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第9話(時の門番・壱)・1


※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。

 同意した上で お読みください。


※じっくり小説らしく味わいたいパソコン派な方はコチラ↓

http://ncode.syosetu.com/n9922c/9.html

(『七神創話』第9話 PC版へ)




 ライホーン村に暖かな朝が訪れる。

 雲一つ無い晴天。

 窓から降り注ぐ日差しが眩しい。


 マフィアより一足お先に起きた私。

 うーん、と伸びをして、パジャマから服に着替えた。


 昨夜は、本当にグッスリ寝たなぁ。

 何か すっごい久しぶりって感じ。

 今、何時頃だろ?

 まだ昼前だとは思うんだけどね。


 何て考えた後、部屋を出た。

 宿の主人の所へ行く前に、セナに一声かけておこうかな、と思って。

 私の部屋の隣部屋のドアをノックしてみた。


 ところが、返事が無い。


 まだ寝ているのかな……とも思って。

 とりあえず宿の主人の所へ行こうと下の階へ降りた。

 すると階段を下りる途中、ちょうど宿の主人と出くわした。


「おはようございます。よく眠れましたか?」


「あ……ハイ」


 まだ ちょっとボケた頭で そう言うと、宿の主人はニッコリ笑った。

 そして、


「下に朝食が出来てますよ。どうぞ食べて下さい」


と、感じよく言った。


「あの……」


と私が ためらいながら言うと、主人は すぐ「ああ」と思い出して言った。


「洗濯物なら庭に干しておきましたよ。今日は良い天気ですからね。すぐ乾くと思って。お連れの お一人は先に出かけなさったようですけど、あなた方2人は しばらくココに いらっしゃるんでしょう?」


「え? 出かけた?」


「男の方ですよ。まだ夜明け前くらいでしたかね」


 それって、セナの事!?


 私は急いでセナの部屋に行き、ドアをノックする。

 ウンともスンとも言わない。


 ノブを捻るとドアが開いた。

 鍵は かかって いなかった。


 見ると布団が綺麗に たたんであって、荷物ごとセナは居なかった。

 ただあったのは、ベッドの側の小机の上にあった置き手紙らしき物だけ。


 嘘……セナ、何処に行っちゃったの!?


 私は その手紙を掴むように持って、マフィアを叩き起こした。

 マフィアは びっくりして飛び起きて、手紙の内容を読んでくれた。


『“時の門番”の所へ行ってくる。用事が済んだら帰る。 ――セナ 』


 こっちの文字で、そう書かれていた。


「“時の門番”?」


「知らないわ。一体、何処に……」


と私とマフィアが首を捻っていると。

 部屋の入り口の開けっ放しだったドアに もたれかかって こっちを見ていた楓ちゃんが教えてくれた。


「タル島のスペリッタ山にあるよ。今朝一番の船で行ったみたい。あんたたちに よろしくってさ」


「セナと会ったの?」


「私ん家、ジイちゃんが早起きだからね。私も早起きして、村中ランニングしてるの。今日も その途中、村の入り口んトコで会った」


 ちっとも気がつかなかった。私もマフィアも、グッスリ眠っていたから。


「どうして急に……」


とマフィアが考え込む。


 そんな事、いくら考えたって わからない。


「さあね。でもそこって、確か人の過去を見る所よ。レイって人の事でも、調べに行ったんじゃないの?」


と楓ちゃんに言われて。


 私とマフィアは顔を見合わせた。

 それは十分考えられる事だったからだ。


「そうか……あの出来事の後だものね。きっと昨晩、フッと思い出したんじゃないかしら。それで すぐ行ってみようと思ったのね。でも どうして私達に黙って……」


「きっと……」


と、マフィアの言葉を遮った。


「きっと、七神捜しには あんまり関係無いからじゃないかな。私用の事だからって気を使って……」


 そう。

 セナって そういう事を考えそう。

 これまでも、私の事をよく考えてくれていた。


 きっと、これは俺とレイとの問題だからなんて今回も考えたんだろう。

 私には今マフィアが側に居てくれているわけだし、大丈夫だろうって思ったんだわ。


「それにしても、水くさいわね」


「ああ、さっき水仕事してたもんで」


「いや、そうじゃなくて」


と、マフィアと楓ちゃんの小漫才など笑っていられる余裕は無かった。


 ただ、ただ悲しかった。

 何だか のけ者にされた感じがしたからだ。


(どうして一人で行っちゃうのよ……)


と怒りもしたが、空しいだけだった。


 そんな風に しょげている私に、マフィアは尋ねた。


「どうする? 勇気」


 マフィアは心配そうに私の顔を覗き込んだ。


 どうするも こうするも。

 一つしか無いでしょう? と私は自分で自分に言った。


「セナを……追いかける!」

 マフィアも楓ちゃんも、さも当然というように頷いた。




 私たちは船に乗った。

 ライホーン村は大陸のド真ん中にある村。

 なので、まず村の人の馬車に乗せてもらい、マイラ港町で降りて。

 そこから定期船に乗り込んだ。


 タル島は、こっちの大陸と。

 その東南にあるコンサイド大陸との間にある、小さな島らしい。


 森しかないし、魔物も出るので人は全然居ない。

 その森の木には、リンカラという実が()る。

 その実を採りにチラホラと人が来る程度だ。


 リンカラはココでしか採れないし、街では結構高く売れるんだという。


 定期船はあるが、一日一往復しかない。

 もう今日は出てしまった。

 だが、港の人に頼みこんで交渉し、何とかその島まで寄り道がてら連れて行ってもらえる事になった。


 タル島の森は、ミールの森という。


 その森の真ん中に、セナが居る“時の門番”が あるのだそうだ。


“時の門番”とは、人の過去や記憶を探る所。

 それには大金がいるらしい。


 たまに何処ぞの王族なんかが兵士だの何だのを引き連れてやって来るんだとか。


 さっきも言ったが、森には魔物が出るのだ。

 そんな所に“時の門番”なんてあるもんだから、普通の人は近寄らない。


 しかも大金がいるというのだから。

 訪れるのは、豪商や王族くらいなもんだった。



 私達はタル島に着き、森を歩き出した。


 途中、魔物にも何匹か出くわしたが、マフィアが魔法の技を使って倒してくれた。


「ごめんね……マフィア。力、使わしちゃって……」


「いいのよ。この前は偉そうな事を言っちゃったけど、そうも言ってらんないもんね。しっかり技を磨いて、勇気や皆を守らなくちゃ。精霊達も、わかってくれる」


 精霊達には意思がある。

 精霊達の力を借りたくないんだと言っていた。


 でも、レイやら蛍やら(ひたき)やらが色々と仕掛けてくるし。

 人間の力にも限界がある。

 精霊の力を借りずに戦う事は やはり無理だ。


 奴らは強いし、なおさらだ。

 私はマフィアに申し訳ない気持ちで いっぱいだった。


 夕日が沈む頃、私達は森でキャンプをし、横になった。

 焚き火をしているけれど、向こうは森の闇。


 その闇の中に、セナの幻影を見た。


 今頃何をしているのだろう、一人で何を考えているのだろうと思った。

 右手の中指に はめ込んだ指輪を見る。

 触れると、冷たい。

 セナの気持ちが伝わってくるよう。


(セナ……)


 セナが居ないだけで、すごく寂しい。


 いつからこうなったんだろう。


 いつも側で守ってくれていたのに……。


 初めて会った時から……セナは、とってもとっても優しかった。


 今は それが心に しみる。

 私の頭の中はセナの事で いっぱいだった。


 こっちの世界に来る前までは、お兄ちゃんの事をよく考えていたのに。

 それなのに。


 こみ上げてきた苦しい胸の痛みを抑えながら、そっと……目を閉じた。



 ……


 早朝。

 森を突き進む。


 スペリッタ山は もうすぐそこだった。

 だが、目の前には崖の絶壁がある。


 人が登ったような跡があるな……と、私が うなだれていると。


 マフィアが技を使おうかと言い出した。


「技って……空を飛べるの?」


「飛べるってほどじゃないけど……まぁ、見てて」


と、精神統一をし始め、足元に手を かざし、



「“草鞋(わらじ)”!」



と唱えた。


 すると、あたりの落ち葉や草がザワザワと急に各、意思を持つように集まり出し、やがて ひと塊になった。


 マフィアは同じ事をして もう一つそれを作って、その上に乗った。


 私も真似をして塊の上に乗ると。

 まるでエレベーターみたいにサーッ……と。


 ゆっくり垂直に上に進んだ。


 しっかり安定しているので大丈夫。

 バランスは崩れない。


「すごーい!」


と私はキャーキャーと喜んだ。


「もっと練習すれば、自由自在に何処へでも行けるようになるわ。今の私には、上下左右が精一杯。でもちょっとした水の上とかでも たぶん行けるし、結構便利なのよね」


「だったら、これで海も渡れない?」


だなんて、無茶苦茶な事を言うと、マフィアは笑った。


「無理無理。力尽きてドボンだよ。海の上は森の精霊は少ないしね」


 なるほど。マフィアは木神だものね。


「うーん……でも、他の七神の力と併用させれば出来るかもね」


とか何とか言っている間に、絶壁を昇り終えた。


 すぐ、高さ5・6メートルほどの土の山があり。

 見ると山に埋め込まれるように木で出来たシンプルな門があって、その先は暗い。


 他に変わった所も無いし、周囲には何も無い。

 ……きっと、ココがその“時の門番”だ。間違いない。


「入る?」


とマフィアが聞いたので、私はウン、と頷いた。


 門をくぐり、一歩を踏み出した時。その先の暗闇の中から声が聞こえた。


『ココより先、一人ずつしか入れぬ。用のある者は一人で入れ』


 重々しいおばあさんの声だった。


「私行ってくる」


と、私はマフィアをそこで待たせて、先へ進んだ。


 マフィアは最初渋ったが。

 何とか「大丈夫大丈夫! 何かあったら すぐ逃げるから! 逃げ足には自信が……」と適当な事を言って(ノンキ?)強引に説得した。


 先へ進んで行く。


 道には何も無い、ただ暗闇の中を歩くだけ。


 段々目が慣れてきても、やっぱり先は道が続くだけ。

 一体何処まで続くのだろうと思った途端……壁になった。


 石造りの壁。触るとヒンヤリする。すると……。


 ゴゴゴゴゴゴ……!


 壁が動き出した。


 どうやら、隠し扉?


 光が急に目に飛び込んできた。

 いきなりで眩しくて目を閉じてしまったが、そっと開けると……。


 部屋が現れていた。


 何とそこは!


「ココは……あの時の遺跡と同じ!?」


 そう。


 その部屋とは。

 この世界に来る直前に居た、あの遺跡の落とし穴!


 鏡が壁に七枚、ぐるっと囲むように円状になって貼り付けてある。

 まさに『鏡の間』!


 よく見ると、鏡には それぞれ光の加減で色がついているように見えるのだ。

 これも同じ。


 そっくりだ。


 その場に立ちすくんでしまった。


 違う事といえば。

 あの部屋には、こんな今 入ってきた出入り口は無かったって事だけ。


 あの遺跡の部屋が上から見て七角形なのに対しココは八角形だという事だ。


 そして私が入った出入り口の真正面の鏡……そこから。

 ある女の人が突然!

 にゅっと出てきたからギョッとした。




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