第54話(逃亡、そして)・1
※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。
同意した上で お読みください。
※じっくり小説らしく味わいたいパソコン派な方はコチラ↓
http://ncode.syosetu.com/n9922c/54.html
(『七神創話』第54話 PC版へ)
空に浮かぶ島は。
崩壊の危機を迎えていた。
レイを失ったと思い込んで気が動転していたハルカは。
誰に向けて放ったのかがわからない火の塊を爆発させる。
ハルカ自身をも巻き込んだのかと思えたそれは。
凄まじいエネルギー波で薄暗かった部屋を。
隅から隅まで明るく照らし。
……部屋という箱を破壊した。
勇気もセナも、最初の爆風で投げ飛ばされる。
幸い、爆発の中心から離されて距離を置いたおかげで。
直接火のエネルギーを浴びる事も食らう事もなく。
壁に打ちつけられそうになったものの。
勇気もセナも咄嗟の機転をきかせて。
それぞれに身を護るための風のバリヤーを張った。
幸が幸を呼んだ。
飛ばされ、護られ。
重いダメージは2人にはほとんどない。
部屋は壁が崩れ、無残だった。
ガラガラと……激しい音を立てている。
パラパラと……細かい砂は。
軽い音で転がっていく。
砂とホコリや瓦礫の山で惨状が外へと明るみになった。
2人の上を。
赤く薄く染まった空が覆っていた。
ゴゴ、と地鳴りが唸り響く音が断続的で、止まない。
落ち着ける場所を失いつつある2人は。
何とか立ち上がって意識を保とうとしている。
「セ、セナ……」
「地面に手をついてろ……しっかりするんだ。そのうちにアジャラとパパラが」
風も渦巻く中で。
セナは勇気にそう言った。
え、アジャラ達が? と。
首を傾げたくなる勇気だったが。
ひとまず置いておき。
身を護る事だけを考えていた。
どうなるの。
不安に襲われる。
やがて、遠くから。
甲高く聞こえた『声』がした。
「ほうら! 追いかけてきたわ……! においを嗅ぎつけて! 勇気! あんたをよ! おいしそうな異世界の人間をねえ!」
それは、もう一人の『勇気』の声。
耳と胸を劈かれる勇気。
聞こえるたびに、目頭が熱くなり。
恥ずかしさで隠れたくなっていく。
あれが私。
私の分身。
私が最初に抱いた本性……誰にも見せられるものではないと。
勇気は両手で顔を覆いながら。
指と指の隙間からセナを見る。
セナは落ち着き、声のする方へ目を細めていた。
途端にまた一度引っ込みかけた恥ずかしさが。
おかえりと戻ってきて胸を締めつける。
悪循環だと。
自分を嘲うしかなかった。
その『勇気』が言った通りになる。
島全体が、弾かれたようにドシン、ドシンと。
攻撃を受けてか直下型の地震へと変わった。
「きゃあ!」
勇気の悲鳴。
ガラガラと、不安定に積まれていた瓦礫のまた崩れていく音と。
一緒になって騒然となる。
「奴が消えた!」
間にセナがそう叫んだ。
奴とは、もう一人の勇気の事らしかった。
勇気は。
居たと思われるもう一人の『勇気』を目視で確認しようとしたが。
見つからない。
空や地面を捜しても見つからなかった。
セナの言葉通り何処かへと行ってしまったのか。
しかし勇気達には考えている余裕はあまりない。
度重なる衝撃に耐えていた。
「ちくしょお……!」
セナは、歩み出す。
「?」
勇気のそばへとやって来ていた。
「ちょっと貸してくれ」
勇気のそばに落とされて転がっていた“光頭刃”を拾い上げた。
剣を片手に。
足を地面の震動にとられながらも。
セナが向かった先とは。
天神の元。
クリスタルに閉じ込められたままの。
やがて辿り着く事ができたセナは、剣を振り下ろす。
クリスタルを砕くために。
ガシャン!
思惑通りに、クリスタルは砕け散った。
そして中からは。
「天神……」
天神。
砕かれたクリスタルの檻から。
支えを失ったように体を倒してきた。
セナはすかさず受けとめる。
「アジャラとパパラが、この島を操縦しに向かったはずだ……あいつらは助けた。もうあんたも呪縛から解かれたんだぜ……目を覚ましてくれ」
勇気には聞こえていない小さな擦れた声で。
セナは天神を抱きとめ支えながら耳元で言った。
安心しろと。
……目を閉じたままの天神に向かって囁きかけた。
反応はない。
その時、セナや勇気達の頭上を。
サッと大きな影が横切っていった。
「勇気ーーー!」
「今、そっちに行くからな!」
元気な声が、幾つか聞こえてきていた。
それは、頼もしい仲間達の声。
「ピイィーーー!」
口笛のような高い鳴き声が響く。
空竜。
スカイラールだった。
勇気達の頭上を旋回して飛んでいる。
迎えに来たと声を上げて。
「皆あー!」
勇気は足がフラフラとなりながらも立ち上がり。
大きく手を振り回して。
空の中を舞うスカイラールを目で追っていった。
スカイラールの背中は満員となった。
引き上げられた勇気、セナと。
抱えられた天神を始め、仲間達。
マフィア、カイト、ヒナタ、蛍と紫、ゲインと。
それから。
――倒れていた所を発見され回収された……ハルカ。
天神もハルカも、眠りについていた。
勇気達と合流した瞬間には。
安堵と喜びで顔をしわくちゃにして代わりばんこに肩を叩き声をかけ合い。
涙し抱き合いながら騒いでいたが。
先に横になって寝ていたハルカに勇気が気がつくと。
次第に無言になって皆で並ぶ2人を囲み。
様子を窺ってみているようになった。
見守っていると。
セナがボソッと話を切り出すに至る。
「勇気の所に駆けつける前、アジャラとパパラが捕まっていた部屋に出くわしたんだ。偶然に」
カイトが張り上げた声を出してセナの横顔を見た。
「奴らが!?」
仰天したカイトは。
セナが頷くと額にかかっていた髪をかき上げて。
冷静さを取り戻しにため息をつく。
セナは視線を天神に落としながら。
説明していった。
「だから助けた……訳がわからなくなりそうだったけど。こうは考えられないか。俺達の前に現れていたアジャラとパパラは、分身か、または……操られていたんだと。捕まっていたのがその証拠……つまり彼女らは……俺らの味方だ」
鎖に繋がれていたアジャラ達を見てセナは瞬時に悟ったのだ。
裏で何者かが自分達を誘導している。
その何者かは。
アジャラ達を捕らえた……敵は天神か、あるいは。
天神の近くに居る者。
セナは焦ったのだ。
勇気の身が危ないと。
何故なら……。
天神の神子は。
「俺は、アジャラとパパラを助けた。目を覚ましてくれて、話を急ぎながらだったけど聞いた……思った通り、彼女らは俺らの味方だったぜ。どうやら完全に今までずっと操られていたみたいだったな。俺達の事なんて初対面みたいで何も知らなかった……笑うぜ」
勇気はそんな、と小さく落胆していた。
かつて自分の世界へと帰っていった時に世話になり。
再会した時には、完璧に信じきってしまっていた事を激しく悔やむ。
どうして少しでも疑わなかったのかと。
口唇をかみ締めて自分を責めた。
「それで、2人はどうしたの? 何処に行ったの?」
ヒナタにセナが答えた。
「島の何処かに操縦部分があるらしい。そこへ行った」
「操縦?」
「ああ。神殿の……何処かだろうと思う。崩れちまって半壊してるけど。地下かもしれないし、もう任せてるよ。ああ、ほら」
と、セナが周囲を見渡すと。
ちょうど、地震の地響きとは違う質の揺れで島自体が動いたようだった。
穏やかに揺れながら、雲や鳥が後退している。
そう……海面から浮かんでいた島は。
自身が動き始め……船が水の中を漕ぐように。
空中を飛び一方向へと進み出していったのだ。
勇気達を乗せたスカイラールは後を追っていく。
「せ、青龍じゃない!? あれ……」
突然に慌てた声を出したのは蛍だった。
後退していく景色を指さして皆に教えている。
指された方角を一斉に注目してみると。
確かに青い蛇状のものが空中を波のようにくねり、泳いでいた。
遠ざかり、見えにくくなっていく。
「追いついてきたのか……」
「さっきからの大きな地震って、あいつが島に体当たりしていたんだわ」
と、カイトや蛍が目を細めながら息を呑む。
「あ……!」
勇気はギョッとした。
漏らした声をしまったとばかりに手で塞ぐ。
「どうした?」
「う、ううん。何でもない」
セナが聞いても、勇気は言う事ができなかった。
勇気は見てしまったのだ。
青龍のたてがみに隠れ、『自分』が居たのを……