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◆七神創話【携帯版かも】  作者: あゆみかん熟もも


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第56話(快楽と苦しみ)・2


 天神は考える。


 青龍の封印を。


 問題は一つ。


 レイ……闇神。


 七神の一人が欠けている事だ。


 封印は、不完全でも成るものなのか。


 天神には分からなかった。


 試してみた事は無論ない。


 しかし、もしできるなら。


 やってみる価値はあるのでは、と。


 天神は決心し、勇気達が集まるキャンプ地へと赴いた。



「封印を……ですか?」


 茶碗を持ちながら。


 勇気は天神が座する手前をボンヤリと見つめた。


 森の入口付近で。


 マフィアが作った鍋の中の雑炊を茶碗に移して食べている。


 獅子の子供に似た小動物をヒナタが捕まえてきたので。


 さばいた肉を焚き火で焼く。


 後は味を付けて、それぞれは焚き火を囲んでお腹を満たしていた。


 持ちかけられた『封印』という法。


 勇気達は忘れていた訳ではないが。


 レイが居ない以上、考えには入れていなかった。


「こちらの動きが気がつかれているのかどうだかは不明だが、青龍のあちら側は我々の方へ近づいて来ているらしい。このままだといつか衝突する事にはなるが。青龍を倒すと言った……その熱意は買おう。だが、やはりどう考えても無理だ。無謀すぎるとしか言いようがないのだ……四神獣を倒すなどと」


と、天神は頭を抱えていた。


 白く長い、艶で光る絹のような髪は。


 これ以上に白くはならない。


 しかし顔は青ざめている。


「お主達の力では、奴は倒せん。それが分かりきっているからこそ、代々救世主を呼び、生け贄として捧げてきたというもの。奴を倒すなどと……甘く考えるな!」


 最後、語尾を強めて言った。


 はち切れんばかりといった風に。


 ……途端に辺りはシンと静まり。


 パチパチと火の粉は上がっている。


 セナの、怒りを込めた重厚な声が響く。


「……勇気はまだ13歳なんだぞ……まだまだ生きられるじゃねーか。どうして……」


 箸を茶碗の上に置き、睨んでいた。


「何が救世主だよ。そんなの、こっちの世界の都合だろう……?」


 本当は叫びたいだろう、セナの叫びのような気が全員にしていた。


 だが黙ったままで、箸を進めている。


 勇気も、セナと同様に空となった茶碗を下に置き。


 箸を上へと置いて揃えた。


 勇気は、ありがとう、と心の中で呟き。


 セナの思いを断ち切った。


「もういいよ、セナ。私、やるだけはやってみるから。封印も、倒すのも」


 勇気は、持ち前の元気よさで皆の前にさらす。


 ……天神も皆も、それに救われていった。


「方法を教えて下さい、天神様。私……青龍を封印してみますから」


 焚き火の火は、赤々と消える事なく燃えている。


 食事ももう終わろうとしている。


 全員が……固唾を呑んで押し黙っていた。




 日は昇った。


 さあこれからという時が来る。


 勇気達を乗せた浮かぶ島の正面から。


 青龍はその姿を現す。


 記憶にも新しい龍の、滑らかな曲線を描くその体躯。


 蛇のようにぬるりと長く、見るに湿り気を帯び。


 よじらせて暴れていそうで。


 ……日に反射して青くウロコは光る。


 先についた頭は大きく。


 伸びた髭は枝垂しだれ風にあおられ横へと流され。


 ギョロリとした眼の奥は。


 色がついてはいるが遠目にはわからないでいた。


 頭にはざくり、ざくりと突き刺さったような角が2本。


 ……体毛は荒々しく。


 もじゃりと白っぽく生えて後ろへと流れている。


 頬を切り裂かれたかに見える大口から。


 牙や白黒のいびつな歯が見え隠れしていた。


 呼吸の隙に黄色い息を吐く事があるようだ。


 浴びると猛毒だろう、臭そうな息。


 ……顔の正面から攻める事など、不可能に思えた。


「私が七神、あなた達をサポートしましょう……飛べるようにします。そして、全身に防護の膜を張りましょう……それで精一杯。健闘を祈ります――それぐらいしか、できないが……」


と、天神は申し訳なさそうに言った。


 勇気達はとんでもない。


 充分ですと全員が一致し、大きく頷いている。


「天神様をお護りします。それと、操縦と。こちらにそれらはお任せ下さい――ご無事で」


 天神の影でアジャラとパパラは言った。


 武器を持つ。


 セナ、カイト、紫、ヒナタの腰には短剣を持つ。


 ゲインは長剣、マフィアはムチを持っていた。


 そして持つ全ての武器は。


 最高峰と言われている鉱物“オリハルコン”製だった。


 竜をも斬れると評判を受けてはいるが。


 ……目で確かめた事のある者はココには居ない。


 各自、武器を持つが主体はそれではない。


 魔法、肉弾戦など。


 それぞれの得意とする分野で活躍するつもりである。


 セナやカイトは魔法を、マフィアは魔法と武器のムチを。


 ヒナタやゲインは体を張った格闘戦で。


 紫は武器の長剣と格闘で。


 それらを頭に置いていた。


 戦い向きではない蛍は天神の元で待機し。


 いざという時のために備えるという形をとる事にした。


 残るは勇気。


 手には“光頭刃”を構え、青龍ではなく。


 ……体毛に隠れ潜んでいる『敵』に向かって目を鋭く光らせていた。


 準備はでき上がっている。


 戦闘が始まろうとして時が迫ってくる……


 勇気達は並んで広がり。


 しっかりと落ち着いていた。


 天神はすでに勇気達の護衛に取りかかっている。


 ……防護された服の上から。


 シュウシュウと煙が細白く立ちのぼり、身を護る。


 軽くジャンプすれば飛べるのだろうと予想されるほど。


 身の体重を軽く感じていた。


(いよいよ始まるのね……緊張しちゃうな……)


 勇気は列の真ん中から、一歩出た。


 島の岬になった崖で、神剣“光頭刃”を突き出す。


 ちょうど太陽の光が当たりキラリと輝いた。


 神の剣。


 神に選ばれし者が持つにふさわしいであろう、究極の剣。


 人は斬れないと言うが……?


(青龍もあの『私』も、斬れるような気がする)


 妙な確信が勇気にあった。


 どうせすぐに証明されるべき事だろうと思い意気揚々だった。


 不思議と、怖くなくなっていく。


 ……緊張は、ほどかれる。


 勇気は叫んだ。


「『もう一人の私』……聞こえてる!? 私よ、勇気よ! あなたの片割れ。私達は青龍を倒しに来たの……倒せなくても。封印してみせる……!」


 大音量は、めいっぱい空に響いていった。


 勇気はもう一度繰り返す。



「倒す……封印する!」



 それはとても気持ちのよいものだった。


 思わず、『勇気』が顔をしかめてしまうほどの爽快感。


 胸のあたりがチクチクと、棘刺す痛みに襲われた。


 歯を食いしばり、歯ぎしりもした。


「倒す……封印するですって……?」


 嫌な汗がたぎる。


 激情した感情を抑えていきたかった。


 握り締めた手はワナワナと震え。


『勇気』は我慢の限界を感じていった。


「許さない……させないわ……倒されるのも封印されるのも。そんな事を……」


 できる訳がないと高をくくって。


 鼻で笑った。


「させるもんですか!」


『勇気』は立ち上がって堂々としてみせた。


 さあやってみろと挑戦的に胸を張って正面へ。


 青龍は吠えた。


「グガアアア……ッ!」


 幾人かは、武器のある腰に手を当てた。


 セナやカイト、マフィアは魔法のために精神を集中の域へと達しさせる。


 足を片方。


 一歩だけ下がりやや後ろに体重をかけた。


 来い!


 ……もしくは、来る!



 勇気は。

 まず、と。


 我先にと島の土を―― 蹴った。



《第57話へ続く》





【あとがき(PC版より)】

 あと5話(ボソ)。


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