第50話(火城へ)・3
私は続ける。
「メノウちゃんは、リカルさんの家で待機ね。いい?」
急に話をふられて。
メノウちゃんはびっくりしたけれど。
聞き分けよく黙って頷いた。
前はどうしてもカイトについていくー! って。
ダダをこねていたのに。
ちょっと大人になったんだろうか?
なんて思ってしまう。
微笑みながら、次へ。
「私は決断をしなければいけないと思う。レイの……説得が無理と判断した場合。その時……は」
今。
セナが近くに居なくてよかったと。
……心底そう思う。
私の口から飛び出す言葉は、残酷なものだ。
でも。
言わなければいけない。
避けられない。
いつまでもいつまでも。
私が逃げているからだ。
皆は、私の……救世主としての、決断を待っているのに。
なのに。
甘えは許されない。
覚悟を決めなければいけない。
今がその時だ。
私は言った。
もう2度と言わせないでと願う。
言った。
「レイを、倒します」
凍りついたのは自分の心臓だった。
私の目は死んではいない。
生きていた。
「ああ」
「わかってるわ」
「全力を尽くす」
「了解だ……これが最後だ」 ――
皆の反応で、少しは救われた気がした。
ただ……蛍と紫だけは無言を繰り返していた。
きっと迷いが払いきれていないか。
私の言葉が脳中を駆け巡っているんだろう。
私は決意を変えない。
蛍達の問題だから。
私は何も言わないよ。
「邪尾刀の相手は、勇気に任せるとして。残りを俺達が総出で相手する訳だな。四師衆を。ハルカと」
ヒナタに続いてカイトが言った。
「たぶん、レイが邪尾刀を持つんじゃないかな。レイと邪尾刀さえなければ、俺達の頑張りで押さえとくくらいは何とかな。ハルカも居るけど……ああ、前は俺の水の力じゃ敵わなかったからなー。ショボン」
「ゲイン、あなた土神でしょ。火に土。火に水で。2人なら何とかできそうじゃないかしらね」
とマフィアがフォローする。
「おお、任せとけ! 肉弾戦でも構わんぞ! うりゃ!」
ゲインはたくましい筋肉の腕を見せた。
「さくらと紫苑と鶲と。ヒナタとマフィアだけで相手するにはちょっとキツイかもしれないから。できるだけ1対1で戦ってほしいかな……アジャラとパパラ。蛍と紫くん。あなた達はどう?」
と、私は名前を出した4人を順に呼びかけた。
それぞれは、それぞれに。
「戦います。パパラも同様、戦闘向きではないですが。術を駆使し、精一杯に」
「ああ。そやな。どっちかっていうと、アジャラとのコンビネーションの方が上手くいきそうな気がするでえ、2人で今挙げたうちの一人くらいは相手したるわ。任せとき」
アジャラとパパラはそう言ってくれたけれど。
蛍達は……。
「私達で紫苑を相手するわ。たぶんそれが一番いい」
と、言ってくれた。
私は喜びでいっぱいになる。
協力してくれるんだと。
安心感で満たされたから。
これで、本当に決心はついた。
私達は動き出す。
「蛍達で紫苑、カイトとゲインでハルカさん。アジャラ達で……術同士だからさくらが相手かな。マフィアとヒナタで鶲。私は……レイもしくは、邪尾刀」
私が取りまとめる。
「この後に準備して、すぐに発つ」
そしてもうひと声だった。
「セナを助けるんだ」
私は戦う。
最強の武器――“光頭刃”で。
恐らくはレイが所有するだろう、“邪尾刀”に。
仲間とともに。
これが最後の決戦――血戦になるだろう。
腹をくくれ、躊躇するな。
甘えは、滅びだ。
突き進め。
今度こそ逃げずに。
迷わずに。
レイを倒すんだ――と。
「準備できたな」
カイトが私に呼びかける。
先ほどの砂浜での立ち話……いや。
作戦会議を終えた後。
荷物を整理してまとめ。
それなりに予測できる範囲で準備をした。
途中。
道中で買った“縮小自在ポケット”なんかにも物を詰め込みながら。
セナとの出会いの頃を思い出してしまいながら。
腰に短剣をくくりつけ。
光頭刃を片手に。
私は皆と待ち合わせていた砂浜へと再び戻って集合した。
長い時間がかかっていたのか。
皆の方が先に来ていて待っていた。
リカルさんやメノウちゃんが。
並んで事の成り行きを見守ってくれている。
もう、私が来る前に別れの挨拶は済ませたのかな……?
「行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃーい!」
何と、リカルさんとメノウちゃんの顔はとても明るく。
不安なんて微塵もなかった。
ああ、そうだね。
きっとすぐ……。
ココに帰ってくるんだからね。
私は笑った。
ふと見上げ方向を変えると。
カイトやゲインも同じようにして笑っていた。
きっと。
絶対。
待っていてほしい。
ココが、私達の帰る場所なんだと。
「では……行きます。いいですか」
アジャラが変なデザインの杖を高く掲げる。
「はい!」
私達は皆で一ヶ所に固まって。
目の前に広がる昼の海を眺めた。
空の、羽の長い鳥は高い声で鳴いている。
太陽の光は海面と陸を輝かせている。
風は。
心地を洗う。
さあ、行こう。
「では」
決心が鈍らないうちに。
……行け。
聞いた通りの島だった。
第一声は、『暑い』。
それもそのはず。
遠く、海岸に沿っては。
炎が道を描き海岸線で燃えさかっている。
今さら思うけれど。
炎にグルリと島を囲まれていたんじゃ。
何処からどうやって出入りをするんだろうか。
魔物でも容易くないんじゃないだろうか。
私は着ていた制服の長袖を捲り上げた。
汗を手で拭いたりしているのは、皆も一緒だった。
本当だ。
視界はボンヤリとだけれど赤がかかっている。
――少し物が歪んでも見える。
「あちらが、中心部です」
と、アジャラが海とは反対側を指さした。
そこは。
石と岩の地面の上に。
土が積もりに積もった大きな山ができていた。
周囲に木すらない。
土煙が至る所に舞い上がっていた。
時々、ドドドドドと地響きが聞こえてくる。
地震だろうか?
「上空からは見たんです。何もなかった。ですから、山の周囲に何かがあるはずです。探してみましょう」
アジャラの提案で。
だいたい2手に別れて山の麓に沿って調べてみた。
私はマフィアと下を見ながら歩いていたんだけれど。
特に何も見当たらなかった。
「変ねえ……隠し階段とか抜け穴とか。ないのかしら……」
腕を組みながら考えてみても。
何も出てはこなかった。
おかしいおかしいと喚いていたらだ。
カイトやヒナタが居る、私達から数メートルは離れていた向こうから。
声が上がった。
「おーい。隠し扉みたいな切れ目を見つけたぞ!」
それを聞いて私とマフィアは顔を見合わせる。
「行こ、勇気」
「うん!」
マフィアが駆け出して。
私が後についていくはずだった。
いきなり。
「きゃ!」
足を引っ張られて、前に転んだ。
ズベっと。
「!」
すぐさま後ろを見ると。
地面から生えたような土の『手』が。
私の足首を掴んでいる!
「いやあああ!」
私の大声を聞いてマフィアが振り返った。
「勇気!」
私はズルズルと高速で引きずられ。
爪を立てて地面を引っかいてみても止まらない。
どんどんと『手』は後退していった。
「くう!」
終いには、後退する先に大きな『穴』が空いている事に気がついて。
滅茶苦茶に焦った。
「勇気ィ!」
マフィアが戻ってきてくれて私の手を掴む。
しかしだ。
それでも私の足首を引っ張る方が強かった。
マフィアまで引きずられてしまう。
「うくっ……!」
このままでは。
私は崖になった所まで引きずられ。
崖に手をかけて抵抗した。
(助けて! カイト! ヒナタ! ゲイン……!)
誰でもいいから気がついてほしかった。
でももう間に合わない!
ザクッ。
私は気を後ろにとられすぎていて。
マフィアの背後には全く気がつかなかった。
私の手を懸命に掴み。
マフィアも気がついていなかった。
私は光景を目の当たりにする。
マフィアが……背中を刺されている。
地面に突き立てるようにして、杖で。
一突きだ。
「うああッ……!」
マフィアの悲鳴は、私の脳天まで直撃していた。
「マフィアァッ!」
そして。
私は引きずられ、落ちていく。
マフィアの繋がっていた手は攻撃を受けた反動か放されてしまっていた。
穴に、私は落ちていく。
暗くて底の見えていない穴へと落ちていく――。
(マフィアッ……どうしてッ……?)
どうして?
その疑問は、落ちていく時の混乱で紛れてしまった。
どうして――。
マフィアを杖で襲った人物達……2人。
アジャラとパパラだった。
無表情で。
私の意識は薄れて。
落下しながら穴の底の闇へと溶け込んでいった。
《第51話へ続く》
【あとがき(PC版より)】
いよいよか……。
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