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第55話(青龍、封印とその法)・2


 ね、眠い。


 外の野原へとやって来た天神様達は。


 私達を順に起こして地べたに正座したまま。


 待ってくれていた。


 全員が起きるのを。


 両隣にアジャラとパパラも正座していた。


「勇気。“七神創話伝”は、何処まで知っているのですか」


と、天神様は私達、いや私に聞いてきた。


 ムニャムニャと口の中の渇きを潤している私。


 まだ完全に目が覚めきっていない私を含め皆だったけれど。


 何とかヨイショと。


 疲れの取れきっていない重い体を動かし始めている。


 両目をこすりながら。


「ええと……」


 数秒ほど天神様の言葉を頭の中で回転させつつ。


 意味を理解していった私は。


 すぐにメモ帳を取り出しに荷物の所へ向かって行った。


 帰ってきた後に。


 そのメモを広げて声に出して読んでみる。


『この世に四神獣 蘇るとき……』から始まる各章を順に読み上げていった。


 そして『世界を統治し……』と読みかけた所で。


 天神様からストップの声が突然にかかる。


「第五章を飛ばしましたね。何という偶然なのか……つい故意では、と疑ってしまう事よ」


と、そんな事を言って眉間にシワを作る天神様。


 一体どういう事なんだろうか。


 よくわからない。


 少し寝ぼけているせいもある。



「いいですか勇気、第五章を告げる前に。そもそも、“七神創話伝”とは何だったのかをお教えします。“七神創話伝”とは、私があのクリスタルに閉じ込められていた時に立てた苦肉の伝達手段だったのです。チリンを生む前に」


 私が『え?』とした顔で見ると。


 天神様は続けた。


「どうか届いて下さいと願いを込めて。時間魔法という僅かな力を使って、過去のあらゆる所へと飛んでいったはずです。勇気、あなたに伝わればいいと信じて」


 そんな事を聞いた。


 私は驚く。


「そんな事だったのですか……」



 もしや呪文ではないか。


 もしやこれが旅のヒントに?


 そんな事を考えていた。


 当たらずとも遠からずといった所じゃないだろうか。


 私や皆、文章に織り込まれた言葉に。


 様々な思いを馳せていた。


 ……ああじゃないかこうじゃないかと。


 私も獣とか、鏡とか……。


 色んな事を思っていた。



 でも。


 ちゃんと私の元へと届いている。


 素晴らしい事だ。


「あの『もう一人の救世主』は、時空さえ支配できるかもしれませんからね……全て私のしてきた事は、賭けでもあったのです。チリンもそう。いえ、時すでに。チリンという存在はバレていたのかもしれません。あなたが一度元の世界へ戻った時に、チリンは姿を現わしていますから」


 私は「ん? そういえば……」と思い出す。


 というのは。


 私が元の世界に帰るように仕向けたのって。


 ……夢の中の『私』じゃなかったかしらって事。


 確か“聖なる架け橋(セイント・ブリッジ)”の在り処を。


 わざわざ教えてくれたのは、『私』だったはずでは……?


「何で私を元の世界に帰そうとしてくれたのかしら……だって帰って来ないかもしれなかったのに。第一、記憶がなかったし」


 すると天神様は「記憶を消したのは私です」と言い出した。


「ええ!? 何で、いつの間に!?」


 私一人で盛り上がっている。


 セナやカイト達も私の隣や後ろに居たんだけれど。


 天神様との会話を一切妨げずに聞くに徹していた。


「帰って来ないようにと、チリンの力であなたに術をかけました。あなたにも気がつかないくらいに成功したのでしょう。あの『もう一人の救世主』にバレたら、一巻の終わりですからね。きっと記憶を持ったままだと、あなたはいずれまたこちらの世界に来てしまう……私は過去、あなたのような救世主を数多く見てきました。だから確信を持って言っています」


 私は頷いてしまっていた。


 もし、記憶があったままで。


 本当の私の世界で一生を過ごせたかというと。


 ……あまり自信はなかった。


 だって。



 横目でセナを見る。


 そして顔を赤らめてしまった私。


「何だよ?」


 私の視線に気がついたセナは。


 何でもない顔をしていた。


「いや、別に……」


 私が天神様の方へ向き直すと。


 微かに天神様の口元が吊り上がって。


 微笑んでいるような気がして私は赤苦い顔をした。


 話を続けましょう。


 そうしましょう。



「あの『救世主』は、私の部下のアジャラとパパラを洗脳してあなたの世界へと送り、連れ戻させたようですね。そんな事をする事態になったのも、私があなたの記憶を消したせいでしょう。記憶を消さなければ、勇気、あなたは自然と戻って来たはずだ――私と同じく、向こうにも確信があったという事なんでしょうね。いいですか勇気。あの『救世主』は……あなたで遊んでいる……苦しめばいいんですよ、あなたが。あいつは。あなたは、帰りたかった。元の世界へ。あの時。そういう心境だったでしょう……?」



 私は天神様の言葉の。


 一つ一つに頷いていった。


 確かそうだった。


 ……私は。


 あの時にどうしても突きつけられた現実から逃げ出したくて。


 帰る事にしたんだ。


 逃げる、なんてセナ達を裏切る行為。


 今から思えば、あいつ……『もう一人の私』にしてみれば。


 しめたもんだと思ったんだろう。


 そういう事だ。


 私の苦しみが悦びなんだと……言っていた。


 私が苦しむためなら、何だってする。


 遊んでいる……私達で。


 苦しめば苦しむほど……ああ……。


「チリン君の存在が……『もう一人の私』の誤算だった訳か……」


 悲しくて、何だかたまらなかった。



「それでは、第五章です」


 顔を上げた。


 お腹に力が入る。


 天神様はそう言うと。


 一つ咳払いをして私の顔を真っ直ぐに見直した。


 惹き込まれる瞳……強い引力だった。


 私の目を。


 捉えて決して離さない、決意や真のこもった瞳。


 そしてそのまま天神様は息継ぎとともに。


 ポツポツと言葉を坦々に語り綴っていった……。



「『第五章 “救世主”……


 或る時 玄武が降り立ちて


 地に死という名の雪を降らしたり


 其の時 救世主という名の人間


 自らの血と肉をもって


 玄武を奥深くへと 封印す


 また或る時 朱雀が降り立ちて


 地に死という名の光線を浴びせたり


 其の時 救世主という名の人間


 自らの血と肉をもって


 朱雀を奥深くへと 封印す


 また或る時 青龍が降り立ちて


 地に死という名の風を吹きあらしたり


 其の時 救世主という名の人間


 自らの血と肉をもって


 青龍を奥深くへと 封印す


 また或る時 白虎が降り立ちて


 地に死という名の毒をまき散らしたり


 其の時 救世主という名の人間


 自らの血と肉をもって


 白虎を奥深くへと 封印す


 救世主は自らを生け贄として捧げ


 四神獣の腹を満たし


 生涯を遂げるものとす


 満たされた四神獣は


 封印という名の眠りに陥りたり』」




 ……そこで途切れた。





 ……。



 ……。



 辺りは、シーンと静まり返っている……。


「……死という名の……」


 ヒナタが私の背後で言った。


 私は振り返る……何も考えずに。


 それからヒナタと目が合ったけれど。


 特に何もお互い返す事はなく。


 私は前に向き直した。


 そして皆の反応を待って……でも。


 誰もが固まってしまっているようで。


 動き出そうという雰囲気が暫くなかった。



「生涯を……」


 マフィアが声に漏らす。


 ……それが堰を切った。


「救世主を……」


「生け贄……?」


「生涯を遂げるだと……?!」


 皆が皆でまくし立てる。


 ざわめきが激しく私の背後で。


 口々に暴言を交えて飛んでいった。


「……どういう事だ! 勇気が死ぬとでも言うのか!」


「説明して下さい。納得がいきません!」


「……ふざけんな! ……畜生!」


 皆は(いか)っている。


 本気で言っているのがわかる。


 それぞれが地面を叩き、手が震え。


 目は血走っていた。


 沸々と。


 心の底から感情が沸いているのがひと目でわかる。


 でも天神様は落ち着いてそれらを見守っていた。


 何も言わずとても落ち着いて。


 私は……。


 私だけは……。


 メンバーの中で、私だけは……。



 黙っていた。




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