第51話(四神鏡、揃う)・3
さらなる衝撃が私達を混沌へと導く。
「4枚!?」
叫んだのは私だ。
さくらはやっとの事で息を吐けたくらいで。
小さな声だったが――話した。
「ずっと……疑問はございました。自分の体の事ですもの……人でもなく、鶲達のような造り物とも何かが違う……そう、何かが。異物が……私の中にある事を」
レイの手に握られたそれは、湿り光っている。
生まれたての卵に似て。
むいたゆで卵みたいに、ぐにぐにと弾力もある。
「最後の1枚が私の中に……この目で確かめるまでは僅かにですが否定しておりました。申し訳ございません……」
頼りなく両の手を胸に。
……泣いている?
俯いている。
「ずっとご存知だったのですね……レイ様、私は……」
顔を上げた。
泣いて……涙をツウと一筋ずつ流し。
でも顔はとても。
優しかった。
「……おそばに居られて。幸せでした……」
さくらは倒れた。
「さく……」
私が声をかけようとした時だ。
もう一人の来客がスッと現れレイの隣につく。
何処から登場できたのか、彼女は。
ハルカさん。
倒れ顔をこちらに向けていたさくらは、ハルカさんを見ていた。
レイの隣にはハルカさん。
さくらには、一番見たくもない光景。
私の知らないさくらの感情がさくらの中で蠢いて。
でも出る言葉に嘘はないんだろう。
「お幸せ……に……」
事切れる。
ハルカさんは眉をひそめ、レイに問う。
「四師衆が……死ぬ?」
レイは目を伏せ、答えた。
「俺が死ねと命を下せば、死ぬ。入れ物……さくらは用済みだ。それだけの事」
……!
私の全身がワナワナと震え出す。
これがレイだった。
あんまりだ。
冷たくて――冷たすぎる!
私の足が飛び出そうとするよりも先に、セナが飛び出していた。
「どこまで腐りきってやがんだ! レイィイッ……!」
怒り狂ったセナが攻撃する。
セナは穏やかではなかった。
今までに見た事のない。
物凄く恐い鬼の形相をしていた。
足を片方一歩下げ、重心は前寄りに。
引き構えた両手の中から渦巻く風の塊。
ビュオオオオ!
セナが気合いを込めて溜めた風は厳しい音を立てている。
「“風穴”!」
セナの前に手は突き出され。
奥で凝縮された風のエネルギーは敵と書いてレイに容赦なく向けられる。
風穴、とは、風の大砲。
風エネルギーは弾丸のようにレイへ発射された。
「ムダだ……」
微かにレイがそう言ったように聞こえた。
ドオオオオンッ……!
レイとそばに居たハルカさんもろとも。
白い煙で隠されていく。
爆撃とともに。
姿が完全に見えなくなっていった。
オオオオオオ……
残響音だけだ。
頭にグワングワンとこもる、うるさい音。
そして。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ。
「きゃあああああッ!」
「伏せろ!」
地面が唸りを上げ、私達は立てなくなった。
頭を抱えて屈む。
屈んでもダメだった。
セナもそうだ。
滅茶苦茶な方向にそれぞれ転がっていった。
「セッ……」
ナ、と呼びそうになって舌を噛みそうになる。
もはや何もできない!
(助けて!)
地震が私達を襲う。
ゴゴゴ。
鳴り止まない止まらない。
もう一度でも何度でも言う。
滅茶苦茶だ。
何処から響いてくるの。
下なの上なのどっちなの。
震源は――私は転がって上下が定まらない中。
必死に何かにすがろうと手を。
バタバタとして宙をかいていた。
――ココですのよ、青龍の眠る地は。
さくらの声だ。
蘇る。
酷くゾッとした。
さくらがもうこの世にいないからじゃない。
これは気配だ。
私の中の危険信号が激しく瞬いて。
点滅し警告している。
危険だ、回避せよ。
無理だ。
足が地面に着かない。
何て事だ。
地面を探さなければならないなんて。
……
フワ。
体が宙に浮いていた。
「……!?」
重力とは、違う力を感じたのだ。
何かが私に絡みつき、引っ張る力を。
「……!」
白い煙と鋭い風が錯綜している中。
暗い視界は視界のままだったが。
遠ざかっていくように感じられた。
段々と、離れていく。
私の体の方が離れていく?
ココは暗い部屋だったんじゃなかった?
やはり天井に穴でも開いていたんだろうか。
そしてそこから外へ?
「勇気……こっち向け」
セナの声が。私のすぐ近くで?
おかしいなと思って振り返ってみたらだ。
見た途端ギョッと目の玉がひっくり返りそうになった。
だってだって!
「セ、セナ?」
私の体を抱っこ。
……格好からしてタイ○ニックの男女みたいなポーズになっているんだけれど。
私を抱えていた。
空の中でだ。
ココは地の上じゃない、空中だ。
「いい!?」
セナに驚いた訳ではなく。
セナも、肩を掴まれて持ち上げられていたのだった。
巨大な怪獣みたいな鳥に。
「くえええ!」
奇声が聞こえる。
何なんだ!?
「勇気! セナ! 大丈夫か」
もっと遠くから親しげな声が。
こちらからでは声の主が確認しにくいが。
あの声と面影は。
「カイトお!」
少しだけ覗かせた頭は。
確かにカイトだった。
「全員無事だ! ちょっと負傷者が出てるけど、皆生きてる……こいつのおかげでだ」
頑張ってカイトが居るあたりを細めた目で見上げた。
鳥の背に乗っているカイト。
……他メンバーも居るらしく。
声も聞こえて人が何人か同じ鳥の背に乗っているんだとわかった。
「ギャオース!」
鳥は私とセナに挨拶しているのか上機嫌なのかがわからない。
薄い水色の皮膚をしていて。
怪獣と言ったが羽のついたドラゴンに近いんじゃないか。
長い尾っぽ、少し緑を混ぜたたてがみ。
太めの前足で、セナを掴んでいた。
どうなってるんだああ!?
すると。
カイトの隣からヒョッコリと顔を出した人物が居た。
小柄なその子。
「お姉ちゃーん。久しぶりだねー」
と。
明るく、日なたの匂いでもしてきそうなほど素朴で。
温かそうな男の子。
特徴であるクルリとした巻き毛の前髪。
そのオーバーオールを着た子供とは。
「チ、チリンくん!?」
「やあー」
ニコニコと笑っていた。
どうしてココに!?
「もしかしてこの怪獣……」
チリンくんが簡単に説明してくれた。
「手なずけてきたんだー。僕らに協力してくれるよー。いよいよだからって、助けにきたんだ僕ー。お役立ちー!」
と、片手でピースサインを作っていた。
離れている私に聞こえるようにそれを言うとさらに。
「お姉ちゃーん、崖から落ちたでしょー」
と言ってくる。
え、と私はマバタキを繰り返していた。
何でこの子がそれを?
「地下に落ちて、上手い具合に風神の居る場所へと行けたみたいだけどー。気をつけてー。それはねー」
と、そこまで言いかけた時だった。
グガアアアアァアアァアア……
地表に轟く雷鳴のような叫び。
金切りだった要素も含まれ。
背筋を凍らせる。
空中に浮かぶ私達からでは下の四方に見える景色。
火の島。
表面上では変わったものは特にない。
中央に山ができ。
囲むように岩や小山が並んでいる。
一見、無人島だった。
建物らしい建物がなく。
人の気配は感じられない。
人なんていやしないだろうと思う。
ゴゴゴ……
地鳴りは止まらない。
島を含む世界全体が揺れているよう。
火山ではないと聞いていた山は。
「!」
「山が……!」
山の中から突如それは現れる。
中から、内からだ。
びっくり箱から飛び出した仕掛けなんかを思い出す。
ピョーン、と山の中央を崩し『生まれた』生き物。
それが。
「せ……」
私は今度こそ夢だと思った。
思いたかった。
だって。
グルルルルル……
飛び出してきたのは。
青龍――!
《第52話へ続く》
【あとがき(PC版より)】
火の鳥と間違えそう。
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