で聞こえた。
「それでは。お見せ致します」
トキさんの声がした途端、それぞれの鏡 全七面を使って、一つの『映像』が映し出された。
私は映し出された映像に囲まれ、目移りする。
音声は一切無い。
そこにはハッキリと。
……レイ――少し若い頃と思われる――が、居た。
セナと別れたすぐなのかな……これは。
その内容とは。
レイが居た場所は……ココは……神殿……?
聖書にでも出てきそうな白い石造りの壁で出来た、辺りに人気の無い地だった。
レイはまず、その建物を前に ひざまずいた格好で居た。
まるで誰かに忠誠を誓っているかのような。
よくは、わからないけれど。
レイは見た所で普通の人だ。
何処も おかしい所は無い。
誰かに仕え、賢明に仕事や雑務を こなしているといった風に感じられた。
パッ、パッ、パッと映像の中の月日が、早送りされたように時間が経過していっている。
その流れに沿って、ある日ある時の光景。
レイは、誰なんだか わからない――背中だけしか現れていない人物の前で、何か……? に、驚いていた。
そして すごい顔で人物を睨みつけ。
吐くように何かを言った後……走り去った。
そんな内容。
音は全く無いし、レイ以外の人物は居るんだけれども一人として誰もよく見えなかった。
「コレが、レイの過去の一部です」
と、画面は いきなり真っ白に変わった。
コレで終わりのようだ。
「え? たったコレだけですか?」
「セナという人が見たのは、コレだけです。どうやらココは、『天神の神殿』のようですね。レイという人はココで天神に仕えていらっしゃったのでしょう」
セナは これだけで満足したの?
だって全然 訳が わからないじゃない、コレだけじゃ。
はっ……もしかして。
セナ、まだ何か隠し事が あったりして。
「あっ、あのっ。セナの子供の時も見せてもらえませんか!?」
と、私はトキさんに頼んでみた。
セナの子供の頃に、何か あったのかもしれない。
セナが隠したがっている何か……。
「ダ、ダメでしょうか?」
黙ったまま反応の無いトキさん。
やっぱり、図々しかったのかな……こういう事言うの。
でも、知りたいんだ。セナの事を。
やがてトキさんは「いいでしょう」と返事をくれた。
たぶん断られるだろうな、と思っていたのに予想外だった。
真っ白な画面にパッと映像が再び流れ出した。
中央に居る、少年。
髪の色が薄紫色だ。
きっとセナに違いない。
年は5〜7歳くらいだ。きっと周りの背景とセナの かつての話から、そこは監獄の中に違いない。
有刺鉄線の張られたフェンスの向こうにセナと、もう一人。
少し、大人びた顔をしている少年……きっと、この子がレイだ。
2人は本当に仲良く、草むしりをしていた。
時々一方が話しかけては、笑っていた。
これがあのレイだなんて、確かに信じられない。
微かに、暗さがある。
でも笑っている時には そんなもの無い。
2人とも、本当に窃盗団や盗賊だったの? と疑わずにはいられない。
あどけない笑顔……2人とも、本当に可愛らしい少年であった。
私はフーム、と腕組みをして唸った。
これまで不審な点は無い。
セナの供述通りだ(犯罪者みたいね)。
(あれ……?)
フェンスの側に、ふと、ある影が映った。
その人影が段々と有刺鉄線の張られたフェンスに近づいて来る。
セナとレイは気がついたようだ。
こっちへ走り寄って来た。
その人影が背姿を現す。
後ろ姿だったが……髪が肩までの金髪の少女だった。
子供ドレスを着ている。
その歩き方、髪の毛をかき撫でる仕草などには、気品があった。
何処かの王族か貴族の娘かと思った。
ピンクのフワフワドレスに赤い靴を履いた少女は、フェンス越しにレイやセナと一緒に何か しゃべり出し、時々 談笑していた。
「誰、この子……」
この少女は 一体 誰?
すると少女が こちらに振り向いた。
その顔に、見覚えがある気がした。
何処かで……。
「ええと、何処でだっけ?」
整った顔立ち。
キリッとしている眉や口元。
子供のようで子供らしくない感じだ。
瞳が赤色だった。
首には銀の飾り付きの黒いチョーカー。
金髪の髪が、振り返った途端サララン、と音を立てそうなほど。
美しかった。
見た事があるような、無いような。
とにかく……その少女の登場で、私は胸に不安が よぎった。
(まさかセナの隠している事って、この子の事なんじゃ……?)
それは確信にも近い感情だった。
何故ならセナは自分とレイの事を話す時に、少女の事など一言も言わなかった。
もしかしたら、セナが故意に隠していたのかもしれない。
セナとレイと この少女が笑っているさまを見て、私は胸がチクチクと痛んだ。
《第10話へ続く》
【あとがき(PC版より)】
あけましておめでとうございます(PC版は この時 正月でございました)。
目標、継続。これだけ……。
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