第7話(目の泉にて)・2
救世主の意味……。
こうして改めて聞くと、私自身プレッシャーを受ける。
「レイが青龍を復活させようとしている……だから復活する前に、私が呼ばれたんだ」
四神獣の復活は世界の滅亡。
過去の氷上のような救世主達は立派に封印という仕事を成し遂げたのだ。
だから今この世界は存続している。
なのに私は……。
「本当に、救世主なんでしょうか」
実感が無い。
だから聞いてみた。
氷上は、一瞬の沈黙を置いて言った。
「そうだ。伝説の通りだ。この世に四神獣 蘇るとき、千年に一度 救世主 ここに来たれり。光の中より出で来て七人の精霊の力使ひて これを封印す。精霊の力とは即ち転生されし七神鏡。これを集め救世主、光へと導かれたり。……まだ続くが、伝説に一寸の狂いも無い。……お前は正真正銘、青龍封印に呼ばれた救世主だ」
緊張が少し緩んだ。
私は れっきとした救世主……。
『仮』なんかじゃないんだ。
「……わかったわ。七神を集めて、天神っていう人の所に行く。それが今の私に出来る事なのね?」
と、自分に確かめているかのように氷上を見た。
「ああ。そうだ。絶対に復活を食い止めてくれ。それが私の願いだ。私に言える事は全部話したつもりだ。健闘を祈る」
と言いながら、少しずつだが姿が薄くなっていった。
なので私は慌てて最後に聞いた。
「あなたも違う世界から来たんですよね? 白虎を封印して……そして元の世界へ帰ったんですか!?」
果たして帰れるのかどうか。
最も、今は帰る気分には なれないのだけれど。
しかし氷上の姿は答えを言わずに、元の泉へと戻ってしまった。
一瞬。
冷静だった氷上の表情が悲しげになったようなのが……気になった。
「“雲雀”の効力が きれるまでには、何とか帰れそうね」
と、マフィアは言った。
「でも、効力が きれた時にもう一度その技を かけちゃいけないの?」
ふと思った。
そうだ。
そうすれば効力が きれても安心。
また、かけ直せばいいだけだ。
「そうはいかないのよ。一回“雲雀”を かけられた人間は、そうね……最初2・3日は免疫のせいで かからなくなってしまうの。連続して かける事は できないのよ。しかも、そう何回も かかっていくとね、免疫はどんどん強くできてしまって、最初は2・3日だった期間が一週間、一ヶ月、半年、一生……って、かかりにくくなっちゃうのね」
ふうむ……そういうもんなのか。
「だいたい、私あまり技を使いたくないのよね」
「え? 何で?」
「精霊だって、意思を持っているのよ。力を使うという事は、精霊の力を借りるって事。私、精霊の力ばかりに頼りたくないのよね」
と少し申し訳なさそうな顔になった。
マフィアって……強いなって心底思った。
普通、そんな事はあんまり思わないよ。
私から見たら、すごくうらやましいのに。
私に そういう特殊な力が あったら、どんどん使っちゃうのに。
あ、実は今、早歩きで砂漠を歩いている。
でなきゃ、こんな おしゃべりなんてできるわけがない。
さっき少し速く走って、バテた所で走りから歩きになった。
“雲雀”の効力は あと13時間弱。
大丈夫、後で走れば十分間に合う距離だ。
さっき汲んできた このビンの中の水を皆に飲ませれば、きっと正気に戻る。
もし戻らなかったら?
…………どうしよう。
月が出たら、また襲われちゃう?
ああ、本当に私って脳天気!
考えなし!
マフィアの言ってた通り、これはカケだっ……。
……なんて考えていると、砂漠は終わって普通の草道に出た。
村まで、もう少し。
空にはもう朝日が とうに出て、地面が温まり出していた。
徹夜で走って、体力は限界だった。
でも、バテてらんない。
ビンの水を2つに分け、マフィアと私で それぞれ村人達に水を飲ませた。
何十人も居るし、結構 大変。
パンパンになった足をヨイショと動かす。
その作業を何度も繰り返しているうち。
やっと最後の一人に飲ませた、その後。
村人たちは目を覚ましていった。
「ココは……?」
「俺ら、どうしたんだっけ?」
という声が、あちこちで起こる。
どうやら、泉の水が効いたようで。
村人達も、セナも、楓ちゃんも、目を覚ました。
様子を見ていても、正気に戻っている。
「あれ……? 俺……」
と、ボケた顔をしたセナに、私は飛んで抱きついた。
「セナ! 良かったぁっ!」
セナは「はぁ?」という感じで、疑問符が頭の上に いっぱい付いていた。
カケは見事に私の勝ちってか?
はっはっはっ。
んー、すごい威力!
“目の泉”の水の力!
何と何と、レイに斬られた傷も、通常の倍ぐらいの速さで治りかかったのだ!
もう絶対 大丈夫でしょう!
感激!
歓喜!
嬉しさいっぱいでマフィアを振り返ると、マフィアもニッコリ笑って嬉しそうにしていた。
私達は昨日の村人達の態度とは うって変わり、無罪放免。
村人達に次々に お礼を言われ、めちゃめちゃ歓迎されまくった。
しかも何と、滞在費をタダにしてくれるって!
わーい。
英雄きどりだぁっ!
そうよねぇ、村人達の方から見たら、私たちは命の恩人よね。
死にかけた所を水の力で救っちゃったんだし。
ただの偶然じゃん、って言われたら終いだけど……。
私とセナ、マフィアは、有難く昼食を ご馳走になる事になった。
村一番の(とはいっても小さい村なんだけど)食堂『幸福亭』へ入り、カウンターへ横一列に並んだ。
「お、救世主様ご一行じゃねえか。どんどん食ってくんな。体力つけねえとな!」
とカウンターの前で、この店の主人らしき おじさんが水を持ってきてくれた。
今の時間は忙しいのに、私たちだけ特別扱いだったようだ。
「わーい。いただきまーす!」
と、この店の名物料理(想像に お任せ)を頂く。
もう、ほっぺたが落ちそうなほど おいしかった。
おかげで眠気も吹っ飛びそう。
せっかく料理が おいしいというのに。
マフィアもセナも あまり箸が進んでいない。
時々ぼーっとしている。
特にセナだ。
左ヒジをついて、箸の先をジッと見つめて考え込んでいた。
そうか……。
きっとレイの事を考えているんだ。
レイのした事……。
レイの考えてる事……。
忘れられない あの光景。
……そうよね、あんなの見た後、こんなに もりもり食事している神経ってズ太い。
脳天気とか、のんきとか、言ってらんないんじゃないの?
きっと私、さっきの事は全部 夢だーなんて心の何処かで思い込んじゃってるんだわ。
『ゲーム感覚で いてもらうのは困る』
……氷上に言われたばかりじゃないの。
私は箸を置いた。
すると それを きっかけのようにして、マフィアがセナに詰め寄った。
「……話してもらいましょうか。そろそろ。
あ ん た と レ イ の 事 を 」
瞬間、私はドキリとしたが、セナは もっとドキリとしたようだった。
少し動揺していた。
セナとレイの事。
……あまり触れないでいた事だ。
2人は旧友らしいという事が わかった時点で聞きたかったけど、聞かないでいた。
「敵の事は よく知っておかないとね。これから色々と衝突していくでしょうし。知っている事、全部 話して。でないと、私も勇気もロクに戦えない」
きつい口調でマフィアは言った。
セナは、ふう、とため息をついた後、顔を上げて空を見た。
目は、何処か遠く天井の向こうを見ているかの如く。
「俺は昔――……監獄に居たんだ」
レイの事はイコール自分の過去の事も話す羽目になる。
セナは今その時が来たんだと思ったらしい。
重々しい口どりで、レイと自分の事を話し始めた。
《第8話へ続く》
【あとがき(PC版より)】
移動時間って、加減を考えるのが非常に難しい……。いっそワープしちゃえよと何度ツッコんだ事か……。
※ブログでも一部だけ公開しております(挿絵入り)。
パソコンじゃないと読みにくいかもしれませんが、
よければこちらも……。
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ありがとうございました。