表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/161

第58話(「私」の告白)・2


 一吹きの風が吹く。


 とても生ぬるい風だった。


 ふいに蛍がある疑問を口にした。


 セナが飛び去った後を目で追っていて。


 それは突然に閃き湧き出した素朴な問いだった。


「もし……レイ様が七神鏡を放棄して、力を失くし普通の人間に成り下がってしまったとしたら……」



 蛍は、即座に自分で解答を見つけ出してしまう。


 ……あまり認めたくない可能性の答えでもあったのだが。


「レイ様の闇の力で私達が存在しているのなら、闇の力を失ってしまったら私達は――」


 ジットリと嫌な汗で衣服を濡らしながら寝ているカイトを見た。


 ……微妙に口元を蛍は崩していた。


「……消える……のね……」



 小さな呟きに。


 ハルカは答えていた。


「……だろうな」




 ……




 救世主を愛していたからだ――



 私の頭には、ガーンと。


 トンカチで殴られたみたいな衝撃を受けた。


 それは見るからに。


『私』も、同じだったと思う。


「『私』が、勇気を……愛しているから、だと……?」


 やはり凄くショックにやられたみたいで。


 笑いもしないしこれまでの余裕もないようだった、もう一人の『私』。


 明らかに動揺が見えていた。


「そんなバカな!」


 振り払うように否定をする。


 それをも見通していた事なんだろうか。


 レイは動じず、またバカらしく笑っているじゃないか!


「そうか? なら、何故躊躇(ちゅうちょ)している? 救世主をサッサと始末できない? 今に始まった事でもない。これまでの行動、全てに言える事だ。俺やハルカまでをも惑わし、救世主を殺せと(そそのか)しておきながら最期に踏み切れない……俺は別に、救世主など生死はどうでもよかった。いつでも殺せたが……」



 天神様を閉じ込め。


 アジャラとパパラを洗脳し。


 自分は神子に化けて。


 レイやハルカさんを背後から操っていたかと思われる『私』の所業。


 こうして並べてみれば。


 それだけ手の込んだ事をしておきながら。


 結局『私』のしたかった事って何だったっけと考えてしまう。


 世界の破壊。


 それだったよね?


 私という片割れで遊びながら。


 レイの言う事もわかってきた気がした。


 何で私に固執して構うんだろうか?


 いっそ……とんでもない事だけれど。


 天神様を始末してしまえば世界の破滅も手っ取り早かったんじゃないだろうか?


 レイの話を聞きながら。


 そんな事を私は思っていた。



「確かにお前は救世主で遊んでいたな? 自分に気がついてほしくて堪らなかったんだろうが、残念ながら救世主はかなり鈍かったようで」


 ぐさっ。


 私の胸に見えない槍が刺さった。


 レイに鈍いと言われ、そうかも、と。


 納得しきっている自分がああ情けない。


 だって『私』が堂々と私の夢に出てきた所で。


 私ってば全ー然気がつかなかったもんね。


 あれえ、何なんだろみたいな事しか思わなかったこのノンキさ。


 罪作りな鈍さだと思う。


 レイは楽しんでるんじゃないかというくらい。


 流暢にツラツラと話し続けていった。



「青龍復活の直前には、わざわざ救世主だけを自分の元へと来るようにまで大げさに仕向けていたというのにな……よほど救世主に会いたかったんだと強く見えるが。よかったな、無事に対面できて。これでわかったろう? ……俺も最初はわからず、お前らの正体を探るために殺さず半端な事をしてきたが。やっと納得できた訳だ……結論。お前ら2人は、同一であるという事だ。お互いがお互いを大事にしているんだろう。愛、と言ったのはただの冗談だ」



 ははは、と声を立ててレイは笑っていた。


 乾いてはいるけれど、楽しそうな笑い方。


 ……あんまりこっちは愉快じゃないんだけれど……。


 ……愛、が冗談てアンタ……。



 そういやレイに言われて思い出したけれど。


 火の島で崖から転落した時だって。


 あの時の事をレイは言っているのだろうか。


 落ちた先が、見事に何故かセナの幽閉されていた場所。


 暗がりだったけれど。


 天井はどうなってんだろうかとかなり謎に思っていたっけ。


 あれって、『私』が強引に私を招いた罠でもあったんだ。


 あっさり引っ掛かってしまった割にはただの不思議っていうだけで。


 特に確かめようともせず。


 やはり私は鈍感だったと言える。


 トホホ、本当に『私』には申し訳なさでいっぱいだよ。



 それで怖々と。


『私』の方を見ればだ。


『私』は、レイに随分と好き放題に言われっ放しで肩や手が震えて。


 こめかみの辺りがピクピクと反応しているのがわかる。


 言い当てられているのが、悔しいのだろうか。


 いつもの調子なら何か言い返せそうなんだけれどなあ?


 レイの前では、何だか可愛らしく見えてきてしまう。


 ……変な感じが抜けない。



 私は、はあ、とため息をついた……



「あのさ……ちょっといいかな?」



 私は落ち着いてきたのをいい事に。


 思いを(さら)してみようと……試みた。


 持っていた光頭刃は腰の鞘にしまって。


 レイも『私』も。


 私の顔色を黙って見ていてくれていた。


 少し有難かった。



「あなたは……私の影、なんだよね。私がやる事なす事の裏で思っていた心が……あなたを生み出したんだとしたら。なら、あなたはきっと悪くない……私が悪いんだ。私が……ちゃんと言わないから」



 嫌な事が嫌だって言えない自分が嫌だった。


 ココの世界に来るまでは少なくとも。



「この世界に来て、セナやマフィア達と出会って。皆が一生懸命に生きているんだって事が旅をしてきて段々とわかってきたんだ。皆、死にたくなくて。たとえしょーもないちっぽけな事でも真剣に悩んで。時には、国のためを考えたり、身近で、好きな人の事を思ったり……どれでも皆、自分に正直だった。だから、人は行動を起こす……隠したってダメなんだ。自分に真っ向から見つめ合わなくちゃ」



 上手く言いたい事がまとまらない頭を。


 頑張って整理しながら私はたどたどしく続けていた。



「何度か、旅の途中で私は逃げ出していた。逃げる事で、身を護ろうとしていた。何度繰り返すんだろう……そう思う。きっと……私が、『私』と真に向き合うまで。そう。あなたと、こうして正面からぶつかり合う時まで。そして。あなたという者の存在を認めるまで、きっと『逃げ』は、永遠に続くんだわ」



 やっと辿り着いた。


 長い旅だった。


 そして私は手に入れる。


 ……真実を。



「正直、ホント恥ずかしかったよ……私の裏側を、人前でさらけ出しちゃったんだから。こんな悪い奴だったんですかって。堂々とさ……でもね。こうやって、あなたを目で見れた事で、自分の悪い所もハッキリとわかって。感謝もしてるんだ。それで思っちゃう。ああ、やっぱり私は私なんだなあーって、さ……」



 ポリポリと頭を掻きながら。


 顔が熱くなってきていた。



「もう……今なら。あなたにどんな悪い所があったとしてもよ。自分なんだなって。仕方ないかなあーって。何でも、受け入れられちゃう気がするんだ。そんな風に、最初の頃とは変われたんだよね。だから、さ……もう、仲違いは止めにして。一人に戻らない?」



 そうまとめた。


 私は変われたんだ。


 仲間のおかげで。


 強くなっていったと。


 セナやカイト、マフィアに叱られながら。


 歩き上り続けてきた階段を。


 何度足を踏み外しかけ。


 戻ろうと思ってきた事か。


 それでもちゃんと頂上に辿り着いたという事が。


 大きな自信になったんだ。


 もう昔の自分じゃない。


 私は私だけれど。


 過去の自分じゃない。


 だから、私はあなたを受け入れる。


 その用意くらい出来る余裕と自信がある。

 


 ああ、わかった。


 自信なんだ。


 あなたに私は殺せない。




「いや……」


『私』の手元から。


 光り輝いていた剣はスウッと音もなく消えた。


 空いた両手で顔を包み隠している。


 ……泣いているの?


 まさか。


 私はドキドキと心臓が高鳴ってきていた。


 泣かせてしまったんだろうかと。


 でも顔を上げた時にそれは違うとわかった。


『私』の顔は表情がなく。


 涙を流してはいない。


「私は……わた、し、は……」


 ガチガチと。


 寒がっているように歯を鳴らしていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ