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第57話(接近戦)・2


 勇気が『勇気』と一対一で戦い始めたのと同時間。


『勇気』を下ろし身を軽くした青龍は。


 全身の体毛を進行する流れに沿わせて。


 雲の中を飛び泳ぎまわっている。


 青龍とは……落ち着きのない身のものなのか。


 動きを止めたり。


 何処かの地へと降り立つ様子は見せなかった。


 それは子供のようで、自由でもある。


 勇気を置いてきた一同は。


 青龍の方を追って少しの打ち合わせをしておく事にした。


 一度戦闘が始まってしまうと。


 もう集まる機会を得る事が少なくなるだろうと予想していた。


「“風花(かざばな)”、という技がある。奴の周囲の温度を下げて、雪風を作り出す技だ。空中なら使用するには絶好の場だと思う。カイトは?」


 セナは青龍を睨みながら集中力を高めていた。


 それは他のメンバーもだった。


「俺は最初、“津波(つなみ)”だな。攻撃系の技で手持ちのは種類が少ない。その代わりこれまでに段階を経て強化してきたけどな」


 カイトは目下に広がる海を見下ろして言っている。


 ポキポキと指を鳴らしていた。


「“覇王樹(サボテン)”という技を初めて使わせて頂くわ。針千本攻撃……痛いわよ。かなりね」


 マフィアはムチを張り構えて気合いを入れていた。


 存分に暴れまわるつもりだった。


 技の使用には慣れている3人とは一歩ほど違い。


 他のメンバー、ゲインやヒナタは。


 顔を見合わせて少し考えていた。


 魔法を持たない紫は。


 短剣を持ってそれらを眺めている。


「じゃあ……“東雲(しののめ)”を使ってみようかな。光線を刃みたいに変えるんだけど。それに、光の塊を作る“積木(つみき)”で。この2つを使うよ」


「ふうむ。空中では、使える技というものが限られてしまうがな。まあ、適当にサポートしつつ体を武器に戦うかな」


と、ヒナタとゲインが一応、と付け加えて言っている。


「よし。最初は四方から攻めるか……空中戦だから、マフィアやゲインには精霊扱いが困難だとは思う……だからサポートか、他の武器で戦ってくれ。紫も。逆に風、水、日がある時はヒナタも。俺達には有利だ。存分にフル活用しようぜ」


 セナはまとめて、楽しげに笑っていた。


 やる気を充分に……それは他の皆にも移っている。


「了解。その後は臨機応変に。いつもの如く」


「了解ね。各自の判断に任せるわ……信じてるからね」


「青龍を倒す事。それだけだ」


「了解」


「あとそれと」


「何? カイト……」


 カイトの提案が一つだけ。


 小さな声で、それは皆の耳に触れた。


「……了解」


 マフィアの頷きに続き。


 皆は同意を示して頷いていった……。




「行くぞ! 青龍!」


 セナのかけ声が始まりで各自は一斉に散らばった。


 四方、または八方。


 青龍を取り囲む陣で最初は動き出す。


 日は高く迫り、天気は良好だった。


 連なり、白い綿菓子のような丸まった雲。


 間に筋ついた雲もあるが。


 春頃に見られるポカポカとしていそうな陽気な青空が広がっていた。


 これから戦いだと言われても。


 恐らくは疑ってしまうだろう。


 下の海面は光と青で揺れている。


 ……たまに。


 腹を見せた魚の集団やゴミが一緒になって見かけられた。


 場所を変えれば。


 赤い海や緑の海が見られるのかもしれないと言っておく。


 戦いの火ぶたは切って落とされる。


 まずはマフィアの技である。


“覇王樹”。背を反らせ大きく息を吸い込み。


 ムチを持ったままの腕と腕を広げて胸を晒した体勢となったマフィアは。


 思い切りよく叫んだ。


 精霊は、見える粒子となって陸から浮上している。


 ……マフィアの命により。


 無数の精霊達は従って空へ。


 青龍を中心に数を増やし囲んでいった。


 青龍は輝く銀色のカーテンの中に閉じ込められてしまったようである。


 それは惑わしのイリュージョンの世界にでも入り込んだようで。


 美しい光景でもあった。


 だが。


「“覇王樹”!」


 カッ、と。


 マフィアの見開いた目からは鋭い視線が飛び出し刺さる。


 息を叫びとともに大きく吐いていた。


 声と同時に。


 粒子だった精霊は、(あるじ)に従順だった。


 幻想感を漂わせていた空気は一変する。


 粒子の微細は鋭さに化けた。


 ―― 即ち、針と化す。


 一つ一つは細かく小さな針だった。


 しかしそれが粒子の数だけあるとなると。


 数え切るには、よほど気の遠い話になり。


 神経の参る事は必至となるだろう。


 砲弾の針は標的となった青龍に方を定めて向かい。


 一斉集中発射された。


「“東雲”!」


 ヒナタが、合い間をかいくぐって自らの技を繰り出していた。


“東雲”―― 太陽からの光線が。


 触れられるだろう直線の刃に変化し伸びてきた。


 赤から紫へと。


 虹色に波変わる刃の数はこれもまた、数え知れない。


 青龍に向かって突き刺さりに線は走る。


「グガアッ!」


 2つの攻めを全て青龍は受けていった。


 短き針と長き刃を。


 どちらも突き刺さる―― しかし。


 プシュウウウッ……!


 青龍の凸凹した肌からは、白いガスが発生した。


 そして始め大人しくたなびいていたガスは。


 そのうちに上空へと昇り、薄くなって消えていった。


「あ……」


 マフィア達は苦い顔をする。


 それは無理もなかった。


 青龍は無傷だったからである。


 ちゃんと目でマフィアもヒナタも刺さる所は見たはずではあるが。


 青龍はガスをまき散らしはしたものの平然と構えていた。


 針も具現した光線も。


 溶けてしまったかのように跡形も無くなっている。


 2人とも下口唇を噛み締めた。


「“津波”!」


 休む暇など与えない。


 次は早くも用意していたカイトの攻撃が始まる。


 海が激しくざわついて。


 波うねりは猛威をふるった。


 ……高波は、天へ手よ届けと伸ばすかのように。


 周囲の海面を押さえつけて飛び出してくる。


 壁となった。


 青龍を高見から包み覆った。


 だがしかし。


 水の壁はザパンと轟く音を立てていながらも。


 大した事でもなかったかに振舞う青龍だった――。


 水の壁に青龍は動じる様子もなく。


 すり抜けただけに終わったようだった。


「そんなバカなよお!」


 カイトは悔しがった。


 これまでに積んできた鍛練を全否定されたと思えた。


 青龍には(こた)えていない。


「最強……何じゃそら」


 ハン、と悔しまぎれにカイトは鼻で笑うしかなかった。




 苦戦なのは当たり前だと思っていた。


 勇気も、天神達も、七神も。


 だからといって諦めない。


 ……最初から負けなど認めるものではないと。


 全員が誓った。


 勇気も、絶対に諦めたりはしなかった。


 たとえ、力に圧倒されていても……。


「でやああああ!」


「チョロいわね、勇気! 剣技なんて教わってないんでしょ!」


 それが最もだった。


 セナに格闘の技を一度教えてもらった事はあったが。


 戦いには不慣れな勇気は『勇気』に振り回されるしかない。


 不利は不利で、勇気は焦燥で限界を感じている。


 キイン、と金属音は弾き鳴る。


 せっかくの素晴らしい剣でも。


 相手からの攻撃を勇気は受け止めるだけで精一杯だった。


(また“あの状態”になれば、きっと……)


『勇気』の先ほどの発言で。


 ある事を勇気は思い出していた――。


 我意がない状態に陥った時の事を。


 セナを失った悲しさから現れた勇気の。


 トランス状態にも見える状態だった。


 仲間の声すら聞く耳ない危険さではあったが。


 戦いぶりに関しては攻守ともに最強だった。


 今一度、あの時の興奮状態にでもなれば――。


 危険だという事を押しのけて。


 その少しの期待が勇気の中に膨らみを見せていた。




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