第53話(割れた心)・2
神子に化けていた『私』。
『私』は、レイも意のままに操っていた。
レイが、天神様を憎むように仕向けた……?
いや、ただの偶然だったのかもしれない。
結果として、レイは天神様と神子を憎み世界を滅ぼそうと目論見る。
私なんかよりよっぽど賢いレイだ。
青龍を呼び出せば、どうなるかくらい想像できたはず。
追いつめられ、本人にしかわからない支離滅裂になったレイは。
身も世も破壊へ。
その流れを作ったのは――『私』だ。
「何て事……!」
私が。
私が、全ての元凶。
私が、始め世界を憎んだばっかりに。
「邪尾刀も贈ったし、青龍の居場所も勇気達の動向も。全部教えてあげたのに。毎晩、枕元で囁いてあげたのに……子守唄みたいにね。『青龍よ……あなたの好きな青龍が待っている……早く“四神鏡”を集めて火の島へ……憎いでしょう? 自分をこんなにズタボロにした天神や神子、人間達が憎いでしょう? レイ……あなたは何も悪くないのに。今に見てなさい、目にもの見せてくれる。さあまずは救世主――あいつで遊べ』
レイの意識はすり替えられる。
レイが『私』で『私』がレイで。
全てが、悪い方へと。
こうやって悪は生み出される。
いや――広がる。
「やめてええ!」
私は泣くのを堪えようと耳を塞ぎまぶたで目を塞ぎ。
流れてくる悲しみをせき止めようともがいた。
「苦しみなさい。とことんまで付き合ってあげる。あなたの苦しみが『私』には悦びこの上なくたまらないの。全身が、こそばゆい、おかしくてたまらない……」
血流が沸騰している。
悦びあらわにしていた『私』の一動が突然ピタリと治まった。
「あなたがうらやましかった。純粋でひたむきで一生懸命で。セナや皆に愛されて……どうしてこんなに差があるのか……同じ『私』のくせに!」
『私』の目がカッと見開いた。
そうしたらいきなり、私とハルカさんが立っている床から。
ザクリザクリと氷の矢が上に向かって突き刺すように出現する。
数は複数で数えられない。
「きゃああ!」
直接は刺さらなかった。
ハルカさんも。
身を庇う姿勢で固まってしまっていた。
少しだけ私は肩をかすめた。
ジンワリと、破れた服の隙間にできたすり傷から血がにじみ出る。
軽傷だけれど、心臓は破裂しそうなほど苦しくなって息がしづらい。
「苦しめ! 勇気! ――殺しはしない。苦しめ!」
憎しみの目が向けられる。
本能でも悟る……本気で『私』は私を憎んでいるのだと。
髪が逆立ち、顔は歪み、汗は蒸発し。
視線は私を貫こうとしている。
次の攻撃が、来る!
私はどうしたらいいのかわからず混乱したまま。
何処からか聞こえてくる音に耳を傾けた――。
『人間と成ることのできなかった者 存在す これが獣なり――』
“七神創話伝”の一部だった。
私の記憶から蘇った一節の切れ端。
人間と成ることのできなかった者――不完全――獣。
2つにわかれてしまった私達。
互いに不完全な状態の私達。
私は……私は――。
ドドドドド。
地響きとともに地面が揺らぐ。
「わあああ!」
転んで、横向けに倒れてしまった。
ハルカさんも。
『私』は……平然と立っていた。
天井を見上げている。
「気分がいい……」
ほのかに笑うその顔は、至福に満ちていた。
その時だった。
「勇気!」
予想もしていなかった方向から、男の声がした。
「セナ!」
呼んだ通り、部屋のドアを強引に蹴破り侵入してきたのはセナだった。
髪が汗で濡れている。
よほど走ってきたに違いない。
「悲鳴が聞こえたんだ。おかげでココが……だけど?」
駆け寄ってきたセナが立ち止まる。
私とハルカさんともう一人の『私』と。
ゴゴゴ……。
震動が一定ではない地面に酔いそうになりバランスをとりながら。
セナは混乱しそうになる頭を整理しようとしている。
私はすぐにそれを察知して、セナに伝えた。
「こいつが……こいつが、黒幕よ! こいつが……」
私も混乱していた。
涙目になってヤケになって。
恥ずかしさと、自嘲で。
訳がわからない。
「どうなってるんだ……」
セナは迷っていた。
姿格好の同じ私の一体どちらが本物なのか。
見定めようとしていた。
私が本物よ!
セナ!
だけれど悲しいかな、証明するものが――。
ある。
私は閃き、とにかく腰に手を伸ばした。
そして鞘から剣を抜き――“光頭刃”を構えた。
ブルブルと、手は震えている。
「こ、“光頭刃”は、持ってないようね? 偽者さん!」
必死に睨んで相手を威嚇していた。
偽者、と言ってしまった私をまた軽蔑した目で『私』は見た。
ガチガチと歯の鳴る音は止まらない。
「やああああ!」
私は飛びかかった。
がむしゃらに剣を『私』に向けて振り下ろす!
しかし難なくかわされてしまった。
横っ飛びする。
「苦しむがいい……」
私のそばで。
私にしか聞こえない音量で『私』は言った。
すると後ろで。
「レイを返してえええ!」
金切り声がした。
また、ドドドと岩を激しく叩く音。
重なり合いぶつかり合って太鼓に似た地響きはいつまでも。
ハルカさんは叫び。
両の手の平を合わせた腕が高く掲げられた。
手の平からは赤い光が生まれ放ち。
それは炎へと変わっていく。
炎に包まれた手と手は離れ。
円を描く動きで左右へと広げられ振り下ろされた。
炎がリング状となり形造られ……中心から爆発した。
私やセナは、軽く吹っ飛ばされる。
どうか頭は打たないでと、祈っていた。
《第54話へ続く》
【あとがき(PC版より)】
字数を気にしていたら今話。
少なっ!
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