第60話(帰郷)・1
※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。
同意した上で お読みください。
※じっくり小説らしく味わいたいパソコン派な方はコチラ↓
http://ncode.syosetu.com/n9922c/60.html
(『七神創話』第60話 PC版へ)
いつの頃からだっただろうか。
“闇”が、己を内から侵食し。
支配を始めていったのは――。
「ハルカ……」
枯れ草のはびこる土壌が一面にあった。
そこから外れて、海にも近く。
雑然とした石や砂、草木が広がる地面の上で。
びしょ濡れのハルカは寝かされていた。
水滴が、眠るハルカの顔面に垂れ落ちていく。
見守る方も。
頭から足先まで全身が濡れているせいだった。
「目を覚ませ……もう、悪夢は終わった」
区切りをつける。
底の深さも長さも大きさも。
得体の知れない相手とは繋がっている鎖を断ち切りたかった。
恐らくは、それが本望。
『世界の混沌を許し、自らのあらゆる闇を捨て去りたいと思っていただけなのだ』
世界に投下された闇。
拭い去ろうとしても、力は及ばず。
これが運命だと決めて諦めを繰り返していても。
さらにまた次の新しい闇がやって来る。
打ち克つには、光だ。
光がいる。
光さす方へ。
そこにも、闇という敵は形をつくり獲物を待っている。
光……力、知恵、運、意志。
何でもよかった。
武器となり対向できるものならば。
力がなくても知恵がある。
知恵がなくても運がある。
運がなくとも……生き抜けと自らを叱る意志。
闇も生き残ろうと必死だ。
おかげで強大だった闇も身を削り弱まり大人しくしてくれる。
『俺は、そんな闇が』。
自分も闇の一部だ。
それを認めてやらねばならない。
闇を許し共存を選ぶ代わりに、ひとりになる事を選ぶ。
闇を周囲にばら撒かないために。
ひとりを選んだ。
それがレイだった。
今は『闇神』としての能力を失っているレイに。
日光が空から明るく降り注いでいた。
数分間と待ち続けていても反応のないハルカ。
レイは押し寄せてくる後悔という波に、浮かんでいた。
どうして。
どうして……一緒に連れて歩いた?
氷づけにしてまで。
何が、自分をそうさせたのか。
天神の所へと赴く前の話――
まだ闇には触れるに浅い頃の話だった。
天神という、はかり知れないものに憧れて。
真っ直ぐに、前を見る。
天神の地から去り。
やがて自分の“闇神”としての運命と。
世界を握る、影の存在と正体が明らかになった時。
レイは、意志を示した。
行動を起こす。
ハルカを追いかけた。
“七神鏡”を放棄し海に落ちた……ハルカを追って落ちて。
近くの陸にまで引っ張り上げてきた。
上空の彼方では救世主やセナ達が青龍と戦っているとは知りながら。
この先、そちらには関与する気などは全くなく。
青龍が封印できればそれでよし、できなければ世界の破滅という死。
単純な未来だ。
レイはそう割り切っている。
それよりも大事な事があるから関心はないのだ。
レイの行動に深く関わっている。
「迷惑をかけてすまない……」
レイは自分の身勝手さも、言葉足らずで簡潔なのも承知していた。
ハルカの思いも。
自分と同じく、闇に支配されていく様子も。
知りながら。
とてもわかっていながら。
我慢するしかなかった。
だからか、氷づけにした事をずっと悔んでいる。
すがりつき追いかけてくるハルカをもっと拒絶し……いっそ。
手にかけてしまえばよかったのか、と……。
レイはハルカの手を取った。
力を込めた、そのせいで震えながら再度謝る。
「すまない……」
目を閉じれば過去は蘇る。
ハルカとの交流の始めから。
長きに渡り、レイのまぶたの裏で思い出は印象に残るものほど鮮明に。
華麗で優雅な演出を施されて展開していくのだった。
ハルカが起きない時間には、相応しい演目で。
不安を誤魔化して……救われて。
それでも、時々は不安が膨れ上がる。
「レイ……」
レイは……ハルカを見た。
危うく記憶の回想の中で埋まってしまうのに気がつけず。
聞き過ごす所だった―― 耳は。
確かにと小さな声を拾う。
ハルカは起きていた。
レイを見つめて。
マバタキを繰り返しながら徐々に意識を呼び起こしてきていた。
そして次にかけた言葉は。
「愛してる……」
闇の見張りである呪縛から解き放たれて。
2人は、やっと通じ合えるに至る。
ココまでにあった道は、例えるなら茨の。
棘に刺されながらも。
棘を避けながらも歩いてきた……時の道のり。
幼少の、バラが2人の未来を示唆していたのだと。
ハルカは納得した証拠に笑みを浮かべていた。
残念な事に。
花は一輪すら手元にはない。
祝福もない。
レイがハルカを抱き寄せる。
それだけで。
―― 2人には満足だった。
……
「それじゃ……」
雲の隙間から、太陽が輝いている。
門出を祝っているかのように。
私の頭上で明るくサンサンと。
晴れているのは空であって、気分は曇りかもしれないなあ。
ためらいがちに別れを告げようとしてみるけれど。
踏ん切りがつかないでいた。
島は先の目的地、ラグダッドに着いている。
港や市場、外に人の姿が見えないのは。
皆家に引きこもっているせいなんじゃないかな。
青龍は封印されたけれど。
本当の安心を手に入れるまでには時間がまだまだかかりそうだった。
私と、セナ達と、天神様と、アジャラ達。
総動員でズラズラと列を成し。
ある場所へと私が案内しつつ辿り着いた。
廃墟と化した神殿。
坂を上って、見えてくる。
古代ローマのコロシアムにそっくりな白の建造物。
崩れ傷み、廃墟という名がぴったりで。
歴史的な連想を呼ぶ。
魔物が出てきたっておかしくはないんだけれど。
一匹も、ココで遭遇した事はないんだよなあ。
「懐かしい香りがします……」
天神様は、そんな事を。
「昔、天神様はココに居たわけじゃないんですか?」
と、私は聞いていた。
天神様は、私の顔を横から見て力なく笑っていた。
どうしたんだろう?
私にはわからないけれど。
「色々とありましてね……さ、道を開きますよ。準備はいいですか。救世主、七神……最後の別れを」
話題を変えて、天神様は促す。
私は少し元気なく俯いてしまった。
準備って。
……いつまでもこのままじゃ、整わない気がしてしまう。
さよなら、って。
笑って。
天神様が開いてくれる、“聖なる架け橋”を渡って行けば。
向こうの世界に帰れる……はず。
わかっては、いるんだけれどね。
「勇気!」
私を呼んで前に出てきたのはマフィアだった。