第55話(青龍、封印とその法)・3
「勇気! わかってんのか!? ……お前、死ぬんだぞ!」
誰かが私の両肩をぐいと引っ張る。
私を向けさせたのはカイトだ。
カイトの顔が私の真正面にあった。
怖い顔をして。
私は相変わらず何とも言えない顔をして。
無反応な顔をして……。
他人事だと思っていたかった。
天神様の言葉を思い返した……
『生涯を遂げるものとす』
いきなり。
どしんと、重くのしかかってきた。
何かが私の中に。
それでも何も言葉も感情も出ては来なかった。
「神獣……青龍は、異世界の少女の肉が好物なのだ。そこで、七神の力のエネルギーを凝縮させ、それを持って救世主――即ち『生け贄』は、青龍の体内に侵入する。それからエネルギーを解放し、内側から青龍を攻撃するのだ」
天神様は続けた。
「しかし、それでも青龍は倒せない。だが青龍を体内から刺激する事で、睡眠作用が働き数百年余りの眠りにつく事ができるのだ」
それが青龍を大人しくさせる法。
手段。
私が皆の、七神として集めたエネルギーを持って。
青龍の中へ入って。
そして、解き放つ。
そうすれば青龍は――
「生き残れた救世主は……」
セナが呟いた。
まだ夜の暗い周囲の中。
小さい声のはずがよく響いてこだまさえ聞こえた。
生き残れた救世主は……
天神様は首を振った。
「ゼロだ」
一同は金縛りに襲われる。
「一度体内に入った者は、二度と出ては来られない。青龍とともに封印され――朽ちていく」
朽ちていく……。
私の中に植えつけられたモノ――死。
今まで散々と頑張ってきたというのに。
結局行き着く所とは……。
私の未来とは……ねえ……?
誰の顔も見られない。
「何とかならないわけ……ちょっと! そんな顔してないで、何とかならないの!? あんた、神様のくせに!」
一番後ろに居た蛍が興奮して叫んでいた。
紫が落ち着いてと両肩に手を置いている。
皆は一斉に後ろを振り返っていたけれど。
また前の天神様の方に向いた。
そして。
お通夜の最中みたく。
だんまりとした時間を過ごして。
やっと私は口を開いた。
でもそれは……皆を笑わせるものでは断じてない。
私は……自分の頬にカツ入れし。
しばく思いで天神様の面前で公言する。
ハッキリと言った。
「わかりました。私、やります」
当たり前のように周りは騒ぐ。
「勇気……!」
固まった表情をした私は崩す事はなく。
鬼にでもなったつもりで言葉を吐いた。
「私が生み出し招いた事です。責任をとります」
セキニン、なんて滅多に使いたくないなと思いながら。
思いが伝わればいいと思った……思う。
(私が鏡を割らなければ……あんなものは生まれなかったんだ、か……ら)
そう思う事で悲しさがまぎれるような気がした。
現にそう。
妙に心の中がスカッとしてきていた。
ああこれが……『けじめ』って奴かもしれないよね。
うん。
うん、何だ。
簡単な事だったじゃないか。
私が死ねば、済む事だ……。
何をそんなに悩む事があるんだろうか……。
変なの。
皆が悲しそうな顔をしている。
何で。
こんなに楽なのに……
楽 な の に 。
変なのお……。
「似ています……あなたも」
天神様は目に影を落とし。
私を見据えていた。
何?
「代々の救世主――白虎の救世主、氷上も。同じ瞳をしていました。私は、救世主には毎回。元の世界へ帰ってもらっていたのです。もうこの世界には戻ってくるなと言いつけて。それでも彼女らは帰ってきた。……今のあなたと同じ瞳をして」
私と同じ瞳を?
……自分じゃわからないけれど。
どんな瞳をしてるんだろう?
辺りを見回してみても。
皆の沈んだ顔しか見えなかった。
私一人だけが置いてきぼりみたいだ。
どうしてこんな風にしか思う事ができないんだろう。
私は……私は……。
私は!
その時だ。
そばで誰かが立ち上がる。
セナだった。
あまり音も立てずに。
手をついて立ち上がる。
天神様に、いや。
誰に向けてでもなく突然に言い切った。
「青龍を倒す」
私を含め皆が呆気にとられて。
立ち姿が締まるセナを見上げていた。
突然何を、とでも言いたげな皆の注目を一身に浴びて。
セナは段々と感情的になって声を荒げていった。
「救世主一人に全てを負わせない。ココは俺達の世界なんだ。黙って見過ごすか! ……俺の命くらい賭けてやる。責任は、一緒にとる。何度でも同じ事言うぞ……
俺の命くらい、く れ て や る 」
そんな事を言い放ったセナだった。
「セ……」
私の震えた声が出かかって。
今度はマフィアが立ち上がった。
「そうね……そうよ! 私の命くらい、あげるわ! 一人にはさせない」
そうしたら今度はヒナタだ。
「無駄死にはゴメンだ。青龍を倒すために、俺も命を賭けるよ!」
次はゲイン。
「おうよお! 辛気臭い顔をしよってからに。戦わずしてどうなろうか! 自分の命くらい賭けられないでどうする!? おなごをみすみす死なせるなんざな!」
「どうせなら戦って死にたいさ。ココまで来たなら」
カ、カイト。
「同意です」
「七神じゃないからって、のけ者にしないでよ!」
忘れちゃいけない紫蛍のコンビ。
全員、立ち上がった。
いつの間にか。
正座していた私は、立ちあがった皆に囲まれている。
一体いつの間に?
ああ……。
あたたかかった。
セナが、ニッと口元で笑う。
「決まりだ」
私と、天神様を見下ろしていた。
呆れている私達を面白そうに見ている……呆れた。
上手い言葉が見つからないじゃないか。
全く――
「ありが……とう……」
いざって時に言葉って使えないものだったんだね。
だって顔が熱くってさ。
涙が邪魔してるんだから……。
《第56話へ続く》
【あとがき(PC版より)】
変な力が入ってしまう。あてててて。
※本作はブログでも一部だけですが宣伝用に公開しております(挿絵入り)↓ブログでイラスト頑張り中。
http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-127.html
そして出来ましたらパソコンの方は以下のランキング「投票」をポチッとして頂けますとデザートは豚腹。うぐ@
ありがとうございました。