第8話(月夜祭)・2
「出所してから、6年になる。俺は17、あいつは18になった。別れたきり……レイの事は何一つわからない。あいつに何があったのか……それに……」
とセナは言葉を詰まらせた。
「少なくとも、別れる時までは普通の人間だったわけね」
「どうして……? どうしてなんだろう」
とマフィアと私は悩んだ。
セナの話は、私にとって衝撃であった。
まさかセナが窃盗団の一味だったとは。
それに、囚人生活も経験済みだとは。
そしてそんな所でレイと出会うとは。
セナは苦しんでいる。
今の表情から わかる。
胸が、その顔を見ているとチクチクしていた。
とにかく何か、励ましの言葉をかけようとした時。
背後で呼ばれた声がしたので見ると、楓ちゃんが居た。
楓ちゃんは私たちに外へ来いと言った。
言う通り ここ『幸福亭』を出ると。
店の前で村長及び5・6人の村人がズラリと横に並んで待ち構えていた。
びっくりして見ると、村長は いきなりペコリと頭を下げた。
「わしらが馬鹿だったのだ。楓の言う通り、泉一つで あーだこーだと……それに、操られていたとはいえ、あんたらに危害を加えて……すまんかった」
村人達も後に続いて頭を下げた。
私はセナとマフィアと顔を見合わせ、村長に言った。
「ううん。もういいんです。そんなに謝らないで下さい」
さっきは有頂天だったけど、今は そんな気に ならない。
だいたいレイが この村を襲ったのも、きっと私を殺すためだし。
村長さんが私に疫病神と言った、あれは正解だと思う。
だから、本当なら謝るのは こっちの方なんだよね。
でも あえて言わない。卑怯かなと思うけど……。
「村人を助けてくだすった お礼に、祭を開こうと思います。毎年、一年に一回 月夜祭というものをするんですよ。満月はもう過ぎましたがね。遅いですが、歓迎も込めての祭です」
村中で、祭が開かれた。
灯りが蛍のように灯され、神秘的な感じを出している。
ドンドンと村の広場では、いくつもの太鼓が叩かれ、出店も出回っていた。
人は ごったがえしていて、気を抜くとフラッと迷子になりそうだった。
私の居た世界と同じ。
カラオケ大会もあるし、夜店もあるし。
ヤグラもあって、何やら楽しく懐かしい感じだ。
わたあめ、イカ焼き、たこ焼き、射的、輪投げ。
……に似たようなものが たくさんあった。
私たちは顔を知られているので、全部タダであった!(やりー!)
私ったら大はしゃぎで店をまわり。
カラオケでは飛び入り参加で『おぼろ月夜』を歌った。
なのはーな ばたけぇーーに、いぃりーひ うすれーー……♪
割と評判で。
こんな歌は聞いた事が無いと言われまくった。
そりゃそうでしょう、私の世界の歌なんだから。
ハイになっていた私は、アンコール、と言われ今度は『○ーンライト伝説』も付けて熱唱しまくった。
ごめんねぇー素直じゃーなくーてー……♪
カラオケで大喝采を受けた後。
マフィアとセナの所へ戻るとセナの姿だけ無かった。
「あれ? セナは?」
と、スルメ……のようなものを食べながらマフィアに聞く。
だがマフィアは知らない、と答えた。
捜してくるよと言い残し、私は人ごみに紛れながら歩いた。
途中、村人達に名を呼ばれながら。
出店の主人から食べ物をもらいながら。
村の外れの、人気の無い所。
巨大な岩が いくつか重なり高く積んであり、置いてあった。
その一番大きな岩の てっぺんに。
セナが ちょこんと座っていた。
セナを見つけて、私は岩を登る。
割とゴツゴツと足場が あったから、すぐに登れた。
でも出店の主人たちに もらいまくった食べ物などは持ちきれない分、下に置いてきた。
そうやってセナの居る所に辿り着くと、セナが振り向いた。
「何してるの?」
と私がハアハアと息を整えながら聞くと。
セナは「いや、考え事」と言って顔を背けた。
「ふーん……」
と私は、セナの横に座った。
足は放り出しブラブラと空に浮かし、岩の上に2人並んで座っていた。
高いので、森が上からよく見える。
ポツポツとした、明かりも見える。
風は そよ風。
すごく気持ちいい。
何より、少し欠けた月が すごく近くて明るいのに驚く。
ちょっと重い空気の中。
私は持っていた たこ焼きもどきを「食べる?」と言って差し出す。
だがセナは「いや。いい」と言って断った。
昼食も ろくに食べてないし。
店の食べ物も全然 手をつけなかった。
これじゃ、体の方が心配だ。
ふいに、セナが口を開いた。
「俺……まだ信じらんねーんだよな。レイが、あんな風に なっちまった事」
前髪を手で上げ、頭を抱えた。
そして足に ヒジをつき、片手で あごをついた。
「昔から やる事なす事 完璧な奴で、頭も良くて……ほんっと、すげー仲良かったんだぜ、俺ら……それが、何で あんな……」
下を向いて、一人言のように呟いた。
泣いているのかと思ったが、よく見えない。
いや、泣いては いないようだけど……。
私は、たまらずセナに叫んだ。
「きっと何か理由があったに決まっているよ! 昔が どーとかより、今これからの事を考えようよ! ね!?」
と一生懸命 訴えた。
思いつきで言った割には結構 良い事を言ってると思ったんだけど。
セナに どうかしら? という顔をしてみた。
セナはフッと笑い、「……そうだな」と私を見た。
月の光に さらされたセナの顔は、いっそう綺麗さが増した。
ドキドキした。
「お前も不思議な人間だよなぁ」
と、セナは急に変な事を言い出した。
え? と顔をしかめると、セナは さも面白そうに私を見た。
「こんなトコいきなり来て、帰りたいなんて言わねーじゃん。今まで一言も」
「あ……」
そう言えば、言った事が無いねー。
「お前は救世主が どうとかより、元々普通じゃないんだろ」
一瞬、はあ? と思ったが。
すぐにピンときた。
つまり何?
私が変人って事?
「うるっさあい! セナだって男には見えないもん!」
と、その場でスックと立ち上がり、セナを指さした。
セナは思いっっっきり傷ついたようで。
カチンときて同じように立ち上がり、私よりも上から罵声を浴びせる。
「余計な お世話だ! 俺は女顔だって言われんのが嫌いなんだよ! そっちこそ女に見えねー!」
「何ですってぇ!? 放っといてよ! 男女! オカマのカメさん!」
「うるさい! 子供! まなイタ! 短足! 馬鹿! マヌケ! ドジ! トンマのトンちゃん!」
ト……!
……はーはーと、息をつく2人。
何よ何よぉ、あんた ちょっと口が悪いんじゃないのぉ!?
……って、こんな所でケンカして どうするんだか!?
せっかくセナを励ましに来たってのに、これじゃ逆効果じゃない!
でも、セナの馬鹿!
何も「まなイタ」は無いでしょ、「まなイタ」は!
それに「短足」って!
何よ、自分が ちょーっとスタイルいいからって。
……くそぉ、言い返せない自分が すっっごく情けないったら。
しばらく睨み合っていたら、セナの方が先にプッと吹き出した。
そしてアハハハ……と しばらく笑っていた。
拍子抜けした私の顔を見て、また笑い出す。
……やだなぁ、私の顔、そんなに面白い?
プーと顔を膨らませていると、セナがポンポンと私の頭を叩いた。
「はっはっはっ。普通じゃないっていうのは、褒めてんだぜ。一応」
嘘つけ! と私は ますますムーッとした。
「普通の女なら、いや人間なら、逃げ出すぜ、救世主なんて使命。お前は偉いよ。前向きで。俺も見習わないとな」
と、少し真剣な顔をした。
そして叩いていた手を私から離すと、その手で右手の中指から一つ、指輪を抜いた。
そして、私に それを渡す。
私が え? としてセナを見上げると。
セナは優しく微笑みかけた。
「お前に、コレやるよ。お前は魔法も使えねーし。ヒヨヒヨだしな!」
「うっ……」
と、私はタジタジ。
ごめんねー、役立たずで……という意味で私は受け取った。
「でも……コレ、確か七神鏡でしょ? 大事なものなんじゃないの?」
「まあいいじゃん」
「だって……そうよ。もし、失くしたら。私ドジだし。やっぱり もらえない!」
と、つっかえそうとしたが、セナは それを拒んだ。
「失くしたっていいよ。これは ほんの お守りだから」
と、また笑った。
「でも……」
「いいって。俺がやるって言うんだから。俺だって、格好つけたいんだよ」
と、少し照れてる。
私も少し顔が熱くなってしまった。
思いがけないセナからのプレゼント。
しかも、こんな大事なもの。私は極上の笑顔で言った。
「ありがとう!」
と。
セナは満足そうだった。
その夜。
村の宿で、ゆっくり休んだ。
マフィアとの2人部屋。
隣のベッドでマフィアは ぐっすりと眠っている。
よっぽど疲れているんだろうな。
私はというと。
私も よっぽど疲れているはずなのに。
なかなか寝つけないでいた。
それもこれもこの指輪のせい。
右手の中指に、セナのくれた指輪が輝いている。
指輪を見るたび、エヘへ……とつい顔がニヤけてしまう。
この部屋の隣で寝ている、セナからのプレゼント。
……あー、もう。
興奮しちゃって眠れないよー。
(何か守られているみたいだよね)
前にマフィアから もらった人形も、窓の側に置いて飾っている。
マフィアもセナも、すっごく優しくしてくれる。
だから、幸せ。
指輪をつけたまま、私は そのままようやく深い眠りへと陥っていった。
その一方。
隣の部屋で身支度を終え、セナは物音立てずに部屋を出た。
立ち止まって、勇気とマフィアの居る部屋をチラリと見る。
そして、
「じゃあな。マフィア、勇気」
と擦れたような声で言い残し、彼は一人で宿を出た。
そんな事は全然知りもしないで、勇気もマフィアも ぐっすりと眠っていた。
夢の中で。
さっきのセナの微笑がまた出てきた。
そして、指輪を渡す。
……そんな甘い夢を見ながら、またニヤける勇気。
だが、その後。
……トンマのトンちゃん=豚が勇気に短足、まなイタ、ずん胴もつけて悪口を言うという、悪夢へと変わってしまっていた。
《第9話へ続く》
【あとがき(PC版より)】
昨日は満月で、月の周りに薄っすらとリングが見えました! 月のそばに明るく光っているのは火星だって? だとしたら……ひじょーに見られてラッキー!
……でした。
※ブログでも一部だけ公開しております(挿絵入り)。
パソコンじゃないと読みにくいかもしれませんが、
よければこちらも……。
http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-41.html
URLは、お手数ですがコピペして お進み下さい。
そして出来ればパソコンの方は以下の「投票」をポチッと……。
ありがとうございました。