第58話(「私」の告白)・1
※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。
同意した上で お読みください。
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(『七神創話』第58話 PC版へ)
思わぬ来客が出現し。
緊迫していた雰囲気はおかしな方向へと。
流れていくみたいに思えた。
「レ、レイい!?」
「久し振りだな。救世主……」
素っ頓狂な声を私は上げてしまう。
レイの目が、眼鏡の奥で光っていた。
私と『私』が向かい合っていたさなか。
それより横のやや上空で。
私達を見下ろすレイの立ち姿が現れていた。
鈍く光る邪尾刀を携えている。
ほ、本物のレイだ!?
「い、いきなりこんな所に……」
私は見た目も頭の中もパニックになっている。
「お前らの悠長さに、ほとほとウンザリしているだけだ」
突然のレイの登場。
セナの攻撃を受け、四神鏡を解放してから。
行方知れずになっていたのに。
一体今まで何処でなりを潜めていたのだろうか!?
「教えてやる、ですって? ……」
『私』は睨んでいる。
私に向けられていた剣は引っ込めて。
レイの目の奥をジッと見据えて。
ガンを飛ばしているようだった。
レイは嘲笑う。
鼻で笑って、今度は『私』の方へと向き直り悪態をついていた。
「救世主の言う通り、お前は救世主を殺せない。何故だかわかるか?」
わかるはずもないと。
『私』は黙ったままでレイを見続けていた。
私にも何の事やらと。
事の成り行きを見守るくらいしか思い浮かばず。
黙っていた。
「……本気でわかってないんだな。簡単な事だ。お前は、救世主が羨ましかったのではない。救世主を独り占めしたかっただけだ」
独り占め……?
レイの、『私』に向けられた言葉がグルグルと頭の中を巡る。
何だって?
『私』が私を独り占めしたかったって?
どういう事なの?
私とは違って『私』は。
神妙な面持ちで身が固まっていた。
レイはトドメの言葉を発した。
「救世主を、愛していたからだ」
……
空に浮かぶ島の陸の上では。
青龍の毒の息をまともに浴びて受けてしまい。
虫の息である状態にと成り果てたカイトが横たわっていた。
そばには天神、蛍と。
セナが居た。
セナは背中に青龍からの攻撃を受け。
爪の跡がクッキリと痛々しくも残っている。
……天神の聖水を少しばかり与えられ。
応急的な処置を受けたおかげで瀕死となる所を救われていた。
落ちた場所が幸いだったとも言える。
天神と蛍の救助によって。
2人は島まで運ばれていた。
カイトは苦しい声を出している。
「う、うう……」
一度体内に侵入してしまった毒が。
カイトを蝕み血管や神経を伝って臓器、脳を侵していった。
天神の聖水の効能では回復までにはなかなか追いつけないようで。
肌は全身、赤紫にと色を変えてしまっていた。
……大量の汗をかき、息も絶え絶えに。
触れると火傷をしそうなくらいに血液が煮えたぎり熱すぎていた。
「しっかりしろよ……! ……死ぬな!」
セナの声も今のカイトには遠く。
返事は無論なかった。
それがセナに焦りを生み出し。
地面に手をついて必死に何かを堪えていた。
そうでなければ出てくるものは。
疲労感、絶望感、嘆き、悲しみ、弱気。
よくもないものだという事が。
セナにはわかりきっている。
出そうになるのを我慢するしかなかった。
嗚咽を漏らしそうになるのを耐えている顔でいると。
背後から誰かが忍び寄ってやって来る。
それは天神でも蛍でもない。
違う、別の者。
ハルカだった。
「死ぬのか、そいつ……」
ハルカの声に、ビクリと体を起こさせた。
慌てたように振り返ってみたセナの顔は赤く硬く。
見えないものに怯えているに窺えた。
ハルカはハッ、と短く息を吐いた。
「セナ、お前は優しすぎるな。いつ見てもそうだ。人などいずれは死ぬ……今、お前はこんな所に居る場合じゃないんだろう?」
感情を出さず、ハルカの坦々とした口調がセナに刺さる。
人などいずれは―― セナには、許しがたい事だった。
「わかってる……」
セナは立ち上がった。
……カイトを真下に見下ろし、それから天を見上げた。
青空は、爽やかな風をくれるはず。
セナの張った肩や筋は、少し緩んだ。
苦しみ続けていくカイトをまた目下に見下ろして。
やがては決断のキッカケを自らが作る。
セナに下された、与えられた使命があったのだ。
それは、カイトが言い出した事柄。
提案。
今こそ実行に移すべきだと。
セナは判断する。
「“もし仲間の一人でも、瀕死の状態に陥った時は”……」
青龍と対峙する直前に。
勇気を除き仲間内だけで決めた約束事。
それを思い返して復唱していった。
「“青龍を封印するに行動を切り換えよ”……」
七神のうち、一人でも欠ければ効果は不完全になってしまうだろうからと。
カイトは補足を込めていた。
もし万が一にでも死ぬ前に手を打て、と……。
「“実行するのは、その時一番近くに居る者が請け負い、行動せよ”…… 俺 だ 」
青龍封印の法。
天神によって、それは皆に教えられていた。
その法とは――。
“七神鏡の放棄”である。
救世主は、七神の力の源であるこの“七神鏡”を一ヶ所に集め。
放棄された各精霊達のエネルギーを取り出し一つの塊を造り出す。
それを持って、青龍の腹の中へと飛び込み果てるのだ。
“七神鏡”とは、セナ達にとってはなくてはならぬ物。
世に生を受けた時から生涯ともにあり。
僅かにでも鏡に傷を負えばたちまち全身に痛みが走る。
そんな神経の繋がった大事な鏡を。
“放棄”する事でセナ達精霊使いは精霊とは断絶となり。
力を失い常人との差異はなくなってしまうという。
普通の『人』として余生を過ごすという事になるのだ。
だがそれは、七神達にとっては辛い事でもある。
片時も離れず過ごしてきた友、親や兄弟との別れに似るとでも言っておこう。
責務を背負う役目となったセナは。
仲間からそれぞれ“七神鏡”を回収しに回らねばならないのだった。
「しなければ……カイト」
セナはカイトに呼びかけた。
頼む聞こえてほしいと願いながら。
「カイトとやら……聞こえるか。鏡は何処だ? セナに渡せ」
と、ハルカがセナの真横で同じに呼びかけている。
セナはハルカをチラリと横目で見た……ハルカは特に気にもせず。
カイトの様子を見守っていた。
するとだ。
カイトの左手がゆっくりと動き出している。
ゴソゴソと、ズボンのポケットをまさぐっていた。
「こ……」
くぐもった声でカイトはセナへと伝えようとしていた。
『これだ』と言いたかったらしく。
握り締められたコブシを突き出していた。
セナが手の中の物を受け取り確認をする。
コロン、と転がる小さな石の形をしていた。
―― それこそが正真正銘の。
「確かに受け取ったぞ……カイト。お前の“七神鏡”……絶対に失くさないからな」
セナは大事にそれを握り包んだ。
一度、皆の七神鏡を見せ合った事があり。
それは確かにカイトが出していた物と相違ないと思った。
「『水、よ……我、の、力を、……放棄、す……る』」
途切れ途切れだったがそう言えて。
カイトは、せっかく持ち上げた片手を力尽きたように。
地面へと激しく打ち下ろしてしまった。
「カイト!」
思わずセナが叫んでしまったが。
「安心しろ。まだ息がある。気絶しただけだ」
「休ませてあげなさい。聖水が効き始めたのかもしれぬ」
と、ハルカ、天神がセナを宥めに入っていた。
「そう……だな……」
セナは自分に言い聞かせ。
手に握られた鏡をさらに強く握った。
「行ってくる」
セナは素早く空中を勢いよく飛んだ。
……また、青龍の元へ。
これから、決め事の通りに七神鏡を集め回らねばならない。
一刻も早くである。
急がなければ。
苦戦を強いられている仲間達はカイトの二の舞になりかねないと。
急ぎセナは空の中を全力で飛行して消えていった。