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第53話(割れた心)・1


※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。

 同意した上で お読みください。


※じっくり小説らしく味わいたいパソコン派な方はコチラ↓

http://ncode.syosetu.com/n9922c/53.html

(『七神創話』第53話 PC版へ)



 終わりは始まり。


 そんな言葉を何処かで耳にした記憶がある。


 私が最後、本当の意味を知りたいと渇望し。


 その『真実』を手に入れた時。


 何が待ち受けていようとも、何とかなるはずさという軽い気持ちは。


 簡単にどうにかなるもんではない。


 私は受け入れなければならないんだ。


 目の前に起こった、起こる事を、全部。


 自分の都合のいい事にしてしまわないで。


 しっかりと見つめて。


 誰かが言っていたでしょう?


『これは、ゲームなんかじゃない』と……。



「私……」


 凍てついた雰囲気(ムード)が流れた。


 知らない所でピシッ、と。


 ヒビ割れたような音がする。


 私をこの場へと連れてきた天神の神子様は。


 私を天神様に会わせてくれた。


 天神様が閉じ込められているクリスタルの檻。


 眠っているのか、死んでいるのか……?


 それを覗き込んで確かめる前に、事態は急変する。


 私の前で神子様は変貌していったのだ。


 道化……に?


 いや、違う。


 ぐにゃりと自身に触れている空間をも巻き込んで。


 すっかりと見た目を変えてしまい私を震撼させていった、その姿。


 その形。


 私は対面する。


 私と。


 そう……。




 私なのだ。




「どうして……?」


 頭の中がパニックだ。


 完全に呆けてしまっている。


 力を失い口をだらしなくポカンと開け。


 目が乾ききってしまいそうなほどマバタキを忘れて見入っている私を。


『私』は嘲笑っていた。


「あはははは、そうよ、『勇気』」


 大口を開けて楽しそうに。


 私が着ているのと同じ制服、同じ靴下に同じ靴。


 何と腰の短剣まで同じだった。


 そっくりだ。


 しかし“光頭刃”だけは持ってはいない。


「夢の中で会ったでしょ……忘れちゃってんの?」


 呆れた、と肩を竦ませ両の手の平を広げた。


 夢……って、まさか。


 そんな。


 私が自分の殻に閉じこもってしまった時に聞いていた声。


 強引ともとれた手口。


 ハルカさんと対面したり。


 レイとハルカさんの過去へ見に行ってみたり……。


 あの時は、これは夢なんだからと。


 私は誘われ見たものを素直に受けて多少、無理矢理と思いながらも。


 いつの間にやらそれが真実なんだと信じ決め込んでいた。


 私は、思い込んでいたにすぎない。


「全ての始まりは……鏡よ、勇気。あなたが遺跡で真っ2つにした鏡――“透心鏡”」


 新しい鏡の名前を聞いた。


 何だって?


“透心鏡”?


 ……何だそれ。


 もう一人の『私』は。


 目の前を行ったり来たりしながら教えてくれる。


「人の奥底に隠された心を映し出す鏡だった……なのに、あの日。鏡は2つに割れてしまう。それが始まり。まるでこう言うと宇宙のビッグバンみたいね。ふふ」


 クス、クスと漏らす笑い声がよく辺りに響いている。


 私は黙っていた。


『私』は私の方をたまに見るけれど。


 すぐに何処か違う所を見つめている。


「薄々感づいてたでしょ? やけにこの世界は“鏡”が多いなあ、ってさ。ヒントを与えていたつもりだったのに」


 やれやれ仕方がないと肩を上下に揺らし素振りを見せる。


「まあいいや……どうでも。この世界も、どの世界も。滅茶苦茶になっちゃえばいいのよ……勇気、あんたココに来る前にそう思ってたんでしょ? 皆、自分勝手でさあ……人に嫌な事を押しつけたり、苛めたり、罵ったり……だったらさあ。私も、自 分 勝 手 で い い よ ね ? 」


と、『私』の目が光る。


 とても力強く、不気味な視線だったために。


 私の背筋は冷えてしまった。


「壊してやる。どの世界も。まずはこちらの世界から。青龍を使って……」


 興奮してくる胸の内を手で押さえ込んで息を弾ませた。


「破壊してやる」


 意志がこもる。


 とても強い意志の塊。


 何か言わないと、と思って。


 即座に私は反論に出た。


「な、何言ってるの! 世界を壊したいなんてもう思ってないわ! ココにも私の居た世界にも皆は生きていて、ただ平和に暮らしている。た、確かに前は、クラスメイトに苛められたり……お兄ちゃんの彼女さんに別居を勧められたりして嫌な事が続いていたけど。でももうそんなのとっくにどうでもよくなってる。今の私は、誰も恨んでなんかいないのよ!」


 一歩前に出て吠える私を。


『私』は冷ややかに見つめて。


 やがて片手を挙げてパチンと指を鳴らした。


 するとどうだ。


 私の真横にハルカさんが現れ。


 間を置かずに私の背から腕を絡みつけてきた。


「ハ、ハルカさん!?」


 ハルカさんの綺麗な赤い瞳を覗くが何の反応もない。


 私は羽交い絞めにされた。


 無言で私を押さえつけた。


「離して!」


 声だけで抵抗を試みる。


 ハルカさんは生きていた。


 レイは?


 レイは、どうなったんだろうか。


「……あなたがハルカさんを操っているの?」


 もう一人の『私』を睨む。


 フン、と笑って軽蔑の意を示す『私』。


「今のあなたがどうであれ、『私』はあなたから生まれた。倒せるもんなら倒してみなさいよ? そのご自慢の剣とやらでさあ……ウフフフフ、あはははは……ま、無理でしょうけどね。どう考えても。だって……」


 クイ、とアゴでハルカさんに指図した。


 ハルカさんは、締める腕の力をもっと強めて。


 私が顔を歪ませるまで締め上げていった。


「あああ!」


 私の悲鳴を。


 とっても心地よい響きを聞いたように反応する。


「いいわあ……勇気の悲鳴。勇気、知ってた? あなたが苦しめば苦しむほど、私は悦ぶの……たまらなく」


 ウットリと手で首筋を撫でていた。


「もっと叫んで」


 私は気持ち悪くなってきていた。


 さらにハルカさんは力を込めていく。


「……!」


 苦しみ歪む顔から、汗が何滴も辿って下へと落ちていく。


 苦しい、嫌だ、助けて。


 私は暴れたが、ちっとも動じない。


 女なのにハルカさんは私なんかよりよっぽど力が上だった。


 考えてみたら、カイトだって敵わなかったんだ。


 その事を思い出してしまった。


「レイは青龍に喰われたのかしら。もう知らないけど」


と、『私』はボソリと言った。


 私にとっては幸運だった。


 何とハルカさんの力が“レイ”という言葉に反応したのか。


 一瞬だけ力が緩む。


 すかさず、私は渾身の力でハルカさんの手を振りほどいた。


 それは成功し、私はハルカさんの呪縛から解き放たれる。


 押さえつけられていた腕を労わりながら。


 ハルカさんと『私』からある程度に離れて。


 ハアハアと息をついた。


 ハルカさんは追いかけては来なかった。


 変な間が空く。


 ハルカさんの呟きが、かすれて響く。


「レイは……?」


 とてもとても小さな弱い声。


 迷子の子供がママを呼ぶようで消えそうな声だった。


「レイは何処なの……?」


『私』はああそうね、と思い出して私を再び見た。


「私の代わりに動いてくれた彼に感謝しないとね。勝手に神殿に来て勝手に修行して勝手に暴走、それから自滅してさ。なあんだか可哀想だから、かまって利用させてもらったけど。よかったんじゃない? 青龍が好きみたいだったし、見られて本望でしょ……せっかく面倒看てあげてたんだし」




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