第58話(「私」の告白)・3
それは怒りなのか。
悲しさから来るものだったのか。
しばらく様子を見ていたら。
「私は!」
いきなり思い立ったように。
私に飛びかかってきたのだった!
「……!」
ガシリと、首を絞められる。
「憎いのよ! あんたが!」
私は抵抗した。
掴みかかってきた手を解こうと、必死になって暴れた。
突然でびっくりして、反射的だった。
『私』の力は物凄く強くて、とても振り解けない。
どうしたらいいの、と思った時だった。
「やめろ!」
何処かで大声が空じゅうに響いた。
レイじゃない別の男の人の制する声。
聞こえた途端に。
私はまるで奇跡を感じたのと同等の力を感じていた。
(セ……)
薄目で、前方を見る……。
大事な人。
私にとって。
一番の大切な人になったんだった。
(セナ……!)
首を絞めている『私』の背後には。
幻かと思われた背高いセナの姿が映っていた。
「その手を離せ!」
セナがすぐに『私』を私から引き離す。
乱暴に扱われたせいで。
離された『私』は少し離れた所で転んでしまいかけたが。
空中で停止していた。
ユラリと傾いた私の体をセナが受け止めてくれる。
私は。
むせた後に正気を取り戻す事ができて安堵した。
「よく頑張ったな。お待たせ」
セナが軽く笑ったので。
私もピース付きで「へへへ」と調子よく笑ってしまった。
その間。
助けも何にもしてくれなかったレイが『私』の首元に邪尾刀を当てていて。
「どうする?」
と、聞いていた。
「やめてよ!」
思わず、私はレイに叫んでしまっていた。
「……」
『私』は観念でもしているのだろうか。
うずくまっていて。
苦しげな顔をしている。
「勇気……よく聞いてくれ。それとこれを見ろ」
セナが私の手をとった。
そして広げていた私の手の平の上に。
セナが持っていた物を幾つかのせる。
……それは、石のような物、首飾り、ただのガラスの破片のような。
……どれも私には見覚えのある物だったのですぐに驚いて声を上げた。
「これは……“七神鏡”!」
セナが大きく頷いた。「そうだな」
いち、にい、さん……3つ。
カイト、マフィア、ヒナタが持っていた物だ。
確か。
と、いう事は?
「あと、ゲインのが」
と、セナは片手を自分が着けていた腕輪にかざし。
その“縮小自在ポケット”から少しばかり大きめの鏡を取り出していた。
これで……4つ。
「俺とお前の指輪とを合わせて5つになる。集めてきたんだ。……これから奴を。倒せなかった、あいつを……」
悔しさと、悲しさを浮かべて。
セナは言った。
私は。
遠く向こうで小さくその姿を確認できる、“奴”を……見た。
青龍――
「もう時間がない……向こうで戦ってくれている皆には、精霊の力がもう無いんだ。武器と、体当たりで時間を稼いでくれている……だから、勇気……」
セナの語尾は、微かに震えていた。
セナが言いたい事は、私にはわかっている。
時間がない。
だから。
封印―― 即ち、救世主の死 ――
……
ついにその時が。
私の最後の……お仕事。
「うん……」
私は、“七神鏡”をそれぞれ両手の上に預かる。
セナの指輪も。
一つずつ、外してもらって。
持ちきれないかなと、そんな事を思いながらだった。
すると。
「私のも忘れないようにな、救世主」
すぐそばで。
声がしたので振り返るとだ。
ハルカさんが居たじゃないか。
「ハルカ……さん」
セナも驚いて見ている。
レイとハルカさんに関してはいつも瞬間移動で現れるものだから。
本当にびっくりしてしまうね。
「受け取るがいい」
私達の驚きなんて面も食らわず。
ハルカさんは首にいつも着けていた黒いチョーカーのシルバー飾りから。
赤く光っていた宝石を取り外して私に差し出してきていた。
「それが……」
前に。
ハルカさんが技を繰り出した時に。
煌々としていた代物だった。
だからきっとと思い込んでいる。
「私の“七神鏡”だ……“放棄する”」
サッパリと、言ってのけた。
私はいいのかなと不安そうにそれを受け取った。
途端。
ハルカさんは、まるで地面を失って。
空から真っ逆さまへと落ちていってしまった!
「ハルカさん!」
海に落ちた。
水しぶきが立ち、姿が見えなくなった。
そんな!?
力を、失ったからだというの!?
そうしたら今度は、だ。
「受け取れ、救世主」
また振り返る。
違う場所からの声……レイだった。
レイへと目を向けたと同時に。
何かが私の方へと飛んできた。
私が慌ててしまっていたからか。
セナが代わりにキャッチしてくれた黒っぽいそれは、まさしく。
「鏡……」
黒い光沢のある鏡。
手の平サイズで。
他の鏡と違って重量感があった。
「レイの……鏡。『闇神の鏡』なんだね、これが」
少し感動さえ覚える。
だって、レイが私にこれを投げ渡してくれたという事は?
「闇の力よ……“ 放 棄 す る ”」
レイの重い、底から低音で響いている声が私にしっかりと届いた。
「レイ……!」
涙が出そうになった。
胸が熱くなってくる。
レイの考えている事なんてわからないし。
どうしても今まで説得なんて諦めに近く、辛かった。
だけれど。
信じても、いいのだろうか?
裏切りではないだろうか?
レイの表情を探ってみたって全然わからない。
レイは余裕綽々で周りを見渡しているだけだった。
「ありがとう……!」
私は手に持っているだけの鏡を力いっぱいに抱き締めてお礼を言った。
それから、私の手の中にレイの鏡を受け取って。
私の腕かかえの中には。
鏡で溢れてしまいそうになった。
これで“七神鏡”は、7枚全て揃った事になる。
「じゃあな……」
レイも。
海へと、支えを失ったように。
―― 落ちていってしまった。
「は……」
腑抜けた声を私は漏らしてしまった。
何故ならば。
「うわっ……」
レイが落ちていくのを見届けた後だ。
ポツ、ポツと。
鏡のそれぞれから。
別々の色で淡く光を放ち出したのだ……!
「眩し……!」
ひと抱えにしている格好のため。
両腕を自由に使う事ができないでいた。
目をきつく閉じて光を直視しないようにして固まった。
赤、黒、緑、黄、青、紫、茶……七色の、光……。
……
どれくらいの時間が経過したというのだろう。
恐る恐る目を開いたら。
鏡は全部なくなっていた――
「!?」
一気に背中が凍りついてしまった。
私はもしやまずい事をしでかしたんだと思った矢先。
私の額の辺りで。
光と温かさを感じた。
「……!」
白い……光の塊があった。
淡い、優しい色彩を持っている。
自然で。
見ていると分け隔てなく癒してくれる効果を期待してしまいそうだった。
なんて壊れそうで儚く。
威厳に満ち溢れている光なんだろう。
私はそれに触れてもいいんだろうか。
おこがましいんじゃと気が先に引けてしま……
「勇気……大丈夫だ。俺も一緒に行くから」
「え?」
……?
光の塊を受けようかどうしようかと迷っていると。
セナがそう言った。
聞き間違い? と。
私はパチパチとマバタキをしてセナを見ている。
「だから」
セナは私に近づいて、肩の上に手を置いた。
「俺も一緒に、奴の中に」
再度、言う。
「へ?」
私ときたら。
やっぱりわかっていない。
「だーかーら!」
イライラしてきたのか。
セナがバンバンと私の背を叩くじゃないか。
「一緒に青龍に食われるんだっての!」
口を尖らせていたのに。
次に見たら吊り上がってニッコリと笑っていた。
「そ……」
そんな、と言いかけて。
セナは「行くぞ、時間がないからな」と。
聞かずに私の肩を押し出した。
な、なんて無茶な。
そんな事!
「ダメだよ! 死ぬのは、私だけで……」
と、私が言い返してみるけれど。
「いやだ」
と、一点張りで聞きはしなかった。
こんな所でわがままぶりを発揮されてもと私は弱る。
人間、正直がいいとはさっきも思ってましたよ、言いましたとも。
ええ、ええそうですとも。
ええ!
参ったなあ……でも。
(嬉しいよ……嬉し……)
……泣いていると、またせっつかれそうだねと思って。
私は一歩一歩とセナとともに空の地面を前進して行った……仕方ないよね?
セナが強情なんだから。
もう……。
皆の、思いの詰まった鏡の―― 精霊の光よ、ココに。
これを持っていくんだね。
青龍の体内へと。
そして封印する。
封印できる。
それで全てが終わる。
終わるんだ。
長かった時が、やっと。
平和がやって来る。
皆が望んで、望んで、望んでいた、平和が。
やっと……。
待ち望んでいた平和が。
我が身を捧げて……私の一生と、引き換えに――
「……させないわ」
私の気が緩む。
すっかり油断していた。
さっきレイに刀で押さえられ。
大人しくしていたもう一人の『私』だ。
最後の抵抗だった。
「勇気……あんたが、“死んでもいい”なんて。そんな事させない。私は嫌よ。絶対に嫌!」
立ち上がっていた『私』は、混乱していたようだ。
私とセナの前に飛ぶようにして駆けてきた。
「あ!」
光の塊を奪われてしまう。
「思い通りにさせるもんですか! 勇気、あんたは私の――」
いとも簡単に光の塊を奪い取った『私』は。
サッと姿を消してしまった。
「待て!」
「待ってえ!」
一体どういうつもりなのか。
跡形もなく消えて私達は残されて。
私とセナは。
青龍と激戦になっている大事な仲間達の所へと急いで飛んでいった。
《第59話へ続く》
【あとがき(PCより)】
レイとハルカは天神の加護がないやと思ってドボン。まっ、しゃーない。
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