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◆七神創話【携帯版かも】  作者: あゆみかん熟もも


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第59話(最後の夜)・1


※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。

 同意した上で お読みください。


※じっくり小説らしく味わいたいパソコン派な方はコチラ↓

http://ncode.syosetu.com/n9922c/59.html

(『七神創話』第59話 PC版へ)




 青龍は、ヒナタ、ゲイン、マフィア、紫と。


 複数を相手に戦っていた。


 七神の持っていた精霊の力は鏡の放棄により。


 失ってしまっている。


 与えられているのは、天神の加護による防御の覆いと。


 空を浮かぶ事のできる力―― それのみ。


 あとは自力で。


 最高峰と言われたオリハルコン製の武器は。


 紫の一撃で折り曲げてしまい。


 使えない事がわかっている。


 自らの肉体を張って時間を稼ぐしかない。


 皆の理解は一致している。


 時間を持たせろ―― 救世主が、戻ってくる時まで。


 青龍封印をするべく集めた鏡の力を持って。


 戻ってくる時までである。


「うわぁあッ!」


 ヒナタは。


 青龍の腕のひと振るいの際に発生した風圧だけで。


 吹っ飛んでしまった。


 何処かの陸地へと下って行ってしまう。


「ヒナタ殿ー!」


 ゲインが叫んでも、下降は止まらなかった。


 陸の、森の中へと消えてしまった。


 一瞬の隙が命取りにもなる。


 ゲインが傍らを気にしたために。


 次の青龍の攻撃は避けられなかった。


 青龍のくねった体から流れ続いていた尾の先は。


 ゲインを攻撃する。


 ……これも風圧程度で。


 体と体がぶつかり合う直接攻撃ではないものの。


 ゲインは悲鳴を上げて海へと飛ばされてしまった。


 そしてマフィアもである。


 背中に大傷、比べて小さな傷は体中についていて。


 肌の色は赤く熱を帯びていた。


 息は苦しく。


 攻撃のたびに小休憩をとる間隔は増えて。


 長くなっていきつつある。


 ついに限界がきて。


 少し遠めの陸地で倒れ込んでいた。


 紫は……。



 一人、残された紫は。


 ただぼうっと空で停止し。


 青龍を正面から見つめていた。


 紫の、闇の力と木でできたような造りの体は。


 見るからに傷みを表している。


 皮肌は服と一緒になってボロボロと剥がれかけており。


 血は出ていなかった。


 普通の人間なら臓器や肉、骨などが飛び出すだろうが。


 蛍の力で造られた紫の体の中は黒い空間。


 ……闇が、集まってできているらしい。


 神経が通っているのかどうかは。


 紫の表情からでは不明である。


 もしや紫自身、痛みを感じていたとしても。


 それは単なる思い込みによる痛みなのかもしれない。


 ともかく……紫の体は、崩れかけていた。


 それと言うならば、天神の加護など。


 気休め程度にしかならないという事である。



(これまででしょうか……)



 諦めに近く。


 紫の表情に(かげ)りが生まれた。


 息の調子は変わらないが、ひとり、ひとりと。


 七神が海に落ちていくのを見ているうちに。


 喪失感が大きくなっていく。


 それは自分の体から失っていく支えだった。


 恐らく、最後に残ったものは。



(死ねますか……?)


 自分は人間ではない。


 では、どのように自分は果ててしまうのだろうかと。


 考えた所で想像などできない。


 ……いっそ早く見てみたいものだと紫は思っていた。



 青龍の眼光が強さを増していく。


 爆弾の放射能を浴びる静かな恐怖、を。


 これから体感でもする心境だった。


 どう防御していいのかがわからないでいる。


 ―― しかし攻撃は眼からではなく。


 その下にある大口からの毒吐息だった。


「……!」


 無防備だった紫を、青龍は容赦なく襲った。


 青龍にとっては。


 ロウソクの火を吹き消すくらいの規模なものだったに違いなく。


 簡単にそれを紫は食らってしまったという。


( …… )


 目を閉じて。


 紫は落下していった。


 ……左腕一本が、同時に割れ離れていってしまった。


 紫の、迎える死というものは。


 ―― 誰が決定するのだろうか。



 海に落ちる。



 泡を激しく、海中で紫は囲まれていた。


 体が、いったんは重く沈み。


 緩やかに底へと近づこうとする。


 なすがままだった。


 楽をしようと。


 もがく事もなく、水中に身を預けている紫。


 できたらこのままで深海へと進み、眠りたいという。


 ……欲求が紫の中に本当あらば、人らしかっただろうけれども。



(蛍様……)



 戻ろう、と。


 紫は目を開けていた……。



 人形の(さが)か。


 自我というものは、あれど最優先に押しやられる。


(戻らねば……蛍様の意思、自分への(めい)、だ、……か、ら……戻らね……ば……)


 途切れ途切れの意識は、途絶えない。


 もしや体の組織がすべてなくなるまで。


 紫に死は訪れないのかもしれなかった。


 少年の体つきをしてはいるが、無論。


 年は取らない。



(……?)



 意思強い力を突如に感じた紫。


 グイ、と。


 体ごと、上から引っ張られるような感覚がした。


 釈迦のとてつもなく大きな手で。


 紫の小さな体が掴まれてしまっているような感覚が。


 紫は見えない力で海の上へと強引に引っ張り上げられる。



 そしてなんと宙にまで浮いた体は。


 ある方向へと移動させられていた。


 天神や蛍達が居る島へと。


 距離にしてはすぐそこにあった。


 数キロで済み、紫は降り立つ。


「蛍様……」


 紫のか細い声は、小さかった。


 宙を浮いてぶら下がっていた足は地面に辿り着いていて。


 水が紫の髪や衣服から滴っていた。


 天神と蛍はグッタリとして寝ているカイトを看ていながら。


 七神の戦いをきちんと見守っていたのだった。


「御苦労様、紫。お疲れ様……」


 島へと天神により引き上げられた紫を。


 蛍が出迎えていた。


 ゴミ箱に捨てられた人形が動いているくらいに奇妙で。


 割れた木やヒビの入った顔、と壊れかけている紫の体を。


 蛍は言葉で労わった。


 目は、潤いを含んでいる。


 ……紫の目に蛍の顔が映っていた。


「どうされて……?」


 紫は自分の身の事より、蛍を心配していた。


 ……蛍は、紫の傷んだ体に胸を痛める。


 お互いが、お互いの事を思っている。


 蛍には、もう一つ。


 胸を傷める理由がある。


 それは先ほどに生まれたばかりの問いだった。


 いや、……答えだったかもしれない。



 サワリ、と。


 空気が動き微風が発生した。


 蛍と紫のそばに、出現した者が居たからである。


 (ひたき)と、隣に紫苑だった。


 いつもと変わらない服装と口振りで。


 まずは再会の挨拶をする。


「や。蛍とブアイソ。酷い格好だね。無様」


 腰に手を当てている鶲は持ち前の皮肉で鼻にかけて笑っていた。


 黒い瞳はやはり黒い。


 全身もタイツと、真っ黒である。


 紫苑は坊の服装で、頭に毛は生やしていない。


 裸足だった。


 これが2人のいつもの容姿。


 蛍と紫は、懐かしさと驚きで満たされていた。


「もう……終わりはすぐそこまで」



 紫苑の落ち着き払った口調は同時に静けさをも呼ぶ。


 蛍に湧いた驚きは、治まった。


 紫苑の語る言葉は、ちょうど蛍の持つ疑と答に触る。


「やっぱり……」


 横分けした髪がそよ吹く風に揺れて。


 ……蛍は肩を落としていた。


 鶲が、何を思ってかハハハと声を立てて笑い出した。


「僕らはどうせ用済みじゃない。鏡をもう集めなくていい。レイのお望み通りに、青龍は復活。僕らの残された使命って何? さくらは、レイの用が済んで消えた。僕らはまだ生かされているけど、そのうちレイが消してくれるよ。……あー、やっと終わるんだ、全てが。ご苦労サン」


 首を回したり、手足を屈伸したり。


 深呼吸をしている。


 紫苑が補足した。


「レイ殿の指示があるまで待機に徹していたが……皆に、言いおいておかねばならない事柄があるな。鶲、蛍、紫。我ら四師衆の末路を」


 蛍の口唇がきゅっと締まる。


 聞く覚悟は整えた。


 紫苑の底重い声の発するは、続いていた。


「レイ殿が精霊の加護を放棄するにあたり……我々は闇を失い鶲の言う通り、消失するだろう。それは変えようがない事実。我々は、まもなくだ。まもなく……この破壊されつつある世から、姿を消す。だが、覚えておいてほしい。レイ殿は……」



 森で小鳥のさえずりが聞こえた。


 まだ世界は滅んではいない。


 こうして、生きているものがまだ少なくない。


 光ある限り。


「世界の混沌を許し、自らのあらゆる闇を捨て去りたいと思っていただけなのだ……」


 レイが、抱えてきたもの。


 それは、ひと言ふた言では言い表し尽くせない。


 短時間ではとても。


 紫苑にもそれが充分にわかっていた。


 わかってはいるが。


 時間の足りないもどかしさが苛立ちと焦りを伴って。


 紫苑を支配しようとしている。


 懸命に、顔には出さないように紫苑は務めた。


 やがて、視界の空気が薄くなる。



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