表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
149/161

第57話(接近戦)・3


 はあ、はあと喘ぎながら肩を上下させ。


 勇気は『敵』からいったん離れて間合いをとる。


 このままでは確実にやられてしまう、どうすればと。


 勇気はつい、よそ見をしてしまった。


 青龍と戦っている仲間達の方へと。


 目をやって、混乱している頭を落ち着かせようと頑張った。


(ん……?)


 勇気は気がつく……『勇気』も。


 青龍の方を見ている事を。


 不自然に思えた。


 注視していると。


 やがて『勇気』が勇気の視線に反応し言葉を投げた。


「あんたを本気にさせるには、やっぱ仲間の一人くらい死ねばいいのよね」


 そんな最悪な事を言った。


「なっ……」


 耳を疑う。


 しかし聞き間違えではなかった。


「誰がいい? ……セナ?」


 見下し冷笑を浮かべた『勇気』だが。


 言っている事の内容が嘘か真かはわからなかった。


 まさか――


「やめて!」


 ググ、と剣を握る手に力がこもった。


 勇気の目に真剣味が増したようで。


 それを見た『勇気』は声を立てて一笑した。


「あはははは。そうこなくっちゃ。別に私が手を下さずとも可愛い青龍があんな連中、簡単に殺してくれちゃうわよ……バカね、攻撃ばかりで。敵意もむき出しで……ああ、ホラ」


と、アゴで方向を指し示した。


 先には、青龍が居る……。


 まるで歯が立たなかった魔法戦を終えてセナ達は。


 接近戦へともつれ込んでいたようだった。





「どの技もまるで効かないなんて……」


 落胆の声を吐き出したのは蛍だった。


 島の陸上から、遠く彼方を見つめている。


 そばには天神と。


 スカイラールの横に寝かされたままのハルカが居た。


 天神は両の手を組み目を閉じて。


 祈りを捧げていた。


 蛍は不謹慎だと思いながらも。


 つい言ってしまう。


「神様が、誰に祈ってるのよ」と。


 まぶたの中の天神の瞳には、遣り切れない辛さがあった。


 しかし微笑みが出る。


「本当ですね……誰に願いを乞おうとしていたんでしょう。神、即ち自分にでしょうか」


 それは自嘲だった。


 まさかこの神様、死にはしないでしょうねと。


 毒舌の蛍は心の中だけで思った。



 そんな2人のやりとりの中。


 気がつかない所で動きがあった。


 ハルカである。


 目を覚まし。


 半身だけを起こして蛍達の目先を追っていた。


 夢の呪縛からの生還に。


 迎えいる者は誰も居ないのかと思えば。


 そうでもない。


 ハルカのすぐ脇横で。


 スカイラールはほんの小さく鳴いていた。


「ピイー……」




 紫とゲインは。


 それぞれが持つ短剣や長剣で青龍に戦いを挑んだ。


 空は難なく飛べるので。


 上下左右のバランスを保つコツを掴んでしまえば済みそうな事だった。


 地面の上で足を着いているのと同じ感覚をもって。


 すぐに慣れて助走もかけられるようにはなる。


 足でステップを踏みトントンと跳ね続け。


 青龍の背に乗る事に成功した紫は短剣で青龍の体に突き刺した……が。


「……硬い……」


 刃先は肉の中に沈まなかった。


 それどころか。


 なんとオリハルコンでできていたはずの短剣の方が折れ曲がってしまっていた。


「……」


 紫は無言で剣を見る。


 それほどまでに頑丈であるのだと見せつけられた青龍の皮膚。


 僅か数ミリ単位の穴も開かなかったようだった。


 ゲインも同様である。


 彼の場合は長剣で。


 青龍の胴体部分に勇敢に斬りかかっていった。


 しかし、かすった程度の事だったようで。


 青龍にこれといった刺激も変化もなかった。


 青龍は暴れ出した。


「ゴオァァアア……」


 耳をつんざく雄叫びを上げた後。


 無茶苦茶に体をよじらせ。


 長い尻尾の部分が迫ってきてゲイン達に襲いかかる。


 しかもそれにゲイン達は気がつくのが遅れてしまった。


 バシイッ。


 紫とゲインは勢いよく叩き払われて。


 大ダメージを受けて下へと真っ逆さまだった。


 落ちていく――。


「紫!」


「ゲインン!」


 悲鳴があちこちで上がっている。


「くそっ……俺達は併用魔法だ、いくぞ、カイト!」


 セナが呼んだ。


「おう!」


 次の攻撃態勢は整っている。



「“風花”!」


 セナの攻撃。


 気を極限にまで高めて。


 精霊達に命を出した。


 カイトの水の精霊の力と合わせてセナの風は変化をもたらしていく。


 青龍を中心に周囲の気温がみるみるうちに下がっていき。


 零度はとうに超えて。


 吹き荒れ出した風の中に氷の粒が発生していく。


 雪風となった風は青龍を襲った。


 カイトの“津波”を受けて濡れている青龍の体には。


 相乗に身を凍えさす効果を期待していた。


 青龍は渦巻く竜巻の中に閉じ込められて極寒の地獄を味わう。


 やがて風が治まっていくと。


 姿を再び現した青龍は氷づけとなっていた。


 それを見てセナもカイトも素直に喜ぼうとした矢先。


 ピシッ。


 青龍の氷に大きな亀裂が走った。


 すぐに。


 パリンッ。


 氷は砕け散った。


 物見事にも。


 砕かれた氷の欠片はヒラヒラと儚く花弁に見えて。


 下へと落ちていった。


 青龍は怒りを見せ始めていた。


 それもそうで。


 連続する自身への攻撃にさすがに機嫌を損ねてきたのだろう。


 ……青龍は、自分の周りに居るセナ達を敵であると完全に見なしたようで。


 次々と攻撃に目を光らせていった。


 マフィアも、得意とするムチで立ち向かう。


 セナは、少し強力さには欠けるが“鎌鼬”や“風車”などで応戦する。


 カイトも“津波”“小波”と続き連発していた。


 一方、攻撃を食らって海に落ちてしまったと思われた紫とゲインだったが。


 紫は海に落ちる直前に意識を取り戻す事ができ付近の陸地へと。


 ゲインを背に抱えて降り立った。


 ゲインは血まみれだったが。


 意識はハッキリとしていて大丈夫そうに見えた、が……。


「鼓膜が破れたな……ワッハッハッ。さすが青龍殿、なかなかやりおる」


 顔に付いた血を拭う。


 陽気さは紫を唖然とさせたが。


 ゲインの豪快な大笑いにつられて紫の口元は次第にほころびて。


 終いには一緒になって笑ってしまっていた。


「さて追いつくぞ。まだまだこれからだ」


 ゲインと紫は宙に浮かび、空へと。


 戻って行った。



 ヒナタは魔法攻撃の連続には体が堪えるようで。


 肉弾戦を試みていた。


 武器となる短剣を振るい。


 果敢にも立ち向かうが全く相手にされていなかった。


 体当たりを受けたり。


 かわしきれず爪で引っ掻かれてしまったりで。


 ヒナタの服に付着する赤い血は少しずつ増えていく。


 ココに居る七神、全員が思い始めている。


 ……疲労というものが積み重なり支配を強めていっていた。



 青龍は強すぎる。



 身に染みてきていた。


 天神が、今まで散々に言ってきた事でもあった。


 なのに今さら呟く事でもないと。


 皆がそれを承知していた。


 青龍は容赦なく、(たい)で攻撃、反撃をして。


 セナ達を苦しめていった。


 血だらけになっていきながら。


 マフィアは戦う前から背中に傷を負っていたが。


 それもだいぶ先から傷口が開いてしまい。


 チャイナの服は赤く鮮明な色が付いてしまっている。


 赤、赤、赤。


 暴れた青龍は毒息を吐く。


 黄色い不味そうな色をした息は。


 ちょうど手前に居たカイトに浴びかかった。


「ぎゃああああ……!」


 苦しく絞め上げた声を出し。


 カイトは身を庇う格好になったまま落下していった。


「カイト……!」


 驚いたセナが慌てて追いかけようと、油断した。


 その時だった。


 ザシュ。


 セナの隙だらけになっていた背中を。


 青龍の鋭く尖った爪が襲った……。


 2人ともが落ちていく。


「―― カイト殿! ……セナ殿ぉお!」


 ゲインは鍛え上げた自らの肉体を武器にも、戦っていた。


 諦めなど眼中にもない。





 青龍に攻め入り、赤に染められていく惨状を。


 勇気は見るに耐え切れなくなっていた。


(力よ……!)


 天を仰いだ。


 無力な自分を呪った。


 何も答えをくれない天を憎み。


 自分を責めた。


 だが、青い空に人の顔が浮かぶ。


 ……それは、自分が勝手に視界に映し出しただけだろうセナの叫びの顔だった。


 弱気になるなバカ野郎――。


 もしココにセナが居たら。


 きっと勇気にはそう言って叱るに違いないと思っている。


 勇気は自分の想像力に少し微笑んでしまっていた。


「何笑ってんだか……不快だわ……気でもふれた?」


『勇気』は無表情で勇気を見ていた。


「あなたにはわからない」


 勇気も見返す。


「一人ぼっちのあなたには……決して」


 強気にと、勇気の内部に変化があった。


 諦めかけても諦めかけても。


 不思議とまた這い上がって来れる。


 それは、仲間の言葉。


 信頼。


 それがあって、生まれ湧いた勇気のおかげだと――。


「あなたに私は殺せない」


『勇気』を曇りない目で一心に見ていた勇気は自信を持って言った。


 ただの開き直りかと思っていた『勇気』は。


 勇気の堂々と真っ直ぐな瞳に何故か拭いきれない畏怖を感じた。


「フン……何を根拠にそんな夢めいた事を……」


 だが、『勇気』の方の内部にも。


 多少の変化の兆しがあった。


 いつからか。


『勇気』から、快楽の―― 楽、は……なくなってきている。


「殺せないですって……? いいわ、殺してあげるわよッ!」


 剣を振り上げ――。


 勇気に頭の上から振り落とす!

 


 ……



 勇気は微動だにしなかった。


 目は閉じていた。


 そのせいで。


 振り落とされたはずの剣は勇気の頭上でピタリと止まってしまっていた。


 静止したままの2人に。


 奇妙な時間が流れる。



「どうして……?」



 カタカタと。


『勇気』の剣を持つ手は大きく震えている。


 何故、動きを止めたのか。


 それは『勇気』自身にもわかっていない事だった。


「何で……?」


 少しの混乱が生まれ。


 徐々に『勇気』の内に広がっていく。


 疑問を投げかけた所で。


 答えなど返ってくるはずはなかった。


 しかし。




「教えてやろうか?」




 2人は振り返る。


 とても懐かしい声がした。


 その主とは。


 2人もよく知っている人物。


 切り揃えのある青い髪。


 銀の鎖が耳元にまで繋がった飾り眼鏡。


 白の長いコート、革靴。


 不似合いな手編みの赤いマフラー、手には……引っ提げた“邪尾刀”。


 生死を問われていた。


 七神のうちの一人である闇神、その人。


 そう、彼の名は――。



 レイ。



《第58話へ続く》





【あとがき(PC版より)】

 切羽詰まっているのは主人公だけではないぞ!

 あともう少しだというのに……(泣)。


※本作はブログでも一部だけですが宣伝用に公開しております(挿絵入り)↓

 http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-130.html

 そして出来ましたらパソコンの方は以下のランキング「投票」をポチッとして頂けますと勇者を倒す。倒せ。 


 ありがとうございました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ