第52話(青龍復活)・1
※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。
同意した上で お読みください。
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(『七神創話』第52話 PC版へ)
私とセナを迎えにチリンくんは。
空竜に乗ってやって来た。
曇天の空の中で大きな羽を広げてあおぎ。
バッサバッサと豪快な音を立てている。
薄い水色で触るとぼこぼこしている皮膚をした体は。
重くはないのかなと思ったりした。
空竜、スカイラール。
チリンくんが名づけたのかそう呼ばれていた。
胴体から生えた太くたくましい前足で。
ガッチリと肩を掴まれていたセナ。
そしてそんなセナに。
抱きかかえられていた私、という構図。
いつまでもそんな態勢のままでいる訳にもいかないので。
私とセナは彼の羽の生えた背に引き上げられた。
両翼の間でカイト、マフィア、ヒナタ、ゲイン、蛍に紫と。
おなじみ懐かしいメンバーが。
揃って私達を出迎えてくれていた。
「勇気! セナ、無事だったか!」
と、カイトが嬉しそうに身を乗り出し。
セナの肩をバンバンと叩いた。
私を見る目も喜びで溢れて。
マフィアも。
他のメンバーも、だった。
ホッと安堵感に浸って温かい空気に包まれる。
「おかえりい〜」
「セナ、おかえりなさい」
「ああ。ただいまだ。ありがとう」
しばらくはそんな『ただいま』『おかえり』コールの嵐だったのだけれどね。
「……」
急に嫌な沈黙時間が流れた。
当たり前なんだけれど。
だって今。
「ひえええ……」
なんてノンキな声を上げるしかできない私。
だって――だってだって!
「青龍だ!」
セナが叫んでくれた。
そうなんです。
あああ、受け入れたくないけれどこれが現実。
ついに。
青龍が地上に現れてしまったんだった。
青龍。
……見たままからそう呼ばれているのだろう。
全体的に青い体で熱気なのか。
その身からは湯気なのかホコリなのかがわからないが。
白くボンヤリと立っていた。
もしココに造建築物があったりしたら。
物の見事に破壊されまくってしまっただろう。
『青龍』は、ココ。
火の島のちょうど中心にある山の頂上の土を溶かし。
中から弾かれたように飛び出してきたように見えた。
するすると蛇のように穴から長い体は伸びてきて。
先に出てきた体は空を旋回する。
一度伸びてみた体は縮み。
やがて時間をかけて全貌を明らかにした。
青く艶光りする体躯。
長い体に沿って攻撃から防御する役目のウロコが。
規則正しく幾何模様に描き並ぶ。
顔がよく見えない。
体の方に目が行ってしまうな。
しばらく呆然と皆で見続けるしかなかった。
「青龍……」
風の囁きと混じった声を出す私。
ゲインも後ろでぼやいた。
「奴が……」
「レイが……」
セナがレイと名を出した事で。
チリンくんが皆にもわかるように説明してくれた。
「レイが、卵みたいな形状のものを取り出したんだろう? ……中身は、ご存知の通り『四神鏡』の一部だ。これが4枚集まると、四神獣は復活する訳で。レイは始めから青龍を呼び出すつもりだったんだね。だからこの地で鏡を解放した……応えて青龍は、無邪気にも復活してしまったみたいだけれど」
「解放……された」
「そう。お姉ちゃん。レイが卵みたいなのを割った事によって、外気に晒された4枚の鏡は己の力が完全体になったんだ。真の力は晒されて初めて効果を発揮する……青龍は蘇った」
チリンくんの真剣な顔が怖かった。
子供だからか、余計にだ。
悪夢でも見ている恐怖がひしひしと伝わってくる。
我、鏡に呼ばれ。
復活なり――
「鏡は何処……」
またまた風に混じる。
泣きそうな声音でもあった。
鏡の行方もレイ達の行方もわからない。
鏡は、レイが所有しているのか。
それとも混乱の中で失せたのか。
鏡をもし見つけられたなら。
壊してしまえばとか。
……色んな考えがグルグルと回る。
「鏡はきっと何処かにはある。だけど復活してしまった後では、見つけた所でどうなんだという疑問がある。闇雲に探している時間も惜しいよ。それよりもだ」
チリンくんの厳しい意見。
今、私達にできる事って。
「お姉ちゃん。しっかりと見て」
チリンくんが言った。
私に。
「あれが青龍なんだ」
「……」
青龍は動いている。
空の中を自由に。
泳いで。
楽しそう……に。
何百年と過ごしてきた窮屈が時を経て光を浴びて。
人ではないけれど。
本人にとったら悦びこの上ない事なんだろう。
それはわかる。
……わかりたいけれど、でもそれは。
許されない事なんだ。
「復活したって……嘘でしょう……?」
目の端に涙が溜まってきていた。
この先どうなっていくのかが。
見当もつかない不安と。
恐れと八方塞がり……絶望感。
私は段々と頭ではなく身に染みてきていた。
おかげで全身は震えてしまう。
「落ち着け勇気。落ち着くんだ……それよりマフィア、皆に。聞きたい事が幾つかあるんだけど、まずアジャラとパパラはどうした? 何処行った? こんな時に」
と、セナは尋ねた。
今のこの現場に、彼女達は居ない。
セナは捕まっていた時に。
私達の様子でも見ていてくれていたんだろうか。
だとしたら私だけでなく。
セナも知っているの?
アジャラとパパラは――。
「それが消えちまったんだよ。勇気とマフィア、お前達を遠くから呼んでも来ないから、おかしいなと思って捜しに行ってみたら。マフィアだけが倒れてて」
とカイトがマフィアの方を横目に見やる。
マフィアは。
私が穴の中へと引きずられていくのを阻止しようと追いかけた時に。
背後からの『攻撃者』の杖によって背中を貫かれた。
反動で手を離されてしまった私は。
そのまま穴の中へと落ちたみたいだったけれど。
負傷したマフィアはどうなってしまったのか。
マフィアは今、服の下に包帯を巻いた格好になっている。
「応急的に僕が持ってた聖水を飲んでもらったんだ。少しは回復できたと思う。でも無茶はしないで。完全に治った訳じゃないからさ」
と、チリンくんはウインクした。
ううーん、可愛い。
マフィアはどうやら予断は許さず安静にせよという事ね。
できるんだろうかこれから。
自信はないけれど。
それにしてもだ。
マフィアを襲った――2人。
アジャラとパパラ。
信じられない。
時間が経った今でさえも。
彼女らは、何なのか。
天神様の使いじゃなかったの?
それとも偽者?
私は皆に、自分が確かに見たものを伝えた。
予想通り。
皆は私と同じ反応で信じられないと大騒ぎしている。
「信じすぎたんだ。何もかも」
カイトは言った。
続けた。
空を仰向いて。
「天神の所へ行こう。奴が全ての鍵を握っていると確信した――やはりな」
天神様の事を呼び捨てて。
さらに天神様の事を奴呼ばわりした。
それがカイトの確信、というよりは。
怒り具合を表していた。
やはりな……奴が。
全ての。
「皆、聞いて」
チリンくんが私達の方に向く。
とても意味ありげだった。
「今、スカイラールはこの先の“魔窟の海”に向かっていってもらっている。そう、そこの“光の輪”の内側に天神様の居る神殿があるんだ。僕らはそこへ行く。行って、その目で確かめてほしい。だけど――」
いきなり元気を失くすチリンくんだった。
どうしたんだろう?
思えば。
チリンくんだって。
怪しすぎる存在でもある。
まるで何もかもがお見通しのような――。
聞いてみた方がいいのだろうか。
それも何だか怖い。
私が戸惑っていると、ゲインが声を上げた。
「危ねえ!」
チリンくんの話は中断される。
ゲインの力強い声とともに私達はゲインに押し倒されていった。
ドミノ倒しの如く次々と順番になぎ倒されて。
「きゃああ!」
「うわ!」
悲鳴が飛ぶ。
間一髪だった。
遠くで旋回してこちらには関心がないと思われていた青龍は。
私達を見て追いかけてきたのか。
すぐそこまで来ていたではないか。
何と後ろから黄色い息を吐いていた。
一発目は届かなかったようで。
私達がその臭そうな息を直接浴びる事はなかった。
伏せられたおかげで。
空気に混じった息からも回避できた。
しかし次発目からはわからない。
こうしてもいられない。
「あの息は猛毒だ。息は止めて伏せてて!」
チリンくんだけが立ち上がろうとしていた。