第8話(月夜祭)・1
※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。
同意した上で お読みください。
※じっくり小説らしく味わいたいパソコン派な方はコチラ↓
http://ncode.syosetu.com/n9922c/8.html
(『七神創話』第8話 PC版へ)
時は12年前。
その頃は ちょうど世界の あちこちでは。
海賊、山賊、強盗団といった集団が現れ、犯罪の溢れる時代で あった。
今は警備が厳重にこそなったが。
その混乱のさなか。
セナ・ジュライ。
年は5。
両親は窃盗団の一味であった。
幼いセナは両親と共に窃盗を しばしば行っていた。
月の無い夜、迅速かつ あっさりと村一つ、村中の金品を盗みまくり、朝日が昇る前に姿を くらます。
これの繰り返しであった。
その窃盗団の名は『赤いバラ』で あったらしいが。
……さだかではない。
隠れ家が一つあった。
とても大きな家で、外から見ると ただの村の集会所か何かに見える。
お金が無いホームレスなどは、ここに住み着いている事もあった。
そしてオボロゲながら覚えているのは。
そこで寝泊まりした際に聞いた、両親のヒソヒソ話で あった。
「ねえ あんた……お頭、次は何処へ行くって言ってた?」
「アサバ村だ。南の。ちょっと遠いがな」
そんな会話を、寝たフリをしながら横で幼いセナは聞いていた。
アサバ村かぁ……。
行った事無いなぁ……。
と、そんな事を考えながら。
そして次の日の朝。
目が覚めると、両親も仲間たちの姿は何処にも無かった。
きっと、遠いからすぐに行ってしまったのだろうと思った。
思った瞬間、両親の元へと走り出していた。
隠れ家の秘密の倉庫に あった金を少し持ち出し。
村への切符を手に入れて馬車に乗り込んだ。
仲間たちは それぞれ一人一頭の馬を持っている。
こんな荷馬車じゃ追いつけないだろうとは思ったが。
数日かかって。
村に着いたのが朝方。
朝日が少し顔を現した頃。
正確に言うと。
荷馬車は昨夕この村より もっと離れたタミダナの街に着いていた。
そこから徒歩で。
夜中いっぱいかかって子供の足で この村へ辿り着いたのだった。
しかし。
着いた時分には、村は襲われた後で。
なんと警察員で いっぱいであった。
一人の警察員がセナを見つけてしまう。
セナは目が合った瞬間、逃げ出してしまった。
それが不信感を抱かせてしまい。
結局セナは捕まり、厳重な取り調べによりセナは窃盗団の一味だとバレ。
監獄に放りこまれてしまった。
小耳に挟んだが、今回アサバ村を襲った『赤いバラ』は。
村の近くの海から現れたそうだ。
大船を一隻買い、馬を乗せて。
アサバ村へは陸路ほぼ一本道だったのに すれ違いにならなかったのは、そのためであった。
運悪く、セナは捕まってしまった。
隠れ家もバレてしまったが。
警察が踏みこんだ時には宝も人も居ない、もぬけのカラだったという。
窃盗団の お頭は、セナが捕まった事で隠れ家を早々に移転し、足がつかないようにしたのだろう。
頭のキレる人だった。
一方、ドジを踏んだセナは、監獄生活を送る事になった。
窃盗団の一味……とは言ってもまだほんの子供だったセナ。
5・6年で ここから出る事ができる。
セナは、親に見捨てられていた。
子供が捕まったというのに、迎えにも来なかった。
政府側として、このような子供は孤児として処理されている。
とはいっても、設備も体制も何も無い時代。
放ったらかしの好きに生きろ状態で他には何もしてはくれない。
運の良い者は養子として何処かに引き取られ育てられる。
それ以外の者は……独力で生きるしか、ない。
死ぬか生きるか2つに1つ。
その結果が、窃盗団なんてものを生むのだが。
政府が本格的に改革に乗り出すには、もう少し時間が経ってからであった。
セナは監獄で、一室与えられた。
ここは監獄とはいっても ある意味、学校や寮のような雰囲気で あった。
少年収容所、という所にセナは居た。
セナと同じような境遇である子供ばかりが集められ。
食事などを規則正しく共にする。
起床、朝礼、本日の仕事、入浴、就寝。
といった事が全部決められている。
本日の仕事とは、雑用など。草むしりや掃除などだ。
自由時間は あっても、部屋から出てはいけなかった。
また、集合時間に遅れたりすると厳しい罰が下される。
食事抜き、一日反省室、ひどい看守などが居る時は隠れて拷問を受ける。
さっき学校や寮のような雰囲気と言ったが……それは規則正しさなどを例えて言っただけで、そんなワイワイといったものでは無い。
言葉などは あまり交わす事も無いのだ。
監獄の周囲は厳かに有刺鉄線が張られた高いフェンス。
もっと昔、それでもそこを上り、外へ出ようとした子供が居たらしい。
だが、高いフェンスの てっぺんには強い電流が流れており、知らずに焼死してしまったという。
それ以来、ここを抜け出そうと思う者は居ても思わなくなってしまった。
まさに地獄の収容所。
セナは そんな所に放りこまれてしまったのだった。
一室を与えられたのだが、実は2人部屋で。
セナよりも先に もう一人そこに子供が居た。
レイ・シェアー・エイル。
当時6歳で あった。
2人は、ここで出会う。
2つの勉強机と2段ベッドと。
一つの窓が あるだけの部屋で、彼らは何年間かを過ごした。
驚いた事に、セナとレイは仲良くなっていた。
周りからは親友だろうと思われていたぐらいだった。
セナがレイと仲良くなれた理由は特には……無い。
ただ……レイの神秘的な強さを秘めた瞳にセナは魅せられた、とでも言っておこう。
たった一歳の年の差なのに。
レイは世界中の事をよく知っていた。
レイの実親は普通の人だったらしい。
ある日 家に置き去りにされて、それから外を迷いながらも どうにか生き抜き、ツテで盗賊団のボスに気に入られたのだという。
盗賊団に入り、世界中に渡る盗みをしまくった。
せいぜい大陸一つか二つぐらいしか行った事の無いセナにとって、レイの話す世界の事は とても興味が いった。
世界の真ん中あたりにある火の島は、島全体が消える事の無い炎に包まれているんだとか。
東の方の大陸は民族間でトラブルが絶えないんだとか。
北極の方では氷で出来た島が いくつもあるんだとか。
そういった話の中で、『七神創話伝』の話も出てきた。
四神獣……朱雀、白虎、玄武、青龍についての話が何章かあって一つにまとまったもので、名は売れているが実際に全部を知っているものは少ないらしい。
レイは この話に出てくる青龍というものが特に好きで、一目見たいと漏らしていた事がある。
四神獣の復活の意味……それはレイもよく知っていた。
今から思えば、その頃から野望を抱いていたのかもしれない。
レイは、天才とも言えるかもしれない頭脳を持っていた。
普段の生活の中でも それは窺えた。
冷静で、やる事は徹底し、粗が無い。
大人でさえも言葉巧みに言いくるめる。
セナがミスをした時、レイは自分が やったと申し出た事が あった。
「俺が やりました。責任をとって、今日の夕食は抜きで お願いします」
と言い出し、看守は その通りレイに夕食抜きの罰を与えた。
レイは後で こっそり、セナに、
「今日の夕食知ってるか? あのクソまずい さや菜のバター蒸しだぜ。あんなの食べさせられるくらいなら抜きの方がマシだぜ」
と舌をペロッと出した。
おかげでセナは まずい食事を とる事が出来たが やはり申し訳なく。
セナは こっそり夕食のパンを一つ隠し持ち、後で こっそりレイに あげた。
レイは受け取って嬉しそうに食べてはいたが。
後で考えると、それも策略の一つだったと思う。
セナの性格を見抜き、夕食を少し残して持ってくるだろうと……。
それを計算に入れ、行動をとったのではないかと。
でも、セナは あえて探るような真似はしないでおこうという事にした。
また、レイは魔法も少し知っていた。
軽く、人をコカす程度ではあったが。
その技は、窃盗団のボスに教えこまれたんだという。
世界の事、伝説の事なども、全部そのボスから教えこまれたのだといい。
セナが来る一年前、やはり5歳の時ドジを踏んで逃げ遅れて捕まってしまったという。
セナと違って、レイは そのボスを尊敬し、実の親のように思っていた。
セナが自分を捨てた親を激しく憎んでいるのに対し、レイは実親の事など頭からも感情からも まるで無視し、始めから居なかったという事にしていた。
レイは ここから出たら、世界の何処かに居る天神という人を訪れてみると言っていた。
そして2人が別れた日。
……即ち、この監獄から出所した時。
簡単な挨拶だけをして、サッサと別れてしまって。
……それきり音沙汰無しであった。